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匠国のメイドはすんなり通さない(前編)

  


 エレベーターゲートの扉が開くと、ドワーフ達が忙しなく働く匠国の街並みが見えた。


 世界樹の木のウロに穴を掘りそこを中心に都市を作る匠国。そこは工場地帯となっていて日々、様々な物が造られている。大型の乗り物や家具、武器や小さな機械や部品まで。

 ゲートを降りてすぐの場所は問屋街になっていて、ドワーフが利用したり違う国の人々が部品や機材を求めて買い物に来ていた。

 店の立ち並ぶ街並みには『ようこそ! 匠の聖地アテナキバへ』という看板がある。

 知る人ぞ知る匠御用達の街として知られるここアテナキバは、前に来た時は技術オタク達がギラギラと怪しい目で部品を見ていたんだが……ちょっと見ない間に何だか少し様変わりしていた。


「あれは……メイドですかね?」


「……メイド……か?」


 問屋に混じって派手な店が並び、客引きのドワーフやエルフはメイド風の格好をしていた。いや、メイドにしてはスカートも短いし、本物のメイドはあんなガーターベルト丸出しにしてはいない。

 エルフなのに猫耳と尻尾を付けていたり、ドワーフ小悪魔風メイドがお兄ちゃんとか呼んできたり……最早、属性盛りすぎで訳が分からない。


「あの、前に来た時あんな店は無かったと思うのだが……」


「ああ。何か最近やたらと増えてこっちも困っているんだよ。問屋目当てで来た客が、混んでいてなかなかエレベーターゲートに乗れないってボヤいていた。こっちも客が増えるのはありがたいが、客層が違うからなぁ……」


 問屋のドワーフが困ったようにため息を吐いた。


「あれはアレでエルフやドワーフの女達のいい働き口になってるとはいえなぁ……」


「上手く共存出来ないものですかね?」


「匠国の技術でお茶出し機械人形とかは作ったりしてるんだがなぁ」


 見ると、小さな人形がお茶をトコトコ運んでいた。これはコレで可愛い。


「え、コレ可愛いですね。こういうもので喫茶店を作って対抗してみてはどうですか? 技術マニアも嬉しいしお茶も飲めるしで良いと思いますよ」


「なるほどなぁ……」


 珍しそうにはしゃぐシャドウの言葉を聞いてドワーフはうーんと考えていた。

 そのドワーフの向こう、路地の方に歩いて行くメイドが視界に入った時――見覚えのある刻印がチラリと太ももに見えたような気がした。


「お、おい……」


 メイドはすぐに路地の奥に消えて行った。俺はすぐにその後を追いかける。


「どうしたんですか?」


「いや、今その路地の方に入って行ったメイドに例の刻印があったような気がしたんだ」


「あのオペラ様に付いていた黒い刻印ですか?」


「ああ。魔王領を襲ってきた聖国人の件といい、もし聖国を中心に増殖しているとしたら……」


「そんな……大変な事になりますよ!」


「そうでない事を祈るがな」


 路地の奥にはメイド喫茶と看板があった。その先が冥土じゃない事を願いながら恐る恐るドアを開けると、普通にエルフのメイド達が出迎える。


「「「おかえりなさいませ! ご主人様ー!」」」


「……」


「……騎士団長、ここ……入るんですか?」


「仕方ないだろ……」


 扉の先は冥土ではないようだが、沢山のエルフやドワーフのなんちゃってメイド達が給餌をしていた。その1人のエルフ猫耳メイドが俺達を席へと案内する。


「ご主人様方は初めてのお帰りですか??」


「……まぁ、初めてだ」


「ここは気軽にメイドの奉仕が味わえる喫茶店です! ゆっくり寛いでいってほしいにゃん」


 いや自分公爵家の子息なんですけどね。何故貴族である俺がメイドのご奉仕体験をせにゃならんのか……


「そ、それはどうも。ところでここの喫茶店に太腿に黒い竜のような模様の入っている子が居ると思うんだが、その子は何処かな?」


 エルフメイドがピタリと止まった。


「……居ない事は無いのですが、その子がどうかしましたか?」


「あ、いや……ちょっと好みだったかなー……なんて」


 その言葉を聞いた猫耳エルフはニコニコと微笑んだ。


「いやですにゃんご主人様、他にも可愛いメイドは沢山いますよ! その見た子は今休憩中なので、何か選んで待っていて下さいにゃん」


 そう言ってエルフメイドはゴテゴテハートの付いたメニューを置いて行った。

 猫耳エルフメイドが行った後、コソコソとシャドウが耳打ちする。


「騎士団長……いくら何でも直球で聞くのはマズかったんじゃないですか?」


「……まぁ、あの見たヤツが例の刻印だとしたらいずれにせよ衝突は免れないしなぁ」


「ご注文お決まりですかー?!」


 後ろから違うエルフメイドがにゅっと現れてめちゃくちゃ焦った。聞かれてないよな?


「あ、えーとこれとこれで!」


「はい、かしこまりましたー!」


 テキトーに指したので何だか分からないが、まぁ喫茶店だし変な物も出てこないだろう。


「それにしても男性客ばかりですね……」


 貴族のような体験が出来るという文句ならば女性客が居てもおかしくはないが、客層は明らかに男ばかりだった。中にはマジの貴族らしき男もちらほらいるが……まぁ、こんなファンタジーなメイド、貴族の家にもおらんわな。


「通り道に『執事喫茶』なるものもあったから、女性客はそちらで奉仕体験されているのだろう。美女に優しくされるのが男のロマンならば、イケメンに優しくされるのもご婦人のロマンだろうからな」


 ちなみにマジな執事のイケメン率は低い。大体おじさん。世の中には枯れてそうなおじ様が好きなご婦人もいるらしいがな。


 客層を見回してみると、見覚えのある商人風の男と取り巻きが居た。……アイツ、アレじゃん。イエオンさんの息子じゃん。ナポリの地下ダンジョンでアイドル追いかけていた……名前よく覚えてないけど。

 アイドルに飽き足らずファンタジーなメイドにも走っていたとは……


「おい、お前……また親父さんに黙って出歩いているんじゃ――」


 イエオンさんの息子に声をかけたが、反応が薄かった。こちらを一瞥しただけでぼんやりとまたパフェを食べ始める。よく見たらパフェがめちゃくちゃ沢山並んでいる。おま、甘い物食べすぎってレベルじゃないぞ……?


「騎士団長、あのめちゃくちゃパフェ食べてる人とお知り合いですか?」


「……ちょっとこれは、マジでヤバイかも……」


 よく見ると周りの客の中にチラチラと同じように虚な客が混じっていた。貴族や商人のような金持ち客ばかりがそんな目でひたすらパフェを食べている。


「こわ……」


「おまたせ致しましたー!『愛情たっぷり闇色カレー』と『あなたのハートに届け闇のおまじないオムライス』でーす!」


 いや名前名前ー!! 怪しさを隠す気無いやろ! てかそんなメニュー名だったのかとメニューを見返すと確かにそう小さく書いてあった。何で気づかなかったのか……


 闇色カレーは確かに黒いカレーで食欲が失せる色をしていた。愛情が何処ら辺にたっぷりあるのか謎である……むしろ愛憎じゃないのか?

 オムライスの方は普通だったが、ケチャップを持ったメイドが近づいて来た。


「おまじないかけちゃいますねー! 美味しくなあれ、美味しくなあれ!」


 そう言って見覚えのある模様を描き始めた。うーん、刻印の模様ー! しっかり呪いかかってるぅ!


「騎士団長……」


 シャドウも流石に動揺していた。もうコレはアウトどころではない……しっかりめに煽って来ているよな。

 メイドがスプーンでオムライスをすくって差し出してきた。


「さ、ご主人様、召し上がれ。あーん」


「あーんじゃないわ! 食えるか!! お前ら全員刻印持ちなんじゃないか?!」


 俺はポケットから御守りを出そうとした……が――


「あら、いけませんよご主人様」


「なっ――」


 急に力が入らなくなり膝をついた。見ると周りの客も何人か机に伏せている。


「騎士団長!」


 シャドウは大丈夫そうだが、集まりだしたメイドに取り押さえられていた。メイドたちを見ると皆色んな所に刻印が浮かび上がっていた。


「……水に盛るとは準備がいいな……」


「出来るメイドですから」


 俺はそのまま崩れ落ちて意識を失った。そう言えばこの手法と全く同じことように竜の国でも捕まっていた気がする……勉強しない男。それが漆黒の騎士団長ジェド・クランバルである……

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