獣人の国セリオンは俺に厳しい(前編)
「おはようございます! 昨日はよく眠れましたk……えええ?!!! あれ??? お客さん?! どうして?!」
宿の入り口には犬のお姉さんがいて、俺の姿を見るなり驚き声を上げた。どうしてかは俺が聞きたい。
この俺、漆黒の騎士団長ジェド・クランバルと魔王アークは獣人の国セリオンに来ていた。
獣王に会う為に首都に向かっていた俺達は、途中で立ち寄った変な村で夕食に食べた変な茸のせいで夜中に子供になってしまったのだが……話では一晩経てば元の大人になれるはずだった。
しかし、一晩明けても俺だけ元に戻ってはいなかった。話が違う……
「ええ……今までこんな事はなかったのですが……何でお客さんだけ元に戻らないのだろう」
「魔族の俺が戻らないならまだしも、ジェドはただの人間だしな。何か考えられる理由は無いのか?」
「ええと……」
犬のお姉さんは本棚から茸図鑑を取り出した。
「これにも『毒で一晩だけ子供に戻るがその効能は一晩のみですぐに毒は抜ける』としか書いてないですね」
「この国に誰かこういう事態に詳しい人はいないのか?」
「うーん……これって茸自体の問題なのか身体の問題かどちらなんでしょうね? 首都に行けば医者がいるとは思いますが……獣医ですけど」
「まぁ、何にしても獣王を頼ってみた方が良さそうだな。とりあえず首都に行くか」
「……俺、このままなのか」
「良かったら、子供用の服要ります……?」
「……」
黙っていても解決しなさそうなので、俺は不本意ながら子供服を受け取った。
ちなみに村に好んで来る客は自前で子供服を持って来るらしいが、たまに置いて行く人もいるらしくこれは誰かの忘れ物らしい。
駆け出し冒険者みたいな服は悲しいかなサイズはピッタリであった。
宿を出てハムスターの所へ行くと、最初は誰だか認識してなかったハムスターも匂いを嗅いで俺だと分かったようである。ハムスターもビックリだよな。
身長が低すぎて上れない俺をアークが抱き抱えハムスターに乗せてくれた。何もかもが悲しい。
「首都までは丸1日走れば着くだろう。ハム、無理させるが急いでいるんだ。頑張ってくれ」
アークが野菜をあげながら声をかけるとハムはつぶらな瞳で笑って頷いてくれた。ハム……なんてかわいいんだ……
ハムの頑張により俺達は草原をぐんぐんと進んで行った。草原には他にも旅人が沢山いて、巨大な猫や羊に跨る者も居れば、背中にテントのついた豚やカバもいた。とにかく走る動物は皆でかい。セリオンは動物の育て方が上手いと聞いてはいたが、何かスケールが違う方に進化している気がする。
ちなみにたまに普通の馬も混ざっていたが、ハムや猫の方が全然早かった。
休憩に立ち寄った湖でも多くの旅人が乗り物動物達に水を与えて休ませたりしていた。
「おや、子供と……魔族ですかな? 珍しい組み合わせで。親子では無さそうですが……」
隣にいた山羊の角を持つ獣人の商人らしきおじさんが話しかけてきた。
「ああ。ちょっと事情があってな。首都に向かっている」
「そうですか、首都はもう直ぐ先に見えてきますよ」
……? そういえば、プレリに最初に入った時ってこれくらいのおっさんとか結構嫌な顔して塩対応だったよな。村を出てから何か年配の獣人達の態度が違うような気がした。気のせい……ではないよな。
するとアークが耳打ちしてきた。
(どうやら、お前が大人の人間だったから塩対応だったみたいだ。魔族や人間の子供には古い獣人達も対応が違うらしい)
……何という事だ。幸か不幸か子供になってしまった事がそんな所で役に立つとは。
おじさんは俺にお菓子を沢山くれた。わー、子供に優しいー。
「ああ、そういえばこの草原には、子供好きの悪戯な悪女が夜な夜な子供の寝顔を見にくるとかいう噂の村があるらしいぞ。気をつけてな」
「子供好きの悪戯な悪女……」
「……」
何か物凄く聞き覚えがあるんだが? ……え? そういうフラグみたいな話って普通、事が起きる前に聞きませんかね……?
あー、なるほどなるほど、俺が人間の大人だから親切な話好きのおじさんも寄って来なかった訳かー!
なるほどー……セリオンが俺に色々酷すぎる……
★★★
湖で休憩を取った後ハムにまた頑張って走って貰い進むと、明るいうちに首都の街並みが見えてきた。
セリオンの首都は木で作られた家が多く、街路樹や庭も木が沢山でまるで街自体が豊かな森のようになっていた。その真ん中には小高い岩山のような城があり、そこがセリオンの王城らしい。
首都の入り口には獣人の衛兵が何人もいた。甲冑の間から毛や尻尾がはみ出ているが、皆強そう。いや、今の俺が小さいのででかくて強そうに見えるだけかもしれないが。
「次の方、魔族と……子供?」
「こちらの方は、魔王様でしたか。で、帝国の皇帝の使節……? 皇室騎士団長ジェド・クランバル……」
アークはすんなり通してくれたが、俺は中々衛兵所を通る事が出来なかった。
子供だから優しくしてはくれたものの、通行証や身分証、皇帝の紹介状どれを出しても中々信じて貰えない。そりゃそうだ。今の俺の身分を証明するもんなんて何も無いのだ……悲しい。
「……どうする?」
「こんなにかわいい子供が嘘ついてるとは考えにくいしなぁ。とりあえず獣王の所に連れて行くか……?」
「だがなぁ。身分を証明出来ない奴を連れて行くのもなぁ……」
衛兵所で散々協議した結果、特例でとりあえず獣王の所へは連れて行って貰えるようになった。――ただし
「ごめんなぁ。決まりだから」
「……」
俺は首輪をつけられていた。あれだ、犬や猫に着けるアレだねこれ。ちゃんとご丁寧に首輪にはジェドと書かれている。
この首輪、特製のヤツらしく位置が特定出来るので勝手な事をするとすぐ分かるらしい。犯罪者はもっとガッチリ鎖で拘束されるが、身分の特定出来ない俺のような者はコレを着けるのが決まりらしい……
「ジェドお前……何か、災難のレベルが年々上がっていないか?」
アークは笑うどころか引いていた。わかるー、俺もこんな可哀想なヤツいたら引くわ……
そうして、俺は原因不明にも子供の姿になり……首輪をつけられた状態で、やっと目的の獣王と会う事が出来るのであった……会う前から色々起こりすぎてない?
岩山のような城の門が開き、王城へ案内される。
王の謁見所は赤い絨毯が敷かれ、その先に毛皮に覆われた椅子。筋骨隆々で立髪のように髪を逆立てるライオンの獣人が座っていた。
獣人の国セリオンに住む民を統べる獣王――アンバー・ビーストキング。
獣人は代々決闘をし、その実力で王を決めると言われている。代替わりしたばかりの若き覇者はめちゃくちゃムキムキで怖かった。ぴえーん




