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閑話・執務室での話し合い

  


「……という訳で仕事も溜まっていてね。長らく待たせて申し訳無い」


「いや……まぁ、お前も疲れていたのだろうし。聖国についても大体分かった」


 皇城の執務室。数日の自堕落生活を抜け出しやる気が戻った皇帝ルーカスは溜まりに溜まった仕事に追われていた。

 ただでさえシャドウとエースに任せて出かけていた所に来て、戻ってからの空白の数日……


 魔王に皇城まで来て貰っていたのに話が出来る所ではなかった。

 それでもシャドウとエースの2人が頑張ってくれていたおかげで思ったよりは早く仕事が落ち着いた。やはりシャドウが追加されただけで仕事の周りが格段に違うのだなとルーカスは頷いた。


 仕事にひと段落がついたのでアークに執務室に来て貰い、聖国での一件を話した。

 魔王を待たせるなんてと思ったルーカスだが、意外にもアークは怒ってはいなかった。彼は彼で自国の産業の件で調べ物があり、エースに相談をしていたようだった。


 聖国での話……先代魔王の時代に聖国が魔族に襲撃され、多くの聖国人が亡くなり壊滅的被害を受けた事、そこに魔族じゃない何者かが絡んでいるかもしれない事……そしてその後に魔王の母が襲われた事。


「……すまないね。こんな話をして」


「……あー、まぁ……」


 アークは少し考えて、整理してから話出した


「実はな……これはあまり言って無かったと思うのだが……恐らく、その頃に魔族が何人も行方不明になっている」


「行方不明……? 殺された、とかではなく?」


「基本的に俺達魔族は、知能の薄い野生の魔獣でない限り互いの事はよく分かるんだ。特にあの頃は始祖である先代の力が強く、その影響が大きかった。深い絆のような物が魔族達を繋いでいたんだ。だが、ある日ぷっつりと急に何人かとのその絆が切れたんだよ。死の臭いはしなかったので、まだ生きている可能性を考えて調査はしてはいたんだが……」


「……関係無いとは言い難い話だね。誰かが意図的にそうしたのなら許せない」


「ま、完全にそうと決まった訳でもないからな。それを理由に聖国と和解するには情報が足りなすぎる。こっちでも調べてみるさ」


 アークの意外な返答にルーカスは驚いた。


「……君、魔王らしくないよね。人間だってそんな落ち着いた返答出来ないと思うけど」


「……誰のせいだと思ってんだよ」


 アークにはルーカスが本心で信じてくれた事で十分だった。それに、見誤るなと言ってくれた父を思い出した。

 聖国にはあまり良い気持ちは抱いておらず、女王の事も正直気に入らないとアークは思っていたが、それなりの憎む理由があるのなら話は別だった。

 それに今は昔と違い、魔王領も少しずつ人に開き変わった。それを感情だけで壊す事は出来ないのだ。

 アークは魔族や魔獣の上に君臨する王者ではなく、ルーカスのように民を導き守る者になろうと思った。


「ふーん」


 ルーカスは父の死を悲しんで自分を殴った子供を思い出してニコニコとしていた。


「変な事を思い出すのはやめろ。それより、その変な本っていうのは何処にあるんだ? 借りてきたんだろ?」


「あれ? そう言えば……」


 ルーカスは記憶を辿った。確かにジェドに魔塔主に見てもらうよう渡した気がしたのだが、その後の記憶が曖昧である。

 聖国の女王から預かった大切な物だ……ちゃんと保管しておかなくてはならない。


(……そう言えば寝てる間にオペラを見たような気がしたけど……そんな事ある訳無いか)


 そんな話をしていると執務室のドアが軽快に開かれた。


「ルーカスー、復活したんだねぇ♪」


 何故か上機嫌の魔塔主シルバーであった。手には何故か空いたワインの瓶がある。


「……何でそんなに上機嫌なの? て言うか君、何処に行ってたの?」


 一応聞いたルーカスだったが、薄々気付いてはいた。

 図書館で仕事をしていた三つ子のトルテ。一方、三つ子とショコラティエ領に行って来たと言って戻って来たジェド。何故か上機嫌のシルバー……


「……君、よくバレなかったね」


「ふふん、私の魔法の変装力は完璧だからね」


「いや、ジェドがアホなだけだろう……」


 シルバーはニコニコしながら鞄から本を取り出した。


「ルーカス、これ君のでしょ? ジェドが出かけるから預かっていたんだよね。それに、これはショコラティエ領に来た行商人が売って行った本。あと、これは魔塔にいた魔女が持っていた本ね」


 シルバーが次々と出す本にルーカスは顔を顰めた。


「……もしかして、それ全部同じ作者のヤツ……?」


「そうみたいだねぇ。しかも、全部何らかの事件に絡んでるなんて……偶然にしてはおかしいと思わないかい?」


 鍵のかかった聖国から預かった本、他の2冊はそれよりもかなり古めかしい本だった。どれも確かに作者がワンダー・ライターとなっていた。


「魔女が持っていた本の出自は分からないが、ショコラティエ領に来た行商人は夫人から聞いたよ。狐のような目をしてよく笑う若い男らしい」


「狐目……」


 アークの脳裏に微かに子供の頃に見た男の記憶が浮かんだ。余りにも曖昧すぎたが、確かにその男も狐目で笑っていた気がした。


「アーク? 何か心当たりでも?」


「いや……若い男なら人違いだろう……」


「にしても、仮に事件に絡んでるのならば、こんなに頻繁に出てくるのは困った物だねぇ。その行商人も怪しいし」


「逆に、頻繁に現れるからば尻尾を掴みやすいかもしれない。もしそんな男を見かけたらすぐに通報して貰うよう警戒させよう」


「そうだねぇ。ところで、丁度いいツマミもありそうだし、このワイン飲まない?」


 執務室の机には、ジェドの土産のおかきと野菜やフルーツのチップスが広げてあった。机の横にも大量に袋で置いてある。


「……俺も色々気になっていたんだが、あいつ……スイーツ探しに行ったんだよな? これ、スイーツか……?」


「私も色々謎なんだけど、何でジェドはショコラティエ領にスイーツ探しに行ったの?」


「いやお前がスイーツ探しに行かせたんだろ」


 ルーカスはよく覚えてはいなかったが、確かにそんな事言ったような記憶も少しあった。

 ジェドが持って帰って来た土産はリクエストした物とは違うような気もしたが、これはこれでかなり美味しかったので定期的に取り寄せようとは思っていた。


「ジェドは可哀想だねぇ。ま、彼はどんなヤツでも嫌わずに友達でいてくれるような男だからねぇ。私にもちゃんとお土産買ってきてくれたし」


「何でお前がお土産受け取ってんだよ。一緒に行ったんじゃないのかよ……」


「私の数少ない友達からの大事なお土産だからねぇ」


 ルーカスにはシルバーの言い方が何となく自分を煽っているように聞こえた。


「ジェドは人に対する好き嫌いが無いからね。長年友人だから分かるが……ちなみに彼はどんなヤツでも嫌いにはならないが、嫌いにならないと言うだけの話だからね。長年の友人の私には分かるよ」


 ルーカスの言い方にシルバーもむっとした。


「いやぁ、ジェドは本当に色々面白いからねぇ。長年友人で羨ましいよ。魔力不足で寝込んだり聖石殴った位で手を痛めるような友人だと彼の面白エピソードもカバーし切れないんじゃ無いかなぁ」


「むっ……その辺りはご心配なく。こちらは日々成長してますのでね。それに、私達はお互い助け合って生きているから。どこぞの変装していても気付かれないような魔法使いとは信頼度が違うんですが?」


 突然目の前で始まった謎のジェドの取り合いに、アークは死んだ目をしていた。

 何ならお互いの心の内までしっかり全部聞こえていた。

 アークは思った……コイツら、友達少ないんだな……と。

 確かに皇帝や魔塔主みたいな面倒そうな男とマトモに付き合ってあげるような人はあまり居ないのだろう。


「何でもいいが……俺もうそろそろ帰っていいか? 忙しいんだが……」


「そう言えば、エースに何か相談していたけどどうしたんだい?」


「ああ……実は魔王領の魔獣牛舎の相談でな。最近乳製品の需要が高くなって来たので本格的に魔王領でも酪農を始めたいと思っていて、誰か詳しい人が居ないか紹介してもらおうと思っていたんだ」


 話を聞いたシルバーも、思い出したように鞄をゴソゴソと探り出した。


「あれ奇遇だね。ショコラティエ伯爵からも同じような旨の相談だと思うんだけど……」


 シルバーが差し出した手紙には、確かに伯爵からの相談が来ていた。ショコラティエ領で乳製品を扱いたいので、酪農家を紹介して欲しいという内容だった。


「酪農かぁ……」



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