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ラヴィーンに向かう途中の牧場で聞こえた声(後編)


 

「それで……まぁ、アンバーの方はこの際どっちでもいいが、モーニカは一体何故殺処分される事になるんだ?」


 何故か牧場で牛の話を聞く男3人。はたから見ると完全に変な人達だが、牧場は広く周りに人は居なかった。代わりに牛がまばらにいた。ハムはのんびり木陰で寝ている。


「モ〜〜〜〜〜」


(実は私は、こんな見た目ではありますが、高貴な生まれの牛なのです。ブランド牛と言いますか。なので婚約者もおります。だから、当然自分が1番であり、1番愛されて当然……ご飯も高級な牧草しか受け付けませんでした。反芻回数だって安い牛は60回位ですが、私はそんな回数の反芻はしません。せいぜい40回です)


 ……いや分からん。それって贅沢なのか?


「まぁ、でも高級牛ならその位のワガママなんてあるだろうし、気難しい牛は山程いるからな。殺処分される程ではないだろう」


「モ〜〜〜〜〜」


(そうです……ですが、あの雌牛が……あの女が現れた事によって全てが狂いました。突如現れたあの牛は、今までの牛の概念を覆したのです)


 そう言うモーニカは立ち上がり、何処かへ歩き出した。促されるままついて行くと、そこは売店だった。


「ソフトクリーム?」


「ああ、それは最近異国から伝わってきた製法の氷菓だな」


「それなら魔王領でも作っているぞ。観光地でよく売れるんだよな」


 モーニカは売店の前に行くとソフトクリームの看板を前足で指した。項目を見ると、高級濃厚牛乳ソフトクリームの下には『異次元の味! 新品種牛乳爆誕! 激ヤバソフトクリーム』と書かれてあった。


「……何だこの名前。逆に怖いんだが」


 看板を見てる俺達に店員さんが元気よく声をかけてきた。


「いらっしゃいませー! ああ、こちらのソフトクリームは先日入荷した牛から取れた牛乳を使っているんですが……ヤバイですよ……?」


 そんな、やべえ物を売る売人みたいに言ってますが……ソフトクリームだよな?


「でもまぁ、とりあえず食べてみるか? あのーすみま――へぶっ!!」


 ソフトクリームを買おうとした俺にモーニカが突進してきて派手に吹っ飛ばされた。


「モ〜〜〜〜」


(いけない! このソフトクリームこそ……あの女の罠なのです!!)


「ジェド、大丈夫か? 罠とは……どういう事なんだ?」


「モ〜〜〜〜」


(実はこのソフトクリームには中毒性があります。一度食べると何度も買いに来たくなり、ついにはここから離れられなくなってしまうようになるんです。ここに立ち寄って食べてみた旅人がもうこの味無しでは生きられなくて、ついにこの地に止まってしまう人が後を立たなくなるのです)


 いや本当にやべえヤツじゃねえか。


(今はまだ売り出したばかりですが、近い未来にこの牧場はゾンビのような中毒者で連日列を作る事になるでしょう。私が事態に気付いた時には牧場の人達も牛達もあの女に支配された後で……元々私が最高級だったから、座を奪われて妬んでいるのだろうとか、難癖つけて彼女を陥れる気か悪女雌牛、などと言われ信じて貰えず……ついに私は未来で殺処分となってしまいました。そして気がつくと私はこの時間に遡っていたのです。まだ観光客が中毒で増え始める前のこの時に……)


「ちょっと、予想していたのとは違う展開になってきてしまったなコレ。モーニカの殺処分だけの問題じゃなくないか……?」


「うーむ……信じ難い話だが、仮にそれが本当ならば放置しておくと大変な事になってしまうな。だが、確固たる証拠が無い限り何とも出来ないからなぁ」


「ところで、その雌牛はどこにいるんだ?」


「モ〜」


(それは――)


「ぶも〜〜〜〜!!!」


 違う牛の鳴き声がして振り向くと、そこには沢山の雄牛を連れた雌牛が居た。

 先頭にいたその雌牛は見た事の無い色をしていた。何か……何だろう。体中に広がるマーブル模様の中心……どっかで見た事ある刻印が額に入っていた。何だっけ……あれ。

 目は凶々しく黒く光り、同じ色の光が体全体から溢れている。


「確固たる証拠もクソもなく一目でやべえヤツじゃないか?」


「確かに……」


「……というかアレは牛なのか? あんな牛は魔王領にも居ないぞ」


 いつの間に忍び寄っていたのか分からないが、気がつくと俺達はやべえ牛の連れていた牛達と牧場の人に囲まれていた。皆、同じような黒い光の怪しい目をしている。


「ぶも〜」


「モ〜〜」


(ブモンジェラ……)


(モーニカ。まさか、あなたまで巻き戻っていたとはね。しぶとく生き延びたわね)


(?! やっぱり……まだこの時はこんな状態じゃなかったはず! まさか……)


(そのまさかよ。あなたと同じように私も巻き戻ったのよ)


(!! そんな……)



「……おい、ジェド。俺はその、イマイチこの手の物語は初心者だから理解が追い付かないんだが……解説してくれないか?」


 アンバーが困った顔でこちらに助けを求めたが、俺の理解が追いついていると思ったら大間違いだぞ?


「あー……つまり、非業の悪役牛令嬢モーニカは、突如現れた怪しい牛令嬢ブモンジェラの魔の手に落ちた牧場を救おうと奮闘するが、処刑されてしまい未来から戻って来た。だから同じ未来を辿らないように動こうとしたんだが、実はモーニカを陥れたはずのブモンジェラも未来から一緒に戻って来てしまった――という事らしいぞ」


「?! なんと! ではモーニカの前途は更に多難って事じゃないか!」


「まぁ、モーニカどころか俺達の前途が多難だけどな」


 周りの牛や職員達は俺達を取り囲み威嚇していた。

 よく見るとハムはすでに捕われていた。ハムーー!!!??


「ぶもーーー!!!」


 モンジェラの号令と共に牧場中の牛と職員が一気に襲って来る。咄嗟に腰の剣を掴もうとするが腰に剣は無かった。そういや俺、今子供でしたわー。


「はあああああ!!!!」


 アンバーが拳を地面に叩きつけると牧場に地震が起き、牛と俺達の間に地割れが起きた。うおー、流石獣王! 一緒に来てくれて良かった。


「他の牛や職員は操られてるだけの様子。ならばあのモンジェラとかいう牛を狙えば良いのだな?」


 アンバーがモンジェラに向かって走り込み、捕まえようとするが、その足をアークが引っ掛けて止めた。


「へぶっ!」


 アンバーが派手に転ぶと、その頭の上紙一重を牛乳が飛び散っていた。


 アークが引っ掛けた足を押さえて悶絶しながら叫ぶ。あの重機を止めたからな……痛そう。


「闇雲に走るなバカ! あの牛乳を浴びたらお前も中毒者だ! この国が終わるぞ!!」


「バ……バカ?」


 獣王に向かってバカは酷くないか? だが、アークの指差す先をよく見ると、捕まっているハムの口に牛乳が付いていて、ハムも他の者と同じように目から黒い光を放っていた。ハ、ハムーーーー!!!!


「モ〜〜〜〜!!!!」


 牛の鳴き声がしてそちらを見るとモーニカも捕まって牛乳を飲まされていた。


「や、ヤバイ……逃げるぞ!!!」


 アークが俺を抱き上げ、アンバーと共に走り出した。

 遠くなる牧場の方からモーニカの悲痛な心の声が聞こえる。


(ラヴィーンに! この中毒を解く方法があるはず!! 私はそこに辿り着く前に処刑されたけど、お願い! 見つけて!!!)


 その声を最後に何も聞こえなくなってしまった。


 ええ……何これ、ちょっとヤバイ事になってない?


 すまん……ハム、モーニカ……必ず戻るから!

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