それは本当に夢だったのか
「ん…うう……ん?」
耳に入るは鳥の囀り、目に入るは見慣れた天井。覆いかぶさるは愛しのお布団。ここは私立グリモワール魔法学園の男子寮、その一部屋である市川一輝の部屋だった。
「…………あれ?」
自分は先程魔物になった筈では?それで東雲に殺されて……
そんなことを考えながら時計を見る。
まだ六時二十七分。
いつもなら二度寝する時間だが、気が乗らないため今日は珍しく起きることにした。
カーテンを開けると青くて綺麗な青空と、青々と茂る森が見える。
無意識に今のとても平和な時間に感謝をしていた。
「たっく……転校生のせいで変な夢を見たぜ」
彼はそう呟きながら窓を開けて嫌な空気を入れ替えようとする。
その後、身支度を始めた頃には夢の内容をうっすらと忘れ始め、制服に着替える頃にはそんなことはどうでもよくなり、朝食をとる頃にはもうすっかり忘れていた。
窓を閉める際に入ってきた虫をギャアギャア騒ぎながら退治し終えた時には何故こんなに早く起きたすらも忘れ、完全に覚えていなかった。
しかし、玄関を開けて廊下に出て、たまたま同じタイミングで出てきた少年を見て、その記憶が蘇ってきた。
「おはよう一輝」
「おう、おはよう転校生」
転校生と呼ばれた少年は一輝の方へと歩き出す。慣れない早起きでまだ少しだけ眠い一輝とは反対に、彼の方はシャキッとしていた。
丁度良かったため、二人で登校することになった。
「どうしたの?今日は珍しく早いじゃん。いつもなら遅刻ギリギリで矢坂さんに注意されてるのに」
「ふ、この俺がいつまでもあいつに叱られるだけの男と思ったら大間違いだぜ。今日は恵をあっと言わせるためにだな」
「本当は?」
「変な夢を見たせいで二度寝する気がなくなった」
「変な夢?」
「そうそう。俺が魔物になって殺される夢。なんか感覚とか物凄くリアルで嫌になったぜ」
「あー……最近みんなが見てるような感じの嫌な夢だね」
「ああ、確かにそうだな。昨日も忍がそんな夢を見たって言ってたっけ。そういえば、風槍の件はどうなったんだ?一年が繰り返してるって言っているあれ」
「それなんだけどさ、一輝、もう一回聞くけど、本当に何も感じないの?」
「……………いんや、なんとも」
彼らが今後どのように生きて、どのような結末を迎えるのか……
それは誰にもわからない
彼らと魔物の戦いは続いていく。
これは、転校生君の男友達である市川一輝の物語。