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聖国の危機再び……だが俺には遠すぎた(前編)

 


「キャアアアア!!!!!!」


 移動魔法で自室まで一瞬にして戻ってきたオペラは、ベッドに伏せってジタバタジタバタしていた。

 天井の絵も壁際に置かれてる姿絵も直視することが出来ず、今は魔法で何も無い状態に隠している。

 布団に包まってバタンバタンとなっているオペラの姿を、狐目の男は頭をポリポリとかきながら見ていた。


「あー……えーと、やっぱり何か思っていたのと違う感じになっちゃったな……まぁ百歩譲って真実の愛で戻るにしても、もうちょっとこう、色々葛藤とか、ストーリーとか――あたっ!」


 オペラの投げた花瓶を頭に受けた男は、当たった所を押さえて苦しんだ。


「だから何処から入って来てるのよ!!! あんたのせいでーー!!!! ふーっふーっ!」


 真っ赤な顔をして泣いているオペラにいつもの威厳は全く無かった。


「酷い……僕は本当に何もしてないんですけど。あとオペラ様、いつものすまし顔よりそういう所の方が可愛くて良いですね。そうだ、今度は恋愛小説に――」


「いっぺん死になさい!!!!」


「ひぇぇ」


 オペラの光の矢が男目がけて飛んで行くが、当たる瞬間に男が消え――パサリと持っていた本が落ちた。


「何……?」


「あー、ビックリした」


 気がつくと男は背後の本棚の前でぜーぜーと胸を押さえていた。


「……貴方……一体何なの?」


「だから何でも無いんですってば! 僕は直接関係無いし……」


 目の前の男の正体も気になるが、刻印が浮かぶ前に男が言っていた言葉――関係無いとすると事の黒幕は一体誰なのか。


「……あの人って、誰? あの黒い小さな竜を寄越したのは……誰」


 そこまで口にしてオペラははたと気付いた。竜を寄越すなんて、竜の国に決まっている。


 自分が女王になる前から竜の国は変な研究への協力を持ちかけて来ていた。神聖魔法が必要だとかなんとか言っていた……勿論そんな怪しい申し出なぞ断ったが……まさか


「そう言えば、貴方は刻印のせいで記憶が曖昧だったかもしれませんが……覚えてます? 自国に増殖させていたの」


「は……?」


 男が指差す先――オペラの部屋の扉が開くと、黒い刻印を額に付けた沢山の聖国人達が怪しく目を光らせていた。


「……嘘でしょ……」


 室内に雪崩れ込む聖国人。オペラが魔法で応戦するが、その聖国人達の中には大多数の子供達が混じっていた。子供の1人が持っている青い花……


「いくら何でもやり口が汚過ぎてよ……」


 自分が言えた事かとオペラは自嘲した。



 ―――――――――――――――――――



「はぁ……何回目だここ」


 漆黒の騎士団長ジェド・クランバルは何度も訪れるゲート都市に飽き飽きしていた。


 確かに帝国から何処かに行くには通らなくてはいけない場所だとは言え、ここの所頻繁に訪れ過ぎている。

 聖国のあるファーゼスト……魔塔のあるアンデヴェロプト……獣人の国セリオンがあるプレリ……で、アンデヴェロプトを挟んでまたファーゼスト……


「騎士団長はお忙しいですからね。私は帝国から出たのはこの間の砂漠の国以来なので、ゲート都市は初めてです。凄い数の巨大ゲートですね」


「ああ。各大陸や国は帝国を中心にゲートで結ばれて厳しく管理されている。陛下が魔塔に協力を仰ぎ作らせたもので、国間のトラブルを防いだり戦争をなくす為の取り組みだな。ま、ゲートで結ばれている各地はそれぞれかなり離れているし道も困難だ。普通の旅人は間違いなくここを利用するし余程の事が無い限り不正入国も無いだろう」


 ゲート都市は相変わらず旅人で混雑していた。俺達の向かうファーゼスト方面はエルフやドワーフが多いから客層で分かる。

 ゲートを通る度に書類を書かなくちゃいけないのが非常に面倒臭い。


「そういや、シャドウって身分証とか住民権とかあるのか?」


「はい! 何たって皇帝の認可がありますから」


 シャドウは荷物から身分証を出した。本当だ、ちゃんと帝国に籍がある。髪の色とか目の色とかの人相の特色が全部甲冑になっているが、それは大丈夫なやつなのか? 不正し放題じゃないかそれ。


 まぁ、前回ファーゼストに来た時も身分を偽って入国したしな。

 前回のファーゼスト……そうだ、確かあの時はひと騒動あって捕まったんだったっけ。


「前に来た時は陛下と一緒だったんだけど、危険魔術具使用騒ぎに巻き込まれて捕まったんだよな……」


「騎士団長はいつも何かに巻き込まれていますね。また悪役令嬢絡みですか?」


「ああ……そんな所だった気がする」


 何かエルフの悪役令嬢がどうのとか……?


「うーん、私の身分証……結構いい加減に誤魔化してる記述とかあるので、怪しまれないように頑張ります」


「……それは頑張ってどうにかなるものなのか?」


 シャドウがふんすっ! と意気込んでいたが……ま、余程の事が無い限り止められる事も無いだろう。前回プレリから移動した時も半分裸みたいな格好で通れたし。

 ……はて? 前回? 何か重大な事を忘れているような……


 思い出そうとしても思い出せないポンコツの頭を捻りながら列を進むと、程なくして俺とシャドウの番になった。

 心配していたシャドウだったが、陛下が発行した身分証だけあって一部の漏れもなくすんなりと通ることが出来た。

 よく見ると顔を覆っていたりフードを取らないような種族もちらほらいて、それなりの理由があれば取らなくてもいいらしい。何だ、心配して損した。


「騎士団長、大丈夫でした!」


 シャドウがホッと嬉しそうな様子で入管の向こうから手を振っている。


「良かった。今回はすんなり――」


「あ、ジェド・クランバルさん」


「ん? 何でしょう?」


 何故か書類を見た係員に止められた。


「帝国の皇室騎士団長がそんな事しちゃいけませんよ……貴方、不正入国してますよね?」


「――え?? 何の事だ……??」


 係員は違う書類を持って来た。


「ほら、ここ。貴方アンデヴェロプトに入って戻って来た記録無いですよね? 前回ファーゼストから戻る時は魔法使って戻って来たっていう手続きを受けてますが、今回はその連絡も頂いていません。なので……」


 係員が人を呼ぶと、警備員が何人も来て俺の両脇を抱えて引きずって行った。


「手続きの確認が取れるまで投獄されていて下さい」


「え、マジ……? 重くない……?」


「いえ、確認が取れるまでですので。魔塔と帝国に問い合わせた結果が出るまでまで地下でお待ち下さい」


「そ、そんなー……」


 我、皇室騎士団長ぞ……? 公爵家子息ぞ?

 権力に左右されない仕事熱心さは評価するけど……あんまりだ……


 シャドウが俺の名前を呼び続ける。その声は遠くなり、俺はゲート都市の地下に投獄された。

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