第33話 無能勇者と欠陥武器
更新遅くなって申し訳ありませんm(_ _)mかなりの体調不良に陥ってまして、修正はともかく続きを執筆する気力が湧かなかったんです……。
ーーというわけで、武器屋にやって来ました。既に夜の六時を回っており、本来ならもうすぐ閉店してしまうのだが、俺達のためにしばらく開けてくれるようだ。ありがたい。
「おー……」
店内へ入ると、アニメで見たようなずらっと武器が並ぶ光景が目に入ってくる。城の武器庫に比べれば当然数は少ないが、あっちは並ぶっていうより詰め込んでる感じだからな。こういったものを見るのは初めてだ。
まず目についたのは大剣。店主に許可を取って一つ一つ手に取り、空いているスペースで軽く振ってみる。
クルツに貰ったやつはヒュドラ戦で折れちまったからな。この際新しいのを自分で買ってみるのも手だろう。城にあったやつは扱いやすいように比較的軽く作られてるみたいで、なーんか合わなかったんだよなぁ。
「……ふむ、これ中々良いかもしれん」
「お、気に入ったかい? って、それうちで一番重いやつじゃねえか! お前さん、良く涼しい顔して振り回せるな……」
「……文句を言うわけじゃないんだが、そんな立派な体ですら満足に振れないような武器を作るなよ。苦労して作ったところで、重くて使えないんじゃ意味は無ぇ。買おうとした奴すらいないんじゃないのか?」
日々重い武器を扱う仕事をしているためか、店主の体は正に筋骨隆々といった感じになっている。そんな体ですらあまり振れないなら、そこらの冒険者には長時間持っていることすら出来ないのでは……。
「兄ちゃんの言う通り、確かにそいつは振ろうとした奴すら殆どいねぇ。重い分威力は抜群なんだが、重くし過ぎて上手く使える奴がいなくなるのは予想外だったな。ガッハッハ!」
いや、笑い事じゃないから。図書館の警備の件でも思ったが、この世界後先考えない経営者多すぎだろ。良くこんなんで回っていくもんだ。
「でも、冗談抜きに普通にブンブン振るえるのは凄いと思うぜ? 元々そいつは腕力が強い獣人向けに作ったやつだったんだ。冒険者の中には獣人もちらほらいるし、使う奴もいるんじゃないかってな。だから、人族のお前さんがまるで軽い布でも振るかのように扱うのは予想外だったんだ」
「小さい頃から散々鍛えられたからな。それに、大剣の扱いを教えてくれたやつはもっと重いもん渡してきたし。それに比べりゃ、これなんてまだまだ良い方だ」
「これより重いやつ……昔一回だけ作った覚えがある。失敗作のつもりで置いといたやつなんだが、良く思い出せんがどっかのすげぇ奴に買われていった気がするな。兄ちゃんが言ってるのはその人かね?」
「多分そうだな」
クルツが渡してきたクソ重い大剣は六十五キロといったところ、そして今手にあるものは五十キロくらいだろうか。威力は少し落ちてしまうが、こっちの方が俺には合ってるかもしれない。てかあれこの店で作られたもんだったのか。
……ん? てことはこの店主、同じ失敗をまたやったってこと? 見た目から脳筋なのは良く分かるが、もうちっと学習せいや。
ついでに槍や槍斧も持ってはみたのだが、こっちは大剣と違って誰かに習ったわけでもなく、書庫の指南書に書いてあったやり方を思い出してどうにか扱うことは出来た。これから先使ってみるのも良いかもしれないが、一先ず大剣を使いこなせるようになるのが先か。基本技能の大剣術まだ(中)みたいだし。
次に見たのは、剣や斧などの標準的な武器。いくつか振ってはみたものの、これに関しては城の物で十分かなという気はしたので特に買おうとは思わなかった。
というのも、どうやら城に配備されている武器の多くはこの店で作られているらしく、実際今俺が身に付けている剣と同じ物が店にもあった。大剣とかはさっき言った通り少し軽かったりと感じが随分と違っているので良いのだが、剣に関しちゃ同じもんだからなぁ……。買っても意味が無いので除外である。
そんな感じでスルーしたのだが、店内を歩き回る内に別室があることに気付く。いきなり入るのもアレなので、試しに反響定位で調べてみたところ、そっちにも武器が多くある事が分かった。
控え室なのかと思ったが、明らかに人に見せるためだろうと思えるような配置がされている。倉庫ではないようだし、これは一体?
「店主、こっちの部屋は何なんだ? いくつか武器が見えるんだが」
「そっちは対人用の武器置き場だな。作ったり仕入れたりしてはいるが、使う人間がそこまで多いわけじゃないから、普段は邪魔にならないように要望が無い限り外には出さないんだ。ナイフとか短剣は例外として外にも置いてるけどな」
「……何? すまん、ちょっと見せてもらうことは出来るか?」
「え? 勿論問題無いが……希望に沿うようなもんは無いと思うぞ?」
「そんなん見てみなきゃ分からないさ。そんじゃ、入らせてもらうぞ」
ドアを開け中に入ると、予想通りそこには見慣れた武器がいくつも置かれていた。中には懐かしいものもあり、手に持って鞘から抜いてみると、いつの間にか口角が上がっていた。
「ちょ、兄ちゃん。その武器だけは止めといた方が良いぜ?」
「む、何故だ?」
「決まってらぁ。昔竜人族の旅人がいくつか置いてったもんなんだが、切れ味が半端無い反面結構脆いんだ。打ち合ってたらすぐに欠けたってクレームも入ったし、何より片刃だから欠けたが最後使いもんにならん。軽い分鈍器としても使えないしな」
「つまり、欠点だらけの武器っつー認識ってことか」
「ああ。魔物相手にはまるで役に立たんし、かと言って人間相手だと切れすぎて捕縛にも向かない。そもそも人間相手に使うなら、剣なんかよりも短剣やナイフなんかの方が良い」
「……間違ってはいないな」
「だろ? だから、もう処分するつもりだったんだ。他のやつはともかくこいつに関しちゃ使い道が無い。改善しようにも製法が分からんしな」
まあそう卑下するのも無理は無い。多少失礼な言い方にはなるが、冒険者達にはこいつの真価も本当の使い方も分かるはずが無いからな。
「おし決めた。店主、これを買わせてくれ」
「はい!? おい兄ちゃん、話聞いてたか?」
「勿論。聞いた上での選択だ。どうせ捨てるんだったら、今買っていったって問題ないだろう?」
「それはそうなんだが……。まあ、客の判断に口を出すってのはアレだな。分かった、そいつはくれてやろう。だが、あとでクレームを入れるのは無しだぜ?」
「分かってるさ。あとは、そうだな……これも頼む」
室内を見回し、棚から一本の剣を手に取る。その様子を見て、店主はひたすら首を傾げていた。
「うーん……。買ってくれるのはありがたいんだけどよ、聞くが何に使うんだ? 見た感じ冒険者だし、使い道なんて無いだろうに」
「そうでもないさ、色々と目的はある。使いこなしさえすれば役に立つもんだぞ」
「ふぅん、そんなもんか」
会話しつつ部屋を出ると、そこには短剣をじっと見つめているサーシャの姿があった。俺達の存在に気付くと、直ぐ様顔を上げ駆け寄ってきた。
「シュウヤさん、終わりましたか?」
「たった今な。何か気になる武器でもあったか?」
「短剣が少々。家で良く見かけていましたから、それで昔を思い出していまして。……まあそんなお金もありませんし、あっても普段使うことはないので、買うわけではないのですが」
「成る程な。……店主よ、これとあとそこの短剣を二本頼む。俺とこいつ分な」
「オッケー任しとけ」
「あれ!?」
サーシャが何か言いたげな風にしていたが、反論が開始される前にパパッと会計を済ませ店を出た。ちなみに大剣は荷物になってしまうので、どうせ買うやつもいないだろうってことで後日また来ることとなった。
大剣背負って腰に三本差すってのは、流石に動きにくくてしょうがないしな。次回来る時は支給の分の剣は持たないようにしよう。
「んじゃサーシャ、これお前の分な」
「いや、あの、シュウヤさん? 使う機会無いと言いましたよね? それに、ギルドでも言った通り何かを貰うわけには……」
「そうは言っても、これから先も街に出ることはあるんだろ? なら一応護身用に一本位持っておいた方が良い。奪われたら逆に脅威になるが、持ってるのと持ってないのとじゃそもそもの襲われる率が大分違ってくる」
丸腰の人間と武器を携えた人間。どちらがより襲いやすいかと聞かれれば、当然大抵の人間は丸腰の方を選ぶだろう。相手の実力を見抜く目を持ってるなら話は変わってくるが、そういった奴らの方が割合としては少ないわけだしな。
「ギルドで言ってたやつは……まあ普段のお礼とでも思っておいてくれ。レミールやアダムスに何か言われたら俺の名前を出せば良い」
「いや、ですからそんなわけには……」
「良いから。何か言われるとかいうよりも、まずお前は第一に身の安全を考えるようにしろ。気付いてなかったろうが、今日お前一人だったら何度か襲われてたぞ」
「え、そうなんですか!?」
「うん。ほら、何度か抱き寄せたことあったじゃん」
「確かにありましたが……あれがそうだったんですか?」
昼間こいつと街を歩いていた時の事だが、露骨かどうかは関係無くこいつに邪な視線を送る者が多かった。人混みで手を繋いでる時はともかく、それ以外だと明らかに危ない奴が声をかけようとしてくることも何度かあったため、その度にサーシャを引き寄せ男達を威嚇していたのだった。勿論サーシャに殺気をぶつけないように細心の注意を払いながら。
おかげで変なことは一度も無かったのだが、正直一瞬たりとも気が休まらなかった。特に別行動もせず片時も離れなかったのはそのためである。確かにレミールから頼まれてはいるが、こんな保護者じみたことを俺がやることになるとはなぁ……。
「私の気付かぬ内に、そんなことが起こっていたのですね……ご迷惑をおかけしました」
「礼などいらん。それより、そう思うならちゃんと身に付けてくれ。正直危なっかしくて見てられん」
「分かりました。……でも、本当に襲われてしまった時はどうすれば良いんでしょう? 私はナイフはそこまで扱えませんし……」
「安心しろ、暇な時にでも使い方は教えてやる。殺しはせずとも撃退位なら出来るはずだ。……ま、俺が一緒にいればそれで済む話なんだろうが」
「えっ。また一緒にお出掛けしてくれるんですか!?」
「暇な時ならな。あと、お前が不快に思わないならだが」
「そんなこと思ったりしませんよ! むしろこちらからお願いしたいくらいです!」
「分かった。なら、またこうして出たくなったらいつでも言ってくれ」
「はい!」
今の俺がやるべきことは、ひたすらに魔法を鍛えること。勿論魔物と殺り合うことだって重要だが、魔法の仕組みに気付けた以上最優先は魔法関連であり、魔物はどちらかというと魔法の実験台という立ち位置になる。初期の焦ってた頃と比べて城にいる率は高くなるだろうし、たまにはこうして二人で出掛けるのも悪くは無いだろう。
しっかし……俺が誰かをこういった意味で心配する事になるとはね。元の世界じゃ爺ちゃん達は逆に俺が心配される立場だったし、他の親しくも無い人間はどうなろうが正直どうでも良かった。
その方針はこの世界に来ても変えたつもりは無いし、事実佐々木達だってあくまで協力者であり仲間とは見ていない。最低限の補佐はするがそれ以上の面倒を見るつもりは無い、それが俺達の関係である。
だって面倒だし。強大な力と才能はあるんだし、奴らなら大抵の事は何とかなる。技術を身に付けたいのなら、それは俺じゃなく騎士団や魔法師団の連中に教われば良い。
それが俺っていう奴のはずなんだがなぁ。こないだの夜の事だってそうだし、こいつに対しては何か俺の中にある軸っていうもんがぶれてる気がする。
……いや、こないだの事があったからこそ、か。大切な人を失ったという過去を知ったからこそ、その身に抱える想いを理解出来るからこそ、どうしても放っておけなくなってしまった。いつも明るい笑顔を見せていたこいつが、堪えきれず涙を流す姿を目にしたあの時から、俺はもうこいつをただの隣人とは見れなくなっている。
他の奴とはどこか違う。こいつは俺の中で、少しだけ特別な存在になったのかもな。大切な存在とかそういうのとは違うと思うけど。
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