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悪役令嬢だって夢を見る



 気がつくと、ふわふわとした雲のような絨毯の上に寝ていた。空にはファンシーな月や星。

 陛下の部屋、趣味どうなってんの? と一瞬思ったが、小さい頃から知っている皇帝が税金でこんな部屋を作らせるはずがない。陛下の部屋はもっと質素だったはず。

 国の事以外興味ないのか、と無趣味無欲な友が心配になり、変な民族の置物やタペストリーを置いたりもしてあげたものだ。


 ――そうか……これは夢か。

 段々意識がハッキリとして思い出してきた。俺は急に変な電撃を全身に受け、動けずにそのまま寝てしまったらしい。

 リアクション芸のような電撃は地味にかなり痛かったのだが、ずっと受け続けると慣れて眠くなるらしい。慣れってすごい。今度どんな環境までだったら寝れるのか試してみたいものだ。


「あの……騎士様……どうか」


 聞き覚えのあるフレーズが聞こえてきた。分かっております分かっております。

 どうやら悪役令嬢は大人しく寝る事すら許してくれないらしい……過労死するぞコンチクショウ。



 ―――――――――――――――――――



 公爵家子息、漆黒の騎士団長ジェド・クランバルは悪役令嬢呼び寄せ体質である。


 道を歩けば悪役令嬢に当たる。公爵家に生まれたのがいけないのか実力で騎士団長になれる強さがいけないのか、はたまた黒髪でイケメンなのが悪いのか……答えはどれでもない。強いて悪いのは、運だ。

 何人目かでもう全てを諦めた。そういうものだと思い始めたのだ。きっとこの国の令嬢は全員悪役令嬢なのだ……いや、そんな訳はないか。

 あまりの悪役令嬢絡まれ体質っぷりに数々のふたつ名が付けられたが、最近ではシンプルに『漆黒の悪役令嬢』と呼ばれている。待て、俺は悪役令嬢ではない。


 話を戻すが……今回の悪役令嬢は、何と夢の中に出てきたのだ。

 悪役令嬢の見過ぎでついに夢にまで見るようになってしまったのかとも思ったが、そうではない。全然初見の悪役令嬢だし意識も妙にハッキリとしている。


「この夢は『夢の中の騎士様と200回のプロポーズ』というスマホ版の乙女ゲームの世界です。ガチャで引いた騎士様と冒険しながら好感度を上げていき、クリア後に夢から覚めてもう一度出会い結婚しハッピーエンド……というゲームです」


「なるほど。でもそれ仮に夢から覚めた世界とリンクしてるとするなると、現実世界に居るイケメンはガチャガチャされたら強制的に夢に呼び出されるって事かな? 怖いんだが?」


「はい。そしてこの世界でゲームオーバーになると現実世界でも死にます」


 ……何それ怖すぎる。


「私は、このゲームで悪役令嬢として登場するルビー。主人公の恋を妨害し、最後はラスボスである魔王アーク様に惨殺されます」


 おい魔王、サラッと夢に出てきてるぞ?


「そして夢から覚めて凄惨な最後を迎えるのですが、そのあまりの残酷描写に苦情が殺到しサービス終了となりました」


 でしょうな。プロポーズとか夢とか言ってるゲームで悪役令嬢が惨殺される必要ある? 世界観台無しである。急に物騒すぎるだろ。

 あと魔王アーク様はもふもふとかわいい小物が大好きな夢男子やぞ? どんな逆鱗に触れたらそんな事になるんだよ。


「という訳で、何とかこのゲームを破壊して夢から覚めなくてはいけないのです……恐らくガチャを壊せば終わるはず。ゲーム内でも他のイケメンと恋に落ちる事のないように、そして悪夢を終わらせる為に巨大なガチャに嵌っている魔石を壊してましたし」


 あ、やっぱこれ悪夢なんだ。そりゃ悪役令嬢も死にますわ。ファンシーな悪夢ってより怖いな。200回のプロポーズで誤魔化し切れない狂気がここにある。納得のサ終である。


「聖女が現れて物語が始まる前に壊しましょう」



 ファンシーな丘を越えた先、更にファンシーなピンクと紫と水色の夢かわ色の森の中にそのガチャとやらはあった。

 いかにも課金を前面に押し出した金色のガチャが夢かわいい景色をぶち壊している。


「見ての通りこれがガチャです。ほら――」


 ルビーが指差す先、上部の透明な部分からはうっすらとガチャの中身が見えていた。中にある色とりどりの小さなケースには色んなイケメン騎士の絵姿が入っていた。何か見覚えあるヤツもめっちゃいる。


「何か色々書いてあるみたいだが……何だ?」


「それはガチャで出てくるイケメンのカード画面ですね。ビジュアルと決め台詞とかが書いてあります。あとCVとか……」


 よく見たら確かに決め台詞の後ろにCV何とかって書いてある。あっ、タニヤマ! ん? こっちもタニヤマ……なんかタニヤマ多くない?


「期間限定で夏のビキニパンツバージョンとか、バレンタインのリボンをまとった超SSRとかもありますよ」


 ……あまり見たくなかったのだが、見えてしまった。

 騎士団仲間のアッシュが裸リボンで『俺をこんな姿にさせるなんて……おもしれー女』と書いてあるのが。

 うん、壊そう。このガチャはこの世にあってはいけない。


「ちなみにジェド様の期間限定もちゃんとありま――」


「うおおおおおお!!!!!」


 絶対聞きたくない言葉が聞こえそうになったので全力をこめて叩き割った。ガチャの中身が粉々になるくらいの爆裂剣撃である。こんな物は、こうだ。


 その瞬間ファンシーは全て真っ白になり消えた。

 夢は、そこで終わりである。

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