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赤い林檎の甘い毒(後編)



 窓から見える薄暗い部屋……開け放った窓から光が差し込み、中に居た女が見えた。


 こちらを驚愕の目で見ている女は、真っ赤な唇に派手な化粧、赤黒いドレスローブを着ていた。

 ……う、うーん、悪役令嬢っぽい


「ジェド、これは私の勝ち確定では?」


「いや、まだだ! それっぽい見た目なだけかもしれない! 人を見た目で判断してはいけない!」


 そう、まだ悪役令嬢と決まった訳では無いのだ。たまたま悪そうな服を着た悪そうな人相の普通のご令嬢かもしれないぞ、失礼だろ?!


 人相の悪そうな普通のご令嬢は、近くに置いてあった杖を手に取り魔法陣を描き始めた。


「ほうほう、ジェド、落ちる準備をした方が良いかもしれないよ」


「は?」


 その瞬間、部屋の景色が全て空中になり高速で落下する。落ちる準備って何だよ……無理だろ。


 令嬢は空中に沢山の魔法陣を描いた。その全てから火や雷、木等様々な魔法が俺達目掛けて飛んで来た。


「おい! お前は魔法使えないんだよな? お前のせいで俺は両手が使えないんだが????」


「ははは! それは詰んでるねぇ君。構わないよ、私の事は空中に放り出してくれ。ああ、あの魔法の当たりそうな所に投げてくれると嬉しいな。すでに発動している魔法は私が何とかしよう。君は発動前の魔法陣をぶった斬ってくれたまえ。出来るんだろう?」


「公爵家の秘伝を何で知ってるんだよ……」


 俺はシルバーを空中に放り投げ、腰の黒い剣を抜いた。剣に剣気を張り巡らせ小さく振りかぶる。

 その瞬間周りを煩く振動していた空気の音が消えた。複雑な魔法式が糸のように見えるのでそれを剣波で次々と切っていく。切られた魔法陣達は糸のように剥がれ空気に溶けていった。


「なっ!? 何それ!? 魔法陣が――」


「いやぁ、初めて見たけど素晴らしいねぇ。一体どういう理屈なのか全然分からないけど」


 理屈は切っている俺にもサッパリ分からない。親父がこう切ると魔法陣が切れるっていうからやってみただけなんだが、何故か他の人には出来ないらしい。陛下すら難解な顔をしていた。


「で、お前はどうするんだよ」


「どうもこうも」


 魔法式が完成して発動した魔法がそのまま襲い掛かって来てるが、言われた通りに当たりそうな所に放り出したので全部シルバーに当たった。

 かなりの攻撃だったのか煙がもくもくと立っているが、煙が晴れて見えたシルバーはピンピンとしていた。


「うんうん、なかなかの威力だね」


「……おい、お前自爆しそうなんだよな?」


「私が爆発する時は魔力が抑えきれない時であって、外傷による刺激で爆発する爆弾ではないのだよ?」


「そりゃ良かった……のか?」


 魔法に体当たりで防御する魔法使いとかいるのか……? 盾職か何かかな?


「さぁ、次はどうするんだい?」


 シルバーがニヤニヤしながら令嬢を見た。これから魔法陣を作っても俺が切っちゃうし、相手詰んでますやん。コイツ……マジで性格悪い。だから狙われるんじゃないのか?


「くっ……」


「そこで君に提案なのだが、君が1番自信のある魔法を私にぶつけてみてはいかがかな? それを私が耐えたら君にはもう術は無いとしてこの争いは終わりにしたい。君も魔法使いならば毒の魔法ではなく正々堂々と勝負したいんじゃないかい?」


「……」


 お前……何言ってるの? いや何やかんやマトモそうな事言ってるけど、実の所お前が魔法受けたいだけだろ??? 絶対そうだ! 何かめちゃくちゃウキウキしてるし!!


「……分かったわ。勝負よ!!」


 あー……令嬢受けちゃった。外傷では爆発しないって言ってたけど、どの道シルバーが死んだら爆発すんだろうが……何でそんなリスキーな事するの? 真性の魔ゾさぁ、ヤバすぎるだろ……


 令嬢が禍々しい魔法陣を空に描き始めた。俺にも分かる……やべえヤツだろあれ。

 一方、魔ゾは両手を広げて早くくれとばかりにノーガードだ。あー……後ろから斬りたい。ダメだ、爆発する……いや、外傷じゃあ爆発しないのか?


「消し炭になれ――『破滅カタストロフィ南十字星サザンクロス』!!!!」


 いや技名何か凄いな。

 破滅の南十字星が黒い閃光となってシルバーに襲いかかる。俺はすんでで避けた。良かった……十字だから避けやすくて。


 直撃したシルバーは、消し炭にはならなかったがローブが所々焦げていた。今までの攻撃を考えると相当な威力なのだろう……こわ。

 焦げたシルバーを受け止める。爆発してないから多分生きているのだろうけど、大丈夫なのだろうか……


「おい、大丈夫か?」


「うん、いいねぇ。血行が良くなりそうだったよ。ふふふふ」


 ……令嬢の1番の技もマッサージ程度にしか思ってない。何なんコイツ。


「……やはり魔塔主様に魔法で勝とうなんて無理だったんだわ……私の負けです」


 諦めた令嬢は自身と俺達の下に魔法陣を作った。次の瞬間下の部屋へと降り立つ。

 俺は身動きの取れないシルバーを椅子に座らせた。


「それで、何故君はこんな事をしたのかね? 私には及ばなくとも、君は優秀な魔法使いだろう」


「それは……この本を見たから」


「この本……?」


 嫌な予感がしてテーブルを見ると、『真白き美しい姫と闇の魔女』と書かれていた本が置いてあった。


「私の名前はエヴィル。この本には私の事が闇の魔女として書かれていました。その本によると、私はこの部屋にある魔法の鏡に誰が1番美しいか毎日のように聞いていました。ある日、鏡が美しいと映し出した肌の白い若く美しい魔女に嫉妬して、その者を毒殺しようと企みます。そして、助かった魔女の訴えにより断罪され、処刑される……と言った内容なのです」


 なるほど……何か似たような童話を見た事あるなぁ。リメイク版かな?


「実際、私も毎日鏡で自身の美しさを確認していました。でも、その本の通りにすれば断罪されるんじゃないかと……怖くて。その本のように若くて美しい魔法使いが映し出されても絶対に嫉妬しないようにと、覚悟はしていました。それを乗り切ればこの本のような未来は無くなると……」


 まぁ、確かにエヴィル嬢は綺麗な容姿をしている。俺好みではないけど……何かこう……病みメイクっていうの? もう少し明るいメイクをしてみた方が良いと思うよ……


「それで、若い魔女は映し出されたのかい?」


「いいえ……違うのです。映し出されたのは――魔塔主様でした」


「……ん?」


「鏡が……この魔塔で1番美しいのは魔塔主様だって……私、若い魔女に負ける覚悟は出来ていたけれど、まさか男に負けるなんて信じられなくて。私は未だかつて無いくらいの挫折感と嫉妬に狂いました。丁度魔塔の男共に不満を爆発させそうになっていた魔女達がいたから、それに乗じて魔塔主様に傷を付けてやろうと思って……そうすれば美しくなくなるって……だけど、魔塔主様が魔法を発動させた時に気付いたんです。あれは……本当に美しかった。あんなの……勝てないって」


 エヴィルは泣きながら悔しそうに話続けた。いやぁ……女心は分からんが、女より美しいと鏡が男を選んだらショックだよなぁ。

 確かにシルバーの魔法、凄かったけどさー。鏡も空気読めよ。


「その時覚悟を決めました。もう、あの本の通りに魔塔主様を毒殺するしかないって……今考えるとなんて事をしてしまったのか……」


 エヴィルは毒の魔法を使った事に罪悪感を感じていた。だが、君が思っているよりも毒殺しようとした人の体、大変な事になってますからね? コイツ大陸全土を爆発させる爆弾だからね?


 落ち込むエヴィルをシルバーはニコニコしながら慰めた。


「いやいやいや、落ち込む必要は全然無いよ。襲撃の指揮といい、魔法毒の成功性といい、君の魔法の威力といい……どれもこれも素晴らしいものだったねぇ。十分に楽しませて貰ったさ。私はその本の若い魔女と違って君を訴えたり断罪する事もないから安心したまえ。むしろ精進してバンバン狙ってきて欲しいねぇ」


 魔ゾのシルバーはめちゃくちゃ喜んでいた。コイツ……本当、魔法変態だな。


「魔塔主様……」


「まぁ、何にしても解決して良かった。で、コイツは解毒剤を飲まないと大変な事になるので早い所渡してくれないか?」


「はい。解毒剤はこちらです」


 エヴィルは魔法式の浮いた小瓶を取り出した。


「よし、それを飲ませればいいんだな」


「あ、待ってください。その解毒剤は、1度騎士様が口に含み、口移しをする事によって魔法として完成する解毒剤です」


「……は?」


 何て??


「この本に……若い魔女は騎士様のキスで目覚めるとあったので、それに準じて作った解毒剤ですので」


 信じられない事を言われ、小瓶とシルバーを交互に見た。


「……それ……俺がやるのか?」


「私は騎士様ではありませんので」


 何で俺はピンポイントに騎士なんだ……?


「ジェド、私はそういう趣味は無いけどそういう話なら致し方無いからね。一向に構わないよ。早くしないと大陸が大変な事になるのでそれを飲ませてくれないかい?」


 その言い方だと俺にそんな趣味が少しでもあるように聞こえるが、少しも無いし死ぬ程嫌なんですが……?

 シルバーはニコニコしていた。魔ゾで人の困っている顔を楽しむような最低野郎である……



 そして、何やかんやでシルバーの毒は消え、大陸は救われた。俺は……2度とここには来ないと誓った。

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