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悪役令嬢はタイミング悪く同時に現れる事もある



「だから諦めなさいって言ってるのよ! この私、乙女ゲーム『運命の鐘が鳴る時聖女は恋をする』の中で断罪される悪役令嬢サーシャの運命を変える為に、ジェド様には私の夫となって頂くのよ!」


「はぁ?? 何を言ってるの??? ジェド様は私、ミレイラの運命を変える為に結婚して頂かなくてはいけなくってよ? あんな悪役令嬢として断罪される未来はこりごりなのよ!!! せっかく時間が巻き戻ったんだから、今度こそ失敗は出来ないわ!!」



 ……いや、どっちとも結婚しませんが?


 今まで無かったのが不思議な位だが……ついに起こってしまった。悪役令嬢のダブルブッキング。



 ―――――――――――――――――――



 公爵家子息にして皇室騎士団長ジェド・クランバルは今日も今日とて悪役令嬢に絡まれていた。

 こんなに悪役令嬢に絡まれるのは何かの業か因果か特異体質か……と思っていたのだが、先日、前世の記憶を思い出したメイドから「断罪される悪役令嬢の未来を変えられる程に財力や権力があるのは公爵家子息だと相場が決まっている」と知らされた。

 財力や権力については個人差が有るのでは? とも思ったが、俺より何とかしてくれそうな皇帝陛下や魔王には一切行かない所を見ると俺位が丁度いい行きやすさなのかもしれない。あと俺が断れない性格なのもいけない。


 先日の悪役令嬢のノエルたんは可愛かった。

 ああいう悪役令嬢未満ならば何人来てくれても構わないのだが、残念ながらノエルたんは前世の記憶持ちではないので他の厄介な悪役令嬢とは違うのだ。

 あれ? これって単に厄介な女が寄ってくる体質なだけのでは……?


 そして、今回も例に漏れず性格がヤバそうな悪役令嬢が来てしまった。しかも何と同時に2人も出現し、お互い俺と結婚すると言って話を挟む余地がない。いやだから結婚しませんが……?

 せっかく漆黒のロリコン騎士という不名誉な噂名が消えたばかりなのに、今度は漆黒の二股野郎である。

 いや、マジでこの国、不貞にはめちゃくちゃ厳しいので、変な噂になったらマジで結婚出来なくなるから本当に勘弁してほしい。

 とは言え、何かしらの解決策を見せないとこいつらの件は終わりそうに無いので話を進めよう。


 この2人の悪役令嬢、それぞれが冒頭で言い合っていた通り、片や乙女ゲームをプレイしていた前世の記憶を持つ悪役令嬢、もう一方は断罪されて時間逆行してきたタイプの悪役令嬢である。ちなみに話をよくよく聞くと、ミレイラは悪役令嬢に転生する前はサーシャと同じような世界に居たらしい。転生して悪役令嬢になって更に時間逆行とか……設定が複雑すぎてもうよく分からないよ。

 そして何度も言いますが、この国は平和なので処刑とか追放とかいうシステムはない。にも関わらずそういう世界線から来るのが不思議でしょうがない。

 解決法は……なるべく俺と結婚しない方向で。

 そんな方法はいくらでもあるはずなので言葉を挟もうとするも、あまりの剣幕に入る余地が全然ない。

 ちゃんと両方聞くから1人ずつお願いしたいと言っているのだが、先手を譲ると先に結婚されると思っているようだ。これだから悪役令嬢は……


「わかりました。ならば決闘を申し込みますわ」


「望むところよ!」


 えっ? 何を勝手に始めようとしてるの??? やめてよ……


「対決演目は……そうね、お料理対決よ!!!」


 俺の意見は一切聞かず、勝手に何かが始まった。

 異国から仕入れてきた男児向けの小説で、ダークなアクションと雰囲気が好きだったのに何故か定期的にお料理対決を挟んできて興ざめし、そっと本を閉じたのを思い出した。

 対決といえばお料理という発想は割とあるあるなのかもしれない。だが、俺的には無し無しである。何故なら時間がかかるから。早く帰りたい。


「ハイ、まずはこちらの分量に分けられた材料がありますね……それぞれカットしていきます。そして、出来上がったのがこちらになります」


 おいコラ、今どこから出した?

 サーシャの料理は3分位で出来上がったが、明らかに3分で仕上がるものでは無かった。


「ハイ! 完成でーす!」


 一方、ミレイラの料理は巨大なブロッコリーを垂直に立ててドレッシングをかけたものだった。えっ、それって料理???


 出来上がった料理が俺の前に並べられる。

 これは俺が審査員という事なのか……? 俺は一言もやるとは言ってないのだが、当然のように目の前に置かれている件。

 その場の空気には逆らえない性格だからここまで来てしまったのだ……今更席を立つ訳にもいかず、観念して俺は料理をつまんだ。

 酒場の他の客も見守っている。言い忘れていたがそう、ここは一般の酒場なんですわ。令嬢が勝手に厨房に入って料理をするという貴族の横暴である。家じゃダメだったのか?


 サーシャの料理の見た目は普通のライスに茶色いソースがかかったようなものだった。香辛料が入っているのだろうか……

 うん。何だこれ、無茶苦茶辛い。えっ、ちょっと待って?? 辛っ!! 魔法かなんか??? 口にファイヤーポール食らったかのような辛さである!! なんこれ??? あと辛さで全然分からなかったが普通に不味い。


「私が前世にいた所で作っていたカレーという食べ物です。香辛料が中々揃わなくて苦労したのですが、とりあえず辛くしておかないとと思いファイヤの実を隠し味に入れておきました」


 ファイヤの実ってさぁ、魔獣に投げて攻撃するヤツだよね??? 何てもん隠し味にしてるの?? というか全く隠れてないぞ???


 酒場の主人が哀れんだ目で首を振りながら氷入りの水を渡してきた。そんな目で見ないでほしい。

 俺は氷ごと口に入れ何とか持ち直す。


「ふふん、サーシャさん、貴方の料理はお口に合わなかったらしいわね? 次は私のを召し上がれ」


 召し上がれ、と言われても……器用に立つブロッコリーを前にどこから食べていいのか悩んだ。悩んだ末に意を決してかぶりついた。

 うん、シンプルにまずい。

 えっ? 何で?? ただのブロッコリーにドレッシングをかけたものが何でこんなに不味くなるの???

 はっはーん? さてはドレッシングにオリジナリティを入れたな???

 ドレッシングってめっちゃ美味しいの販売されているから市販のやつ使ってくれよ!! 自然のままの恵みが台無しだよ!!


「それで……どちらの方が美味しかったのです?」


 酒場の客が俺の言葉を待ち、見守る。言いづらいから注目しないでほしい……


「……どちらも美味しくないです」


 甲乙つけがたいくらい美味しくない。


「そんなバカな!!! 前世の料理番組を参考にしたのに!!」


 バングミが何なのかは分からんが、こんな物が料理として紹介されるはずがない。イカれてる。あとサーシャに至っては食べ物ですらない。攻撃魔術具や。

 普通、異世界とか前世の記憶を持ってる人って異世界特有のチートというか何か新しくて美味しい料理を知ってて革命起こすのが相場じゃないの?? 何でこんなにマズイ料理を自信あり気に出せるの??


「サーシャお嬢様……もうお諦め下さい。お嬢様は生まれてこのかた、料理なんてした事ないじゃないですか」


「ミレイラお嬢様、貴方はおっしゃっていたではありませんか、前世でも料理なんてした事ないから貴族で良かったと。何故料理対決なんてしようと思ったのですか?」


 各々の従者が暴れる悪役令嬢をなだめる。

 そうなんだよね、やった事ない人ほど自信満々でマズ飯作るんだよなぁ……


「そもそも我が家門は公爵家に求婚出来るような立場じゃないんですから、ジェド様に見初められたいならばまず淑女教育からちゃんと始めないといけませんし……帰りますよ」


「そうですよお嬢様、断罪前に勘当されますよ。早く帰りましょう」


「コラー! 離しなさいー!」

「私は公爵様に助けて貰うのー!!」


 なるほど、従者の方がちゃんと現実が見えているんだなぁ。そうそう、他力を頼る前にまず自分でも努力しないといけないよね。

 相場が決まってるとはいえ、公爵家が簡単に助けてくれる訳ないだろう。現実は厳しいのだ。


 強制連行されていく悪役令嬢を見ながら、酒場の面々は「少しは真面目に働こう」「他力本願の見本市だったな。やっぱ現実見ないとなぁ」等と口々に杯を置き、お勘定をして帰って行った。


 一気に閑散としてしまった酒場。何か申し訳なく思った俺は、その日は朝まで呑んだ……

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