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閑話・ルーカスの心のスイッチ


 

 その日、帝国最強の皇帝、ルーカスはベッドの中で布団に蹲り考えた。



 聖国でオペラから聞いた話……もしかして自分は魔王側に肩入れしすぎていたのではないかと。


 オペラはよく分からない理由で帝国を襲ってきた。だが、結果として帝国に被害は無かった。

 聖国が憎んでいる魔王領の者達は、昔はともかく今はルーカスの大事な仲間だ。あの日、先代魔王と約束をしてから……ルーカスはアークと共に民を導く為、協力し合った。

 アークの母が襲われた事に聖国が関与しているかもしれないと聞いた時、やはりと思った。聖国はずっと前から魔族を消したいと思っていたようだったから。

 だが、オペラが魔族を憎む理由は、ただ聖国人だから魔族へ嫌悪感を抱いているという事で収まる話ではない。何故か、誰も知らなかった――聖国は魔族に襲われていたのだ。


(魔族が? 何の為に……?)


 先代魔王は大層な面倒臭がりだったので、理由も罪もなく人を襲ったりはしない。今の魔王は尚更だ……

 

(だとしたら一体誰が……)


 そして、更に分からないのが、ここの所よく聞く本の作者。ワンダー・ライターという不詳者。

 彼の本は沢山あるが、その作者の手がかりは一切無い。そして、その本を誰が何の為にオペラに手渡したのかも分からない。


 そして、この間の件で1番分からなかったのはオペラの態度だ。それが1番不可解だった。

 ジェドはそれについて、何か可哀想な人を見るような目で見てきた。


(……何でアイツにそんな目で見られなきゃいけないの)


 誠に不愉快である。

 そして、もっと訳わからないのは……ジェドは何故あんなに厄介ごとに絡まれるのか?

 ルーカスも付き合いは長いのである程度は想定はしていたのだが、想定以上に酷すぎた。

 変装して行けばすぐに聖国に着けると思っていたのに、ジェドのせいで想定よりもかなり手こずらされ、聖国に着く頃にはルーカスは疲れ果てていた。

 最強と謳われた皇帝の右手も聖石を壊した時に痛めてジンジンし……こんなに痛い思いは、先代魔王と戦った時だってしてはいなかった。


 流石にもう帰りは勘弁して欲しかったので、ルーカスは魔法が苦手なのに長距離移動魔法を使った。その結果がこれである。

 魔力切れで全身が倦怠感におしつぶされる。しかも、そんな姿を人にあまり見られたく無いのに、よりによってノエル嬢に見られてしまった。

 帝国の未来を担う子供達からは憧れの対象としてキラキラした目で見られたかったから努力しているのに、その努力を踏みにじるのがジェドという男である。

 日々、試練がある事に不満は全く無い。むしろジェドのおかげで精進しているので、そこはありがたい。ありがたいのだが……

 たまに非常に殴りたくなる時も多々あった。


(はぁ……もう、考えるの……疲れた)



 考えすぎて疲れ果てたルーカスは、そっと心の中でスイッチを押した。



 ―――――――――――――――――――



「陛下、お加減いかがですか? この書類を――」


 ルーカスの様子を見に寝室へ入って来た甲冑騎士シャドウは、ドアを開けた瞬間信じられない物を目撃した。

 ベッドからだらーんと伸びて床に溶けるように寝ている皇帝の姿……


「うわーーー!!!!!! 陛下!!!?? 陛下、大丈夫ですか????」


 シャドウはルーカスの身に何かあったのかと思い、書類を落として駆け寄った。


「……陛下?」


 ルーカスを助け起こしたシャドウはその顔を見てギョッとした。顔の絵柄が……簡易になっているのだ。


 あの、帝国1美しいと言われた顔……いや、自身と同じではあるのだが。

 そのキリリとした顔が、見るも無残に簡易化していた。下手な落書きの棒人間のようである。

 文字で表すならば( ´_ゝ`)な顔をしていた。


「陛下? どう……され……え?」


 ( ´_ゝ`)なルーカスはだらーんとして何も答えなかった。


 騒ぎを聞きつけたエースが第1部隊の騎士団達と一緒に駆けつけた。


「シャドウ殿、どうかされ――ひっ!」


 寝室に入ってきたエースも驚いて腰を抜かした。皇帝が何かの病気か呪いにかかったのかと思い青ざめる。


「うわぁ……どうしたんですかねぇ陛下。こんなに垂れてる陛下初めて見ましたよ」


 ロイがほぼ液状化しているルーカスをつんつんと突いた。


「ロイ、仮にも陛下だぞ。……多分……陛下ですよね?」


「え、ええ。多分陛下です」


 帝国最強の皇帝、何でも出来る男、ルーカス陛下らしからぬ見た事の無い様子に皆が動揺した。


「私も陛下に仕えて数年……こんな様子は初めて見ました。何かご病気で無ければ良いのですが……」


「そもそも、この様子が正常なのか何かの呪いなのか、病気なのか見当も付かないんだが……」


 ガトーはふと、付き合いの長い騎士団長ならばこのおかしな様子が何なのか分かるのではないかと思い立つ。


「あ! そういや騎士団長、帰って来てるって聞きました。俺達呼んできます!」


 三つ子の騎士は窓から飛び降りて、急ぎ公爵家へとジェドを呼びに行った。


 数10分後、魔法陣と共に現れたのは騎士団長ジェドと、魔王アーク、それに魔塔の主人シルバー・サーペントであった。三つ子の騎士達もすぐに駆けつける。


「おや? 何かルーカスが変な事になっているのだけど……魔力切れってだけじゃ無さそうだねぇ。ジェド、これはどうしたんだい?」


 シルバーがルーカスをまじまじと見る。自身の魔力を分けてあげても一向に治る気配は無かった。


「どうしたもこうしたも……これはアレだろ」


 ジェドは頭を掻いた。


「騎士団長は何か知っているのですか?」


 部屋中で心配している人達がジェドの言葉を待つ。ジェドはアークを見て苦笑いした。


「いや、普通に疲れてやる気無くなっちゃっただけだから。いやぁ、こんなん久々に見たわ。先代魔王の時以来じゃない?」


 ジェドは慣れた様子で垂れているルーカスをベッドに戻した。


「え? これって、普通なのですか?? 明らかに様子がおかしいですし、皆初めて見るようですが……」


「だから魔王の時以来だって言ってるだろ。シャドウ、考えてもみろ。陛下は完璧皇帝だが、世の中にそんなに完璧な人間がいると思うか? 陛下の心が許容範囲を超えると、こうして全ての思考をオフにしてしまうんだ。はーい、陛下ー。可愛がってるマリモですよー」


 ジェドが陛下に近づくと、陛下のやる気のないチョップがジェドの頭に降りた。


「誰のせいだと思ってるんだ……」


「はいはい。俺が悪うございました。あーあ……こんなに手痛めちゃって……」


 やる気の無い陛下の手を受け止めて、ポーションをかけてやる。


「ジェド……」


「何ですか? 何かお土産買ってきます?」


「……君の変な土産はもういい……何か甘いものが食べたい……」


 ルーカスは完全にやる気無くジェドに甘えていた。


 それを聞いて、見守っていた三つ子の騎士の1人ガトーがぽんと手を叩く。


「おお、それならうちの領地にいらして下さいよ。美味しいスイーツ沢山作ってますから」


 ザッハとトルテも頷いた。


「ええ……また帝国を離れるのか? 騎士団長がこうも不在で大丈夫なのかよ帝国は」


「……騎士団長、こんな事は言いたく無いのですが、騎士団長が居ない時は……割と平和です」


「……その言い方だと俺がトラブルを起こしているように聞こえるのだが……?」


「……」


 シャドウは目を逸らした。エースや騎士団員達も、誰もジェドと目を合わさなかった。ジェドは少し泣いた。


 かくして、陛下のやる気スイッチを入れる為にジェドはスイーツを探しに三つ子の故郷、ショコラティエ領へと出かけた。

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