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閑話・三つ子と野営で怖い話


 

「そろそろ暗くなって来ましたねー。今晩はここで野宿っスかね」


 しばらく馬を走らせた俺達は、落ちていく陽を見て進むのを止めた。


 帝国の西側の領地は広く、街道沿いには旅人も多い。だいぶ進んだもののまだショコラティエ領までには距離がかなりあった。

 旅人達は街に行き宿を探していたが、この辺りは閑散としていて宿も少ない。そんな旅人の為に川沿いや公園に野営場所が整備されていた。


 空いていた川沿いの野営地にテントを張り、火を起こしてテキパキと準備を分担する。

 第1部隊で一緒の俺と三つ子は訓練でよく野営をするのでその辺りはもう慣れたものである。皆何も言わなくてもする事は分かっているのだ。


 ……ふと見ると、三つ子の1人が何か調子の悪そうな動きをしていた。


「どうした? 腹でも痛いのか?」


「いえ……何か、さっきのお菓子の薬が効いてるのか……気持ち悪くて」


 よく見ると他の2人も不調そうだった。うん、俺もいろんな意味で具合悪くなりそうだったから分かる分かる。



 皆あまり食欲が無さそうだったので、夕食は軽いものにして済ませた。

 何か胸やけしていたらしいので、胃のむかつきに効く薬を分けてやったら夜には元気になっていた。異世界人が広めたこの薬は踊り出したくなる程よく効くので箱に楽器が描かれているらしい。


 元気になった三つ子達と火を囲んで談笑していたが、そろそろ眠くなって来たので交代で火の番をして眠ろうかと思った矢先――三つ子の1人がわくわくした様子で言い出した。


「団長、せっかくだから怖い話とかしません? 怖い体験談とかでもいいっスけど」


「何で急に。大体、お前ら三つ子なんだから体験談も何も知ってる話だろ? 怖いの俺だけじゃないのかそれ……」


「いや、そうでも無いんですよねー。実は俺達、一時期違う人生を歩む為に離れて暮らしてたんスよー」


「ま、色々あったような無かったようなで結局3人揃っちゃったんスけどねー」


 三つ子は騎士団に入る前はどうやら離れていたらしい。その間の話はお互いした事が無いのでその時期の怖い体験談とかがあっても初耳なんだとか。


「所で団長って幽霊見えないんスよね? 羨ましいなー」


「いや、幽霊見えないからと言って怖くない訳じゃないんだぞ……むしろ見えないからいても分からなくて怖い」


「そういうもんなんスかねー。あ、じゃあ俺から行きますね!」


 俺は良いともやるとも言ってないのに、三つ子の1人が話始めた。



 ★★★



 それは、俺がまだ騎士団を目指して辺境の地で修行をしてた時のこと。

 俺は騎士団試験前なので集中しようと何日か山籠りをしていた。

 ある日、鍛錬が終わり帰ろうとした時――木の幹に何かが掘ってあるのが見えた。気になって見てみるとそこには

『私メアリー。今山にいるわ』と書かれていた。

 単なる観光客のイタズラだろうと、気に留めずに俺はそこから立ち去った。

 それから野営地に戻る途中、今度はハンカチが落ちていた。誰かの落とし物かと思い、そのハンカチを拾うと何か文字が書かれていた。そこには『私メアリー。今野営場所の近くにいるわ。もうすぐ会えるね』と書かれていた。


 俺は流石に気味が悪くなり、急いでテントのある場所へと戻った。

 野営場所に戻って見て見たが、荒らされたような形跡はなかった。だが、テントの中に1枚の紙が置いてあったんだ。俺は恐る恐る折り畳まれたその紙を開いて見た。するとそこには――


『私メアリー。今あなたの後ろにいるわ』


 と書かれていた。俺はゆっくりと後ろを振り返って見るとそこには……



 ★★★



「わっ!!!!!」


「ギャアアアアア!!!!」


 話し手の三つ子が急に大声を出して後ろを指差すので、俺達はビビって飛び退いた。


「お前、やめろよ!!」


「あははは! 怖かった?」


「で、そこにいたのは幽霊だったのか?」


「いや、普通に生身のストーカーの女でした」


「そっちの方が怖いわ」


 1人が話し終わると、今度は隣のヤツの番になった。


「いやー、俺は実はそういう系の怖い話は無いんだけどさぁ……強いて言えば、この間大福があるなぁラッキー、と思って食べようとしたんだよ。だけど持った時に何か違和感を感じて中を割ってみたんだ……それは大福じゃなくて……食うの忘れていて日数が経ちカビの生えたパn――」


「やめろ!!! 大福とパン両方食えなくなるだろ!!!」


 俺達は話し手の口を押さえて頭を叩いた。それは怖い話じゃなくて気持ち悪い話だ。


 俺はそろそろ疲れて眠くなっていたのだが、最後の三つ子が話し始めたので眠い目を擦りながら聞いた。ちなみに俺の怖い話はどうせオチが悪役令嬢だろうからいいと飛ばされた。何でだよ。


「えー、じゃあ……これは人から聞いた話なんだけど。ある冬の山小屋で4人が遭難して閉じ込められていたそうだ。寒くて死にそうだった4人は、それぞれが部屋の四隅に立ち、次の角の人の肩を叩いて起こして眠らないようにしようとルールを決めたそうだ。4人はひと晩中角を回り続け……無事、翌朝まで寝ずに頑張って次の日には山を下ることが出来たんだけど」


「? それの何処が怖い話なんだ?」


「分からないか……? 四角に4人がついて、次の人の肩を叩いてひと晩中回るには……そもそも1人足りないんだよ。つまり……その晩、その小屋には誰だか分からないがもう1人増えてたんだ……」


「うわぁ……意味が分かると怖えな」


「ははっ、だろ? ふぁ……そろそろ本気で眠くなってきたな……」


「そうだな。交代で寝るか……」


 俺達は火の番を立てて、交代で寝た。……あんな話するから1人増えてたらどうしようかと思ってしまったので、次の日の朝恐る恐る点呼したが残念ながら人数は増えてはいなかった。



 ★★★



 皇城内にある皇室図書館。ロイが借りた本を返しに行こうと立ち入ると、見覚えのある騎士がそこに居た。


「あれー? えーと……誰だか分からないけど三つ子の1人! ん? あれ?? 団長と一緒にショコラティエ領に行ったんじゃなかったっけ???」


 ロイが見送った騎士団長の横には確かに三つ子が3人共居たはずだった。


「え? いや……俺だけ仕事があって残ったから団長にはガトーとザッハがついて行ったと思うけど……」


「??? そうなの?」


 図書館で仕事をしていたのは、三つ子の騎士の1人のトルテだった。

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