表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

145/648

竜の国ラヴィーンも優しくはない(3)★

  


「ええと、夜泣き茸のアレルギーに効くのは……この赤水玉模様の茸が入っている薬なので……ここの薬品棚にあるかなぁ」


 檻の外でワンダーがアレルギーの本と薬品の本を交互に見ながら棚を探していた。


「まだか? 竜族の奴らが来る前に早い所何とかしたいんだが……」


「僕、そんなに医療に詳しい訳じゃないので急かされても困るんですけど……あ、あった、これだ」


 薬品棚から取り出したのは錠剤の瓶だった。


「多分これを用法、容量を守って飲めば夜泣き茸のアレルギーはすぐに治るはずです」


「ナイス!! 助かったぜ!!」


 瓶を受け取った俺は本の通りに錠剤を飲んでみた。水が欲しい……


「ん?? お? おお???」


 本当にワンダーの言った通り、何か体の調子が良くなりみるみる内に身体が大きくなっていく……途中で服がキツくなり、子供服は脱ぎ捨てた。


 全裸で申し訳ない……この場にいるのが男だけで良かった。

 薬の効果でものの数分で完全に元の大きさに戻っていた。あ、身長の話ね。


「やったーーーー!!!! 久しぶりの俺! 会いたかったよ大人の俺の身体!! いやっほーう!!!」


「いやぁ、お役に立てて何よりです。でも、大人になったからと言ってその中から出られるものなんですか?」


 ワンダーの問いかけに俺は得意げな顔をした。ふふん、行商人君? 我、今は皇室騎士団、漆黒の騎士団長ジェド・クランバル様完全体ですぞ?


 収納魔法をごそごそと漁り、剣を取り出した。ああ……いつもの漆黒の剣。子供の姿だと重すぎて持てなかったから、手が喜んでいる。やっぱ俺、剣が好きだわ……うんうん。


「はあああ……どりゃああ!!!」


 気合いを入れて剣を振ると、檻は真横にスパンと分断された。流石オリハルコン製……よく切れるな。


「おー!!! 素晴らしい」


「やるなジェド。よし、あとはアークを探して脱出するだけだ。だが……お前、その格好では流石に逃げられんだろう」


 アンバーがげんなりした顔で俺を指差す。

 そう……もう一度言うが、子供服はキツくなり脱ぎ捨てた――つまり今の俺は全裸であった。


「そうだな。そういや子供になった時に着替えたんだよな……確か着替えはここに入れたような……」


 収納魔法を探したが……何故か着替えが1枚も無かった。え??? 何で???


 俺は記憶を遡って思い起こしてみた。そうだ……あの時あの村で……


「子供になった時に着替えて……そのまま村に忘れた……かも……」


 そういや子供の大きさでも着られそうな服探して着替えまで全部出した気がする……え? 嘘だろオイ……


「……本気か? せめて何か布とか羽織る物は無いのか?」


「隠す物……僕の持っている本で良ければ貸しましょうか?」


 本は難易度高いだろ……いや、最悪それしか無ければしょうがない……


 2人が心配して見ている中、収納魔法の中で布を掴んだので引っ張り出すと魔王領温泉のタオルが出てきた。とりあえず何も着けてないよりはマシなので腰に巻いてみる。


「……まぁ、裸よりはだいぶマシになったな」


「守備力1位しか無さそうですが大丈夫ですか?」


「……確かに」


 いくら鋼鉄の騎士団長とは言え、流石に竜の国から逃げるのにこんな装備で大丈夫か? 大丈夫な訳無いよな。

 何か防御力を上げる方法は無いかと収納魔法を更にゴソゴソ探るといくつかアイテムを見つけた。


 えーと……魔塔主シルバーに貰った黒い魔法陣の入った黒い魔石。これは確か黒い炎が出せるんだよな。

 それから黒いドラゴンの装飾の入った小さな瓶のキーチェーン、これはドラゴンブレスが無効になるヤツ。もうこれだけで最強じゃね?


 それからちょっと薄汚れたお守りが出てきた。これはノエルたんと最初に会った時に尻ポケットに入っていた物である。

 後で陛下に聞くと、皇族に伝わる宝物の1つで闇系の呪いに効果があるお守りなんだとか……いや、何でそんな大事な物俺に持たせとくんだよ、と思ったが、あまりに女運が悪いから何かの呪いかと思って密かに持たせてくれていたらしい。今の所悪役令嬢には聞いてませんがね、お守り。


 俺はお守りを首からぶら下げ、キーチェーンも一緒に引っ掛けた。魔石は腕に着けられるよう加工しておいたので剣を持つ腕に引っ掛けた。


「守備力はだいぶマシになったんじゃないのか?」


「見た目の守備力は殆ど何も強化されてないがな」


「よし、とにかく急いでここを――」


 その時、部屋の扉が開き今度こそ竜族の研究者が何人も入ってきた。


「なっ、何で檻から出て……っ、つ、捕まえろ!!!」


 竜族の研究員が襲い掛かって来る。俺は剣の柄で首の後ろを殴り次々と気絶させる。アンバーも痺れから回復して来たのか何人も投げ飛ばしていた。


「ふん、手ごたえの無い奴等め」


「所で、アークをどうやって探したらいいんだろうな……なぁワンダー、何かいい方法思いつかないか? 何か本とかでそういう知識無い?」


「ええ……あの、僕も本もそんなに万能じゃ無いんですけど。まぁ……そうだなぁ、何か大きく騒ぎを起こしてはどうですか? 皆がそっちに呼び寄せられるだろうしアーク様への合図というか何かのきっかけになるかもしれません」


 おお! ナイスアイデア。流石、本を読んでるヤツは俺達脳筋とは違うな!!


「それは良いな。いずれにせよ獣王に喧嘩を売った竜の国との対立は免れない。どうせ始めるなら派手に始めたかったからな!」


 アンバーは豪快に笑った。


「派手にかぁ。そうだ、威力ならいい物があるぞ」


 俺は黒い魔石に魔力を込めて剣に送り込むイメージを作った。

 実は前に制御が上手く行かなかった事があってから密かに練習したのだ。この魔石、少量の魔力を送るだけで黒い炎を出す事が出来るのだがこうしてイメージすれば剣にも纏わせる事が出来る。


「何だそれは、黒炎の魔法剣か?! カッコいいな!」


「だろ? コレをこうして振り切れば黒炎の剣波が出せるんだ。どうせならここの機材とか色々燃やして行こう、せーーの……」


 降り被った瞬間、ぼーっと見ていたワンダーがハッと我に返り叫んだ


「えっ、ちょっ?! 待って、炎?? そこ、沢山の薬品が!」


「――えっ?」


 ワンダーが叫んだ時にはすでに剣を振り切った後で、黒炎の剣波が機器や薬品棚に向かって炎の手を伸ばしていた。



 次の瞬間、実験室を中心に黒い大爆発を起こした。



 ★★★



 竜の寝床で捕まっていたアークは、ナーガの青黒い瞳越しに自分の目が見えた。



 (この瞳は、確かに母と同じ物だ。紫の宝石の目……)


 だがアークの母は魔の国から――いや、その身を人間から守る為、魔王城からも出た事は無かった。

 一体、いつナーガは母を知ったのか? 確かに、あの時までは知らなかったはずなのだ……


「……お前……いつ……母に……」


 ナーガは貼りついた笑顔を蛇のようにニタッと崩した。


「知りたい? でも、貴方見ていたじゃない」


 ナーガは変身魔法で自分の姿を変えた。思い出したくないあの日のアークの記憶……

 父、魔王ベリルに人間の侵入を報告し、城から離れさせた魔族の家臣。

 人間が城にまで侵入したからと母とアークを小部屋に逃した。……だが、その部屋で母は死んだ。

 背中がぞわぞわとした。身体中の魔気が煮えるように熱く溢れて来た。


「…………お、お前が……? 殺させたのか……っ!!!!」


 怒りに任せて魔気を放出し、黒い獅子となって拘束を引きちぎろうとした時、その拘束具が光出しアークの魔気を吸い取って行く。


「ぐっ……ぐうう……っ」


「苦しいかしら……身体中の魔気が絞り取られているみたいでしょう? 魔族を捕まえる為の物なのよ。まさか、貴方が自ら来てくれるなんて思わなかったけど」


「……何で」


 苦しむアークをナーガは優しく撫でた。


「可哀想にね。子供には何も分からないのよね……私、邪魔なあの女と子供を始末して……やっと私だけの物になるって思っていたのよ。色々頑張ってね、工作もしたの。失意の中、あの方の味方は私だけって分かれば……私の物になるって思ったのに………まさか………まさか人間に倒されるなんて……人間にいいいいい」


 ナーガは怒りで笑顔が歪み、アークの肌に痛い程爪を食い込ませた。

 だが、すぐに表情が落ち着き冷たくなる。


「ベリル様……貴方はもう居ない……けどね、私……貴方の為にまた頑張ったの。ずっと頑張ってね……そしてやっと見つけたのよ。万物にはね、遺伝子って物があるみたいなの。魂の核とは違う……貴方の情報が詰まっているのよ。この子の身体に。細胞に」


 ナーガの目はアークを見ていなかった。アークの身体を通してベリルを見ていた。


「でも……あの女のものは要らないわ。アーク、あなたの身体からベリル様だけを取り出してあげる……」


 ナーガの強く歪んだ感情に飲み込まれそうだった。あの子供の時の、この女を怖いと思った感覚がアークの邪魔をする。

 だが、今はもう大人で、自分は魔王なのだ。父に守られていた子供の頃みたいに、誰かの助けを待つ訳にはいかない。

 誰が――誰が助けてくれるというのだ。


「っ――」


 ドガアアアアアアン!!!!


「?!」


「なっ?!」


 言葉を発しようとしたその時、寝床の天井が黒い炎の爆発を起こした。

 爆風で吹き飛ばされ瓦礫や粉塵と共に人が上から落ちて来る。

 アークの上にも誰かが落ちてきて、その男を見上げた。


 それは、裸で腰にタオルを巻きつけているだけの――見覚えのある騎士だった。


「……ジェド、お前……何その格好……」





挿絵(By みてみん)

ご覧頂きありがとうございます先代魔王のエピソードについては番外編『騎士団長は知りません!』の方もご覧頂けると幸いです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=620535292&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ