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掌編

クリニック

作者: 土井留ポウ

スマホやパソコンの液晶画面を長時間見ていると目に良い影響を与えませんがこの作品はあなたの目に優しい効果をもたらします。

 勃起不全を深刻に悩み、私は藁にも縋る思いでクリニックを訪れたのだ。


 血色の良い、年の割に髪の毛がフサフサな、それでも明らかに喜寿は迎えていそうな先生は、私の悩みを、それこそ私が恥じらうほどの親身な眼差しで相談に乗ってくれるのだった。


「本当に先生の若さの秘訣は何なんだ……」


 ぬばたまの、を枕詞に、艶ぞ眩しき黒髪の充実したる暮らしぶりはうらやまし……。ふっとそんな大時代な詠嘆が私の口から思わず出そうになる。


「やはりその基本は食生活だね。肉だよ。これに限る。がっつくことだ。何でも血を滴らせながらかぶりつくような態度を取っていくことが第一の要諦なんだよ」


 先生は症状を突き止め対処法を考えるという、反復を要し、時に無駄の多い、このような方法論は採らないようだ。基本がしっかりしておられる。すでに結論は決まっているのだろう。まさに眼を瞑りながらも確実にものの急所を掴む、そんな揺るぎない確信に裏打ちされているのが感じられた。


 その時である。先生のデスクの引き出しが独りでに動き始めたのは。見えない手が取っ手を掴みグリグリと盲滅法に揺さぶっているような、あたかも泥棒が鍵の掛かったそれを力任せにこじ開けようとするような、あまりにも突然の怪現象である。


「何だ!これは!」


 私は思わず叫んだ。しかし先生は落ち着いたものだった。その狂気じみた引き出しに手を伸ばし、ふんっ、と息を吐きながらその引き出しを開けたのである。


「ポルターガイストだ。時々出るんだここは。以前ここは心の病を治療するブレインホスピタルだったらしいが、お化けになったやつがいるんだな」

 引き出しの中には何の変哲も無い書類などが入っているっきりだった。


「まじっすか!」

 全くなんて先生だ。こんな超常現象が起こりながらも動じる気配も見せず、落ち着いて職務を行っているのか。


 すると次は後ろのロッカーが独りでに動き始めた。けたたましい音を立て、左右にグラグラと揺すぶられている。どこからともなくこんな悲痛な叫びがこだましている。


『開けてくれ……開けてくれ……僕をここから出してくれ……!』


 先生はおもむろに椅子から立ち上がると、そのロッカーを開けた。勿論、何の変哲も無いロッカーだ。先生の私服らしい赤いタキシードが掛けられてある。


「見ての通り聞いての通りさ。以前のブレインホスピタルで何があったのか知らないが、彼はその病院が潰れた後も、こうしてここから逃れようとしているんだ。ここは勃起不全に特化した専門クリニックなんだがねえ」

  

 先生はふうと溜め息を吐いて首を振った。

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