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橋は怨念のランウェイ(後編)


 

 俺達と大勢の旅人は怨念の取り巻く橋の袂で足止めを食らい、考え込んでいた。

 いや、考え込んでいるのは一部だけで後の集団は宴会になっている。宴会相手に商人が商売をし始め、大道芸人が踊り……最早街道は歩行者の天国である。


 街道がこんな状況なので遥か後方では迂回の交通整備が行われていた。超遠回りすれば川は越せるのである。

 が、俺達は皇室騎士団なので迂回する訳にはいかない。帝国内で発生している問題は速やかに解決しなければならないのだ……


「しかしどうやって解決しますかねー?」


「そりゃあ、怨念の橋子の言うようにいい男を用意するしか無いだろ」


「あんたらイケメンエリート集団の皇室騎士団なんだから行けるんじゃないのか?」


 他の冒険者や商人達とお昼を食べながら相談していたが、1人がそう言うと皆が俺達に注目した。

 が、俺達は全員その言葉に落ち込んだ……


「世間ではそう思われてるんだな……」


「じゃあ……何でモテないんスかね。こう言っちゃなんだけど顔も皆そこそこ良くてエリート騎士で貴族なのに……」


「……何でだろうな」


 4人がお通夜状態に陥り、周りの皆は察した。

 そう……何故か騎士団員には彼女が出来ない。何でか分からないが出来ないのだ。

 何なら皇室魔法士もモテない。世の女性達は一体何処へ行くのか……これは前にも話したかもしれないが、今は商人や吟遊詩人が人気なのだ。あと冒険者とかも夢を追いかけて素敵! とか言われている。

 1人の剣士に3人位女の子の仲間を連れてる冒険者とかよく見るしな……そういう奴らが可愛い女の子を奪っていくのだろう。


「……何か、すまんな」


「アンタらにもいい事あるさ。なぁ」


「今度いい子いたら紹介してやるからな、元気出せ?」


 作戦会議場は一変して慰め会場になってしまった。いや、そうじゃないんだよ。


「ま、まぁ、今は俺達より橋子だ。結局どんなヤツが橋子のいい男の基準なんだろう」


「モテ職の吟遊詩人もダメでしたからねぇ」


「――ならば、俺が行こう」


 そう言って前に出てきたのは冒険者風の男剣士だった。そいつの馬車には女戦士、女魔法使い、女僧侶、女武闘家、女賢者、女シーフが乗っていた。……何なんそのパーティ。パーティっていうかハーレムかな?


 思っていたより遥かに女を引き連れた剣士が現れた。いや、たまたま女率が多いだけだろう……と思っていたが明らかに女子達が牽制し合っている。めっちゃ取り合ってますやん。


「俺ならば行けるだろう。橋の怨念とかよく分からないが、多分帝国の女は全員俺に惚れている」


 何やこいつ。

 後ろの女子達はキャーキャー盛り上がっていた。何で?? どこに盛り上がる要素あった??


「……まぁ、我々の思いはともかく、言うだけの根拠はありそうですな」


「男としてはくっそ殴りたいがな」


「ふっ……お前達役立たずはそこで見ているがいい」


 冒険者の剣士は自信満々に橋に歩いて行った。何であんな、全然イケメンでも強そうでもないモブみたいなヤツが最近よくモテるんだろう……謎オブ謎である。

 俺達はそれで怨念が収まるならいいと思ったが、内心失敗しろという想いで満場一致だった。誰も何も言わないが、この時皆の心は1つになっていた。


 ドカアアアアン!!! ビリビリビリビリ!!!


「ギャアアアアア!!! あばばばば!!!!!」


 剣士は服が破れる位に焼け焦げ、吹っ飛んで川に落ちて行った。川に落ちる寸前一瞬見えたがパンツ以外が無残にビリビリ破れていた。


 俺達は喜んだ。こんなに盛り上がった事は今までない位喜び立ち上がった。スタンディングオベーションである。トウモロコシを炒った菓子を空高く投げた。勝ちである。何も勝ってはいないが、勝ちである。

 看板には『捨てた男に似ててクッソ腹立つ。消えろクズ男』と書かれていた。


「ま、分かりきってたけどやっぱダメだよなぁ。橋子がマトモな判断してくれて良かった」


 本当にな。橋子こればかりはGJだ。



「とは言え……アイツもダメならどうするか……」


 また振り出しに戻ってしまったが、三つ子の1人がポンと手を叩いた。


「だったら、こんなに沢山人がいるんだから数撃ちゃ当たる先方でどうッスか?」


「数……つまり、男全員で攻めろって事か?」


「……確かに、これだけ居れば1人くらい好みの奴がいるかもしれないな」


「おーい! 男共集まれー!」



 そうして、橋の袂にずらっと男達が集まった。もう老若体型顔の偏差値全て構わない。どんな好みかは分からないからだ。渋いのが好きな女子も世の中にはいるからな。


「よーし! 行くぞみんなーー!!!」


「「「おーー!!! 騎士様に続けー!!!」」」


 男達は全力で橋に向かって走り出した。



 ――数分後……橋の下の川に大量に男が浮いていて、女性達で拾い上げていた。


「ダメかー。橋子、一体どういうのが好みなのかしらねー」


「ぜえ……ぜえ……そう言えば女性陣達の意見も聞きたいんだが、どういう路線が行けると思う……?」


「ええー、好みは人それぞれだし……ねえ?」


「橋子の好みかぁ……そうだ、最近では男性も化粧をするのが流行っているじゃない? ちょっとやってみない?」


 ……化粧? 男が……?


「やだぁ、そんな顔しないでよー、男の化粧って言ったってちょっと掘りを深くするだけよー」


「あ、だったら、最近男の美ボディが流行っているから、ちょい見せとかして胸板とか太ももとか見せてみたらどう?」


「ほう、ならばうちの商隊でいい物をいっぱい持っていますぞ!」


 ノリノリになってきた女子に加え、ノリノリの商人が服を取り出した。

 商人が手にしていたのはスケスケ感のある服だった。……え? これ、着るの……?


 そして、比較的筋肉がしっかり付いている男達が集められた。彫りが深くメイクされ、スケスケ感のある服を着た謎の集団……。

 女達はいける! という顔をしていたが、俺達は不安しか無かった。いける気が全くしないんだけど……?


 皆が見守る中、スケスケ感のある服の彫りの深い男達が橋に足を踏み入れる――ん? 電気は流れて来ない……

 ――と、思ったが、一瞬遅れて電気が流れて来た。俺達は川に落ちた。



「……どう思う? 橋子、ちょっと考えてなかった?」


「もしかして惜しい所にたどり着いたんじゃない?」


 女達が看板を見ると、そこには『……露出が足りない』と書かれていた。


「やっぱりー! 行けるわよ!!」


「商人のおじさん! もっと露出度の高い服無いの?」


「あれより露出ですかー……これですかね」


「こ、これは――」



 川から上がった満身創痍の俺達を女達は出迎えた。そして俺達に無言で布を手渡した。


「……何これ……網……??」


「網です」


「一部層に人気のある網タイツです」


「何で網がタイツなんだ……??? タイツの程はどこにあるんだ??」


「重要なのはデザインです。今、多分これの需要がある時です」


「……」


 俺達は疲れ切っていた。もう早くこの戦いを終わらせたくて……無言でパンツの上に網タイツを履き、網タンクトップを着た。


 橋をランウェイのように練り歩く網を纏う彫りの深い男達……そして……


 ――呪いは解け、男達は橋の向こう側まで辿り着いた。


 旅人達は喜んだ。橋子も喜んだ。俺達は何かを失った。



 以来、この喜びと橋子の悲しみを忘れない為に年に1度、網を着て男達が橋を渡る『網祭り』が行われるようになったとか。

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