実香音
次の日。
何となくいつもよりも早く家を出た。下駄箱で靴を履き替え、クラスに行き、自分の席に着く。
昨日途中までしか読めなかった本を開き、読もうとすると、
「おーはよっ、蒼!」
と声が掛かった。
あ、そういえば、自己紹介まだだったね。
私、天野 蒼っていうんだ。
県立碧山風高等学校1年F組、図書委員会且つ文芸部に所属のいわゆる陰キャ……なのだと自分では思っている。
つまり、今呼ばれたのは私。
呼ばれた方を向くと、親友の実香音が手を振りながら近寄ってきていた。
実香音とは中学校が一緒で、その頃からの付き合い。
実香音は吹奏楽部でトランペットを吹いている。
トランペットを吹いている実香音はとっても格好良くて、聴いているこっちまで笑顔になるような音を奏でてくれるんだ。
「実香音、おはよ」
「今日早いじゃん。何かあったの?」
「いや、別に、何となく」
「ふーん、そっか。あ、やば、今日物理レポート提出じゃん!蒼、見してー!お願い!」
「はいはい。もう、ちゃんと自分でやんなきゃ駄目だよ?」
「わかってるよー……でも昨日眠くなっちゃってさ〜」
「もう……」
「そういえば昨日、吹部でさー……」
実香音の話を聞きながら、ふと昨日の男の子に思いを馳せる。
また明日ねって言ってたけど本当に今日も来てくれるかな?
ただの社交辞令だったり……
でも、本は借りていってくれたから、本を返しに来ることはあるはず。
それに、あの子だから多分今日も来てくれるよね!
「蒼ー?聞いてるー??」
「え、あぁ、うん!」
「本当ー?ずっと上の空だったけど??ま、いっか。そろそろ予鈴鳴るから席戻るね〜」
言われて時計を見ると、確かにもうすぐ予鈴が鳴る時間だ。
「うん、じゃあまたあとでー!」
「はーい」