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聖国人を止めろ(後編)

 


「うわぁ、派手にやってるなぁ……」


 渦中の場所に向かうと、陛下の寝室辺りを中心に激しく戦闘が繰り広げられていた。

 暴れまくるオペラの攻撃を防戦一方な騎士団達。そこに陛下の姿もあった。


 俺は縦横無尽に飛び交う光の弾を避けながら陛下の所へと向かう


「陛下……これ、どういう状況ですか?」


「ジェド! ……見ての通りだ。オペラが何だか分からないが急に城に現れて暴れ出した」


「?? 何で??」


 と言いつつ、原因は何となく分かっていた。チラッと見えたオペラの首筋の刻印……


「うわぁ……多分アレのせいです」


「? ジェドには何が原因か心当たりがあるのか?」


 心当たりも何も……ここに戻って来るまでに2回も同じ事があったからなぁ。間違い無く刻印のせいだろう。


「話せば長くなるんですが……とりあえず押さえつければコレで何とかなります」


 俺は懐から御守りを取り出した。

 とは言え、騎士団員達が全く歯が立ってないオペラをどうやって押さえつけようか……

 とりあえず腰の剣を抜いてみた。


「ちょっと待て、ジェド。その剣で何をする気だ」


「何って……足止めする為に……」


「傷つけるのは絶対NGだぞ?」


「え……?」


 確かに、よく見ると騎士団員達も武器は全く使ってない。ロープとか布とかで何とか捕獲しようとしているが苦戦しているようだ。


「俺……剣しか能がない男なんですが? 服を斬って恥じらっている所を捕獲とかも……ダメですかね?」


「いい訳あるか! 傷1つでも付けてみろ……聖国の女王だぞ? どんな問題になるか……」


 いや、こちとら激しく攻撃を受けているんですが? とは言え、オペラの意思では無く操られているならば、確かに安易に傷つけるのは良くないか……


「私も素手で押さえつけようと近付いたのだが……何故か知らないが私の事は攻撃しないものの警戒して避けられてしまうんだ」


 ……凄いぞオペラ。闇落ちしていても陛下の事だけはちゃんと認識しているのだな。うんうん。


「あ! 騎士団長ー! 見てないで何とかしてくださいよー!」


「あの女、容赦無いし、陛下は傷付けるなって言うし……こっちの身が持たないッスよ!」


 騎士団員総員で戦っているが、皆ボロボロになっていた。ええ……俺だってそんな条件じゃどうしようもないだろ。


「ああもう、少し位なら手荒でも……」


「ダメです!! 何か優しく出来る方法があればそちらで!」


 強硬手段に出ようとしていた騎士団員をシャドウが止めていた。お前、優しい捕獲手段なんて無いだろ……優しく……ん?


 俺は先程の温泉の事を思い出した。そうだよ、それだよ!

 俺は陛下に向き直った。


「陛下」


「? ……何?」


「オペラに向かって何か甘い言葉とか囁いてみてくれませんかね」


「……は?」


「何ならキスとかしちゃってもいいんですが」


「……いや、真面目に何言ってるの君……」


 ドガアアアン!!!


「うわっ!」


 何故か俺の方に攻撃が向いてきた。え?? 何かオペラ、めっちゃ怒ってない???


「ジェド……クランバル……」


 他の皆に向いていた攻撃が一気にこちらに集中する。うわ……しかも何か羽が7枚に増えているが……アレって本気のやつだよな?? 何で?? 俺何かした???


 オペラの猛攻撃を必死で避けながら俺は叫んだ。


「陛下!! オペラを止められるのは陛下しか居ないんですってば!!」


「だから何でだよ!」


「詳しくは言えません!! 多分言ったらマジで殺される!!!」


 俺が喋れば喋る程オペラの攻撃は強くなってきた。光の矢が四方八方から俺を襲う。剣で矢を一閃するが、次から次へと繰り出される矢とビームでマジ死にそうである。早くして……


「そうです、騎士団長の言う通りです! 陛下しかダメなんです! 甘い言葉でもキスでもお願いします!」


 シャドウまで陛下に懇願した。それに釣られて他の騎士団員達もお願いする。


「何だか分からないけど陛下しかいないみたいです!」


「そうだそうだ! キス! キス!」


 怒涛のキスコールに流石に陛下が怒り出した。


「お前達……いい加減にしろ……」


 ほらー、悪ノリするの良く無いよー? 相手は帝国の皇帝だぞお前ら。

 悪ノリしすぎた騎士団員達に腹を立てたのか、オペラの攻撃が他の奴らにも向いた。お、チャンス。

 俺は攻撃から抜け出して陛下の元へと向かった。


「ちなみに陛下はオペラの事が嫌いなんですか?」


「え……? いや別に……」


 その言葉にオペラの攻撃がピタリと止んだ。やはり……俺は確信した。


「分かりました……正直に言いましょう。この呪いは皇帝のキスでしか解けない特殊な呪いなのです……」


「いや、君さっき御守りで解けるって言ったよね? 何なの本当に」


 ドガアアアン!!!


「いい加減にしろ!!!!!」


 真っ赤な顔をしたオペラの上空からの飛び蹴りが俺の頭にヒットした。ウーン、そんな顔してナイスな蹴りじゃん? 結構痛い。

 俺は地面にめり込みながら陛下に向かって叫んだ。


「今です! 陛下、取り押さえて下さい!!」


「え?」


 陛下は反射的に、言われるがままオペラを抱きしめ取り押さえた。


「?!!?」


 真っ赤な顔で暴れ逃れようとするオペラ。陛下も咄嗟に抱きしめたものの、どうしていいか分からず――


「えーと……嘘だったら承知しないからね」


 そのまま陛下の唇がオペラの唇に重なった。


「…………」


 その場がしんと静まり返る。騎士団員からは感心の声が漏れる。


 呆然としていたオペラだったが、唇が離れた瞬間に噴火したように泣き出した。


「き、キャアアアア!!!!!」


 そのまま陛下に平手打ちを食らわして離れた。


「い……痛い……」


 陛下が頬を押さえながらオペラを見ると、涙目で真っ赤な顔をしているオペラの首筋の刻印がポロポロと落ちて行くのが見えた。


「あ、本当に解けた」


「!!!!?!!!!」


 次の瞬間、大爆発が起きて寝室を中心に皆が吹き飛んだ。

 粉塵舞う瓦礫の中から這い出て見ると、そこにオペラの姿はもう無かった。


「おお……御守りを使うまでも無く刻印の呪いが解けた。やっぱコレが無くても意思の強さがあれば呪いに打ち勝つ事が出来るんだなぁ。うんうん」


 と、納得し頷いていると、後ろから這い出て来た陛下に頭を叩かれ胸倉を掴まれた。


「ジェド……よくよく考えたら、それがあれば押さえつけるだけで良かったんじゃないのか……?」


「あー、いやぁ……ハハハ……結果、呪いも解けましたしね、良かった良かった」


「良くないわ!!! これじゃあ手荒な真似をしたのと大差ないだろ!!」


「うーん、あれ位じゃ怒らないと思うけど……むしろ……」


 他の所から這い出てきた騎士団員達が俺の言葉にブーブー言い始めた。


「騎士団長ってそういう所デリカシー無いですよね」


「だからモテないんスよ」


「もう少し女性の気持ちを考えた方がいいぞ」


 えー? 何なの、お前らだって煽ってたじゃん……くすん。


 騎士団員は皆無事だったみたいで良かった。

 ブーイングの中、シャドウだけは手元を見て何か考え込んでいるようだった。



 ★★★



「……なるほど。では、あの刻印は竜の国の仕業と言う事か……」


 爆発の影響を受けなかった執務室で、俺はプレリ大陸や魔王領での事を陛下に報告した。

 他の騎士団員達は後片付けをしている。シャドウだけは1番最初にオペラを発見したという事で状況を確認する為に一緒に話を聞いていた。


「竜の国……今まで殆ど交流が無く実態が分からなかったのだが、怪しい研究をしているという噂は本当だったようだな。しかし何故今になって急に本性を現し始めたのか……」


「ナーガの研究目的が完成間近のような事を言っていました。恐らく事を行動に移す程の準備が出来たんじゃ無いのかと……」


「……そうか。こうして実際に被害が出始めている以上、各地に警戒させないとな。……それと、聖国人が次々に操られてしまった件は心配だな。ジェド、戻って来て早々済まないが聖国に行って様子を見て来てほしい」


 陛下はため息を吐きながらこちらを見た。それは別にいいんですが……


「陛下も前みたいに一緒に行かないんですか?」


「……私は仕事が溜まりすぎていて無理だ」


 オペラの事を気にしている様子だったからてっきり一緒に行くかと思っていたのだが、確かにこの間まで寝てたし忙しくて無理か。


「あの……でしたら私が一緒に行っても良いでしょうか?」


 おずおずとシャドウが何故か乗り出た。


「それは構わないが……まぁ、ジェド1人だと心配だったし頼んだよ」


 どういう意味だろうか? 酷くない? いや確かにめちゃくちゃ恨まれてそうだし、シャドウがいた方が心強いかも。


「では、一旦帰って準備してからすぐに向かいます」


 そうして俺達は執務室を後にした。



 ★★★



 2人が出た執務室の中、ルーカスは引き出しの中から聖石を取り出した。


「はぁ……アッシュが居ればすぐに様子が聞けるんだけど……どこで何してるんだか。間者の自覚あるのかな」


 ルーカスはオペラの顔を思い出していた。前に聖国に行った時もあんな顔をしていたが、今度のは非常にマズい気がした。


「いや、行けるわけないだろ……気まず過ぎる……」


 ルーカスは何度もため息を吐いた。仕事は山積みである。取り掛からなくてはと書類を手にした。


 叩かれた頬がまだ痛いが、この痛みにも何だか覚えがあるような気がした。

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