第26話 実技試験 協力者達ver.
翌々日の朝八時頃、制限が解けた俺はギルドに赴いていた。扉を開け中に入ると、そこにいた職員と冒険者達の視線が一斉に突き刺さり、あちこちでひそひそ話が始まる。
第一の理由としては、恐らくヒュドラの一件が関係しているだろう。Sランク魔物の出現及び討伐の噂は広まり、けれど現在この王都にクルツや城の騎士団魔法師団を除きそんな芸当が出来るものは殆どいない。
となれば選択肢は限られており、時が経てば正解に辿り着く者も少なからずいるだろう。生き残るために戦ったとはいえ、まーた目立つことになっちまった……今更だけどさ。
そして第二の理由だが、まあこっちは簡単。今視線は俺に向いているが、同時に俺のすぐ後ろにも注がれている。周りと関わってこなかった俺が仲間とおぼしき二人を連れてるとなれば、そりゃ誰だって注目はするだろう。
「ここが冒険者ギルド……か。まだ朝なのに人で溢れ返ってるね」
「あれ? 何か私達凄い見られてるような……は、入っちゃいけなかったのかな?」
「気にしなくて良い。相手する必要も無いしな」
周囲の気配に押されつつも歩を進める佐々木と八雲。日々の訓練により一応は精霊魔法を扱えるようになったらしく、昨日それを告げられ今こうして共にギルドにやってきたというわけだ。
ステータスの属性欄にそれぞれ追記がされているところからも間違いは無い。国王やジキルやクルツにも見られたような、精霊らしき不自然な魔力の流れだって体の周りに出来てるしな。
ちなみに八雲は治癒魔法も少しは使いこなせるようにもなったらしい。まあ精霊魔法以上にヒーラーとしても一応協力してもらうわけだし、それくらいは出来るようになってもらわないと困る。この世界に来てもう二ヶ月半も経ってるわけだしな。
二人を引き連れカウンターに向かい、クルツへの面会許可を申し出る。受付嬢は二人をチラリと見たのち微笑み奥に進むよう促してきた。顔パスみたいになってて非常に便利である。
「ほら、行くぞ」
「えっ、あれっ? 登録するんじゃなかったの? カウンターでやるんじゃ……」
「お前らがあそこで色々やると大騒ぎになるだろうからな。奥でやった方が安全だ。ま、属性の内一つはどうせ後で知れ渡るだろうがな」
廊下を進みながら小声で返答する。八雲は希少な特殊属性複数持ち、そして佐々木は精霊属性かつ三属性者。ここに来た当初、魔法師団長たるあのジキルでもあんな醜態を晒したのだ、一般の冒険者が見て騒がないはずがない。変なことを企む奴は絶対出てくるし、それなら出来るだけ伏せた方が良いと判断した。
まあ今言った通り、精霊使いというのは多分後で広まるけどな。そこら辺は自分で何とかしてもらおう。俺もそこまで気にかけるの面倒だし。
「クルツ、俺だ。入るぞ」
ギルド長室の扉をノックし中へと入る。クルツはいつものように書類仕事をこなしており、俺に気付くと軽く手を挙げた。
「おお、シュウヤ君か。こないだぶりだな。……ふむ、後ろの子達は?」
「例のやつ、と言えば分かるだろう?」
「ああ、そういうことか。成る程、君達が……」
席を立ち俺達の前に立つと、二人の顔をじっと眺めながらうんうんと頷くような動作をする。こいつらの事は既にクルツには教えてあり、冒険者となる際は良くして貰えるよう頼んでおいたのだ。
戸惑う二人に対し微笑みかけ、ソファに座るように促してきた。片側にクルツ、もう一方に俺達三人が座る。
「えっと……沢渡君。これは一体」
「というか修哉君、この人ってギルド長なんじゃ……。何でこんなに親しげなんだい?」
「む? シュウヤ君、この子達には何も言ってないのかい?」
「あん? ……あー、そういや言ってなかった気がすんな。忘れてた」
突然一週間いなくなって心配させた例の件については、軽い説明はしたもののクルツとの細かいやり取りについてはカットしてたはず。他人の家に泊まってましたなんて城の連中に下手に知られるわけにはいかなかったからな、仕方無い。
口外厳禁を前提とし、俺の冒険者登録の際の出来事と宿泊の一件を簡単に説明した。Cランク四人との対決から既に微妙な顔をしていたが、クルツとの戦いの時には完全にポカンとしており、練兵場の一部をぶっ壊した事に関しては最早どこか諦めたような顔をしていた。
「何かもう頭が追い付かない……」
「騎士団の人達まとめて相手にしてた時点で驚きのひと言だったけど、あれはまだ序の口だったんだね……。ヒュドラ? とかいう凄い魔物倒したっていうのは聞いたけど、具体的に想像出来る分今の話の方がよっぽど衝撃的だよ」
「うーん? ヒュドラを倒す事の方が余程有り得ない事のはずなんだが……シュウヤ君、これは私がおかしいのかね?」
「さあ? そこら辺の事はどうでも良いし、さっさと話を進めようぜ。予め言ってなかった俺も悪いが、いつまでも話してちゃ日が暮れちまう」
正直どっちが凄くてどっちが有り得ないとか興味ない。そんなこと話してる時間があったら早く話を進めてもらいたいものだ。俺だって魔法の練習で忙しいし。
「そうだな、ではそうしよう。シュウヤ君の話だと、確か二人は属性の組み合わせが希少なんだったか?」
「ああ。表でやると間違いなく狙われるだろうから、登録は別室でやらせてもらいたい。出来るか?」
「構わんぞ。何ならここでやってくれても良い、というかむしろ私も見てみたい」
「それが本音か」
「ハッハッハ。同じ精霊使いだからな、気になるのも仕方無い」
「それはアンタじゃなくて俺のセリフだと思うんだが……まあ良いや。ともかく良いなら良いで早くやらせてもらおうか。こいつらにはとっととランクを上げてもらわなきゃならんのでな」
「了解だ。すぐにでも手配させよう」
そう言うとクルツは一旦部屋を出て、数分後一人の受付嬢を引き連れて戻ってきた。受付嬢の手には二枚の個人情報記入用紙とダイナグライトの水晶がある。それを机に置き、ではと言い残し仕事に戻っていった。
属性判定をしている内に、俺は書類に情報を書き込んでいく。二人は本来俺のように勇者であることを秘密にする必要は無いのだが、俺と共に行動するのなら扱いは俺と同じようにすると国王から告げられているらしい。他の勇者達が冒険者として経験を積み始めるのは一ヶ月程後からであり、それに先んじて経験を積めるのだから文句は無い、と条件を飲んだのだとか。
勇者であることを隠すということは、当然この書類だって俺と同じく日本語で書いてはいけない。しかし二人は俺とは違ってこの世界の言語を学んだわけではないので、こうして代筆を任されているというわけ。
「精霊と治癒、そして精霊と火と風……まさか本当だったとは。いや、別にシュウヤ君の言葉を疑っていたわけではないが、この目で見ないことにはどうしても信じられなくてな」
「その言葉、この間のヒュドラの時も言ってなかったか? まあ気持ちは分からんでもないが。……それで、実技試験は誰が担当するんだ?」
「ついでだし私がやろう。内容は、そうだな……ノゾミ君は的の破壊、トモヤ君はそれに加えて少し手合わせ願おう。アイキドウとやらが少し気になってな。私も格闘術には心得があるし、どうせなら戦ってこの身で受けてみたいと思ったのだ」
「……成る程。分かりました、それなら是非ともやりましょう」
(…………ほぅ)
心の中でつい感心してしまう。普段から少しばかり雰囲気が緩い佐々木が、今の言葉で一瞬で引き締まった顔付きに変わった。完全に武道家の顔だな。
ステータスには確かに合気柔術(大)とあるが、それほどまでに自信があるのか。ならば、俺としても是非とも見せてもらいたいものだ。
その後いくらか話をし、四人で練兵場へと移動した。そこにはいつかのように訓練を行う教官と冒険者達がおり、クルツの姿を見るや否や中断し揃って頭を下げてくる。
佐々木と八雲は居心地が悪いのか微妙な顔をしていた。分かる、分かるぞその気持ち。こういう場合ってどんな顔をすれば良いのか判断に詰まるところがあるよな。
「ここら辺で良いだろう。では、順番に魔法を見せてもらうとしようか。まず八雲君」
「はい! お願い、力を貸して。……風よ!」
八雲がそう唱えた直後、大量の魔力が体から溢れ出し風へと変換されていく。精霊魔法に詠唱は無い、だが精霊に語りかける言葉自体は必要らしく、今唱えたものがそれに値する。詠唱魔法の詠唱とは全然違うが、魔法を行使してくれという意思さえ伝われば良いってクルツも言ってたしな。
生成された膨大な風は、直径が人の身長に近い巨大な弾丸を形取り、高速で発射されたのち的を粉々に破壊する。だがそれでは飽き足らず、的の先の地面を轟音を立てながら削り取りようやく弾丸は消滅した。
「どうでしょうか?」
「うむ、合格だな。では次、トモヤ君」
「はい。頼んだぞ、皆」
的に掌を向けた八雲とは違い、佐々木は胸の前でまるで願うように両の掌を合わせた。溢れ出した魔力は水と土に姿を変え、やがて混ざり合い濁流となって的を押し潰した。
その様子に訓練を行っていた者達はフリーズし、八雲は軽く苦笑いを浮かべていた。八雲の契約精霊は風のみ、それに対し佐々木は水と土。属性が違うため簡単に比べる事は出来ないが、扱える属性が少ない分劣っていると感じたのだろうか。
跡形も無くなった的を見て佐々木はガッツポーズをしており、八雲と同じく「どうでしょうか?」と言いながら振り返る。だが先程とは違い、クルツはまるで信じられないとでも言わんばかりに目を見開いていた。
「……マジか」
「えっ。もしかしてダメでしたか!?」
「いや違う、むしろ逆だ。精霊魔法同士の合成というのは非常に高度な技でな。詠唱魔法と違って単体でかなりの破壊力を誇る分、長年修練を積まねば出来ぬ技というのがまず一つ。それから、あー……君達、精霊についてはどの程度知っている?」
クルツの問い掛けに対し、俺達は顔を見合わせ揃って首を傾げた。思えば『精霊魔法』についてはある程度知っているし二人は修練も積んできたが、その元となる『精霊』に関しての知識はほぼ無いに等しい。というか、書庫の書物にすら殆ど記述が存在しなかったのだ。
「ハッキリとした自我を持つ存在であることと、四つの属性の精霊が存在するということ、それと精霊属性を持ち尚且つ認められた者しか見ることは出来ない、というのは知っています。ですがすみません、それ以上は……」
「謝ることは無い。そもそもの精霊使いの絶対数が少ない故、精霊に関しての資料は殆ど無いのが現状なのだ。仮に日々の生活を通して何か知ることが出来ても、それが他の精霊使いに共通することなのか確証が無い以上、書物に載せる事も叶わんのだ。申請しても許可が下りん」
「……その言い方だと、アンタは何か知ってるのか?」
「まあな。世界を旅した中で他の精霊使いだって見てきたし、私自身長年使っている。その中で確信したことなら一応」
「それでも良い、教えてくれ。こいつらのためにもなるし、俺も興味がある」
「勿論だ。私としても、自分が知り得た事が一人でも多くの人間のためになるというのなら、喜んで教えよう。……まあ、それほど多くの事を語れるわけでも無いんだがな」
小さくため息をついた後、顔を引き締め俺達に向き直る。その様子に、佐々木と八雲も無意識かどうかは分からないが背筋が伸びていた。
「そうだな……まず、君達は精霊をどんなものだと考えている?」
「どんなものとは、どういう?」
「何でも良い。姿形だったり、性格だったり。ただ単にどんな存在なのかとかいう、君達なりのイメージを教えてほしい」
「うーん……そうですね。何となく高貴なイメージがあります。崇高とかそういうのもありますね」
「私は可愛らしい感じかな。いつも楽しげに飛び回って、賑やかにお喋りしてるような。後は……とても素直な子達だと思ってます」
「書物には使役とかそういう言葉があったが、簡単に上下関係を決められるようなものじゃない気がする。精霊使いじゃない俺には良く分からんが、一番近いのは……魔力と魔法を媒介にして人間と相利共生の関係を築く存在……とか? 他に人間と接触する利点が見当たらないしな」
それぞれの意見に対し、クルツはふむふむと頷いている。が、特に的を射ているわけでは無いようだ。むしろ否定的な表情すら見せている。
「成る程。まあ確かに、そういう考えをするのが自然だろう」
「しかし実状は違う、と」
「ああ。シュウヤ君の意見は私にもどうなのか良く分からないから一旦置いとくが、これから話すことは他二人の意見とはかけ離れたものになる」
「ということは、本当はとても恐ろしい存在だってことですか?」
「そういうんじゃない。ただなぁ……」
そう言いながら、クルツは頬を掻き気まずそうな表情を見せる。一体何を言い出すのやらと身構えてしまったが、内容を聞いてからは「ああ、そりゃ確かに言いづらいわな」と思うようになった。俺達が想像していたのとは全く違うものだったからだ。
「私の経験から思うに、精霊の特性は大きく分けて二つ。一つは嫉妬、もう一つは独立なんだ」
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