竜の国ラヴィーンも優しくはない(4)
檻のある実験室から脱出(?)した漆黒の騎士団長ジェド・クランバルは瓦礫と共に最深部である竜の寝床……女王ナーガの寝室に落ちた。そこで、捕まっていた魔王アークを見つけたのだが……
「ジェド……お前、服はどうした」
「なんかさー、あの茸食べさせられた村に服忘れたっぽくて致し方無く。それよりアークこそ何でそんな拘束されているんだ? しかもベッドで……」
アークは手足を変な魔術具で拘束されていた。しかも何か疲弊している。お前……どしたのマジで。……全年齢だぞ? 分かってんのか?
話をしているとすぐ後ろから瓦礫を避けて這い出る女が現れた。青黒い髪と鱗――竜の国の女王ナーガ・ニーズヘッグであった。
「貴様……誰だ……」
うわぁ、めちゃくちゃ怒ってる。そりゃそうですよね。あ、そういえばさっきまで子供だったけど、これってちゃんと名乗って謝った方がいいやつ? いや、一服盛って檻に閉じ込めて来たヤツだからなぁ……
と、悩んでいるとナーガが俺の胸元の御守りを凝視して目を見開いて驚いていた。
太陽に剣の刺繍……あー、御守りに皇帝の紋章入ってんの見てるのかー。
「皇帝の紋章……漆黒の髪と目、それに黒い剣……貴様……皇帝の剣、ジェド・クランバルか!!!!!」
何かナーガがめちゃくちゃ怒り出した。何で?
「バカ! ジェド、避けろ!!」
「ん?」
ナーガが血管を浮き上がらせて怒り狂っているなぁと思った瞬間、口からファイヤーブレスを吐き出した。勢いよく炎が俺に襲いかかる。
「ジェド!!!」
やべえと思い、俺は咄嗟に腰に巻いていたタオルを取って庇った。このタオルが最後の砦なんだ! 火傷は治るが燃えた服は治らないんだぞ!
と、人間としての尊厳を守ろうとしたが、その瞬間キーチェーンの小さな瓶の蓋が空き、身体に纏わり付いた炎が瓶の中に吸い込まれた。え? 何これ???
「なっ、え? 何、私のブレスが!」
「ジェド……何なんだそれ」
「いやちょっと……てか、これ持ってドラゴンブレス浴びたの初めてだから俺にもよく分からんのだが――」
よく分からないので瓶の蓋を開けると、中の炎が勢いを増してナーガに返って行く。炎の勢いでナーガはベッドから吹き飛ばされていた。あ、ごめん。
「へー……こんな使い方するのか」
「……って、呑気に言ってる場合か!! 逃げるぞ!! アイツ、お前の思ってる以上にやばいヤツなんだよ!!!」
呆然としていたアークだが、すぐに正気に戻り叫んだ。すぐ近くの大きな瓦礫を避けてアンバーも這い出てくる。
「いやー、派手にとは言ったが、いくら何でも派手すぎないかジェド」
「アンバー! 何か逃げなくちゃいけないみたいだからとりあえずアークを頼む」
「お? おう」
アンバーはアークを担ぎ上げ、俺は腰に尊厳を巻いた。
「おのれえええええ!!!!! ジェド・クランバルゥゥゥゥゥゥ!!!」
起き上がったナーガの身体に次々と黒い刻印が現れ、黒いオーラに包まれて身体が大きく変化していく。みるみるうちに巨大な竜となり俺達を見下ろした。
「うわぁ……何かめっちゃ怒ってんだけど、何で俺だけ名指しで怒られてんの……?」
「いや、俺は全部見ていたが全面的にお前が悪いぞ。所で、やっぱナーガは悪役令嬢なのか?? そうなのか? いや、女王だから悪役女王か?」
この期に及んでお前ってやつは……いや俺も今来たばかりだから知らんし。
だが、アンバーに担がれたアークもめっちゃ怖い顔をしていた。え? 何? どしたの??
「………あいつが……全部仕組んだ黒幕だった。魔の国で母を殺したのも……いや、もしかしたら魔族が行方不明になったのも……魔族と竜族以外が対立するよう仕向けたと、あいつは言った……」
アークは怒りで魔気がめちゃくちゃ漏れ出していた。何かアンバーが重そうにしている。魔気ってそんな重いんだ? あ、でも何か拘束具が魔気吸い込んでる。何それ? 空気清浄機?
「……つまり、それは最早悪役っていうよりただの悪いヤツじゃないか?」
「いや、そこから更に話が発展する事もあるからまだ分からんぞ?」
「ガアアアアアアア!!!!」
巨大化したナーガは尻尾をぶん回し一閃した。咄嗟に地面に伏せて避けると、今度は爪で切り裂いてきた。
「いや、こんな凶暴なヤツだぞ? ワンチャンもツーチャンもあってもお前の期待しているような悪役令嬢にはならないだろ」
「何を言ってる! 世の中にはツンデレという崇高な属性があるのだぞ?!」
「ツンってレベルかこれ……ウーン、暴れるけどデレるからアバデレか?」
「……お前ら、呑気にいつまでも話してないで逃げる方法を探せよ!!」
巨大化ナーガもめちゃオコだったが、真面目にやらない俺達に対してアークもオコだった。
だってなぁ……ナーガの攻撃単調すぎちゃって避けれちゃうんだもん。我ら獣王と騎士団長ぞ?
「えー……どうするー? 俺としては悪役令嬢だろうがただの悪党だろうが女相手に洒落にならない暴力は振るいたくないんだが……」
「俺も同じだ。獣人は女子供には優しいのだ。だが、お前の方が動き易かろう、峰打ちとかそういう系のヤツで何とか穏便に気絶させられないか?」
「まぁ、やるだけやってみる」
俺は攻撃を交わしながらアンバー達から離れ、ナーガの背中を駆け上がって登り始めた。裸足だからね、鱗が足に刺さって痛い。
「!!? 貴様アアアアアアアア!!!!」
ナーガが気付いて振り払おうとしたので、ツノに腕をかけて留まった。
「峰打ちかぁ……とりあえず鞘付けて上から叩けば脳震とう位行けるかな……」
力加減が分からなかったので、ツノから頭上にジャンプして力いっぱい振りかぶった。鞘だから死にはしないだろう。せーのっ
ポワッ
「ん?」
振りかぶった瞬間、胸の御守りが光り出した。何これ??
剣の鞘が光り、ナーガの頭に当たるとその全身に光が走り、激しく焦げて黒い煙を上げた。
「ギャアアアアア!!!!!」
ナーガがのたうちまわり暴れて苦しんだ。
「……お前、女相手に洒落にならない暴力は振るいたくないとか抜かして無かったか? 何てんだ?」
「……いや、俺にも全然分からない。何か御守りが光って、そしたら焦げた」
「そもそも、その御守りも何なんだ?」
「それも分からん……陛下が勝手に持たせてくれた」
俺の装備するタオル以外のヤツ、ことごとく意味も効果も分からなくて初見殺しでワラタ。
「ナーガが回復している!! 今のうちに逃げるぞ!!」
アークに言われて見ると、焦げている所が煙と共に消え始めた。あ、良かった、回復出来るのね。本当ごめん、悪気は全く無いんだよ?
「おのれ!!!! ジェド・クランバル!!お前だけは、死ぬ以上に苦しませて八つ裂きにしてくれる!!!!!」
登れそうな所を探して逃げる俺達の遥か後方でナーガが何かめっちゃ怖い事を叫んでいる。何で俺だけなんだよ……他にもいるだろ……やめてよぉ。
「……お前しか何もしてないだろ。……ジェド……助けてくれて、ありがとう……」
アンバーに背負われたアークが少し笑いながら呟いた。気のせいか、いつもより子供っぽい目をしていた。
寝床から瓦礫を這い上がり捕まった実験室まで戻ると、そこから上は被害が少ないようだった。部屋の外の階段を探そうとすると竜族の兵士達が沢山待ち構えている。
「うわぁ……やっぱタダじゃ帰してくれないよなぁ……」
俺達は兵士をちぎっては投げかき分けながら、何とか王城の外に出た。
「キャア!!」
「何あれ!」
王城の外に逃げても兵士達は追いかけて来たが。街中を走り回る俺達をラヴィーンの住人達は驚いた目で見ていた。というかピンポイントに俺を指差していた。すみません、タオル1枚で走り回っていて……完全に変態ですよね。安心出来ない履いてなさだよね。
「とりあえず、来たゲートに戻るぞ!!」
走り回りながら俺達はゲートを探した。街の一角に古い石の床に描かれた魔法陣が見える。
「アレだ!」
俺は振り向いて剣気を剣に込め、地面に叩きつけた。
地面に亀裂が入り、竜族の兵士達が足を取られている。
亀裂が魔法陣に延びる前にゲート俺達はに飛び込んだ。
3人がゲートに飛び込んだすぐ後、魔法陣まで亀裂が延び、そのままゲートは真っ2つに割れて壊れた。




