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赤い林檎の甘い毒(前編)


 

 薄暗い部屋。高みの見物をしながら本のページを捲る女が1人……

 本の一部分を読んだ時、その手がピタリと止まった。

 目を離した隙に鏡が紫色に光る。驚いて鏡を見ると、そこには魔法式を描く美しい男の姿があった。


「魔塔主様……やっぱり貴方が……」


 落ちた本のページが風で煽られパラパラと捲られていた。表紙に描かれた真っ赤な林檎と……作者は――



 ―――――――――――――――――――



 婚期遅れの女性陣の魔塔襲撃が終わった後、魔塔内は女性魔法使い達の手によっておかしくなった場所や壊れた所が次々と修復された。

 男性陣も暫くブツブツと文句を言っていたのだが、すぐに仕事に戻った。


 魔法でみるみる直されていく様子や、改善点を研究してあーでもないこーでもないと言っている魔法使い達の姿を確認して、俺達はシルバーの応接間に戻った。

 応接間には魔法茶が淹れたてのように湯気を保っていた。お茶菓子も変わらずある。お茶がおいしい……14種類の生薬が疲れを癒してくれる。

 ふと前を見ると、シルバーは何故かまだニコニコしてこちらを見ていた。


「……まだ何かあるのか?」


「そう。まだ何かがあるのだよジェド。実はね……あの水晶、そう簡単に割れるものじゃ無いんだよ」


「あの映像石か?」


「ああ、あれは警備を担っている特殊なものでねぇ。見た所、彼女たちの実力では壊すのは無理だ。それに、魔塔をこんなに急に、そして一斉に襲うなんて……余程の入念な計画や指揮官が居ないと出来る事では無い。つまり、まだ捕まえてない魔法使いがいると私は見ている」


「もしかして、そいつが首謀者か?」


「恐らく。その者ならば、この程度の攻撃で終わるとは考えにくい……ふふふふふふ」


 魔法マゾ……略して魔ゾのシルバーが、まだ終わらない魔法使いの攻撃を想って笑う。


「それは魔塔内の問題だよな。俺は帰っていいか?」


 帰ろうとする俺の服をシルバーが掴み引き止める。


「ジェド……おかしいとは思わないかい?」


「何が? 何も? ちっとも? 強いておかしいのはお前ら魔法使いの魔法に対する性癖だと思うのだが?」


「ふふふ……襲撃犯、皆女性だったよね?」


「……それが何か?」


 シルバーが顔を近づけてめちゃくちゃ煽ってくる。


「君さぁ、悪役令嬢を呼び寄せるんじゃないのかなぁ?」


 ニヤニヤしてめちゃくちゃ煽ってくる。こわい。


「襲撃犯は別に悪役令嬢って程ではないだろう……」


「襲撃犯はね」


「まさか、首謀者が悪役令嬢とでもいいたいのか? 全然まだ何も分かってないのに……?」


「賭けないかい? 私は絶対君の関連だと思うんだよねぇ」


 んな馬鹿な、いくら何でもこじつけ過ぎる。小説じゃあるまいし……


「その賭けで俺は何の得をするんだ……?」


 シルバーは黒い魔石を取り出した。黒くて見え辛いが薄っすらと黒い魔法陣が埋まっている。


「黒炎が出る魔石、欲しくない?」


「……欲しい」


 正直めちゃくちゃ欲しい。漆黒の騎士が黒い炎を使えちゃうとか……最高に漆黒じゃん。欲しい。


「で、お前が勝ったら何が望みなんだ?」


「ふふふ、それは勝負が付いてからという事で」


 シルバーは笑いながらお茶を飲んだ。茶菓子に手を伸ばした時、一瞬手を止めてその1つをつまみそれをしげしげと見つめる。


「ほうほうほう……うーん、なるほど」


 林檎の形をした赤いクッキー。それがどうしたのか分からないがニヤニヤとして見つめた……そしてウキウキとして口にした。何で?


 その瞬間、シルバーの胸の辺りに林檎の形をした魔法陣が現れ、それが身体に溶けると同時にシルバーが倒れる。

 俺はすぐにその身体を助け起こした。


「お前……今、何か分かってて食べたよな?」


「いやぁ、いかにも怪しすぎてついつい食べてしまったよ。これは魔法毒だね」


「魔法毒?」


「魔法式で人工的に作られた毒さ。人の毒が血液に侵入するように、魔力に侵入して身体を侵していく毒だねぇ。確かにそれならば全身、髪の先まで魔力に溢れている私は回りが早いかもしれないね。いやぁ、様々な魔法を受けてきたけれどもこの手の魔法は初めてだ。指1本も動かせないから魔法式も書けないなぁ……残念だよ。ふふふふふふ」


 魔ゾが笑っている。いや、お前知ってて受けただろ? 全然残念とか思ってないだろ??


「という訳で、私は多分毒が回りきって死ぬと大変な事になるので、犯人を見つけて解除して貰ってくれないかい?」


「……参考までに聞くが、その言い方……お前が死ぬと何か起こるのか?」


「ふふふ、何を隠そう、私は何かを色々しすぎて溢れすぎちゃった魔力を自身と封印具で押さえつけているのだよ。つまり、私が死ぬと魔力が暴走して大爆発してしまうんだねぇ。爆発威力はアンデヴェロプト大陸を吹き飛ばす位かなぁ」


 ……自分から毒受けに行ったんだよな?? お前、自爆タイプなのに何でそんな危険な事するの???


「この話はルーカス位しか知らないから、犯人は知らずにやってると思うんだよね。という訳で、犯人を探して正直に話してみてくれればきっと解毒の魔法をかけるはずだから頼んだよ」


「……え? 俺がやるの?」


「君しか適任はいないねぇ。私は動けないし」


 俺は溜息をついて諦めて立ち上がった。どう考えても程よく巻き込まれている。人為的に。

 扉を出ようとした俺をシルバーは呼び止めた。


「待ちたまえ、私も連れて行ってくれ」


「……何で? 大人しく寝てろよ……」


「どの道私が爆発すればどこに居たって一緒だろう? ならば爆弾を盾にして犯人に迫った方が良いと思わないかい?」


 良い……か?

 もう何が正解なのか分からず、シルバーを背負って応接間を出る。俺は襲撃の首謀者に爆弾を背負って解除を迫る特攻の騎士団長となってしまった。



「それで、一体どこに行けば良いんだよ」


 シルバーがとりあえず歩けというのでその通りに歩き始めた。


「まず、あのお茶菓子だけど……襲撃事件前には無かったものだねぇ」


 確かに、最初の応接間にはあんなまともな色のお菓子は無かった。何か変な色のお菓子ばかりで、真っ赤な林檎の形のお菓子なんて、普通の物があればすぐに分かる。


「つまり、何らかの魔術具でこちらの動きは把握しているのだろう。戻って来る前に応接間に用意したのだからね」


「何らかのって……」


「恐らく、鏡だよ」


「鏡?」


「映像を媒介する物には理屈があるからね。水晶の監視装置は光の反射だが、そんな身の回りにある光を使った大掛かりな物が動いているならばすぐに分かる。だが、既存の鏡を媒介した監視ならば少ない魔力で気付かれる心配も無い。鏡はどこにでもあるしね。君も身近にある鏡には注意した方がいいよ? ふふふ」


 そんな事を言われると鏡怖くなるじゃん……誰かが盗視してたって事だよな? こわ。


「ああ、惜しいねぇ。私に魔法が使えたら、鏡を媒介している先へ簡単に出入り出来てスピード解決だったんだけど。今は指1本動かせない。あー残念だ」


「全然残念に思ってないだろ。で、どうすんだよ」


「私の左腕に白い装飾があるだろう?」


「ん……これか?」


 確かにジャラジャラ付いている装飾の中に、白い宝石が沢山付いたものがある。白い宝石の中には何か光の粒があった。


「そうそう、それそれ。その1つを取ってあの辺りに投げつけてくれないかい?」


「こうか?」


 宝石の1つを引きちぎってシルバーの指差す方へ投げつけた。するとその宝石からとんでもなく眩しい光が放たれる。眩しい。何も見えん。

 何つーもん着けてんだコイツ……



 ★★★



「なっ!!!」


 鏡を見ていた女は、放たれる光に目を眩まされた。

 その光は鏡越しだったにも関わらずこの部屋中を何も見えなくする程の強力な光だった。光はしばらく鏡から放たれていた。

 やっと光が止み、再び鏡を見るとそこに居たはずの2人の姿は無かった。


「――しまった、見失っ……」


 そう口にした直後、窓が開かれる音がした。

 窓辺には騎士と、背中に背負われた魔塔主……


「残念でした。カーテン、もう少し厚いものにしないと隙間から光が漏れていたよ?」


 魔塔主はニヤニヤと笑っていた。

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