魔塔の主人は変なヤツ(前編)★
魔塔――世界中の魔法使いが憧れ、最高峰の魔法使いが集まる場所である。
その塔の始まりはハッキリとは分かっていないが、古くは神秘のダンジョンだったとも言われている。
が、陛下から聞いた話だと魔塔に集まる魔法使いは変なオタクばかりで、死ぬ時は知らない魔法で死にたい! みたいな魔法変態達だそうだ。
魔塔の主人、シルバー・サーペントは魔法だけじゃなく化学や超常現象、異世界等様々な分野にも詳しい分他の魔法変態よりは多少マシっぽいのだが、変態を纏めているんだからロクなヤツでは無いと陛下は言っていた。
「この髪とか目が気になるかい?」
まぁまぁ気になりますね。チラチラ見てしまったのがバレていたようだ。
シルバーは何か髪の先端にかけて発光してるし目も何か変な模様が描かれていた。正直めちゃくちゃ気になる。
「私はね魔力が多すぎるのでねぇ、こうして魔術具で封印していても押さえ切れないんだよ」
そう言ってジャラジャラ着けている装飾を見せた。手足に着けている沢山の装飾は全て封印の魔術具らしい。魔力って溢れすぎるとそんな風になるのか……こわ。
アークも沢山の魔気を持っていたが、魔気と魔力は違う。魔気は魔族特有の物で、神から力を与えられた者が聖気を持っているのと同じだ。
魔気や聖気は個人や種族特有の物だが、魔力はどんな者でも等しく持ち、アイテムや修練でレベルを上げたり高めたりする事が出来るのだ。
剣の道を極めて習得出来る剣気と似ている。だからこそ、何をどうやってそんなに溢れる位に魔力が高まってしまったのかは想像したくない……やはり変態を纏める親玉はもっと相当な変態なのだろう。
シルバーが魔法陣を描くと景色が一瞬で魔法学園から魔塔内部へと変わった。移動の魔法は短距離でも相当な魔力を使うのでそんなにホイホイ使えるものでは無かった気がするのだが……
「私はインドア派だからあんまり外を歩くのは好きじゃないんだよねぇ。ルーカスから聞いていたので君を迎えに行ったんだけど、あまりにも少女との時間が名残惜しそうだったからねぇ」
「……誤解の無いように言っておきますが、自分とノエル嬢はただの友人ですが」
「君ね、そういう言い訳をする方が怪しいんだよ? あの位の少女が可愛いと思うのは誰しもにある感情さ。ああ、異世界ではあの位の少女が好きだという成人男性をロリコンと言うらしいね。大丈夫、君がロリコンだなんて全然思ってないから。ね?」
ぐぬぬぬ……コイツ、さては俺の反応を楽しんでいるな。何かニヤニヤしてるし。
シルバーは目の前にあった部屋のドアを開けた。そこは肩透かしな位に普通の応接間で、窓からは魔法都市や学園が下に見えた。恐らく魔塔の上階なのだろう。
「案外普通の部屋だと思っているだろう? 以前はもっと色々置いてあったんだけどね、応接間位は普通にしてほしいとルーカスに怒られたんだよ」
案内されて椅子に腰掛けると、テーブルには変な色に光っているお茶と見た事無い色のお茶菓子が置いてあった。
「……何のお茶だ?」
「魔法茶だけど?」
「魔法……茶?」
原料何だよ。
「心配しなくても怪しいものは入っていないよ? 14種類の生薬が溶け込んでいて慈養強壮にいいんだよ。」
……異国人が持って来た酒でそういうのがあった気がするが、半信半疑で飲んでみると魔法茶は案外美味かった。俺は騙されたと思って躊躇なく試すタイプの人間である。お菓子も独特の味がしたがなかなかいける。
「それで、ルーカスからの用事は聖国のゲートの事かな? その事ならば暴走した時点でこちらも把握しているので、すでに聖国に修理の手配は済んでいる。先程のゲート同様こちらの設計ミスのようだからねぇ。全面的にこちらで修理や聖国の修繕については見ているつもりだよ」
「いいのか? うちの国の聖女が規格外な聖気を送ったせいなのもあるんだが……」
「この広い世界、規格外な者達は何人も存在するからねぇ。そんな存在のせいにして責任転嫁するほど魔塔は落ちぶれてはいないんだよ。むしろそういう壊れ方をする事を教えてくれて感謝している位さ」
なるほど……確かに物を作っている以上、様々な事を想定しなくてはいけないだろうけど……心なしか喜んでいるようにも見える。壊されて嬉しいとかヤバくないコイツ。
「では、そちらが良いならその話はそれで。それともう1つ、コレを調べて欲しいんだ」
俺は陛下から預かった鍵付きの本を手渡した。
聖国の女王、オペラ・ヴァルキュリアから預かった『箱庭の哀れな天使』という本である。
「これは? 鍵は無いのかい?」
「鍵はここには無い。だが、俺達が知りたいのは内容じゃなくてその本を持ち主に渡した人物の事だ。陛下が1度魔塔の主人に見てもらった方がいいというのでここに持って来た」
「ふむ……」
シルバーは本をしげしげと見た。
「ジェド、君は異世界人には何回も会った事があるんだよね?」
「まぁ……割と」
転生して記憶を持っていたりする者は沢山いるし、中には本人がそのままワープして来た例もある。勇者高橋や聖女茜はそちらの人間だ。
異国から伝わって来るものには、明らかにこの世界で作られた物じゃ無いだろう物や知識が時折混じっていたりするので、まだまだ知らないところに沢山居るんじゃないかと思われている。
「私はね、異世界についても研究しているんだよ。あちこちで変な世界から落ちて来たり転生していると証言する者が余りにも多すぎるからねぇ。度々そう言った人達から話を聞いているんだ。残念ながら、今の我々の技術力ではその、この世界では無い何処かへとこちらから飛ぶ事は難しいけどねぇ」
確かに向こうからはバンバン来るが、こちらから飛んだという話は聞いた事がない。まぁ、向こうに行く術が無いから確認のしようが無いが。死んで転生でもしていれば別だけど。
「それがこの本と何か関係があるのか?」
「転生する者の中には、何らかの繋がりをこの世界に見ていて、この世界の事を少なからず知っている者がいたりする。それは……本なのか、はたまたゲームとやらのシナリオなのか。その者達の中で、本について詳しく覚えている者の話を聞いた事があるんだ」
「……それは、自分がその登場人物で死ぬ運命にあるとかそういう奴か?」
「いや。その者から聞いたのは普通の冒険記だ。彼は主人公と同じ状況にあると言っていた。それでね、その作者がこれと同じなんだよ」
シルバーは本の表紙にに書いてある作者を指差した……ワンダー・ライター。
「異世界にある本と……同じ?」
「ああ。私がね、この名前が気になったのはもう1つ理由があるんだよ。以前、帝国の皇城の図書館で……精霊に関する非業な話を本で見たんだ。その本はまるで未来を書いているようだった。本から少なからず魔力の気配も感じられた……そういう本が幾つも混じっていたので、ルーカスにはとりあえず閲覧を禁じるように言ったんだ」
……あのロイが根こそぎ見て行ったやつか。やっぱ危険な本なんじゃねえか……
「そのいくつかの本も同じ作者だったんだよ」
「ん? ちょっと待て、最初の話は異世界人が転生する前の話だよな? ここにある本といい図書館にある本といい、これはこの世界の物だろ? それが同じっておかしくないか? 偶然じゃないのか……?」
「偶然かもしれない。だが、偶然じゃない可能性も無い訳ではない……仮に、2つの世界に何らかの形で本が存在しているのか……それとも、同じ作者が2つの世界に存在する、または行き来出来るとしたら?」
うーむ、そんな人が本当にいるのか……?
シルバーを見ると気持ち悪い位ニヤニヤしていた。うわぁ……
「ふふふふふふ……もしそんな人がいるなら、良いよね。新たな研究材料だと思わないかい?」
髪の毛がふわふわ浮いていて目がギラギラ光っていた。魔力溢れてますよー、おーい。
「ま、その件については私の方でも調べてみよう。その作者がこの本を渡した人物と同じとは限らないが、何らかの関係があるかもしれないからねぇ」
「ああ……」
ドガアアアアン!!!
「――?!」
「何だ?」
急に何処かで破壊音が鳴った。
と、思った次の瞬間には部屋中のあらゆるものが宙に浮き始めた。俺達2人の身体もまるで水中にいるかのように椅子から離れる。
「これは……重力の魔法か?」
「ふむ、というか魔塔の核になる魔石がいくつか壊されてしまったかもしれないね」
シルバーが魔法陣を描くと、それが部屋全体に広がり宙に浮いていたカップや椅子が元の位置に戻った。
「時折こういう怖いもの知らずで魔塔を襲撃する者がいてね……ん? なるほどなるほど」
何か自分で納得しているが、こちらは全く分からないので説明してほしいのだが。
ひとしきり納得したシルバーがドアを開けると、そこは上下が逆になった階段だった。
「……流石の魔塔でもそんな前衛的すぎる造りにはなってない……よな?」
「こんな美的センスがどうかしている建築な訳無いだろう。どうやら魔塔の内部が完全におかしくなってしまったみたいだね。ふふ……ふふふふ」
シルバーは不気味な顔で笑っていた。
「こんなに手応えのありそうな挑戦者は久しぶりでねぇ……ふふふふふふ、せいぜい楽しませて欲しいなぁ」
その笑顔は悪役そのものだった。魔王だってそんな顔しないぞ……?
シルバーはワクワクしながら変な階段を駆け上がった。俺は仕方なくその後について行った。登りづら……




