第38話 ハーフの宿命
「……確かにワケが分からん。何だその無茶苦茶な能力」
「たった一発で地形を変えるって……最早凄いとかそういうレベルじゃないような」
「まあ信じられないとは思うが、全てこの目で見た事実なんだ。他に言いようも無いし、これくらいの説明で許してほしい」
「ああ、別にあんたを疑っているわけじゃない。が……その、何だ。サーシャよ、今まで度々すまんかった。俺に色んな事を言われる度に、お前は毎度こんな気持ちになってたんだな。現実味が無くて信じたくとも中々に信じられん」
「ようやっと分かってくれましたか……」
「うん。同じ立場になってやっとな」
風を巻き起こし周囲を破壊する能力。サーシャからそう聞いてはいたが、概要だけ説明されるのと実体験を交えて語られるのとではまるで印象が違ってくる。
以前クルツに風の精霊使いの話を聞いた事がある。そいつが起こしたという現象の規模を考えれば、大量の風の精霊と契約し同時に魔法を使えば同じ被害を出せるかもしれない。だから、別に再現出来ないというわけではない。
……しかし、つまりはそういうレベルなのだ。属性魔法の中で最強と言われている精霊魔法が下位的な意味での比較対象に持ち出される、これがどういうことなのか分からない奴はこの世界にはおるまい。
確かに俺が持つ能力生成もかなりのチート能力だし、それで作った他の能力も大概だとは思うが、話の通りならダグダの能力はそれと比べても更にケタが違ってくる。既存の能力など相手にもならないし、俺やクロト達が死物狂いで倒したヒュドラですらワンパンで終わるんじゃないだろうか。
しかも、修練を積んだ結果でそうなったのならまだしも、ダグダは初回でいきなりその規模の破壊を引き起こしたのだ。もし能力を鍛え上げ自在に使いこなせていたのなら、一体どれほどの力を誇ったのかだろうか。
いやまあ、もしそれが出来てれば周囲を巻き込む事も無く、襲撃者達に対しても普通に使えてたんだろうけど。初回に比べたらある程度使い勝手は分かっていたものの、ろくに制御することも出来なかったからこそ、結局最後はーー
「……ん? あれ?」
「どうしたんですか? シュウヤさん」
「いや、その……どうしてダグダはその時「いけるかもしれない」なんて言ったんだ? 今まで使った事も無い能力なのに、そんな事分かるはず無いだろ」
さっきからどこか引っ掛かっていたのだが、正体はこれか。魔物達に身一つで抗い、リディと共に死ぬ覚悟をしていたということは、能力の存在を事前に知っていたわけは無い。つまりはその場で覚醒したということなのだが……それはそれでおかしなことになる。
「いけるかもしれない」というのは、少なくともその能力がどういったものでどれくらいの性能を持つのかを正確に知っていてこそ言えるセリフなのだ。しかし、目覚めたばかりで検証も満足に出来ていないものに対し、そんな感想を抱けるはずは無い。突如現れた見知らぬものを希望だと思い込むパターンも無くは無いが、二人の話を聞く限りじゃダグダはそういった性格の男じゃあないしな。
俺みたく鑑定能力があれば話は別なのだが、結局最後まで良く分からないと口にしていた以上その線は消える。他の奴相手ならまだしも、俺とは違って二人には概要は話してたわけだし、性能の詳細を知っているのにわざわざ隠す理由が無い。
「僕から離れると危ない」というのだってそう。逆に言えばダグダの側にいれば安全という意味なのだが、良く分からない現象がいきなり目の前で起きているのに、何故自分は巻き込まれないという確証を持てていたのか?そこらの魔法ですら使い方を誤れば自分にも被害は及ぶわけだし、ましてや地形を変える程の力を持つその能力、使用者ですら無事でいられるという保証は無いはずだ。
そもそも、その短時間でどうやって自分がそれを操っているという事が分かったのか。そういった感覚があったのかもしれないが、今まで見たことも無い上に既存の魔法とはかけ離れた現象が起きているのだから、勘違いと済ましていてもおかしくはない。制御が効かないらしいから、細かい調整をして確かめたわけでもあるまい。
初めて見る現象で、鑑定も出来ず正体は全くの不明。しかし自分がやっているということと大丈夫という確信だけは何故かある。ダグダの性格からすると、これらのことは明らかに矛盾しているのだ。
「あー……そのことか」
「何か知ってるのか?」
「一応ね。能力が発現した時、あの人が苦しんでたって言っただろう?」
「そうだな。使用においての副作用か何かだと解釈してたんだが……」
「そいつは違うよ。現にその後使った際に、同じことは全くもって起きなかったらしい。使用後魔力切れと同様の症状が起きるのは変わらなかったみたいだけどね。……あ、ごめん。話一旦逸れるけど、その事について何か心当たりは無いかい?」
「症状の正体についてか? それなら魔力切れであっても別におかしくはないと思う。勿論既存の魔法とは全く別のもんだろうが、魔法じゃなくとも魔力を使う能力はあるらしいしな」
俺が持つ鑑定眼が良い例である。最近になって知ったのだが、実はあれ微妙に魔力を消費してるらしい。割合的には自然回復速度に対して消費量は数パーセント位なもんだから、そんなに大きなものってわけじゃないけども。
……いやまあ、だからこそ気付けなかったんだけどね。体力は自然回復と釣り合ってるからすぐに分かるけど、魔力に関しちゃほんの僅かのそのまた僅かに回復が遅くなる程度なんだもの。そりゃ気付かんわ。
初期の頃は違和感すら感じなかったから調べようともしなかったが、最近異能も増えてきたし試しにやってみようと思い立ち、何もしない時と各異能使用中の魔力回復速度を比べるというのを何度も何度もやってみた。そして、その末にこの結論が出たというわけだ。ちなみに他の異能は魔力とは無関係らしい。
勿論異能に関しての文面を疑っていたわけではないのだが、これで魔力を消費する異能が現在も存在するというのが証明されたわけだ。ならば、魔法のように使用時に大量に魔力を食う能力があっても不思議じゃない。
「そうか。分かった、ありがとう」
「いや、悪いが確証は無いぞ? その能力特有の症状かもしれないし」
「それでも良いさ。少しでもあの力の正体を知れた気がするしね。それで……ああ、苦しんだ原因についてか。後から詳しく思い出す事は出来なかったんだけど、能力発現の直前に何か変なものが大量に見えたらしいんだ」
「内容は思い出せないのに、見た事自体は覚えてたのか? 何か変な話だな」
「全くだね。まあ目塞いでも止まらなかったから、見えたってのも正確にはちょっと違うんだけども。否応なしに頭に直接叩き込まれたって言った方が正しいかな」
「要は頭がパンクしてたってことか。痛みに耐えきれず崩れ落ちたってことは、それだけの量と内容だったってこと……ダグダは一体何を見たのかね。思い出せなかったってのが本当に残念でならん」
思わず肩を落としため息をついてしまう。能力の正体に深く関係する可能性が高いし、少なくとも絶対に重要な事というのだけは分かる。うーむ、あと一歩のところなんだがなぁ。
「答えられなくてすまないね。勿論私だって知りたかったんだが、目覚めた時には既に殆ど思い出せなくなっていた。言い訳みたいになるが、倒れる前に聞くことなんて出来なかったし、私にもどうすることも出来なかったんだ」
「いや、気にしないでくれ。……だが一応確認しておきたい。話の流れからして、ダグダの言葉とそこで見た何かは関係があるって思って良いんだよな?」
「間違いないと思うよ。それまで感覚すら無かったものが、それ以降時と場所を選ぶとはいえ普通に使えるようになった。てことは、その時に能力の概要や自分が引き起こしてるものだってことを知ったはずだし、それなら大丈夫かどうかは判断出来るからね」
「それさえ聞ければ十分だ。ありがとな」
もどかしいが仕方無いか。想像に過ぎないが、思い出せなくなったってのは至極当然のことではないかと俺は判断している。
処理容量を遥かに超え、正常な活動をも阻害してしまうほどの膨大な何か、そんなもんをいつまでも残しておけるわけが無い。恐らく意識を失ってる間に脳が危険と判断して勝手に消しちまったんだろう。ならば、誰であろうとダグダを責める事は出来まい。
「良いってことよ。ちなみにシュウヤさんはそういったことは無かったのかい?」
「特に覚えは無いな。最初から無かったのか、それともあったはあったけどずっと昔で忘れてるだけか。俺にも詳しい事は分からんが、系統が全くもって違う以上前者の可能性が高い。……すまん、こっちには手がかりは何も無い」
「それこそ気にしてないよ。反応からして何となく予想はしてたしね」
「そう言ってくれるとありがたい」
結局特に共通点は無かったか……。むしろ詳細を知った事で更に差が広がってしまった気すらしてしまう。まあ、それでも重要な事だから聞けて良かったけどな。
「さて、これで能力に関しての話は終わりだ。何か他に聞いておきたい事とかは無いかい?」
「そうだな……じゃあ一つだけ。さっきの話の中にあった、若い頃のアンタの性格がキツかったワケってのは何なんだ?」
「ああ、そんなことかい。……ほら、私は獣人だからね。小さい頃から周りの人族に蔑まれたり苛められたりしてたのさ。この世界に来てそんな経ってないアンタでも、それくらいの事は知ってるだろう?」
「……ある程度はな」
クセのある黒髪を持つリディ。その頭頂部付近からはいわゆるケモミミが、また腰からは髪と同じく黒色かつフサフサの毛で覆われた尻尾が生えている。彼女は黒狼族という狼人族の内の一つの種族に属する、れっきとした獣人族である。
身体能力と五感において優れた性能を持つ存在である獣人族。五種族の内全体数は人族に次いで多く、世界にも広く分布はしているが、同時に人族からの差別が最も激しい種族でもある。
その程度は国ごと地域ごとに分かれており、勿論種族関係無く皆仲良く暮らしているところはあるが、人族絶対主義を貫き他の種族イコール奴隷として扱うべき存在だと考えている国もある。ここキュレム王国はどちらかと言えば後者に近い。
実際街中でも獣人はいるものの、常に周囲から厳しい視線を向けられており、獣人は獣人で固まって日々生活しているように見えた。リディがその被害を受けていないはずもなく、今の僅かな言葉と表情だけで幼少期どれだけ苦労していたのかというのは容易に窺える。まあ俺やダグダのような無属性はそれより更に差別されているが、その話は今は置いておこう。
とは言え、獣人は身体能力や五感が人族に比べ優れているため、戦力的には結構重宝されている。この国のように魔族や魔物の被害が大きい魔郡帯の近くの国々では、差別だなんだと言って貴重な戦力を減らすわけにもいかず、蔑んではいても追い出したり奴隷化したりすることは殆ど無い。奴隷に必須な隷属の首輪を付けるとまず戦えなくなっちまうからな。
リディが今尚一応平和に暮らせているのも、恐らくはその面が大きいんだろう。あくまで命の危険にまでは脅かされないってだけで、それ以外は何だってされるんだろうけど……。
「その上父親は早死にして母親は城勤め、獣人はこの国じゃ城にゃ勤められないから、小さい頃から一人で生きていかざるを得なかった。味方もいなくて常に周りにキツく当たってないとまともに生きていけなかったし、気付いたらそれが染み付いて性格が固定されてたのさ」
アカン。別に軽い気持ちで聞いたわけではなかったが、理由が予想以上に重かった。ちょっと触れてはいけない部分だったかもしれない。
「……すまん、何か聞いてはいけない事を聞いてしまった気がする」
「構わんよ。獣人として生まれたからこそ身体能力が高くて、あの人とも相棒の関係になれたっていうのもあるだろうし。……まあでも、そのせいでこの子には苦労をかけちゃってるけども」
そう言ってリディはサーシャに目を向ける。その瞳には言葉の通り、これ以上無いほどの申し訳なさや罪悪感が浮かんでいた。
この間の夜話した時、サーシャの置かれている立場に俺も目を見開いたものだ。……いつも笑顔を振りまいてるサーシャが、まさか裏では日常的に酷いいじめにあっている、なんてな。
他種族同士が婚姻し子供を作った場合、その子供の種族はどうなるのか。これについては、別にそれぞれの種族の特徴を両方持った新たな種族が生まれるわけではなく、どちらか一方の種族のみが選ばれその特徴を持って生まれてくる。だからこそ、サーシャは人族であるダグダと獣人であるリディとの間で人族として生まれたのである。
そしてこの際どっちが選ばれるのかは、基本的には半々の確率なのではないかと言われている。サーシャとは異なりリディが獣人である父と人族であるレミールとの間で獣人として生まれたのが例として挙げられるが、これはあくまで適当な説であり、きちんと統計を取って導き出した結論というわけでは無い。そもそもの話、他種族同士の間で子供が生まれるということ自体がまず稀なパターンなのだ。
理由としては主に二つ。一つ目は、同種族に比べ他種族間だと何故か子供が生まれにくいということ。これについて理由は定かでは無いが、俺が思うに恐らくは遺伝子が上手く噛み合わないとかそういうことなんだろう。
二つ目は、これは人族に限った話ではあるのだが、他種族と婚姻した場合周囲から厳しい視線を向けられる事になる場合があるから。他種族を差別する人族の奴らにとって、逆に他種族と深い関係にある人族の奴らは、差別まではいかなくとも同じ人族とは見なくなる事が多い。
五種族に分かれる人間の中で、最も数が多い人族。そんな奴らが他種族との婚姻を避けるもんだから、結果として全体的な割合は僅かなものとなる、というわけ。
記録によると、獣人と婚姻したが故に強制的に村を追い出された事例もあるそうだ。獣人を差別するこの国で、かつて獣人を夫に持っていたレミールがメイド長として働いているというのは、実はかなり例外中の例外なのである。感情よりも仕事や実力を重視する国王らしいな。
婚姻しただけでそんな目に会う。ましてやその子供ともなれば、少なからず被害を受けてもおかしくない。獣人を嫌う奴らからしたら獣人の血は穢れた血であり、子供という事はたとえ人族であってもそれを引いているということなのだから。
サーシャの母が獣人であると知った時、「もしやこいつもか? そんな素振り全く見せないけど、ダグダの事があるわけだしな」と思って聞いてみたところ、結果は予想通り。同僚のメイド達に陰口を叩かれるなど最早日課レベルであり、悪質な悪戯をされる事もしょっちゅうだという。しかもこいつは無属性の子供でもあるから、それも上乗せされて被害は更に増大している。
いくら助けるためとはいえ、レミールもとんだ職場にこいつを連れ込んだもんだ。他に方法も無かったわけだから仕方無くはあるけど、一人も味方がいない中でそれでも頑張り続けたサーシャは本当に良くやったと思う。俺と違って当時のこいつってまだ九歳のガキだったわけだし。
「お母さん……その話はもう止めにしようって言ったじゃない」
「そうは言ってもねぇ……」
「良いの。ほら、昼間にも色々言ったでしょ。私はもう大丈夫、だから安心して。ね?」
「……そうだね、本人がそこまで言ってるのに続けるわけにもいかないか。分かった、もう口にはしないよ」
「うん、お願いね。……んっ、ふあ……」
そうして話が一旦途切れたところで、サーシャの口からは大きな欠伸が出た。時刻はとうに午後九時を過ぎており、普段ならもう寝ていてもおかしくない時間、眠くなるのも仕方の無い事だろう。
「おっと、もうこんな時間かい。サーシャ、そろそろ風呂に入っといで」
「はーい」
パタパタと駆けていくその後ろ姿を見送り、さてどうしようかと悩んでいると、「ところでシュウヤさん」と声をかけられた。振り替えると、リディは何やらキッチンの棚をゴソゴソと弄っている。
「もう成人はしてるだろう? 良かったら一杯付き合っちゃくれないかい? まだ色々と話したい事もあってね」
「酒か? 生憎一度も飲んだ事は無いが……」
「おや、そうなのか。だったら止めにしといた方が良いかな」
「いや、構わんぞ。あくまで「それでも構わないか?」っていう確認だ。やりたいっていうならいくらでも付き合うぞ」
「そうかい。なら、是非ともお願いしようかな」
酔いだって立派な状態異常。いくらアルコールを体に取り入れようが、状態異常耐性の効力で無効化出来るので、変に迷惑をかけるような事は無い。
それに元の世界と違って、この世界じゃ成人は十五歳だからな。法的な意味で言っても何の問題も起こらないわけだ。
……味の問題は大いにあるけど、そこら辺は考えないようにしておこう。爺ちゃん達にも将来的にはある程度飲めるようになっておけって言われてるし、これも一つの経験として今のうちに慣れておくのも悪くは無い。酒を酌み交わせば心も開きやすくなるってどっかで聞いた事あるし、リディとしてもそっちの方が気楽で良いだろう。
「そんじゃ、少し場所を移そうか。付いてきてくれ」
「了解だ」
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