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シーカーズ ~大器晩成魔法使いの異世界冒険譚~  作者: 霧島幸治
第二章 キュレム王国編 後編
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第30話 二人の追想

 特殊な能力……能力生成(スキルメーカー)みたいなもんが、やっぱ他にも存在するってことか?いや、それも気になるが。


「ちょっと待て。()()()? それって……」

「……はい。四年前に既に亡くなっています」

「そうか……。サーシャ、父親の事を色々聞かせてくれないか?」

「お父さんの話、ですか?」

「ああ。少し知っておきたくてな」

 他人の過去にはあまり介入はしないというのが俺の主義。ただし、今回は事情が事情だ。同じ無属性、しかも何かしらの能力を持っていたとなれば、このまま放っておく事も出来ない。


 俺の頼みを聞き、「分かりました」と反応が返ってくる。それからサーシャは、自らの父の事を語り出した。



 ダグダ・ルーツィエ。キュレム王国の西に位置するマルタ王国という小国の出身であり、俺と同じ無属性として生まれた。幼い頃より親からも周囲の人間達からも迫害を受けており、成人を迎えると同時に家を勘当され、それを機に冒険者となる。


 初めの数年は何とかやっていけてはいたのだが、自立した後も周りからのいびりは止まず、結局国を出て各地を転々とする事になる。そして二十を越える頃、ここキュレム王国にやって来た。


 とは言え、国が違っても所詮は同じ大陸内。勿論この国でも無属性の扱いはそう変わらず、ダグダ本人もあくまで一時的に身を置くだけの場所と考えており、少し経ったらまた別の国を目指す予定だった。



 だが、結局その後国を移ることは無かった。理由は簡単、彼を決して蔑まず常に対等に接してくれる存在が現れたから。

 名をリディ・ベネット。苗字から分かる通り、あのレミールの一人娘である。


 彼女は母とは違い、父と同じく冒険者として日々生計を建てていた。そんな時ギルド内で偶然ダグダと出会い、同じ依頼を受けようとした故喧嘩となり、話し合いの結果二人でパーティを組み攻略することになったそうな。


 元々リディは無属性に対しての差別意識はそこまで持っておらず、けれどあまり戦力として期待しているわけでも無かった。だから、戦闘に関してはサポートに回ろう……と思っていたのだが、結果的に立場は逆転することとなる。



 ダグダは無属性故詠唱魔法は殆ど使えず、身体強化(ブースト)は使えたが武術面の才が突出しているわけでも無かった。勿論ある程度は使えたのだが、無双出来るというレベルでは決してない。


 しかし、だからこそ彼は自らが弱者だということを誰よりも理解していた。武術が駄目なら知恵で突破し、真っ直ぐやるのが駄目なら常に相手の裏をかく。どんな姑息かつ卑劣な手段でも躊躇いなく行い隙をつき、どんなに長い間だろうと息を殺し待ち続け、自分にとってベストなタイミングを見計らう。彼はそんな知略タイプの人間であり、リディも戦闘中何度も助けられることになった。



 それが二人の馴れ初めとなり、以降常に二人で依頼を受け出掛けるようになった。真っ直ぐな性格と裏をかく性格という対極な構図であったため、ぶつかることもしばしばあったのだが、毎日を過ごす内に少しずつ距離は縮まっていった。


 そして今から十五年前。晴れて二人は結ばれ、その数年後にサーシャが生まれた。リディは火事と育児に時間を取られる故冒険者を辞め、生活費はダグダ一人で稼ぐようになったらしい。



「……成る程。何で城勤めなのに冒険者関係の事色々知ってんのか不思議でならなかったが、冒険者夫婦の子供だったからか」

「はい。幼い頃よりお父さんとお母さんから、色々体験談を聞かせてもらってましたから。新米の冒険者さんよりも沢山の知識を持ってる自信はありますね」

「だろうな。そんな気がする。……それで、ダグダは依頼の最中に何かあったってことか。冒険者にイレギュラーは付きものだし、幾ら策を巡らせてても、想定してなかった魔物でも現れればーー」

「違います」

 真っ先に思い付いた考えを口にしたのだが、強い口調で放たれた言葉に遮られる。サーシャの顔を見ると、俯きながら何かを堪えるように唇を強く結んでいた。



「魔物なんかじゃありません。お父さんは……人間に暗殺されたんです」

「……え」

 一瞬思考が止まり、再起動してからたった今聞いた言葉を反芻する。「殺された」じゃなくて、「()()された」?


「ど……どういうことだ? 暗殺? てことは、単に盗賊に襲われたってわけじゃないのか?」

「ええ。……いえ、言い方に少し問題がありました。正確に言うと、撃退はしたものの致命傷を負い、それでも気力を振り絞って家まで帰ってきてくれまして。そして……お母さんと私の目の前で死んだんです」


 それからサーシャは、再びぽつりぽつりと語り出した。とある依頼の帰り、すっかり暗くなってしまった夜道をダグダは走って家へと向かっていた。そして家まであと少しという場所で突如謎の連中に襲われた。死に際の本人曰く、恐らくは待ち伏せされていたのだろうとのこと。


 連中のリーダーははっきりと「お前には死んでもらう」と口にしてはいたが、盗賊のように金品を奪うために殺すのではなく、ハナから命を奪うためだけに来た様子だったらしい。何故なら、致命傷を負いもう助からないだろうと判断した途端、連中は何もせず揃って去っていったのだから。目的が殺す事だったのなら、それ以上余計な事をしてリスクを増やす必要は無いからな。


 おまけに全員動きが見事に統率されたものであり、とてもそこらの人間が真似を出来るものではなかった。冒険者としての経験から、ダグダはその者達を正式な暗殺者だろうと判断し、必死に応戦をしたが隙をつかれ腹に何本もナイフが突き刺さる事になった。


 その後去っていった暗殺者には目もくれず、霞んでいく視界の中で必死に家を目指した。治癒院はとっくに閉まっている時間であり、例え今から行ったとしてももう間に合わない。冒険者ギルドだって同じこと。

 更に無属性故知り合いも少なく、頼れるような治癒魔法使いもいなかった。自分はもう死ぬーーそんな絶望の中で、それでもダグダは歩き続けた。最後に最愛の妻と娘の顔を見るために。


 そして何とか家に辿り着き、事情を説明したのちひと言ふた言をかわし、リディに抱かれたまま最期を迎えたという。とても安らかな顔をしていたらしいが、妻の腕の中で死ねたのだから本人的には幸せだったのかもしれない。



「何で……何で死んじゃったの……お父さん……!」

 語り終える頃には、サーシャはボロボロと涙を流していた。話を続けるために何とか堪えていたのだが、とうとう限界が来たらしい。スカートをギュッと掴み体を震わせ、最早流れ落ちる雫を拭おうともしていない。


 そんな悲しみに震えるサーシャを、俺はいつの間にかそっと抱き寄せていた。半ば無意識の行動で自分でも驚いていたが、考えてみれば当然のこと。

 サーシャがずっと抱え続け、たった今決壊した想い。それと似たものを俺も良く知っている。正直見ていられなかったのだ。


「シュウヤ……様……?」

「辛い事を思い出させて悪かった。生憎動けはしないが、胸くらいならいくらでも貸してやる。だから、落ち着くまで好きなだけ泣け」

「はい……ありがとうございます……」


 それからしばらくの間、サーシャは俺に抱き着いて嗚咽を溢していた。まさかこの俺がこんなことをやるとは思ってもみなかったし、自分の言動に「ハァ?」と呆れるような未来の自分が早くも見えるのだが……まあ良い。やってしまったものは仕方が無いし、サーシャ的にも今のこの感じは結構心地良いみたいだし。



 それからたっぷりと泣き感情を出し尽くしたのち、少し落ち着きを取り戻したサーシャは直ぐ様俺の体から離れた。そして、顔を赤くしながら凄い勢いで頭を下げてくる。


「も、申し訳ありませんでした! 何とお見苦しいところを……」

「別に良いけど。そもそも俺が促したからこそああなったわけだし」

「で、でも……いきなり泣き出して、ご迷惑ではありませんでしたか? いや、それを言ったらこの間もそうなのですが」

「……そんな事は無いさ。大切な人を失う感情は、俺だって良く知ってるからな。どんなに辛いかは身に染みる程に理解してる」

「もしかして、シュウヤ様も?」

「ああ。とは言っても、俺の場合は別に殺されたわけじゃないんだけどな。……むしろ、俺が殺しちまったようなもんなんだ」

「え…………?」


 枕元に置いてあったクナイを手に取る。この世界に来る際に持ってきた物であり、佐々木にも説明した通り刃雨爺ちゃんの遺品である。



「俺には四人の育て親がいてな。三人の爺ちゃんと一人の婆ちゃんで、山中に捨てられた俺を拾って大事に育ててくれた。俺がここまで強くなれたのも、その爺ちゃん達の地獄のしごきがあったからこそなんだ」

「シュウヤ様の原点はそこにあったのですか。余程お強い方々なんでしょうね」

「ま、最強のエージェントって呼ばれてた人達だったからな。強いのは当たり前だ」

「それで……さっきの言葉の意味とは、一体?」

「……簡単に言うとな、爺ちゃん達は揃って病に侵されてたんだ。若い頃にかかったものが悪化したのか、それとも晩年に初めて発症したのかは分からんが、ともかく俺が知った時にはもう手遅れに近いレベルだった」

「初めから教えられていたわけではないのですか?」

「ああ、俺が十一の頃に初めて知った。というかまあ、練習中に目の前で倒れた結果判明したっていう感じなんだけどな」


 あの時は本当に衝撃的だった。散破を受けて吹っ飛ばされた俺に対し、普段は追撃が入るところを、斗真爺ちゃんはいつまで経っても攻めてこなかった。それどころか膝をつき、口を押さえた手を真っ赤に染めていたのだから、頭が真っ白になるのも無理は無い。


「倒れた爺ちゃんを介抱した後に、四人を集めて詰問をしてな。最初は誤魔化そうとしてたんだが、とうとう諦めて全て教えてくれたんだ。……俺との日々の修練で体を激しく動かしてるせいで、余命がどんどん縮まってるってこともな」

「そういうことだったのですね。でも、それは別にシュウヤ様のせいじゃーー」

「いいや、俺のせいだ。後々のためって俺を鍛えようとしなけりゃ爺ちゃん達はもっと長く生きられたはずなんだ。……それを俺が潰しちまった。俺が殺したと言っても何も変じゃないさ」


 ただ、サーシャの言うことも分かる。爺ちゃん達はそれを分かった上で、自分の命を削って俺を鍛えてくれたんだ。俺が落ち込むっていうのは筋違いだし、そんなことで時間を潰してちゃ失礼以外の何物でも無い。それをする位なら、せめてどんな手を使っても爺ちゃん達を救うべきだった。



「……だから俺は、どうにかして爺ちゃん達の命を救おうって考えたんだ。俺の世界は医療技術が発達してるから、今のうちに知識を蓄えて、将来的に凄い腕を持つ医者になれれば、爺ちゃん達を救う手立ても見つけられるはず。そう信じて、修練の休憩時間やら怪我で動けない間とか全部つぎ込んで、必死に知識を頭に叩き込んでた。俺との修練を辞めようとはしなかったから、それしか方法が無かったんだ」


 俺が医療の道に進む事になったきっかけ。それは見知らぬ誰かのためでは決して無く、ただただ俺の大切な人達を救いたいという感情からのものだった。例のクソ野郎の胸ぐらを掴んだのは、事情を知らないとはいえその想いの一端を馬鹿にされたからである。


「……でも、そもそもの時間が足りなさすぎた。結局そのあと二年から三年の間に爺ちゃん達は立て続けに死んでな、残った婆ちゃんも別の病を新たに発症して入院した」

「その方は、今は?」

「去年死んだよ。爺ちゃん達とは違って一般人だから体もそこまで強くなかったし、加齢で抵抗力も弱まってたからな」

「そうですか……」

「ああ。だから改めて言うが、大切な人を失う感情は俺にも良く分かる。迷惑だなんて欠片も思ってないから、そこら辺は安心してくれて良い」

「分かりました。ありがとうございます」

「おう。……そういやサーシャ、俺からも少し聞いときたいんだが」

「何ですか?」

「お前やレミールが俺を積極的に援助してくれてる理由についてだ。無属性であるダグダがいたからなのは何となく分かるが、それでも何処か過剰じゃないか? 別の理由があるようにしか思えないんだが」


 こないだ抱き着かれた事もそうだが、どうにも他に何か重要な要素がある気がする。だって会って二ヶ月半の男にやるとは思えない事結構されてるわけだし。


「別、という程でも無いですよ。確かに同じ無属性である事も大きな理由ですけど、仮に他の属性でも積極的に関わっていた事は変わりません。……実を言うと、シュウヤ様はお父さんとそっくりなんです。顔つきもそうですし、体格も殆ど同じ。まあ、お父さんの方が少しだけ雰囲気は柔らかかったんですけどね」

「はいはい、悪かったなー目付きが悪くて」

「そう拗ねないで下さい。……シュウヤ様と初めてお会いした時、お父さんが帰ってきてくれたように感じたんです。いえ、勿論別人であることは分かっているのですが、私達にはどうしても他人とは思えませんでした。二度と見ることが出来ないはずの姿を見れて嬉しかったのと同時に、次はもう失いたくないと思ったんです」

「そういうことか。納得した」

 同じ立場に置かれたら、多分俺だって同じ事をする。それが他人と分かっていたとしても、何かしらの情は抱くことになるだろう。それが人間というものなのだから。



「……ん? お前が俺に頭撫でられて喜んでたのって、もしかしてそれが理由か? 単純に撫でられるのが好きってだけじゃなくて、姿の分の補正もかかってのもの?」

「あ、はい。そうですね。昔お父さんに良くやってもらってて、それを思い出してたんです。力加減までそっくりですし」

「何かそこまで行くと怖いんだが……」


 世の中には自分と同じ顔を持つ人間が三人だか五人だかいると聞いた事があるが……ここまで来るとちょっとなぁ。いやまあ、それはそれで失礼な気がしなくも無いけど。



「それで、シュウヤ様。最初の質問に戻るのですが、返答から察するにやはり何か能力を持っていらっしゃるのですか?」

「……まあな。詳しくはまだ言えんが、確かに変なもんは持ってる。ヒュドラを倒せたのだってそのおかげだ。そこは認めるよ」

「ということは、今までシュウヤ様が起こしてきた規格外の行動も全て?」

「いや、そういうわけじゃない。少なくとも武術に関しては今までの努力が積み重なったものだし、魔法に関しても無関係ってことだけは分かってる」


 能力生成(スキルメーカー)はあくまで能力を作る能力。それ以外の機能を持ってるわけじゃ無いし、異能と魔法の欄以外は能力生成(スキルメーカー)そのものとは無関係だ。てことは、これまで作った五つの能力以外に俺を構成する要素は無い。


「それ以上の事は何も分からんがな。どうして俺がこんなもの持ってるのかも。……すまんな。俺もこの世界に来てから初めて存在に気付いたし、まだ使いこなせてるわけでもねぇんだ。今回倒れたのだって、どうもその副作用みたいなもんらしいし」

「そうなんですか!? 何と恐ろしい……」

「ダグダが持ってた能力には、そういったものは無かったのか?」

「分かりません。あったのかもしれないし、無かったのかもしれない。先程申し上げた通り、お父さん本人ですらどういったものか良くは分かっていなかったんです。ただ……」

「何だ?」

「二つだけ、ハッキリと言えることがあります。一つは危険だということ。あまり制御が効かず、辺りを巻き込んでしまうため人前では絶対に使わなかったみたいです。詳しく知ることが出来ないのも、危険故十分な検証が出来なかったからだと語っていました」


 広範囲殲滅系の攻撃能力か……精霊魔法と同等、もしくはそれ以上か?なんつうもん持ってたんだよ。


「もう一つは、能力の存在はお父さんとお母さん、それと私の三人しか知らなかった事。ただでさえ無属性として周りに良く思われていないのに、特殊な能力を持ってると知られては余計に変な目で見られると考え、私達家族以外には誰にも教えていなかったようです」

「……それを知られたからこそ狙われた、っていう可能性は?」

「無いと思います。お父さんはシュウヤ様みたく人間の気配や視線にも敏感でしたから、使用の際はこの上無く気を付けていたはずです。……それに、万が一見られても誤魔化しが聞く能力でもありましたから」


 派手なくせに誤魔化せるのか。でも、魔法とは違う特殊なものなんだよな……?そんなものを周囲の人間が怪しまないとは思えないんだが。


「そうなのか? それって一体どんなーーあ、詳しく言わない俺が聞くわけにもいかないか」

「構いませんよ。私としても、シュウヤ様には知っていただきたいですから。……とは言っても、語れる事など極僅かなものではありますが。お父さんが言うには、風を巻き起こす能力だったそうです」

「巻き起こす? 操るじゃなくて?」

「はい。操るのではなく、能力を使った結果膨大な風が生成され、周囲を破壊するものらしいのです。詠唱がいらないから風魔法ではなく、何か声が聞こえるわけでも無いから精霊魔法でも無い、そもそも無属性であるお父さんがその二つを使えるわけもありませんし」

「……成る程。端から見たら風を操ってるようにしか見えないから、魔法陣魔法と思わせる事が出来るってわけか」

「そういうことですね」


 それなら確かに、見られたところであまり問題は無いかもしれない。軽い噂位なら立つだろうが、誰もそれが特異な能力とは思わないはずだ。



「最後にお聞きしますが、シュウヤ様の持つ能力は大まかに言うとどういったものなのですか? 先程仰っていた通り詳細では無くても良いですので、せめて系統は教えていただきたいのですが。場合によっては、お父さんが持っていた能力の秘密も分かるかもしれませんし」

「系統……うーん」


 アレは何て言ったら良いんだ?生産……いや、物体を作るわけじゃないから違うか。補助っていうのも違う気がする。


「超特殊系……としか言い方が思い付かん。ヒュドラとの戦いで毒を無効化したのは一つの作用ではあるが、本質ってわけでもないし。少なくともダグダのものとは全くの別物だ。広範囲を破壊するなんて出来ないしな」

「そうですか……分かりました。答えていただきありがとうございます、これ以上は聞かないでおきますね」

「助かる。あまり教えられなくてすまんな」

「いえいえ。気にしないで下さい」



 さて……何だかとんでも無い事を色々知っちまったな。レミールが言ってた、俺がサーシャの支えになっているという謎の言葉。あれの答えは父親と俺との共通点にあったのか。

 そして塞ぎ込んでたのは父親が亡くなってしまったからと。改めて、思い出させちまったことに申し訳なさで心が一杯になるな。


 ダグダが持ってたつー能力の詳細も気になる。だが風に関係する能力……てことは、能力生成(スキルメーカー)じゃ作れないと考えてみて良いだろう。俺は正確には系統外であり、風に関係する能力を作ったり操ったりする事は出来ないのだから。



「あ。そ、それでですね……話も一段落しましたし、差し支え無ければお願いしたいことがあるのですが」

「うん?」

 そんな事を考えていると、サーシャが急にもじもじとし始めた。何故かチラチラと俺の方を見てくるが……何だろうか。


「その……よろしければ、頭を撫でていただきたいのです」

「あー……まあ、その位なら別に良いぞ。減るもんでも無いし」

「良いんですか!?」

「ああ。色々教えてくれた礼と、謝罪代わりにな」

「で、では、お願いいたします」

 差し出された頭にポンと手を置き、傷付けないよう優しく撫でていく。最初はかなり遠慮がちだったものの、時間が経つにつれ段々とほぐれていき、最終的には「えへへ……」と笑顔を浮かべながらこちらに体重を預けてきていた。父の懐かしい感触を思い出しているのだろう。


 そんなサーシャに苦笑しながら、頭の中ではもう一つの気になる事を考え続けていた。ダグダを襲った奴らは、果たして何者だったのだろうか、と。


 無属性がかつて、時には殺されていた存在だと言うことは既に知っている。だが、俺はあくまで伝承を信じる民間での出来事だろうと思っていたのだ。

 しかし、サーシャが語った内容はそれとはかけ離れていた。たった一人を殺すのに、わざわざ精鋭を揃えて襲わせるなど正気とは思えないし、そもそも簡単に出来る事ではない。そんな組織が本当にあるとしたらーー



「まさか……な」

「? どうかいたしました?」

「いや、何でも無い。気にしないでくれ」


 それからは再度サーシャが運んできてくれた夕食を食べつつ、互いの過去について色んな話をした。サーシャは両親から聞かされた事やレミールの地獄のしごきの話を、俺は爺ちゃん達との日々の修練の話を。どちらかの限界が来るまで、少しも飽きずにずっと。


 ……誰かと過去を語り合う、なんてことを俺がすることになるとはな。互いの境遇を知り、それを更に深めあって、たった一夜なのにかなり親密になってしまった気がする。

 本来避けるべき事ではあるが……こうなる事はむしろ自然な気がするし、仕方無いとしておこう。そんな事を思いながら、俺の意識は緩やかに沈んでいったのだった。

執筆の励みになりますので、良ければ評価やブクマ等してもらえると嬉しいです。

また、誤字報告や表現がおかしいところへの意見などもお待ちしております。

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