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ついに悪役令嬢に呪われる



 その日、事件は皇帝ルーカスの目の前で突然起こった。


 騎士団長のジェドがまた悪役令嬢騒ぎに巻き込まれたので、その報告書を受け取ろうとした時――

 ジェドの手に一瞬青い電気が走ったのが見えた。何が起きたのか見上げると、その電撃は心臓部分を起点とし彼の全身に回っていた。


「ジェド!!!」


 自身に何が起こったのかも分からずに目を見開いたまま倒れるジェド。だが、彼には1つだけ分かっている事があった。


「俺は……ついに悪役令嬢に殺されるのか……?」



  ―――――――――――――――――――



 公爵家子息、皇室騎士団長ジェド・クランバルが悪役令嬢呼び寄せ体質である事を帝国の皇帝ルーカスは知っていた。


 何故、悪役令嬢と呼ばれる者は皆ジェドを頼るのか。ここまで頻繁に巻き込まれるのは、最早前世の業か呪いか。

 そして、何故異世界の悪役令嬢の物語がこんなに乱発しているのか。仮にそんな物語が沢山あるとしても、この国にこんなに現れるのは一体何故なのか。

 もしかしたらルーカスが思っているよりも悪役令嬢が絡む物語は沢山あり、世界は悪役令嬢で溢れ、飽和状態なのかもしれない。と、そこまで想像して恐ろしくなりルーカスは考えるのを止めた。

 それよりも、今は倒れて動けない友の為の原因解明が先なのだ。


 幼なじみであり皇帝の剣である友人のジェドは、いつも悪役令嬢の事件に巻き込まれるのだが、そのジェドの尻拭いはいつもルーカスが補っていた。


 皇帝になるルーカスは幼き頃から挫折と失敗を知らないよう在らなければならず、その期待に応えるべく努力もした。

 だが、それが当然だと思いつつも、何もかもが順調で簡単な世界は実はつまらないのではないかという心も無い訳ではなかった。だからといって戦争を起こしたり国をどうにかしようという気持ちは毛頭無かったのだが、このまま張り合いの無い毎日が続いていたら未来はどうなっていたかは分からないと少し不安だった。

 そんなルーカスを退屈させないのが彼である。昔からアホな友人ではあったが、最近では変な令嬢に絡まれるようになって更に厄介ごとを持ってくるようになった。

 ジェドは退屈どころかルーカスに休む暇を与えないような男である……ジェドといればまだまだこの世界がつまらないという心がルーカスに育つ事もないだろう。


 今回の厄介ごとは、そのジェドを狙ったものだった。ならば悪役令嬢案件で間違いないだろうとルーカスは踏んでいた。

 最初、ジェドが死ぬのではないかと怒りが抑えきれなくなりそうになったが、意外と平気そうな本人によくよく話を聞くと、全身に電気がずっと走っていて動けないだけで死ぬ程ではないらしい。

 騎士団長になるだけあって、ジェドには高い回復能力や心臓への耐性がある。彼はちょっとやそっとの火や雷などでは死ぬ事は無かった。

 曰く、異国のお笑いでリアクションを試すのに電撃を流すみたいなものがあり、それをずっと受けているような気持ちらしい。

 「熱湯やアツアツおでんじゃなくて良かった」と呟いていたが、「アツアツおでん」って何だろう? とルーカスは首を傾げる。ジェドは異国の文化の見過ぎだと思った。


 取り急ぎ、放っておいて良さそうなのでジェドをソファーに寝かせ、本人の代わりに解決すべく原因を探しに城を出た。


「勢い良く出たものの……」


 手がかりは魔力の微かな気配だけだった。

 何かの呪いでジェドに電撃をかけているならばと電気の一部に触れると、目に見えない微弱な魔力が外に向かっていた。


「なるほど、これを辿れば……」

 

 その魔力はかなり遠くから放たれていた。城下の街を外れ、森の中にある石畳の方へと続く。ルーカスの記憶が確かならばその先は神を祀る社があるはずだ。


 ――カーン、カーン、カーン


 社に近づくと、奥から鉄を打ち付けるような音がした。


「何だ……邪術か何かか?」


 辺りの様子を探り隠れて音の方を見やる。その先で行われていたのは確かに邪術のようだった。

 その女――白い布を羽織り、長い黒髪はボサボサ、青白い顔の目の下には隈、頭には蝋燭を2本立てている。


(めちゃくちゃ怖い。怖すぎる。話が違う。ジェド関連って悪役令嬢じゃないの? 鬼がいるんですが……?)


 あまりの姿に絶句していると、鬼がこちらをゆっくり振り向いた。


「そこにいるのは分かってるのよ……誰?」


 恐ろしい形相。正面から見た顔も怖すぎて、皇帝じゃ無ければ恐怖に耐えられなかっただろう。皇帝で良かった、とルーカスは心底安堵した。


「ええと……その、この国のものを私の許可なく傷つける事は許されない。私の大事な部下も、その神木もだ」


「こっ……皇帝、陛下!」


 その鬼が打ち付けてる木は神木だった。お願いだから神木に不気味な藁の人形を打ち付けるのはやめてほしい、とルーカスは心の中で懇願した。


「ジェドを呪っているのは君だね? 何故そのような事をするか教えてくれないか……君は……悪役令嬢というヤツなのだろう?」


「!! どうしてそれを……」


 (……うん、いや、ジェドを呪う位だし)


 ルーカスが微妙に目を逸らすと、令嬢は諦めたようにぽつぽつと語りだした。


「……私はレイジー。代々占術を操るトパーズ伯爵家の娘です。私は一族の中でも稀に見る強い力の持ち主ですが……ある時、代々絶対に行ってはいけないとされている自分の未来を……好奇心に負けて占ってしまいました」


「まぁ、気になるよね。気持ちは分かるけど」


「そこに映し出されていたのは、嫉妬に狂い邪術を使って浮気相手を呪い殺そうとし、それがバレて悪魔の令嬢として断罪される自分の姿でした。私はそんな未来が恐ろしくなり、何とか変えられないかと思い再度占ったのです……」


「ああなるほど、そういうパターンの悪役令嬢もいるのか。世界は広いね」


 未来を占うという事は、決していいものだけが見える訳ではない。帝国で禁止しているのはそういう事なのだ。


「そこに出たのが……コレです。騎士団長のジェド様を死なない程度に呪えと」


「……何で?」


 脈略が無さすぎてルーカスには状況がイマイチ理解できなかった。何故、友人はこんなに訳も分からずサラッと巻き込まれてしまうのだろうかと頭が痛くなる。


「……ちなみに、その不気味な格好も占いに関係があるのかい?」


「いえ、これは雰囲気を出すための演出です。異国ではこのように呪うらしいので」


 怖いから関係ないのならば普通の格好で呪ってほしいし、その関係ない異国の文化も結局何なのか色々気になって仕方が無かった。


「……でも、分かりました。今、ハッキリと。呪いが意味していたものが」


 レイジーは藁人形を神木から外し、その中にある青い魔石を取り出す。


「こんな……美しいイケメンの皇帝陛下が……イケメン黒騎士のジェド様の為に必死になるなんて……なんて美しい世界……何故今まで知らなかったのだろう。こんな世界があったなんて。美しい殿方同士の友情……愛……美しすぎる」


「……え、えと?」


 そう言いながらレイジーはウットリと自分だけの世界に入り込んでしまった。友情はともかく愛は誤解なので変な勘違いをしていないで戻ってきてほしいとルーカスは令嬢に何度も呼びかけたが、戻ってくることはなかった。


「未来が見えました……いえ、占わなくても分かります。あんなクソ不細工な夫と結婚するよりも、御二方の愛の行く末を想像する事に忙しくて他の事など考えられない未来の私が! これは……この想像を紙に起こして布教しなければなりません!!」


 そんな布教は完全に不敬罪である。絶対に広まる前に禁止しなくては……とルーカスは心に留めた。


「ルーカス陛下、ジェド様にこちらの魔石を口から魔力を込めて飲ませれば呪いは消えます!!! 絶対に口から口へ、マウストゥマウスですよ! 間違えないでくださいね!!! それでは、私は色々忙しくなるので帰ります!!! ありがとうございました!!」


 悪役令嬢レイジーは妙なハイテンションで足速に去っていった。あれはもう悪役令嬢ではない何か。そう、腐令嬢である。


 渡された魔石を眺めながら、ルーカスの肩にどっと疲れが襲ってきた。


「うーん……やっぱり、悪役令嬢の件はジェドに自分で解決してもらう方がいいかな……少しは手伝うけど、私の理解の範疇を超えている……」


そう呟き、重い足取りで皇城へと戻っていった。

 


 ちなみに、ジェドの呪いを解くという魔石でのマウストゥマウスの件は、魔力のありそうな家臣総出のジャンケン大会で負けた者が罰ゲームとしてする事になったという。

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