アンデヴェロプト大陸へ至るゲートは通れない(前編)
「わぁ……ここがゲート都市」
幾つもの大きなゲートが並ぶゲート都市に馬車が着く。
馬車を降りて街中を歩くと、相変わらずここは多種多様な種族が行き交い賑やかであった。
人が多すぎる為はぐれないように手を繋いでいたのだが、ノエルたんがもみくちゃにされそうだったので抱き上げた。
道沿いのガラスにチラッと写った姿はどう見ても親子であった。娘どころか彼女すらいませんがね、俺。
「……騎士様、私……もうすぐ7歳になりますのよ……」
「うん? そうだね。今年はお誕生日が祝えなくて残念だけど。そうか〜、最初に出会ってからもう1年以上経つんだね。いつまでも小さくてかわいいノエル嬢でいてほしいなぁ」
「!?」
ノエルたんがぽこぽこ叩いてきた。ソラもガブガブと頭をかじり出した。……何故?
前回はファーゼスト大陸へのゲートへ向かったが、今回は魔法学園のあるアンデヴェロプト大陸へと向かうゲートだ。
こちらのゲート周辺は魔法使いや魔法剣士等魔法に関係がありそうな旅人が多かった。ゲートに近づくにつれ、魔鉱石や魔石、マジックポーションなどの店が増える。
ゲートの入国審査所で申請書の目的地に魔法学園と書き込んだ。
アンデヴェロプト大陸の魔塔や魔法学園、魔法都市は国では無い。住民権等は特に存在せず、魔塔がその一帯を管理しているだけである。
魔力を持つ者は誰でも住むことが出来、研究に入る事が出来るし誰でも魔法学園に入学して学ぶ事が出来る。魔法の繁栄の為には何も惜しまないのが今の魔塔の考えである。
魔法学園は学ぼうと思えばかなり高レベルな所まで学ぶ事もできるのだが、学べるのと使えるのは大きく異なる。
聖女の茜はこの世界に今のノエルたんよりもっと歳が上から入ったはずなのだが、時間を超えるという高度な魔法を身につけたなんて相当な苦労だったはず。
……魔法を使っている所は見た事無いが。
それはそれとして、ノエルたんにはここで沢山学んで立派な魔法少女になってほしいなぁ。
そんな事をぼんやりと考えながら書類を書いていると、横から男が1人顔を覗かせた。
「やあ、君じゃないか。何、君……結婚していたの?」
「……は?」
隣でいきなり話しかけてきた男は魔法使いのような目深のフードがついたローブを着ていた。手や足のあちこちから魔石の装飾が覗く。
フードから見えるその顔……アカン、全然見覚えが無い。
長い髪は濃い紫のような、先端に行くにつれてピンクがかって光っているような変な髪色をしていた。目には何か変な模様が光る。
こんな変な人、一目見れば分かるだろう……全然分からん。誰?
「ははは、誰? みたいな顔してるねぇ。うんうん。しょうがない、初対面だしねぇ」
何やコイツ……
「私は魔塔の人間だよ。君、魔塔に用があるんだろう? あ、お嬢さんはもしかして魔法学園の入学生かな?」
「はい! 私、ノエル・フォルティスと申します! ま、魔塔の方なのですね! お会い出来て光栄です!」
「うんうん。……ふーん」
変な男はノエルたんをじっと見た。お? コイツもしやロリコンか? 見るんじゃない。しっしっ。
「君は不思議な子だねぇ。それにその魔獣も。私はシルバー。頑張って魔法を学んでくれる事を期待しているよ。さ、行こう、ジェド」
そう言って書類を書き終わった俺をぐいぐいと引っ張った。何この人馴れ馴れしくてこわい……
ゲートの前へと来ると、何人も通れる位の大きな鏡のような輪の先にアンデヴェロプト大陸の景色が見えていた。このゲートが大陸と大陸の空間を結んでいるのだ。
どういう仕組みなのかはサッパリ分からないが、輪っかの1番上に付いている魔石が大陸間を結ぶ大がかりな魔法を常時発動する事を可能にしているらしい。
ノエルたんが嬉しそうに先に足を踏み入れた。ああ、走っちゃダメだよ。
と、その手を掴もうとした瞬間、ノエルたんとソラの体がふっと消えた。
「?! ノエル嬢?」
「!?」
焦ってその後を追いかけた俺とシルバーもゲートを潜った瞬間、周りの景色が消えた。
気がつくと辺り一面真っ白な空間に2人で立っていた。
「これは……一体何なんだ?」
「……ここは、狭間だねぇ」
「狭間?」
「ゲートは本来、大陸間を結ぶワープの魔法がかかった魔法石を使っているんだけど、その行先を決めているのは人工精霊なんだ。最近、聖国のゲートの人工精霊が暴走したという話は聞いたのだけど……それは過剰な力がかかったからだと分かっている。だが、このゲートには何の問題も無かったはずなのだけど、一体何故かな……」
すると、何も無い所から黒い手が生えてきた。
この手……見覚えある。聖国のゲートのヤツだ。聖国のゲートは聖気で動いていたので白だったのだが、こっちは魔法で動いているから黒いのか?
黒い手は何かをジェスチャーで訴えかけていた。
「ん? 何だ? え……? 分からん、何? 四角? 箱? 違う? 四角がどうしたんだ?」
「……もしかして空間と言いたいんじゃないかい?」
黒い手がそれそれ! みたいな感じでシルバーを指差した。全然分からない俺と違いシルバーが察してくれた。むむ、負けてられん!
「空間の……事故……蝶々……ああ精霊……人工精霊と言いたいのか? 空間の人工精霊が……」
白熱するジェスチャー。俺も頑張って解いているとシルバーが紙とペンを差し出した。
「良かったら使うかい?」
「いや、持ってるなら最初から出せよ!」
「何か楽しそうだったから言い出せなかったのだけど、流石に時間がかかりそうだったのでねぇ」
紙とペンを受け取った黒い手はすらすらと書き始めた。さっきの時間何だったん……
「なになに……空間の人工精霊が1人、暴走して女の子を拐うのを見た、何とかして欲しくて貴方達を呼び寄せた。だそうだよ」
「手だけの人工精霊に意思とかあるのか?」
「うーん……人工知能だからなぁ。芽生えないとは言い切れないけど……」
黒い手は白い空間の先を指差した。何処だか見分けが付かないが、人工精霊には見分けが付いているみたいだ。
「とにかく、ノエル嬢を助けに行こう!」
俺とシルバーは黒い手が指す方へと走り出した。
所で、コイツは結局誰なんだ……




