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竜の女王が堕ちる時/牧場の呪いを解く



『竜の女王が堕ちる時』



 ここでは無い世界のとある山奥に、美しい竜の女王がいました。

 女王は勇者と戦い、傷つき……瀕死の状態で倒れている所を1人の男に救われました。


 その男は魔王でした。勇者と戦い、女王を人間から守りました。


 女王はその後、傷を癒しましたが何日経っても癒える事が無いものが1つありました。

 それは身体の傷ではなく、心に刻まれた魔王への恋心。女王は恋に落ちてしまったのです。


 焦がれる想いは癒える事がなく、ただ想う度に強く増していくばかり……


 そんなある日、魔王は再び女王の元を訪れました。


 魔王の傍らには子供。魔王には愛する妻と子供が居たのです。


 その瞬間、女王の恋心は激しい憎悪に変わりました。今すぐにでも妻と子供を引き裂きたかったのを我慢して、女王は考えました。


 何とかして魔王だけを手に入れる事は出来ないかと……


「そうだ。世界で2人だけになれば良いのだ」と女王は考えました。


 女王は人間や他の種族に次々と呪いをかけ、闇の刻印で操って争わせました。

 そしてついに人間の手によって魔王の妻と子供を始末させる事に成功したのです。


 女王は喜びました。これで魔王は自分のものだと――


 そうして絶望感で空っぽになった魔王は……×××


 ※赤字修正

(しかし、そう上手くは行きませんでした。女王の愛する魔王は人間の手によって死ぬ事を選びました。

 女王の思惑は外れ、愛する魔王はこの世の何処にも居なくなってしまったのです。

 絶望に身を引き裂かれる程苦しんだ女王の元に男が現れて言いました。


「うーん、やっぱり物語通りに現実は行かないものなのですね……残念でしたね。でも、まだページは残っていますけど、どうします? 僕に出来る事があればですが」


 竜の女王はどんな手を使ってでも魔王を手に入れたいと願いました。


「……なるほど。それは中々困難な願いですね。えーと、残念ながら僕は神様じゃないんですよ。大魔法使いでもチート能力もありませんが……うーん、まぁ、こんな物で良ければいくらでもお渡し出来ますけど」


 男が鞄から取り出したのはこの世界と異世界の――様々な知識だった。


 竜の女王は一心不乱に男の渡した本を読み漁り、ついにその方法を手に入れた。国を上げて秘密裏に研究を重ねた。非検体となる人間や魔族は沢山捕獲してある。


 後は生き残った魔王の子供を手に入れるのみ……


 そんな女王の元についにチャンスが巡って来た。

 魔王の子供自らこの国に足を踏み入れたのだ。またと無いチャンスを逃してはならないと慎重に待ち続けた。


 そしてついに魔王の子供を手に入れた女王は――


 やはりあと一歩の所で逃してしまいました。


 その女王のジャマをしたのは漆黒の騎士……彼は――


 彼は……


 彼は勇者でも何でも無く、何の悪気も無く女王のジャマをしたのでした)



 ―――――――――――――――――――



「おお……中々にブラックだな」


 タオル1枚の騎士団長ジェド・クランバルと獣王アンバー、魔王アークは山を降りて牧場へと向かっていた。


 持っていた御守りが闇の刻印の牛に対抗出来るのではないかと思い、牧場やハムを救出しに行く事にしたのだ。

 牧場はまだ観光客が殺到しては居なかったのだが、牧場全体に闇のオーラが漂い、皆の額に刻印が浮かんでいる。

 俺達は見つからないように木陰からコッソリと覗き見ていた。


「それで、その御守りでどうするんだ?」


「うーん、さっきは普通に鞘で叩いただけで光ってたからなぁ。とりあえず同じように剣で叩いてみるか」


 俺は木の陰から陰へと上手く隠れ、牧場の従業員の1人の後ろに忍び寄り鞘に入れた剣を振りかぶった。タオル1枚で背後から殴る暴漢と化した俺は最早騎士と名乗っていいのか怪しい。早く服着たいなぁ。


 するとやはりナーガの時と同じように御守りが光り出し、鞘が当たった瞬間従業員に光が走り雷のように光った。そのまま黒い煙を出して闇従業員は倒れた。


「……それは、大丈夫なやつなのか……?」


 陰から見ていたアンバーが不安そうに言う。


「う、うーん……多分……」


 するとナーガの時と違い、刻印が煙のように空気に溶けてそのまま全身から出ていたオーラも煙と一緒に溶けて流れた。従業員は気絶しているだけのようだが、顔色もいい。


「おー! 何か良さげ!」


「よし、このままモグラ叩きならぬ闇の牛+従業員時々ハムスター叩きだ! 行け、ジェド!」


「おうよ!」


 そしてミニゲームみたいにひたすら牛と従業員を叩く時間が始まった。

 牛は気付かれると突進してくるし、従業員は容赦なく襲ってくる……


 従業員の方は難易度が低いのだが問題は牛である。あいつらはヒラヒラした物を追いかける習性があるのか俺のタオルを狙って来た。やめてよぉ……


「ぶもーーー」


 粗方の牛と従業員を倒すと、丘の上に牛が2頭現れた。マーブル模様の牛モンジェラと高級牛モーニカである。その後ろにはハムもいた。


「出たなラスボス……」


「ぶもーーー!!!」


「……」


 アークが居ないと牛の言葉が分からないので、俺はそっとアンバーが担いでいるアークに触った。

 魔気不足でぐったりしているアークは最早ただの便利な翻訳機である。


「……人をアイテム扱いするな」


 あ、起きてはいるのね。


「ぶもーーー!!!」


(性懲りも無くまた現れたのね……よくも私の可愛い下僕たちを……許さないわ)


 モンジェラは闇のオーラを身体中から吹き出し、前脚で地面をかきながら威嚇して来た。


 俺はタオルを取って手に持ち、ヒラヒラさせながら挑発した。


「何だそれは?」


 アンバーが不思議そうに俺の後ろ姿とタオルを見た。


「何か闘牛とかってこういう感じだったような気がして……」


「まぁ、別にいいがタオルから外れて攻撃受けると生身で痛そうだから気を付けろ」


 そう、俺は今、守備力+0なのだ。だが大丈夫だ、当たらなければどうと言うことは無い。


 モンジェラが突っ込んできた。後ろからモーニカとハムも追撃する。


 俺はタオルを広げて牛達の視界を遮ると1匹に上段から打ち込んで、その反動で上へ飛び上がって反転し、もう1匹に撃ち込む。更にきりもみ回転してハムにも撃ち込んだ。


「名付けて、きりもみ反転斬り!」


 俺の攻撃を受けた3匹は大爆発をしてその場にひっくり返っていた。


「おー! 何かカッコイイな!!」


「だろ、何か小説で見た必殺技をマネしたんだよな」


「……お前ら、本当2人だと突っ込むヤツが居なくなるよな。皆が起きる前に早く仕舞え……」


 アークがげんなりした顔で言ってきた。えー、アークも見てたならもっと褒めてくれていいのよ……?



 起き上がった牛や従業員、モンジェラやハムはすっかり闇の呪いが抜けていた。


「ぶも〜〜〜」


(ありがとうございます。実は私は竜の国で実験動物として改造された牛なのです)


「何の実験なんだ?」


「ぶも〜〜〜」


(こちらの乳からはコーヒー牛乳が出て、こちらの乳からは苺牛乳が出ます)


「いや何の実験なんだよ……」


「なるほど、だからマーブルなのか」


「ぶも〜〜〜」


(完成したその日、私は女王の前に差し出されました。女王の目を見た時……私はその瞳に映る黒の刻印に浸食され、呪われたのです)


「やはりナーガが異変を振り撒いているで間違い無さそうだな。ジェド、俺は一度セリオンに戻って調査する」


「ああ、俺達も帝国に……いや、先に魔塔かなぁ。アークをこのままにしとく訳にいかないしなぁ。でも、アンバーが居なくなると俺が魔塔までずっと背負って行くのかぁ……」


 半裸な騎士がぐったりしている男を背負って魔塔まで行くの何か絵面がヤバくない? 全滅したパーティか何かかな?


「それならハムをやろう。ターミナルには話をしておくから。可愛がってくれ」


「え?! いいの???」


 という訳でハムスターのハムが仲間になり、アークをハムに乗せてプレリ大陸の入り口のゲートに向かった。


 あ、ゲートに向かう前に子供の夢の村に寄らなきゃ……

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