第37話 相棒に眠る物
またも更新止まっていて申し訳ありません。理由の詳細は活動報告に記載してあります。
話の流れを良くするために、前話のラストにあったセリフの一部を今話に移しました。二話連続で同じ流れを繰り返しているわけではないのでご安心下さい。
駆け出したその勢いのまま魔石を投擲し、突如発生した炎により少しの間魔物達の足が止まった。その隙をついて投げナイフを放ち魔物達の目を撃ち抜き、視界を奪った魔物から順に剣で切り裂いていく。
「ガギャアッ!?」
「ルォォオオオオ!!!」
魔物達の苦悶の叫びが次々に響き渡り、その数秒後にそれぞれの声は止み地面へと倒れ伏す。無属性ながらも長年冒険者としてやってきた身、そう簡単に捕らえられるはずはなく、流れるような動きで攻撃を加えていった。
だが、勿論そんな程度の事で戦況が大きく動くわけもない。相手が数十体程度ならまだしも、今や集まってきた魔物の数は強弱問わず二百はおり、最早個人の力でどうにかなるものではない。
精霊使いならまだしも彼は無属性、ナイフは回収出来ても魔石の数には限りがあるし、時間が経過する毎に攻撃の手段は限られてくる。体力だって人一倍あるとは言っても無限ではなく、いつまでも戦い続けられるわけはない。身体強化は相対する者に合わせてオンオフを繰り返すことで、ある程度は魔力を温存出来ているようだが、果たしてどこまで持つのだろうか。
そもそもの話、彼が得意としているのは罠や仕掛けを用いた知略タイプの戦闘であり、私のように正面切って戦う事は殆ど無い。勿論出来ないわけではないが、その道の者に比べて技量はかなり劣ると言っても良い。今のように何の準備も無い状態で突っ込んだところで、結果は目に見えているだろうに……。
「ぐ……ぅ……っ!」
少しでも戦力は増やさなければならない、ならばこんなところでうずくまっているわけにはいかない。それは分かっている。
しかし、立ち上がろうとする度に激痛が走り結局木にもたれ続けてしまう。今や体のあちこちに赤黒い腫れが出来ているところから、全身の骨が大分逝っているのは明白であり、剣など到底振るえるとは思えない。
武器が駄目なら魔法を使うしかないのだが、痛みにより集中力が削がれている今は満足に使うことなど出来ない。もし叶ったとしても二発三発が限界といったところで、戦力になるどころか無駄にヘイトを集めるのが精々だろう。せっかく彼が魔物達のヘイトを全て引き受けて私の方に来ないようにしてくれているのに、そうなってはまるで意味が無い。
痛みを堪えて戦いに参加したところで、私は足手まといにしかならない。相棒が必死で戦っているというのに私は何も出来ない……そんな状況が情けなくて仕方無かった。
「がふっ!」
「ダグダ!?」
「ケホッ、ケホッ……。大丈夫、心配しないで。まだやれるっ……!」
悔しさから唇を噛んでいると、魔物の攻撃によって彼がちょうど私の方向に吹き飛ばされるのが目に入った。何とか受け身を取り、彼は私に声をかけつつ笑顔を見せ、再び魔物へと向かっていく。
私を安心させようとしてくれているのだろう。しかしながら、それが強がりということは分かりきっていた。
初期の頃常に無表情だった彼は、月日が流れる内に段々と感情を見せてくれるようになり、最近では笑顔も見ることが出来るようになった。だからこそ、言っちゃ悪いが今の笑顔は偽物だと断言出来る。伊達に何年も相棒などやっていない。
それに、今の彼の動きには僅かだがふらつきが見え、そう長くは戦えない事が窺える。地面にはかなりの数の魔物の死体が転がっており、たった一人で大分数を減らしたということが分かるが、それはほぼ全てがDランクやEランクの魔物。BランクやCランクの魔物は殆どがまだ残っており、状況が好転しているわけでは無かった。
強敵はまだまだ残っているのに、自分は刻一刻と限界に近付いている。そんな状況で、本心から大丈夫と言える程彼は日和ってはいない。
……だが、ここまではまだマシだったのだという事を私達は知ることになる。二百の魔物に追われるなどほんの序ノ口、本当の地獄はここから始まるのであった。
「キュォォォォオオオオオオオンンンンンンン!!!」
私達と対峙する魔物が放った叫び声。それは一見、何てことないただの咆哮だった。広範囲に響き渡る程の爆音故一般人ならひとたまりも無いだろうが、魔物の中にはこんな風に大きく吼える奴らも多いし、こんな程度で私達が怯んだりすることは無かった。
そう……確かに怯む事は無い。しかし、私はその声に何か妙なものを感じた。
大きさでも無ければ質でも無い。そもそも言葉で上手く説明は出来ないのだが、こんな感覚今まで一度も味わった事は無い。どこか不気味で、何故か背筋が寒くなってくる。
ダグダに特に変化は見られないが、それでも全くもって油断することは出来ない。獣人である私は人族である彼よりも直感的な意味での感覚が優れており、今までも私しか感知出来なかったものはいくつかあった故、今回もそのパターンなのかと思ったからだ。そして時が経ち、この推測は現実のものとなる。
「え…………」
私達が今いるところは、地形的に少し高台のような場所となっており、低地をある程度は見渡す事が出来ていた。その内の一画に何やら動く物を捉え、目を凝らして良く見てみると……こちらに向かってくる多数の魔物の姿がそこにはあった。慌てて見回してみると、少し遅れて様々な方向から大量の魔物が現れていく。
流石にこれには彼も気付いたらしく、明らかに動きに焦りが感じられる。しばらく戦い続け一旦後退した頃には、新たに出現した魔物達はすぐそこまで迫っており、全方位から囲まれ逃げ場はどこにも無くなっていた。彼の顔もいつになく苦々しく歪んでいる。
「あー、マジか。さっきの咆哮は他の魔物を呼ぶものだったってことね。ただでさえキツいっていうのに、これはちょっとなぁ……」
「ちょっとどころじゃないでしょ……だから早く逃げてって言ったのに!」
「いや、さっきも言ったけどーー」
「そう簡単に見捨てないっていうのは嬉しいよ。でも、私はあなたには逃げて欲しかった。二人で生き残る事が出来ないなら、せめてあなたには生きてて欲しかったのに……」
好きだからこそ、大切な人だからこそ、彼にはこれから先も生きていて欲しかった。私の事なんて気にせずに逃げて欲しかった。それなのに……どうしてこんな時ばっかり言うことを聞いてくれないの?
前にも似たような状況があったけど、その時も彼は同じような行動を取っていた。一体どうして……。
「……ねぇリディ、覚えてる? 君と初めて会って、依頼の取り合いをした時のこと」
「え? う、うん……」
覚えてるというか、ついさっきも鮮明に思い返してたところなんだけど……急になんだろう?彼がその内容を口にした事なんて、今まで一度も無いんだけども。
「あの時はもう「何て女だ!」って思ってた。ガサツでうるさくて、正直一瞬性別を疑っちゃったよ」
「ちょっ!? そこまで言わなくても良いじゃない! そんなん言われずとも私だって重々分かってるわ!!」
「ははは。でもね……嬉しかったんだ。僕を対等に見てくれる人なんて、蔑み以外の視線を向けてくれる人なんて、それまでは一人もいなかった。君が現れてからはずっとぶつかってばっかだったけどさ……君がずっと側にいてくれたから、こんな僕でも毎日を生きる気力が沸いてたんだよ」
迫り来る魔物を睨み、短剣を握り直す。全身傷だらけで体力ももう限界、しかし後ろ姿から伝わってくる闘志は少しも衰えてはいなかった。
「君がいたから僕は変わる事が出来た。君は僕にとって、誰よりも大切な人なんだ。一人で逃げるなんてあり得ないし、そうするくらいなら死んだ方がマシ。……ごめんね、リディ。今回ばかりは君の言うことは聞けないよ」
「ダグダ……」
「生き残れなくたって良い。例え可能性が無くたって構わない。僕は……最後の最後まで、君を守ってみせる!」
足を止め警戒していた正面の魔物達も、他方向からも魔物が迫るや否や堰を切ったように走り出した。一方向から攻めて全体の和を乱すよりも、全方向から同じタイミングで突っ込んだ方が良いと判断したんだろう。普段だと決して見られない、滅びの暴走特有の行動だな。
魔物に囲まれていながらもこんな風に落ち着いて考えられていたのは、きっと彼が優しく抱き寄せてくれたおかげだと思う。全方向から攻めてくるのに前に出るわけにもいかず、短剣を構えたままもう片方の腕で私を抱いてくれていた。少し恥ずかしくはあったが、それでも大切な人がすぐ近くにいるという事実に安心感を覚え、死への恐怖も薄らいでいった。
さっきとはまた違う意味で死を受け入れ、ダグダにしがみつき顔を埋める。……しかし、またしてもいつまで経っても予想していた衝撃は来なかった。
「何だ……これ……」
半ば呆然としたような声が耳に届き、続いてカラーンと短剣が地面に落ちる音がした。慌てて顔を上げてみると、周囲の魔物達は揃って足を止めていた。
いや、少し違う。止めていたのではなく、止めざるを得なかったと言った方が正しいか。
何故なら……私達を中心に暴風が吹き荒れ壁となり、一歩たりとも中へ進めはしなかったのだから。もし強引に破ろうとすれば決して少なくはない被害が出ることになるし、魔物達も何となくそれを分かっているからこそ動けずにいるのだろう。
「これって……ダグダ、何をしたのーーって、大丈夫!?」
「分か……らない……! 何だよ、これ……!?」
先程まで短剣を持っていたはずの手で頭を押さえ、見るからに苦しそうな表情をしている。やがて耐えきれなくなったのか、私の体に回していた腕も離れ、地面へと片膝を付いてしまった。
「ハァ、ハァ、ハァ……。良く分からない、けど……これならいけるかも、しれない……。リディ、僕にしがみついてくれ! 僕から離れると危ない!」
「わ、分かった! でも、何をする気!?」
「決まってる……こいつら全員消し飛ばす!!」
「はい!?」
ワケが分からず、けれども言う通りにすれば助かるという確信が何処かにあり、先程のように抱きつく。その直後、私達を囲んでいた風がまるで意思を持ったかのように暴れ出し、魔物達を次々に呑み込み蹂躙するーーというところまでは確認した。それ以降はあまりの風に目を開けていられなくなり、全てが終わるまで周りの確認をすることなど出来なかったから。
やがて風が収まり恐る恐る目を開けてみると、大量にいた魔物達は全身を引き裂かれ一匹残らず息絶えており、動く影は一つも無かった。良く分からないが、どうやら……。
「助かった、の……?」
「そう、みたいだね……。これでもう、安心かな……」
「今のは一体? って、ごめん。分からないんだっけ」
「うん……。でも、君が無事で……本当に……良かっ……」
「……ダグダ? ちょ、ダグダ!?」
言葉を言い切らない内に彼は前のめりに倒れ、すぐに動かなくなった。慌てて調べてみると、唸ってはいてもどうやら完全に意識を失っているらしい。この特有の症状って……もしや。
「魔力切れ……? いや、そんなバカな」
真っ先に浮かんだ考えに対しすぐに首を横に振った。今のが魔法なわけはない。
ダグダは無属性、風の魔法や精霊魔法なんて満足に使えないし、発動した時も詠唱だってしていない。それに……いくら魔法とはいえ、果たしてこんな被害が出せるものなのだろうか?
立ち上がって辺りを見回してみると、ソレがもたらした被害の大きさが良く分かる。辺りは全滅した魔物達による血の海が出来ているが、どう見てもさっきまでいた魔物の数と死体の数が合わない。
ということは、引き裂かれたのみならず死体のパーツが遠くまで大量に吹き飛ばされたということになる。これだけでも信じがたいが、まあここまでは良しとしよう。
問題は、影響が及んだのは魔物だけではないということ。木々は薙ぎ倒されるわ引き裂かれるわ根こそぎどっかにいってるわ、地面だって大きく抉られ地形そのものが変わってしまっている。精霊魔法に関しては実際にこの目で見たことがあるわけではなく、あくまで国の魔法師団達の活躍を耳にした程度なのだが、それでもここまでの攻撃を放ったという話など聞いたことが無いのだ。
なら魔法ではないとして……じゃあ一体これは何なんだ?確かに魔法以外の妙な力を使う種族の噂は耳にした事があるが、こんな馬鹿げた力を奮う種族がいるなら主戦力として引っ張りだこになっているはず。魔族や魔物の被害が大きいこの国に来ないはずが無い。
というか……ダグダを始めとした人族は、他の種族とは違って突出した特徴は無い種族のはずだ。今奮われたものが種族特有のものであるとは思えない。
「ハァ……ワケが分からん。相棒の私が言うのも何だけど、アンタ一体何者なんだい?」
当然その質問に答えてくれる者がいるはずもなく、私の耳には夕暮れの空を吹きすさぶ風の音だけが響いていた。それを聞いている内に心も落ち着き、痛みへの慣れと疲労からか目蓋も落ちてきたので、安全を確認したのち私も静かに寝息を立て始めたのだった。
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