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クランバル家の光と闇の剣士(後編)


 

「弱い……」



 国から国へと強い者を追い求める鬼のような形相の女剣士が2人。


 チェルシー・ダリアとジャスミン・クランバルである。


「……やっぱ居ないのかしら」


「そ、そんな訳無いわよ!! 絶対に何処かに居るはずよ!! 理想の剣士が!!」


 2人は考えた。そして腹が立った。

 何が恋愛をしてレベルアップだ。

 自分達は己の力で高みに昇り詰めたのだ。他人の力を借りて剣を磨くなど言語道断。ならば、自分の運命の相手だってこんなゲームに惑わされず自分で見つけるべきでは?

 そう思い立った2人は初めて剣を合わせる事以外に興味を持ち、最高の男を探す旅に出た。


 ……とは言え、最強の女剣士2人はこれまで剣以外の事に興味を持った事は無い。となれば2人の理想の男は、自分を負かす程の強い剣士である。


 2人が敵わない程のいい男剣士が現れたら、また取り合って争う事になるかもしれない。そうなったらまた勝負し、今度こそ決着を着けよう――と2人は思っていた。


 ……だが、肝心の最強の男剣士が居ないのだ。


 西に素晴らしいレイピアの使い手が居ると聞いては勝負した。南の国に曲芸のような不思議な双剣の使い手が居ると聞いては勝負した。東に神の如き一閃を放つ居合剣の使い手がいると聞いては勝負した。魔王にも挑んでみたが、剣の使い手じゃないから帰れと虫の如く追い払われ断られた。


 探しても探しても何処にも居ない……


 2人は知らなかった。彼女達程剣を愛し、戦う事に明け暮れる剣士は最早変態である。

 そして、そんな変態が偶然にも2人揃いお互いにライバルとして切磋琢磨し戦い強くなるという……そんな奇跡など、そうそう無いのだ。


「……何処かに、何処かにいるはずよ……」


「そうね……こうなったら意地でも探し出しましょう」


 2人は東の国で祈っていた。よく願いが叶うと噂されている神の社で手を合わせた。

 2人とも神は信仰しないタイプだったのだが、こうなればなりふり構っていられない。神でも誰でもいいからその力があるならば引き合わせてくれと思った。


 そして――


 ついに2人は神の空間にまでやって来た。

 一体どうやってここまで来たのかは覚えていない。空間から現れる眩しき男……彼は剣を持っていた。

 間違いなく、彼こそが伝説であり、恐らく全ての時空で最強の剣士だろう。と、2人は心臓が高鳴り、恋にも似た高揚を感じた。早く闘いたくてうずうずとし剣を持つ手が震えた。

 

(一体、どんな剣技で斬ってくれるのだろうか?) 


(ああ……早く……)



「……ん?」


「……あれ?」


 数時間後、2人の前に沈む神の男の姿。

 彼はむくりと起き上がり、その目を赤く光らせる。目には怒りの炎が宿っていた。


『おのれ……私を怒らせるとは……人間如きが。良いだろう、後悔させてやる。私の真の力を見るが良い!』


 そう来なくては! と、2人は爛々と目を輝かせ、それぞれ剣を構えた。



 ――数時間後、神はでかい2つのコブを作って倒れていた。


「おーい、まだ終わりじゃないよね?」


「嫌だわジャスミン、幾らなんでも馬鹿にし過ぎよ。神って位なんだからまだこれから第3形態があるに決まっているじゃない」


『……貴様ら……ついに私を本気にさせてしまったようだな……後悔しても知らぬぞ!!!』


 神の身体が巨大化し、その身体の至る所に神が現れそれぞれが剣を持った。

 2人は喜んだ。わーい! 剣がいっぱい!!! と。

 神の真の本気に2人は挑んだ。



 ――更に数時間後、身体中の全ての神が満身創痍で死んだ目をしていた。


「ねえ! 次は?? 次は?? 早く!!」


「急かしちゃダメよジャスミン。まだ最終形態が残っているに決まってるでしょう? 神だって準備に時間がかかるんだから察してあげなきゃ」


『……』


 神は無言で光出した。身体中の神々が消え、1人のシンプルな存在になる。

 それは人の形であるような、何処か生命を感じさせないような形態であった。


『……人間が私のこの姿を見れるとはね。褒めてあげよう。だが、遊びは終わりだ……この哀れな箱庭ごと全て消し去ってくれる……』


 空に浮かび上がる最終形態の神。2人は武者震いした。

 世界なんて最早どうでも良かった……ただ、強い者と闘いたいのだ。



 ――数時間後。


「まだだ、やれば出来る! 力を振り絞れ! 限界を超えろ!!」


「そうよ! 貴方は神でしょ? 負けちゃダメよ! 気合よ! 気合よ!」


 倒れてボロボロになっている神を励ます女剣士が2人。起き上がらせては剣を握らせて戦わせる。神はこの世に存在して初めて地獄を見た。


『もう……お前ら……いい加減にしろーーー!!!!! お前らの理想のヤツなんかいるかーーー!!!!』


 ……2人の純粋な心は神を怒らせた。




 気がつくとジャスミンとチェルシーは何処かの草地に倒れていた。

 見覚えがあるような無いような……神の空間に行く前にこんなような平原を通ったかも知れないと薄っすらぼんやり考え辺りを見回した。


「……チェルシー? どこ……?」


「……ジャスミン……」


 2人は無事だった。お互い、声のする方へと進む。


「チェルシー、無事だったのね? いやぁ、あれ位で怒るなんて神も小さいヤツよね」


「ジャスミン……? あ、あなた……その姿……」


「――え?」


 チェルシーが草地の水たまりにジャスミンを引いて顔を見せた。

 そこに映るジャスミンは黒髪の美しい女剣士では無かった。どう見ても男だった……


「どういう事……あ、剣――」


 2人は命よりも大切な自身の剣を探した。草むらに落ちていた剣を見つけて持ち上げたが……すぐにその違和感に気付いた。

 チェルシーは剣が重すぎて持ち上げる事が出来なかった。

 ジャスミンは呪いの力で手を火傷しそうになりすぐに手を離した。


「これは……」


「……神様をおちょくり過ぎた罰かしらね」


「……そのようだね」


 2人は神の怒りに触れ過ぎた。剣の力を失い、ジャスミンに至っては性別を変えられた。

 何故ジャスミンだけが男になってしまったのかは分からない……恐らく、そんな男は居ないからもう来ないでくれという神の采配かもしれない。


「くっ……くっ……」


「ふふ……ふふ……」


 2人は笑い合った。力を失った? そんな事位で2人が剣を捨てるかと思われたのが片腹痛かったのだ。

 失ったのならば、また元に戻せば良い話。来るなと言うならば……何度でも探し出してあげよう。


 2人には新たな生きる目標が出来た。丁度諦めかけていた所だったので良かったと……



 ★★★



「……と言う訳でね、私達は1から剣の腕を磨き上げてる途中なのよ」


「ああ、そうしてまた神に挑もうと思ってな。いやー、人生何が起きるか分からないが、こんな風に幾つになっても目標があるのは素晴らしい事だな」


「そうね。ふふ」



 ……と、説明を終えて笑い合う2人だったが、同じ剣士だけどその気持ちも話も何も分からなかった。話を聞いた上で、どゆことなの?


「ほうほう、2人が神をも凌駕する剣士だったとは。その頃の貴女方に会ってみたかったねぇ。それで、修行してもう1度神に挑んでどうするんだい?」


 シルバーが興味津々にニコニコと話を広げ始めた。やめろ……もうこれ以上聞きたく無い。

 それにしても、親父と母さんは剣の腕が凄いと思っていたが……まだまだ修行中だなんて昔どんな剣鬼だったのか。俺は剣の変態ではないので想像もしたくないが。


「うーん、神に挑む事がメインで目的とか特に考えて無かったけど……ふふふふ、もしもう1度神を怒らせる事が出来たら、今度は私がお父さんにして貰おうかしら」


「ぶはっ! それは面白いな! じゃあ私がお母さんか! ははははは!!」


 2人は仲良く笑っていた。こちとらちっとも面白くない……旅から帰ってきたら親の性別が逆転してたらショックすぎるわ。


「……兄貴」


 隣を見ると、ジュエリーちゃんこと田中が暗い顔をしていた。

 大丈夫だ田中……逆に今なら話の流れに乗って言えるだろう。


「親父……母さん……実は俺達も黙っていた事があるんだ」


 俺はジュエリーちゃんの中にいる田中の事を打ち明けた。



 クランバル家の当主は悪役令嬢であり、娘は中身が男であり……もう訳が分からないよ!

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