第7話 属性と適性
「さて……本来ならば、次の説明をするために応接室に移ってもらうつもりだったのだが、人数が人数なのでな。狭すぎる故、道具を持ってこさせこのままここで行うとしよう」
歓声が落ち着き国王がそう言うと、数人の兵士とローブの者達が観衆から離れ、脇にある別の扉から出ていく。まあ、想定してなかったっていうならそうなるか。
「国王様」
「む?」
そんな時、国王を呼ぶ者がいた。声の主は先程のあの執事だったのだが、その顔からは先程のような不気味な印象は伝わってこない。会話の対象が俺達ではなく上司にあたる国王だからだろう。
「恐れながら、準備が整うまでに我々の紹介をさせていただきたく存じます。私のような各部門の筆頭たる立場の者達は、必然的に勇者様方と接する機会が多くなるかと愚考したもので」
「ふむ、そうだな。では四人共、今のうちに自己紹介を済ませておけ」
「「「「はっ」」」」
国王がそう言うと、観衆の中から四人が前に進み出た。執事の男に、メイド服を着込んだ女、金色のローブをまとった男に、頭部以外全身を鎧で包んだ男。成る程、筆頭と言うだけあって全員長年職務をこなしてきた貫禄が感じられる。
そして、俺達から見て左端の者から順番に紹介が始まった。まとめるとこんな感じ。
〈ガラン・ディートハルト〉
国王の専属執事兼この城の執事筆頭。身長百七十前後、白髪混じりの黒髪で見た目は六十歳前後。俺達を見るときは相変わらず例の嫌な感じがするが、危害を加えてくるわけじゃないし放っておくのが一番だろう。
〈レミール・ベネット〉
この城のメイド長。身長百六十五前後、茶髪で見た目は六十歳前後。部下のメイド達やガランの部下である執事達と共に勇者達の身の回りの世話をするということで、是非とも挨拶せねば、と思ったとか。
〈ジキル・オートレール〉
この国の魔法師団長。ローブ男。身長百八十前後、赤茶色の髪で見た目は四十三歳前後。平均的な体つきをしており、階段を挟む兵士達と違い肉弾戦はあまり出来そうにない。勇者達の魔法面での教育係。
〈カストロ・ライナー〉
この国の騎士団長。鎧男。身長百七十五前後、金色の髪に同じく金色の髭を携え、見た目は五十歳前後。鎧のせいで体のラインは見えないが、雰囲気から常日頃体を鍛えていることが伝わってくる。勇者達の武術面での教育係。
ーー以上。身長に関しては俺自身が百七十前後のため、そこから割り出したもの。正確な値は分からない。
ちなみに、他の観衆達は自己紹介の間に退出していた。勇者と話したがっていた者もいたが、「色々説明すべきことがあるから、そういった個人的なことは後日にしてくれ」という国王のひと言にみなすごすごと退散していった。
そうこうしている間に脇の扉が開かれ、先程出ていった兵士達が道具を運びながら戻ってきた。あれは水晶と……え、黒板?
兵士達が数人がかりで運んできたのは、学校の教室の前方に大抵ある緑色のアレだった。黒板の歴史なぞ知らんが、本格的なものが出来たのって千八百年とかじゃなかったっけ?
中世風の城に本格的な黒板か……何かアンバランスだな。ホワイトボードや電子黒板が出てくるよりずっとマシだけど。
「さてと」とジキルが進み出て、黒板の前に立つ。
「では、魔法師団長である私がこの世界の魔法について説明させていただきます。いくら勇者様方と言えど、魔法を使えなければ魔物達とまともには戦えませんからね……」
そして、チョークのようなものを手に取り、黒板に文字をーーと思ったら、謎の記号を書いていく。
「すみません、一つ良いですか」
と、そこで佐々木から質問が入った。
「はい、何でしょう?」
「折角板書をしていただくところ悪いのですが、もしかしてこの世界で使われている文字は僕達の世界の文字と違うのではないですか? そのような文字は見たことが無くて……。もしそうだとしたら、板書をしていただいても、僕達には読むことが出来ないのではないか、と」
そう。書いてもらったところで、言語の違いで読めなければ全くもって意味は無い……はずなのだが……。
ここで少し疑問に思う。国王の説明の時に見せてもらった世界地図、今思えば、あれには今黒板に書いてあるのと似たような記号の羅列が書いてあった。だが、それを俺は普通に『イニティム大陸』やら『キュレム王国』やらと読めていたのだ。
あまりに自然だったので、俺もその違和感に気付けなかった。これは一体……?
佐々木の問いに対し、「ああ、それですか」とジキルは特に問題が無いように軽く返事をする。
「確かに、この世界と勇者様方の世界の文字……どころか、そもそも言語そのものが違うようでして……。しかし召喚者との間では何故か通じるようで、一説には召喚時に双方の世界の者に双方の言語を理解する機能が備わるのでは、と言われています」
そう言いながらジキルは文字の続きを書く。四つの文字らしきものを書き終えたところで、俺達の目にはそれが『魔法』と読めるようになった。
ジキル曰く、この世界の言語は英語のように文字をいくつか組み合わせて一つの意味を表すらしい。今回の場合、四つ目の文字を書き終えるまでこの文字列は魔法という意味を持たない。なので、途中段階では上手く翻訳されなかったというわけだ。
謎が解けてスッキリすると共に、言語が理解出来ることへの安心感が生まれた。これでもしダメだったらいきなり詰んでたところだ。
情報を得るために書物を読もうとすれば、まず言語を覚えなければいけない。しかし俺達にそんなことを悠長にやっている暇は無く、ならば文の意味を一つ一つ誰かに聞かなければならない。非効率にも程があるし、そんなことでわざわざ他人を頼るなどしたくはない。この機能があってホントに良かったと思う。
召喚魔法の性質なのか、それとも誰かの手による意図的なものなのかは分からないが……ともかく、この機能が生まれた要因に感謝しなければならないな。
「それでは、改めて説明を始めさせていただきますね」
とジキルは言い、『魔法』と書いたその横に、六列に分けて文字を書いていく。
魔法には六つの属性が存在する。即ち、火・水・風・土・治癒・精霊。この前四つに関しては基本属性と呼ばれ、後二つは特殊属性と呼ばれている。魔法を使う際、魔力を用いてこのいずれかを使用するわけだが、このどれもを好き勝手に扱えるというわけではない。
人間のみならず、あらゆる生物には自分にあった属性ーーいわゆる適性属性が存在する。これは生まれつき決まっているものであり、後から新しく別の適性属性を発現することはない。
そして、魔法は基本的に自らの適性に合った属性のものしか上手く使えない。特に、特殊属性に関しては適性を持っていなければ全く扱う事は出来ない。
適性外の基本属性の魔法は、特殊属性と違い全く使えないわけではないが……集中力も魔力も余計に必要な上発動した魔法も本来のものとは性能として大きな開きがある。結果として、適性属性以外の属性の魔法を使いこなせる者は滅多にいない。
一応の例外として、さっき国王が言っていた魔法陣魔法という描いた陣の内容を発現させるものは存在するのだが、主に生活に役立つものなので戦闘には活用しにくい。なので、現段階では説明を省くとのこと。
まず属性の内容に関してだが、基本属性四つは実に単純。その名前のものを魔力によって生み出し操ることが出来る。それに対し特殊属性二つは、基本属性とは異なり直接何かを生み出すものではない。
一つ目の治癒属性とは、名の通り対象の傷を癒したり解毒したりする効果を持っている。原理としては、自らの魔力によって対象の生命力を活性化させ怪我や病気を強制的に治したり、魔力を使って毒を無害化するとかそういうことらしい。
人間全体を見てもその数はそこまで多いわけではなく、性質的にもかなり重宝するものなので、例えどんな生まれだろうと持っている事が分かれば基本大切に扱われるらしい。そして育った後は、大抵は治癒院という現代でいう病院のような施設で働くことになるとか。
もう一方の精霊属性に関してはこれまた特別。この世界には基本属性の四つをそれぞれ司る精霊が見えないだけで数多く存在し、精霊属性とは自らの魔力を用いて精霊を見、また意思を交わす力を持つ。
そして自らを認めた精霊と契約を交わし、魔法を使用する際は契約精霊に魔力を渡し代わりに魔法を使ってもらうという方式。この事から、精霊属性持ちは精霊使いという名前で呼ばれることもある。
肝心の性能だが、属性の根源たる精霊の魔法は凄まじく、基本属性の魔法とは格が違うとか。例えば火の魔法だが、基本属性の場合生み出した炎を集め、それを撃ち出して攻撃するのが主流。
それに対し、精霊魔法の場合本気を出さずとも周囲をまとめて焼き払うことが可能。要はそれくらいの差がある。
実のところこのジキルも精霊属性であり、その影響で十年前まだ二十八歳という若さにも関わらず魔法師団長という大役に抜擢されたらしく、そして今に至るという。それだけ精霊魔法が強力だと認められている証拠だ。
ただし、そんな精霊属性にも問題点はある。すなわち「精霊と契約を交わすまでは属性魔法が使えないただの無能」というのと、「その力故精霊属性であることを無闇に明かすとその身を狙われることが多い」ということ。
この二つの問題点より、多くの者は例え精霊属性であっても、基本属性のいずれかと偽ったり属性そのものを明かさないなどして乗りきっているらしい。まあそもそもの数が全ての属性を通して圧倒的に少ないので、能動的に探そうという者も少ないらしいが。
次に適性について。生まれつき持っている適性属性の種類は人によって異なるが、実はその数も人によって異なる。
大抵の者は一つしか授からないが、二つ授かる者も中にはいて、その者は一般的に二属性者と呼ばれる。精霊属性に比べれば鼻で笑うレベルだが、それでも特別視される場合は多い。更にそれ以上、三つ授かる三属性者や四つ授かる四属性者も一応は存在するらしい。
ただ、三属性者は現在六大陸に一人ずつ、つまり世界に六人しか存在せず、四属性者に至っては二百年程前、最初の勇者召喚がなされるより前の時代に存在したっきり生まれていないのだという。流石にここまでになると精霊属性よりも割合は下回るので、漏れなく特別視されるそうな。
そして、召喚された勇者が強大だとされる最大の理由こそがこの適性にある。記録によると、過去の勇者相手に魔法の測定を行ったところ、その大半が二属性者であり中には三属性者もいたらしい。存在する確率が低い奴らがまとめて現れるんだから、そりゃまあ特別扱いされるだろうな。
また、体に蓄えられる魔力の最大量ーー基礎魔力量においてもこの世界の者よりも遥かに多く、例え属性が一つしか無くとも強大な力を誇ったとされているとか。この基礎魔力量が多い理由についてははっきりしていないが、召喚の際に使われた膨大な魔力の影響という説が一番有力ではある。
そんなこんなで魔法についての説明は終わった。色々気になることはあるが……まあそこら辺は自分で調べれば良いか。




