悪役令嬢は再びぶつかり合う
先日は、酷すぎる夢を見た。
まさか夢の中にまで悪役令嬢が出てくるとは思わなかった……怖すぎる。
目を覚ますといつの間にか地味に痛い電気の呪いは消えていた。どうやら寝てる間に陛下が何とかしてくれていたらしい。やはり、さす帝である。
目覚めた時には何故か騎士団と魔法士に囲まれていた。どうしたの皆さんお揃いで。
アッシュは何故か泣いていた。慰めてた周りの奴らからは「団長が悪役令嬢に絡まれるからこんな悲劇を生むんだ!」と言われたのだが、何が何だかサッパリである。
もしかしてガチャの事を寝言で喋っていたのだろうか……? アッシュ君には今度何か美味しい物でも奢って許してもらおう。
それはそれとして、そろそろ目の前の現実に戻らなくてはいけない。最近嫌な事から逃避して瞑想する時間が長くなっている気がする……
「貴方もしつこい女ね! いい加減、諦めなさいって言ってるのよ! この私、乙女ゲーム『運命の鐘が鳴る時聖女は恋をする』の中で断罪される悪役令嬢サーシャの運命を変える為に、ジェド様には私の夫となって頂くのよ!」
「はぁ??? そっちこそしつこいのよ!! ジェド様は私、ミレイラの運命を変える為に結婚して頂かなくてはいけなくってよ? あんな悪役令嬢として断罪される未来はこりごりよ!!! せっかく時間が巻き戻ったんだから、今度こそ失敗は出来ないの!!」
つい最近……全く同じことをやった気がする。あまりのデジャヴにコピペかと思った位だ。
君達、また来たの……?
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公爵家子息、騎士団長ジェド・クランバルは悪役令嬢呼び寄せ体質である。
この状況や経緯は酒場の人達もみんな知っているので、悪役令嬢達がこんなに大声で喧嘩をしていても大して驚いていない。むしろどっちが勝つかの賭けをし始めているくらいだ。
前回は料理対決だったのだが、大半の予想を裏切り引き分けたマズさであった。異世界から転生してきた来た者の作る料理は食べた事の無い程の美味いものだと聞いていたので皆ビックリである。話が違う。
食べた事の無いマズさなのは間違い無かったが……異世界にも飯マズとかあるんだな。
先に、それぞれが自分で紹介していた通り、2人は悪役令嬢である。
つい先日、同時に現れて勝手に対決して、従者に連れられて帰ったあいつらだ。そういえばこの悪役令嬢案件は解決してなかったな。
そしてまた、今日も同時に現れてこのデジャヴである。頼むから時間をずらして来てくれませんかね?
「今度こそ決着をつけますわ! 決闘よ!!!」
「望む所ですわ!! 執事! 剣を持ってきなさい!!」
うわ……シンプルに剣の決闘になった。前回はお料理対決だったのに、急に過激になったな。普通、お料理対決と来れば次はお花対決とかじゃないの?
周りではすでに賭けが始まっていた。おい、平和なこの街で血みどろの決闘だぞ?
まぁ……危なくなったら止めればいいか。ちなみに賭けの1番人気は引き分けである。
仰々しい甲冑を着けた女が2人向かい合う。
顔まで甲冑に覆われているので表情は分からないが、鬼のような顔しているのだろうなぁ……あーヤダヤダ。
結婚するならいつも笑顔でかわいい子がいい。ノエルたんのような……何でノエルたんはもう10年位早く生まれてくれなかったのだろうか。
まぁ、世界は広いので、どこかに俺の理想の結婚相手はいるだろう。悪役令嬢じゃない人がいいな……
「……いつ動くんだ?」
見守っていた客の1人が呟いた。確かに、お互いタイミングを見計らうにしては長すぎる。俺がひとしきり現実逃避し終わっても、未だ見合ったまま甲冑悪役令嬢は動かない。
「これは……もしや」
何かを察した従者がそれぞれの悪役令嬢の所に近づくと、令嬢達は小さく声を発した。
「重くて……動けないわ」
「た……助けて」
見守る観客が一斉にずっこけた。古い……ギャグの系統が古すぎる。
異世界人はチートと聞いていたが、悪役令嬢は必ずしもそうではないのだなと皆が思った。
「やはり……お嬢様は生まれてこの方、剣なんて持った事無かったじゃないですか。何で剣の決闘とか言っちゃうんですか?」
「うるさいわね!! 異世界ファンタジーなんだから急に力に目覚めるはずよ!!」
「お嬢様、危ないのでもうおやめください。お嬢様の家系は代々商業で栄えた家であり騎士などは輩出しておりません……」
「確かに1回も練習してないけど……やって出来ない事は無いのよ!!」
双方の従者が必死に止めるのも聞かず、甲冑を脱いでなお大剣を引きずる悪役令嬢2人。
まぁ、異世界は魔獣とか出ない分この世界より遥かに平和だって聞きますしね。ファンタジーだからといって急に剣が持てる訳は無いのですよお嬢さん方? あと何で大剣をチョイスした。レイピアとか軽いヤツにしときなさいよ。
従者さん曰く、重いから止めたのだが一撃で相手を粉々に葬りたいからと言って聞かずに大剣をチョイスしたらしい。心意気だけは物騒である。
「ぬおおおおおおお!!!」
「ほわあああああああ!!!」
大きな掛け声と共に大剣が垂直に持ち上がった。おお、やるな悪役令嬢! 周りの観客達も驚きの拍手をした。
――が、またしてもそのまま動かなくなってしまう。
「なぁ……これってアレだよな」
2人はまたしても動けないのだ。
「た……倒れ……」
「る」
か細い共に大剣を持った悪役令嬢ズが勢いよく後ろに向かってぶっ倒れる。俺は間一髪の所で両方の剣を取り上げた。おま、危なすぎるだろ!
この間習得した超加速をここで使う事になるとは思わなかった……もっと有意義な使い方をしたい。
「まだまだあ!!!」
「拳で勝負よ!!!」
まだやるの……拳で殴り合いする令嬢なんて初めて見るわ。
「うおおおおおおおお!!!」
「おりゃああああああ!!!」
互いに走り出す悪役令嬢! ぶつかり合う拳!!
――そして、そのまま動かなくなる2人。
「……」
周りの観客達も従者も皆分かっていた。溜息をつきながら近寄る従者達。
「痛いわ」
「すごく痛いわ」
「折れてますな……」
「……今日はもう帰りましょう、お嬢様」
かくして、唐突に始まった決闘は両者骨折引き分けとなり、悪役令嬢達は回収されていった。
今日はもう、とか言っていたが2度と来ないでほしい。




