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さち子と田中は邂逅する(前編)


 

「それで、何でアークはあのレストランに来ていたんだ?」


「ああ……俺は帝国にちょっと用があってな。向かっていた所で急に雨に降られて、雨宿り場所を探していたらお前の声が聞こえたんだ。お前の雑念は本当に煩いな」


 雨が上がり、再び帝国に向かって馬車を走らせた。アークは御者台の横に座り俺の話を聞いていた……何で狭い御者台に座るんだろう。馬車内に移動してほしい。


「……いや……お前、何処に行ってきたのか知らないが何か変なもの連れてきたな」


 それは変態と人形どっちの話だ?


「あの人形も中々に不気味だが、シルバーとかいう魔法使い……ヤバすぎる。あいつの考えてる事は全く理解出来ない。全部魔法式だとか……そんなヤツいるのか?」


 アークが言ってる通りシルバーの思考は全部魔法式で、考えが全く理解出来なかった。

 最初、アークが何を言っているのか分からなかったがアークが触れた瞬間に流れてきたシルバーの思考が気持ち悪すぎて手を払った。見た事の無い変な文字の羅列が多くて頭の中に模様が描かれてくるかのようで、酔いそうになった……

 アークにはずっと聞こえてるみたいでゲッソリとしている。俺はアークに触らないように隙間を開けて座った。


「アークだったかな、今の魔王は考えてる事が読めるんだねぇ。あまり用が無い限り魔塔から出る事が少なくてね……今度魔王領に行ってみようかな?」


「やめてくれ……あと、本当に酔うからその考えてるヤツも止めろ……」


「いやぁ、申し訳ないねぇ。何か新しい魔法が出来そうでずっと考えちゃってね、魔法の事になるとついつい悶々としてしまうんだ。ちゃんと完成したら収まるはずだからもう少し我慢していてほしいな」


 そう言ってシルバーは苦しむアークをニヤニヤと見ていた。本当に嫌なヤツである。

 だが、俺にとっては救世主だ……魔王だけど。こんな魔ゾと変な人形と一緒に家に帰るのは正直嫌だったんだよね。

 ジュエリーちゃんにも話をしないといけないし……


「さらっと俺も一緒に行く事を決定させるな」


「お前だっていつもさらっと俺を巻き込んでいるだろ。たまには協力してくれよ」


 いつもなら喜んで付いてくるアークも、流石にシルバーは苦手なようで隙あらば離れたい様子だった。嫌だよ、コイツと2人にしないでくれ。さち子も居るけど、何の気休めにもならんし……


「あ、見えてきたぞ」


 木々が深い森の街道を抜けると、景色が一気に開けて帝国の首都の街並みが見えてきた。俺達は馬車をそのままクランバル公爵家へと進めた。



 ―――――――――――――――――――



「お帰りなさいませ、ジェド様。ん? 御者はどうされました?」


 家に帰ると執事が出迎え、召使い達が馬車を仕舞うために周りに集まった。ああ、そう言えば出る時は御者連れていたな……


「……いや、怪我したとか死んだとかそういうのじゃ無いんだ。彼は途中でいい人が見つかって残って行ったよ」


 割と旅の最初の方でな。なんならすぐ近くの湖で女神と新婚生活を楽しんでいるが。


「そ、そうですか。そんな事もあるのですね」


 俺も全然信じられませんがそんな事も有るんですわ。


「それはそうと、そちらのお客様方をご案内しなくてはいけませんね。クランバル家へようこそいらっしゃいました、お疲れでしょう。こちらへどうぞ」


 執事がシルバーとアークを客間へと案内した。2人の見た目が珍しいのか見た時に一瞬驚いた顔をしていたが、そこはプロなので普通に案内してくれる。

 うん、明らかに変だよね見た目。魔王と魔塔主を連れて来たなんて言うと驚かれそうなので黙っている事にした。



 俺達は客間に用意されたお茶とお茶菓子を頂いていた。あ、このお茶あれだ、この間聖国に行った帰りに世界樹の所で買ったヤツだわ。何でも世界樹の頂上の聖国で作られてる特別なお茶らしく、なかなか味わい深い。新茶も美味しいが、全発酵した紅茶も中々なんだよなぁ。


「グボホッ!!」


 アークが急にむせ出した。え? 何、どしたの?


「お前……これ、何かピリピリすると思ったら世界樹の葉かよ。聖気を魔王に飲ますとはいい度胸だなお前……」


「ん? ダメだった?」


「ははは、ジェド、魔族に聖気とはやるねぇ。魔族は聖気が体に入ると魔気が過敏になり体内から取り除こうとするんだよ。酷くなるとくしゃみや鼻水が止まらなかったりショックで死んじゃうことも稀にあるから良い子は真似しない方がいいね」


 花粉かよ! そんな事になるなんて初めて知った……アークには別のお茶を用意した。何かごめん。


「ああそうそう、ジュエリーはいるか? お土産があるんだ」


「ジュエリーお嬢様でしたら庭園にいらっしゃったかと思いますので、すぐにこちらへお呼び致しますね」


 執事がジュエリーを呼びに部屋を出た。

 何故かシルバーがニコニコとしている。


「お土産ってさち子人形の事だよね? ジュエリーちゃんはまだ小さいんだろう? 呪いの人形がお土産とは、君も酷いお兄ちゃんだねぇ」


「いや、ジュエリーちゃんはお前の思っているような幼女ではない」


「ほうほう?」


 そうこう話しているうちに客間の扉が開き、ジュエリーちゃんが控え目に部屋を覗いて入って来た。


「おかえりなさいお兄ちゃん! 全然帰って来ないからジュエリー……寂しかった!」


 確かにここの所、あちこち出てばかりで全然家に帰れてなかったな。先日4歳になったばかりの妹は、見た目だけは可愛かった。


「あっ、お客様がいらしたのですね……はじめまして、わたくしジュエリー・クランバルと申します。お会い出来てうれしいです」


 よく出来たジュエリーちゃんの4歳らしからぬ大人びた挨拶に俺は死んだ目で手を叩いた。

 アークは俺とシルバーの2人の後ろに回り肩に手を置いた。


(ジェドの兄貴、やっと帰って来た。ジュエリーを放っておくなんて本当に酷すぎるよな。はぁ、何だか俺も最近転生前の男だった事を忘れて幼女が板について来ちゃったなぁ。兄貴が居ないと寂しいとか思っちゃってさぁ。だって兄貴何か漆黒でカッコイイし。もう少し俺の相手してほしいなぁ……)


 田中の男子な声が頭に流れ込んで来る。

 ……田中がそんなに俺を慕ってくれるとは思わなくて、ちょっと嬉しくなってしまった。

 田中よ、お前は田中でも十分俺の妹……弟? いも弟? だぞ。いつかそのうち田中には俺が田中だと気づいている事を打ち明けて本音で話したいとは思っている。


「ふむふむなるほど、それは複雑な……むごっ」


 俺と田中の両方の心の声が聞こえたのか余計な事を喋りそうになったシルバーの口を塞いだ。

 いつかは田中に打ち明けるつもりだが、今じゃないし俺の口からちゃんと言うから余計な事を言うのはヤメロ。


「よくご挨拶出来たね。それで、ジュエリーにお土産というか……頼みがあるんだ」


「えっ、お土産?!」


 パッと顔を輝かせたジュエリーちゃんだが、俺が手渡した不気味なさち子人形を見て明らかに落胆した。

 うん……まぁ、そうだよね。お土産がこんな不気味な人形て、ジュエリーちゃん的にも田中的にもドン引きだよね。わかるわかる。


「いや、その人形なんだが……実は呪われているんだ」


「え?」


 いかん、更にドン引きさせてしまった。せっかく上がった田中の好感度がだだ下がりである。


「まぁ引かないで聞いてほしい。その人形は髪に呪いの力を溜め込み、呪いの力が増しているんだ。その髪を切れるのがジュエリーの持っている聖剣だけだと……思う。多分……。何とかお兄ちゃんに協力してくれないか?」


「なんだ……そう言う事だったのか。兄き……いや、ううん、お兄ちゃんの為ならジュエリー頑張るよ!」


 おい田中、焦りすぎて田中が出そうになっているぞ。焦らないで落ち着いて喋ってくれ?


「ちょっと待っててね!」


 ジュエリーが聖剣を取りに行こうと扉に手をかけた瞬間――


 人形の髪が急に爆発したかのように四方八方に伸び出し、さち子人形が奇声を上げた。


「キェエエエエ!!!!!」


「なっ、何だ??!!」


 どうしたんだよ、さち子!?


 すると窓のから差していた日の光が消えて急に真っ暗になり、外の景色が全く見えなくなるくらい黒くなった。え??? ナニコレ????


「ふむふむ、なるほど」


「ん? お前、この状況が何なのか分かるのか?」


 シルバーとアークが何故か呑気に話していた。いや、お前ら何でこの怪奇現象の中そんなに冷静でいられるの?? 俺と田中はもうちびりそうなんだけど???


「何でと言われてもねぇ。強いて言えば様々な魔法を受けているうちに恐怖が段々と快感に……」


「マゾ談義はいいから何なんだよ」


「何かについてはさち子嬢が説明しているじゃないか」


 シルバーの指差す方を見ると、白い壁に赤い文字で書いてあった。


『人形の呪いの力が消されるのを恐れて暴走しちゃった☆押さえつけられない。ゴメン。がんばれ☆さち子』


 さち子ーーー!!!!


 さち子人形は髪の毛を四方に伸ばしながら空中に浮いていた。やっぱり持ち帰るんじゃなかった……

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