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シーカーズ ~大器晩成魔法使いの異世界冒険譚~  作者: 霧島幸治
第二章 キュレム王国編 後編
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第36話 スタンピード

「つまり、後天的に発現したものと? まあ確かに、生まれつきだったら実の親も知ってた可能性だって出てくるか。そうなりゃ仕返しを恐れて無闇に迫害するわけもない」

「ああ。それでシュウヤさん、滅びの暴走(スタンピード)っていう言葉に聞き覚えはあるかい?」

「一応は。魔物の大襲撃現象のことだよな?」


 世界には魔物が大量に固まって住まう地域がいくつかある。俗に魔群帯(スポット)と呼ばれており、キュレム王国の東に位置するグレイス平原もその一つなのだが、滅びの暴走(スタンピード)とはその周辺地域で起こる固有現象のこと。他の地域で起こることは滅多に無い。


 魔物には人間や動物を襲うという性質があるが、スラーンド森林帯でのヒュドラとムシュフシュのように、同種間ならともかく異種間で言えば魔物同士だって別に争わないわけではなく、むしろ周辺に人間や動物がいない場合は積極的に殺しあっているほど。

 魔王によって作られたとは言っても、殺戮の本能が強すぎて世界を滅ぼすという本来の使命を半ば忘れているという結果である。そして知性は低いとは言っても、勿論災厄を降らせし者(エンズ)でもない限りは単独で国を襲うような真似はしない。



 だがしかし。少数ではなく多数の魔物がひとたび一ヶ所に集まってしまった時、魔物は突如として異種間だろうと団結して近隣の国や街を襲い始める。これが滅びの暴走(スタンピード)であり、軍としての数が揃ったが故に本来の使命を思い出しているのだと言われている。


 普通の地域ではそこまで集まるより前に殺し合ってしまい数が減り、再び散り散りとなり揃いはしない。そして、団結したとは言っても移動中に死んだり一部が分離したりして数が減るとまた殺し合いを始めるので、離れた国々にまで大規模な被害が及ぶことはあまり無い。だからこそ、滅びの暴走(スタンピード)魔群帯(スポット)の周辺で起きるのである。



 ちなみに、魔族が魔物を率いて国々を襲うのは魔軍大襲来という名前で呼ばれているが、これと滅びの暴走(スタンピード)は全くの別物。前者は魔族の能力によって意図的に引き起こされたものであり、明確な意思が含まれているので統率度が高く、更に頻度は低いとはいえ不定期で襲ってくるので対策が取りにくいもの。魔族という知能が高いリーダー達がいる分、戦略のようなものが取られており厄介さはこっちが上。


 対して後者は偶発的に起こるものであり、しかし一定の周期があり予め対策をすることが可能。団結してはいても明確なリーダーがいるわけではないので、個々の動きとしては結構バラつきがあり、戦力さえ揃えば対処はしやすい。

 ただし頻度はそこそこ高く、その上ただ魔物をかき集めて攻めてくる大襲来とはちがい、滅びの暴走(スタンピード)は殺し合いを重ねて生き残った猛者達が攻めてくるもの。そのため単純な強さで言えばこっちの方が圧倒的に上である。


 この国は魔群帯(スポット)であるグレイス平原が近い分、大襲来と滅びの暴走(スタンピード)のダブルパンチを定期的に食らっており、だからこそ俺達を戦力として召喚したのである。国王は大雑把にしか説明しなかったが、その分二日目に図書館に行った時は真っ先に皆で調べたのだ、知らないはずがない。



「なら話は早い。私はこの国にずっと住んでるから、その分何度か滅びの暴走(スタンピード)を経験してるんだが……戦闘の最中、一度だけあの人と一緒に完全に孤立してしまったことがあったんだ。まだ冒険者をやってた頃、つまりはサーシャが生まれる前の話だけどね」

「おいおい、それで良く無事でいられたな」

「魔族がいたわけじゃないからね。だから狙い撃ちにされたわけじゃなかったからまだ良かったんだが……それでも大量の魔物に追いかけられてさ、あの時は本当に死ぬかと思ったよ。もう十五年も前の事になるが、未だに思い出すと恐ろしくてたまらなくなるね」



#######################



「ビュァァァアアアアア!!!!」

「ジュラォロロロェェェアアアアア!!!!」

「「「ゴルルルルルルル!!!」」」

「ビュィィィイイイイイインンンン!!!」

「ハァ……ハァ……。クッソ! どこまで追ってくるんだ!!」

「途中で……隠れる事が出来れば良かったけど……そうも、いかないみたいだね……ッ」


 隣を走るダグダ(相棒)と共に顔をしかめ、それでも足は止めずに攻撃を避けながら必死に逃げ続ける。途中で投げナイフによる目潰しや魔石を使っての魔法陣魔法による攻撃を挟みつつ、僅かながらも牽制をして少しでも生き残る確率を上げようと努力する。人族ながらも幼い頃から体を鍛え続けてきたダグダと、種族的に身体能力が高い私だからこそ出来ることであり、普通ならとっくに魔物達に追い付かれて食い殺されているところだろう。



 滅びの暴走(スタンピード)の防衛戦の最中、前線で戦っていた私達は魔物の突進やブレスによって本隊と分断されてしまい、どうあがいても合流することは不可能になってしまった。戻れはしない、しかしその場にいても囲まれて殺されるだけであり、二人で別方向にあった鬱蒼とした森の中に逃げ込んだ。


 木々が生い茂る森の中なら、例え追ってきたとしても体の大きい魔物は動きが制限される。その隙に距離を空け何処かに身を隠し、魔物に同士討ちをさせれば良いーーそう考えたが故の行動だったのだが、少し見積もりが甘かったと言わざるを得ない。


 魔物の生態にも詳しいダグダによると、今私達を追ってきている魔物は、その殆どが目だけでなく主に鼻や耳を使って獲物を探知するタイプらしい。隠れるという行為はあくまで目を誤魔化すためのものであり、元から身を潜め奇襲を仕掛けるならまだしも、今から隠れたところで全く意味は無い。だからこそこうして逃げ続けているのだが……これに関しても一つ想定外の事態が起こっていた。



 私達がひたすらに逃げているのは、勿論一度に大量の魔物を相手にすることは難しいというのもある。今迫ってきている魔物達の数は、少なく考えたとて百はあり、それだけでも正面から戦って尚且つ勝って生き残れる可能性など無いに等しい。


 ……だが、それだけならまだ良かったのだろう。無いに等しいということは、つまりは奇跡でも起これば出来るかもしれないということであり、それならまだ闘争心は沸いていたと思われる。


 しかし、その希望を粉々に打ち砕く要素がまだあった。すなわち今追ってきている魔物の中にBランクが何体もいるということ。

 私達のランクは共にCランク、Bランクの魔物など一体ですら勝てるかどうかは微妙なところだと言うのに、それが大量にいるとなれば勝ち目などあるわけが無い。仮に集団が全員Cランク以下であったなら、地獄を見ながらも何とか生き残ることは出来るかもしれないが、これではそんな可能性は泡のように一瞬にして消え失せる。私達には逃げる以外の選択肢などどこにも存在しなかったのだ。



 とは言え、それでも根本的な解決にはなっていない。魔物達は動きを制限されていながらも木々をなぎ倒しながら私達を追いかけ続けており、更には大元の速度の差もあって差が広がるなどという事は全然起きていない。むしろ、少しでもつっかえたらあっという間に距離を詰められるだろう。


 本隊からの距離的にも、滅びの暴走(スタンピード)の効力はいつ切れてもおかしくない。だが、魔物が襲いかかる優先順位は同じ魔物よりも人間の方がずっと上であるため、私達から意識を移すことは無い。疲労に加え同士討ちは期待出来ないという事実ものしかかり、少しずつ私達の足取りは重くなっていった。



 それからどれくらい時間が経ったのだろう。逃げて逃げて逃げ続けて、体力が限界に近付いてきた頃ふと横を見ると……疲れを見せるでもなく、ただひたすらダグダの顔は凍り付いていた。


「ど、どうしたの!?」

「リディ、マズい事になったかもしれない……!」

「マズいって……この状況以上にそんなものがあるのかい? 正直聞きたくないけど、何か分かったのなら教えてくれ」

「必死だったから気付けなかったけど……落ち着いて良く考えればすぐに分かる事だったんだ。僕達は始めに比べてある程度速度は落ちてるはず、そして魔物は少なくとも僕達よりも体力はあるはずなんだ。実際疲れてるような様子は見えないしね。……なのに、何で差が縮まってないんだい?」

「何でってーー」


 余裕の無い頭を何とか働かせ、言葉の意味を考えようとしたその瞬間ーー魔物による火球が()から木々を壊しながら飛んできた。散開して何とか避けるも、一発では終わらず二発三発と攻撃は続いていく。



「キュォォォオオオオンンン!!!」

「ピギョルキギギギギギ!!!」

「なっ…………!?」

 前方から聞こえる叫び声と、たった今感知出来た膨大な数の気配。後ろにばかり向けていた意識を前へと向けると、木々を抜けたその奥の奥ーーそこにも多くの魔物がいることが今になって分かった。遠すぎて良く見えないが、先頭に陣取っているのは……確かBランクのムシュフシュと同じくBランクのモルボルか?


 ……そういうことか。疲労の具合に明らかに差があるのにちっとも距離が縮まらなかったのは、魔物が楽をしようとして意図的に速度を落としていたから。そして、私達を殺すという明確な目的があったのにそれが出来たのは、例え逃げ続けてもその先にいる別働隊と挟み撃ちに出来るから。


 通常魔物にはおよそ理性というものは無く、簡単とはいえ戦術なんて物を使うはずは無い。だがこれは滅びの暴走(スタンピード)、魔物同士が唯一協調性を持つものであり、そんな手段を取っても不思議ということは無い。



「そうか……はは……」

 前も後ろも魔物だらけ、横に逃げてもすぐに追い付かれてしまう。挟み撃ちのこの状況から逃げ切ることなど出来はしない。ましてや勝てるかどうかなどとてもとても。


 分断された時既にこの未来は決まっていたのだろう。ここまで必死に逃げ続けて来たが……結局は全部無駄だった。その想いから乾いた笑いが零れ、絶望により体からは急速に力が抜けていく。


「リディ、後ろ!」

「え……?」

 前方を走るダグダの声にハッとして振り向くが、時既に遅し。明らかに速度が落ちていた私はとうとう魔物に追い付かれ、一撃を食らい吹っ飛ばされ、木々に体をぶつけたり地面を転がりながら停止した。



「ぅ……ぁ……」

 体を起こすどころか痛みで満足に声を発する事も出来ず、仰向けになったまま無防備な体勢を晒し続ける。攻撃を食らった時に嫌な感触を覚えたし、多分立ち上がる事は出来ないだろう。

 ……いや、それだけじゃないな。気力も体力ももう限界、体が無事であったとしても動けはしない。


 迫り来る魔物が視界の端に映り、絶望が心を黒く染めていくその中で、私は一つ後悔していたことがあった。数年来の相棒であるダグダ()の事である。



 思えば出会いは最悪だった。何度かギルド内で姿を見かけてはいたが、彼にはちっとも良い印象を抱いてはいなかった。


 基本的に無表情。何を考えてるのかはさっぱりだし、瞳は常に周囲への敵意と不信感で満ちていた。無属性として生まれ色々な想いをしてきたからなのだろうが、私だって種族的に周囲から結構蔑まれてきた身だし、過去を良く知らないその時の私はそんな「自分が一番苦労してます」とでも言いたげな感じが大嫌いだった。


 ある日同じ依頼に手が伸びて、喧嘩の末にギルドの職員が仲裁に入って一緒に依頼をこなすことになったけど、それは単に依頼の報酬が良くてどうしても譲れなかったというだけであり、内心はかなーり嫌々ながら了承していた。戦い方もねちっこくて私とは正反対、何度か助けられはしたがこいつだけは好きにはなれんなと心底感じていた。

 それは恐らく向こうも同じだったろうな。元々人間を信用していない上に、自分で言うのも何だがこの頃の私はワケあってかなり性格がキツく、必要以上にものを言ってしまっていた。そんな奴に好意的な印象を抱くわけがない。



 まあ、正反対だったからこそお互いの足りないものを補う事ができ、力を利用し合うということでパーティを組むことになったわけだが。反りが合うか合わないかではなく、利益や安全性を最優先にした結果である。


 勿論組んだ後も方針は変わらず、意見の相違から日々衝突してばかり。時には単なる口喧嘩ですら一晩かけ、翌日の活動に支障をきたしたことだって何度もある。

 それでもどちらも一歩も引かなかったのは、性格によるものというのもあるのだが、どちらかが伴侶を見つけるまでの間という期限があったからというのが大きい。それ以降は関わりを持つ気は無かったため、どれだけぶつかってどれだけ溝が出来ようとも構わなかったのである。出会った時には私は十九でダグダは二十一、年齢的にも数年の内には見つかって解散するんだろうなと二人とも思っていたから。


 だが度々ぶつかり合うということは、つまりは何も隠さず常に本音で相手と接しているということ。それが良い方向に影響し、月日が経つ内に段々と打ち解けていき、やがては本当の意味で心を許せる間柄となった。


 この関係は互いの性格にも影響を与え、ダグダは少しずつだが人間を信じられるようになり、私はある程度だが性格が丸くなっていった。自分では全く気付かなかったが、行き付けの店のマスターに指摘された時は本当に驚き、また同時に不思議と納得出来たものだ。そして……いつからか、私は彼に惹かれるようになった。



 ……だからこそ、今感じている後悔の念は大きかった。


 私は素直な性格じゃないから、自分から彼に想いを伝える事は中々出来なかった。何度か機会はあったのだが、いつも直前で言葉を飲み込んでしまう。それを今日までズルズルと引きずって、結局一度も伝えられていない。


 このまま想いを伝えられないまま死ぬのなら、せめてもっと勇気を振り絞っておけば良かった。戦いの直前にそういうのを口にするのは良くないって言うけど、こんなことになるなら、たった一言でも良いから言っておくべきだった。冒険者なんていう、いつ死ぬかも分からない職業をやっているのなら尚更だ。



 そんな事を考えながらそっと目を閉じ、まもなく訪れるであろう死を受け入れる。……しかしいつまで経っても衝撃は来ず、代わりに全く別の感触だけが伝わってきた。恐る恐る目を開けると、予想通りダグダが私の事を抱き抱えて運んでいた。


 こんな事をすればすぐに追い付かれるはずだが、差はむしろ少しずつ広がっていた。この速度、まさか……。


「ふぅ……間一髪」

身体強化(ブースト)……? 何で……!?」

 もちろんここで言う「何で」とは、勿論使えるかどうかという話ではない。何年も共に戦ってきたからこそ、お互いが使える魔法などとっくに確認している。そうではなく……()()()()()()()使()()()()()()()()()、ということである。

 ダグダは常人に比べて基礎魔力量がかなり多いが、それでも魔力の消費量が大きい身体強化(ブースト)を使うとなればすぐに限界は来る。ならば、私を運ぶのではなく自分のためだけに使うべきなのに。



「何でって、決まってるじゃないか。流石に一人抱えちゃ素の状態だと追い付かれちゃうし。まあ限界まで使っても逃げ切れはしないから、あそこら辺で一旦君を下ろして奴らと戦うけどね」

「だから何を言ってるの! それが出来ないからここまで逃げてきたんでしょ!?」

「それはそうだけど、こうするしか無いじゃないか。二人で逃げられなくなっちゃった以上、他に方法は無いよ」

「方法ならあるじゃない。……お願い、私を置いて逃げて」

「リディ……」

「挟み撃ちにされた時点で、二人で生き残るのはもう無理。でも、あなた一人ならまだ可能性はある。動けない私になら多くの魔物が集まると思うし、その間に身体強化(ブースト)で逃げれば、あなただけなら……!」

「……言うと思った。だけど、お断りだよ」


 声を震わせながら何とか絞り出されたその願いを一蹴。先程指し示した場所に辿り着いた後、依然として動けない私を木の側に置いて休ませる。そして私に背を向け、迫り来る魔物達を睨み付けた。


「君も中々酷い事言うなぁ。僕がそう簡単に誰かを見捨てるような人間に見えるのかい?」

「だけど……でも……!」

「良いから休んでて。奴らの相手は……僕一人でやっておくからさ」

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