悪魔令嬢は悪役か?(後編)
「それで、お前の思い描いていた極悪非道の悪役像とやらはどんな感じなんだ? 俺は悪魔の感性なんて全然分らないのだが……一応話を聞くだけは聞いてやる」
俺は漆黒の騎士団長ジェド・クランバル。解決出来るかは置いといて話は聞くだけ聞くタイプの男。
「ジェドはなんやかんやでちゃんとそうやって対応してあげる優しい子なんだよねぇ」
「いや、俺は話を聞くだけで対応までしてるつもりは無いんだが……」
そう。俺は聞くだけの男。すまんが何も力にはなれんぞ?
「俺達は出来る限りは力になるぞ」
「そうだよなぁ。いい大人の癖に冷たいよな」
黒ローブは口々に好き放題言っているが、お前ら無責任にそんな事言うもんじゃないぞ。大人は時として責任を全う出来るかを見据えて行動するんだからな。これだから子供は……
「ゴホン! 何でもいいが話を聞くなら黙って聞いてもらおうか。私は悪魔侯爵家の令嬢、レヴィア。悪魔貴族界の中でも相当な家柄の令嬢である」
紹介はさっきも聞いたが、すぐ脱線するから黙っておこう。
「つまりは人間と契約するにも、普通の悪魔より1段も2段も上を行く悪逆非道な振る舞いをして悪魔界に名を轟かせなくてはいけないのだ!」
「悪魔界の基準がよく分からないのだが、悪ければ悪い程いいのか?」
「そうだ。歴史に名を残す悪名高い偉業を成し遂げてこその悪魔だ。かの有名なサタン様など、異世界で世界中を混乱に陥れる程の戦を巻き起こさせたらしいからな! 憧れると思わないか?」
レヴィアはポワワンとしてサタンとかいう知らん人を想い身悶えていたが、思わないし分からん。
「でも具体的に悪逆非道って何なんだ?」
「ふっふっふ……やはり見たいだろう? ならば仕方ない。私が考えて来た最強の悪魔という物を見せてやろう」
いや、そんなぼくのかんがえたさいきょうのヒーローみたいな物見たくないんだけど。
「でもどうやって見たらいいんですかね?」
「そうだよなぁ、実際に契約しないと力出せないんだろ? それはちょっと……」
「いや、契約する振りだけで大丈夫ですから! ねっ! ふりだけ! 本当に契約する訳じゃないですから!」
レヴィアは余程見て欲しいのか土下座して懇願した。悪逆非道のヤツが土下座とかするかなぁ?
「ふふ、そこまで必死に頼むなら言う通りにしてみたらどうだい? くっくっくっ」
シルバーは楽しそうに笑っていた。まぁ、そう言うなら安全なのだろう。悪魔と契約した後に吹っ飛ばすような悪逆非道の魔法使いがいるから安心だ。
「じゃあ出てくる所からもう1回やるからちゃんと召喚してね」
「何でそこからやるんだよ。出ている所からで良く無いか?」
「全然全くいい訳無いでしょうが!!! こんな雰囲気で悪逆非道とか言って説得力あると思う?? 悪魔は雰囲気重視でしょ?!」
ぷんすか怒ってレヴィアは魔法陣の床に消えてしまった。
……これって、今呼び出さなければ無かった事に出来るのでは?
「ふふ、今呼び出さなければ無かった事に出来るけどどうする?」
「魔塔主様、それは流石に酷すぎでしょう……」
「いくら悪魔相手だからって人としてどうかと思いますよ」
黒ローブはシルバーの人間性を非難した……やべぇ、一瞬全く同じ事考えてたわ。
心優しき黒ローブ達が魔法陣の前に近づく。
「……そういやさっきどうやって呼び出したんだっけ」
「え……えーと……確かエロイムエッサイムとか言って無かったっけ?」
「いや……こうして……ダンソン! みたいな感じで踊ってなかったか……?」
「もう分かんないから普通に呼んでみたら……?」
黒ローブ達がテキトーな事を言い始めた。いや、お前らは真面目にやれよ。お前らがマトモに相手しないで誰がするんだよ。
「悪魔さーん、出て来てくださーい」
黒ローブの1人のテキトーな呼びかけに、赤い魔法陣が怪しく光出した。トマトソースだけどな。
その中から光と共にレヴィアがキメ顔で現れた。
「愚かな人間よ……この悪魔侯爵令嬢、レヴィアを呼び出した事、光栄に思うが良い。お前の望み……何でも叶えてやろう……ただし、代償はそれなりに頂くがな。くっくっくっ」
最初とあんま変わって無いけどな。顔だけはマジ決まっていた。
「さぁ、願いを叶えたくばこの契約書にサインをするがいい」
レヴィアはしわしわの契約書を黒ローブに差し出した。
「あのー……これに書くと契約完了になるんじゃ……」
「ぎくっ……いや、あくまでコレはデモンストレーションなのだ。デーモンなだけにな。と、とにかく大丈夫だからバシッと書くがいい!」
キメ顔でめちゃくちゃ誤魔化してるのが怪しすぎたが、黒ローブの1人は疑いながらさらさらと名前を書いた。
途端、レヴィアの周りが光出して薄かった身体が実体化した。
「はーっはっはっは!!! 契約完了だ!!!! 騙されたな!! 嘘嘘!! 真っ赤な嘘だーー!!! お前達を悪逆非道に騙すための芝居だったのさー!!! くははは、いくら魔塔主が強いとて今の私に手を出せば契約者の命まで危うくなるぞ?? 悪魔と契約とはそういう事だからな!! どうだ?? 迂闊に手を出せまい!! はーっはっはっは!!!!」
レヴィアは高笑いした。確かに悪逆非道だ……だが、そんな卑怯な感じで良かったのか? 私の考えた最強の悪魔はどうした?
流石の黒ローブ達も困惑していた。確かに、レヴィアの言う通りなら結構マズイんじゃないのかなぁ……悪魔本人の力量はともかく、契約で人質にされちゃうとなぁ。
そんな完全勝利を決め込んでるレヴィアの所に、シルバーはニコニコしながら近付き契約書を指差した。
「君、契約書をよく読みなよ。ここ、これね。悪魔に捧げる供物が無いと契約出来ないんだよ?」
「あるではないか。そこに」
レヴィアが指差したのは何か色々不気味な物が沢山置いてある所だった。
シルバーはそこから小さいトカゲみたいなヤツを取り出して見せる。
「その生贄のヤモリがどうした?」
「君ね、これヤモリじゃなくてイモリだから」
「……違うのか?」
「流石に爬虫類と両生類はもう違う生き物だからねぇ……」
そこが違うなら呼び出す前のトマトソースとか卵とかも色々ダメな気がするが……悪魔基準だとそこん所が引っかかってしまったらしく、契約書に『契約無効!』とデカく文字が浮かび上がり契約書が風化した様にボロボロになって崩れた。
「ギャアアアアア!!!!!」
レヴィアは石化して契約書と同じ様に崩れた。あまりにあんまりすぎて皆が静まり、シルバーを見る。
「お前……笑ってたって事は最初から分かっててやってたよな?」
「まぁまぁ、そんなにドン引きしなくても悪魔はしぶといからアレくらいじゃくたばらないよ? ふふふふ」
そう笑うシルバーに一同ドン引きである。いや、そういう所やぞ。
「俺……召喚する時はちゃんと知識を持って行わないと召喚獣が可哀想な事になるって学んだわ……」
「俺も、ちゃんと勉強しよ……テキトーにお遊びはいけないな」
黒ローブ達はシルバーを反面教師にして何かを学んだ様である。やはり魔塔主は凄い……
凄い非道なヤツ。そう思いました。




