第4話 救いようの無い奴
「…………………………」
佐々木は赤城を見て押し黙っていた。
いや、正確には赤城に対し怒りと呆れで押し黙らずを得なかった、と言う方が正しい。その証拠に、さっき王と対面していた時よりも更に表情が険しくなり、額には青筋を浮かべている。
かけた言葉自体には全く問題は無い。事情を知らなければ俺達はこれ以上どうすることも出来ないし、限りなく不本意だがそこに関しては俺も赤城と同じ考えだ。
佐々木もそのことは理解しているはずだし、仮にそれだけならば今のような状況にはなっていないだろう。だが、声をかけた時の表情と雰囲気がマズかった。
俺がさっき情報収集を終えクラス連中を見回したあの時。落ち着いた半数のうちほぼ全員が死んだ目をしていたが、その中で二人だけ違う目をしていた。
一人は勿論情報収集をしていた佐々木。そしてもう一人が、死んだ目どころか全く逆、黙りながらも期待に満ちた表情をしていた赤城だった。
その時俺は、もしかしたらこいつは俺と同じくほぼ間違いなくこの状況に察しが付いているのではないか、と思っていた。そりゃあまあ、こんな訳の分からん状況になって慌てるどころかむしろ喜んでるんだから、この先の状況が分かっているのだろうなと予想は出来る。そしてその予想は、王から発せられた「勇者」や「召喚」というワードに、より一層目を輝かせたところで確信に変わった。
この反応を見るに、俺と同じように物語の世界観に飲み込まれ、しかし俺とは異なり勇者そのものに憧れ自分自身もこうなることを望んでいたのだろう。
もしかしたら、こいつが持つ正義感というのは、物語の勇者への憧れから来ているのかもしれない。見た目の意味でのスペックが高く、正義感が強く人助けに自分の力を惜しむことなく注ぐ。実際の中身はどうあれ字面だけ見れば正しく勇者といったところだからだ。
まあそれはともかく、だ。別に何を想い、何を考えるかは個人の自由。それを侵害する権利は誰にも無い。ただし、実際に行動し現状に影響を及ぼすというなら話は別。
この野郎、召喚に対し如何にも「待ってました!」とでも言いたげな喜びの雰囲気と表情を、よりにもよってつい直前に勝手に召喚したこと自体に怒りを露にした佐々木に、それも真っ正面から向けやがった。しかも本人は佐々木の更なる怒りを呼び起こしたことに気付いてすらいない。
佐々木は今即座の帰還を第一に考えている。本人が言葉にした通り、俺や赤城とは違い事情は良く分かっていないんだろう。だが王が発した言葉から、これから先は今までとは違い決して安全とは言えない状況になると言うことだけは理解しているらしい。
だからこそ、そうなる前に早く元の場所に皆で帰りたいと願い問い掛けた。そしてそれが不可能だと知り、この状況の元凶である王に怒りを向けている。
しかし、そのことについて王と話そうとした矢先、本来クラスをまとめ第一に考えるべき立場のはずの赤城が、そのことを全く考えず完全に浮かれている姿を見せている。今自分がやっていることを本来真っ先に行わなければならない人物が、だ。
そりゃあキレて当然だろう。未だに赤城を叱りつけていないことが逆に不思議でならない。周りがどうなろうと構わんと思ってる俺ですら、今の佐々木には同情を禁じ得ないからな……。
視界の隅で他のクラス連中の様子を確認する。さっきまで目を輝かせていた連中も、この雰囲気を感じたのか皆無表情……いや、中には顔を青ざめさせている者までいる。これが普通の反応のはずなんだがなぁ……うーむ。
俺は去年、つまり高一の時も赤城とは同じクラスであり、不本意にも今年を含め一年半ほど教室という同じ空間にいた。だが、ここまで考え無しな様子は今まで見たことが無い。
勇者として呼ばれたという事実に浮かれきっているせいだろうが、それを考えてもこの状況となると、こいつ救いよう無ぇなとしか言えない。人の心情考え無さすぎである。
相も変わらず笑顔を浮かべる赤城相手に、佐々木の目はますます険しくなっていく。殺気というレベルではないが、それでも射殺さんばかりの視線という表現が正しいだろう。
だが、やがて佐々木は諦めたようにため息をつき、
「……分かった。確かに僕も冷静さが欠けてたかもしれない。色々と文句を言うのは後にしよう」
と言った。半年も赤城を補佐してきたのだ、これ以上何を言っても無駄だと悟ったのだろう。……まあ、今明らかに言葉を強調してたから、説教の一つや二つはするんだろうが。
「ああ、皆もそれで良いよな?」
赤城はそんな佐々木の葛藤にも目もくれず、明るい声と表情でクラス連中を見回しながら言い、全員がそれに頷いていた。半数近くのものが渋々といった感じだったところを見るに、やはりこの事態に色々思うところがあるのだろう。
だが、このままでは何も変わらないのも事実。早く事情を知り、何とかしなければならない。全員の心には、それだけが共通事項として浮かんでいた。
皆の様子を確認し、王がそれでは、と説明を始めた。ここに来てから時間にして十分ほど、これでようやっと話を聞くことが出来る。
一瞬ヒヤッとするようなことはあったが、佐々木が怒りを収めてくれたおかげで無事解決。だが、あの赤城がこの状況にいつも通り皆の先導をしているということに、俺は言い知れぬ不安を覚えていた。
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