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シーカーズ ~大器晩成魔法使いの異世界冒険譚~  作者: 霧島幸治
第二章 キュレム王国編 後編
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第19話 煉獄狼の真価

 叫び声を上げながら突っ込んで来るロックワームを、俺達は左右に散開してかわす。つい一瞬前まで自分がいた場所が飲み込まれいく様に、冷や汗を流さずにはいられない。


 攻撃をやり過ごすと同時に駆け出し、その長い胴に向かって大剣を振るう。突進の最中は脇が無防備となるため、これが大きな攻撃チャンスになるーーはずだった。


「……ッ。かってぇ……」

 ガインッ! という音と共に大きく弾かれ、バランスを崩してしまう。次の瞬間、俺とは反対側に転がったと思うと今度は尻尾が高速で迫ってきて、慌てて防御するも体勢が整い切れておらず、今度は数十メートル程大きく吹っ飛ばされる。


「がっ! ぐっ! ごっ!」

 立ち並ぶ木々に衝突しながら減速し、地面にゴロゴロと転がっていく。普通ならここでもう詰んでいるところだが、並列思考(マルチタスク)のおかげで飛ばされながらも周囲の状況はしっかりと把握しており、手や足での殴り付けで衝撃の軽減をしたためどこも折れてはいなかった。


 しかし、安心したのも束の間。起き上がった時には既に本体が迫っており、横っ飛びに回避することで事なきを得る。

 勿論今度は攻撃などせず、距離を取って体勢を立て直す。尻尾が鼻先を掠めていったところからも、下手に踏み込んでいれば先程の二の舞いになっていた事は明白だ。



 こいつの硬さを甘く見てはいけない。確かに見た目は単なる岩だし、そこから名前も付けられてはいるのだが、あれは正確には岩に良く似た頑強な甲殻だ。そこらの岩なんかよりもずっと硬く、生半可な攻撃はまず通らない。


 ……ということは知ってはいたが、まさか俺の一撃も弾かれるとは。確かに高速移動してるから鈍重な武器で狙った場所を攻撃するのは難しいし、あまり攻撃が通らない事も覚悟はしていたが……それでも少しのヒビくらいはいくのかと思ってた。

 ところがどっこい、実際は浅い傷しか付いておらず、甲殻の下の肉にはまだまだ遠い。素の状態だととても敵わないと見た方が良いだろう。



「ガルル……!! グルォオオオオ!!」

 視界の端で、ヘルハウンドが魔法を連発している様子が確認出来る。恐らく、俺に攻撃が集中しないように気を引いてくれてるんだろう。こいつに有効な物理攻撃手段を持ってないわけだし、遠距離攻撃を多用するのは正解と言える。


 だが、ロックワームにはそれすらあまり効いているようには見えない。多少甲殻を削ってはいるが、相手も生物である以上動き続けているので、同じ場所に連続して当てて壊すという手も取りにくく攻めあぐねている。


 ……ま、それも当然のことだ。こいつらは同じAランクだが、それはあくまで人間側が被害の程度に応じて勝手に決めているに過ぎない。

 他の生物から見ればその視点だって変わってくるし、相性によっては下のランクの者が上のランクの者と善戦を繰り広げる事だって珍しくはない。例え同じランク内でも、相性が悪ければ勝敗は一方的なものとなる。


 この状況が正にそんな感じだろう。クソ硬い甲殻に俊敏な動きからの突進や爪での攻撃など通じず、魔法も効果が薄い。一方俺もこいつに付いていけるだけの速さの攻撃は軽すぎて意味が無いし、重い一撃はまだ技能が十分で無い故効果的に当てることが出来ない。今の俺達にとって、こいつは相性的には最悪の敵であると言えよう。



 一旦距離を取ったヘルハウンドから意識を逸らし、今度は俺に向けて尻尾を振り下ろしてきた。直ぐ様横に回避するが、当然ロックワームはそれを予想しており、地面との衝突直後凪ぎ払いの用量で尻尾を振るってきた。


「チッ。身体強化(ブースト)!!」

 攻撃の到達より一瞬早く魔法を起動し、僅かに軌道を逸らし安全を確保する。続けてこちらも打ち込んではみるが、先程より傷は深くはなるものの砕けるまでには至らない。


 まあそれでも一応衝撃としては大きかったようで、少しだけだが怯んだ様子を見せる。その隙に、ヘルハウンドも魔法を撃ち込んでいた。

 良し、俺も追撃をーーと思って近付こうとしたその時、突如全身を踊らせメチャクチャに暴れ出したのでたまらず退散する。攻撃というよりかは俺達を強引に振り払おうとしているようで、揃って距離を取った直後にロックワームは全く別の場所へ向かって突進していった。無論逃走を図ったわけではない。



「ウォウ!!」

「分かってる! 来るぞ!」

 跳んでいったロックワームは少し離れた位置で急停止。そしてその分の勢いをも利用し、尻尾を地面へと何度も叩きつけーー俺達に向かって大量の岩石を飛ばしてきた。


 先に言った通り、ここら一帯は半ば荒れ地のようになっている。多分こいつが暴れたせいなんだろうが、地面には巨大な岩がゴロゴロ転がっているのだ。

 こいつが今向かったのはそれが一番顕著なエリアであり、障害物となる草木が一本も生えておらず、こいつにとっての()のみが大量にある場所。魔法が使えない代わりに、今こうして岩を使って遠距離攻撃を仕掛けてきた、というわけだ。



(……予め情報を知ってなかったら危なかったかもな)

 大砲のごとく襲い来る岩の弾幕をかわしながら思う。キュレム王国の防衛記録に目を通した時、魔物の攻撃の余波による岩石の飛来で大きな被害を受けた、という記述を見た事があったのだ。


 それが偶然だったのか意図的なものだったのかまでは書かれてなかったし、そもそもどんな奴の仕業かも分からなかったが、目の前にいるこいつの巨体ならやってもおかしくはないと警戒していた。だからこそ、今こうして普通に対処が出来ている。


 もし事前に情報を知らず警戒もしていなかったら、この攻撃は完全に予想外のものとなっていた。そうなれば一発位はでかいのを貰っていたかもしれない。

 いや、小さいのは食らいまくってるんだけどね。大した痛みでも無いから無視してるだけで。



 まあそこは別にどうでも良い。予想通りの展開になって落ち着いて行動しているというだけの話であり、少々規模が大きいだけでいつもやっていることと何も変わらない。


 そう、それは良い。問題は……岩の回避に集中せざるを得ないという、この隙だらけの状況をアイツが見逃すはずが無いということ。



「ヴロロロォォォオオオオオオオ!!!」

 ヘルハウンドに比べ遥かに鈍足である俺は、木々や飛んでくる岩をも足場にし体をひねってアクロバットに攻撃をかわさざるを得なかった。それ故、俺の体は殆ど空中にあると言っても過言ではない。

 しかし、空中にあるということは踏ん張りが利かないということ。俺はそこを狙われ突進を食らう羽目になり、抵抗が無い故先程よりも高速で飛ばされる。けれど道中に減速をしてくれる木々は無く、俺は一直線に岩壁へと叩き付けられた。



「がはっ……!」

 一瞬息が止まり、直後自由落下にて地面にも叩き付けられる。全身に走る痛みを堪え何とか立ち上がるが、巨体は眼前へと迫りつつあった。

 今更完全に回避することは出来ないし、もし出来たとしても無理な体勢になってすぐには立ち直れまい。そうなれば尻尾の追撃を食らうことになり、どのみちゲームオーバーだ。


「ガルッ!? グルォオオオオッッ!!」

 ヘルハウンドの焦ったような叫びが耳に届き、続いて魔法がぶつかる音もしたが、それでも勢いが全く衰えることは無い。ロックワームは大口を開け、俺を食らうために真っ直ぐに突進してくる。獲物を手に入れた喜びからか、それとも俺の幻覚か……迫る顔は嗤っているように見えた。



 回避は不可能。身体強化(ブースト)を使ってすら斬撃はまともに通らず、体はビクともしない。


 だから俺は、全力で大剣を振りかぶりーーロックワームの顔を()()()()()、方向を逸らして岩壁に衝突させる。その分今度は胴体が迫ってくるが、俺の位置までは届かず地面を擦りながら停止する。それを眺める余裕もなく、俺は大剣を杖代わりにして息を荒げていた。


 そして、先程まで俺の体の内側のみで起こっていた変化が、徐々に体表にも現れていく。血管が浮き上がり、目は血走った様子を見せた。息が乱れたのは何も痛みだけではない、これは能力の()()()でもある。



「ヴロロロロォォォオオオオオオオ!!」

「うるせぇ……」

 体を起こし、再度吠え出すロックワーム。そこから放れた尻尾の一撃を、俺は迎撃するだけでなく甲殻をも破壊し打ち返した。苦悶の叫び声が上がり、堪らず体をくねらせ暴れ始めた。


「調子に乗ってんじゃねぇぞ……虫ケラが……!!」

 駆け出した俺に対し、今度はその巨体で押し潰そうとしてくる。だが、今の俺にそんなものが当たるはずもない。


「がぁぁぁああああああああああああ!!!!」

「ヴロロロォォォオオオアアアアアアア!!??」

 俺は回避すると同時に腹側の甲殻を破壊し、のけぞった隙を逃さず手当たり次第に大剣を振るっていく。効率も何も考えず、ただただ武器を叩き付けヒビを入れ粉砕していく。剣というよりかは最早ハンマーのように使っていると言った方が違和感が無いかとしれない。


 普段の俺にあるまじき愚かな行為。こんなもの、最早武器術とは言えない。仮に当真爺ちゃんがこれを見たのなら、有無を言わさずボコボコにされているだろう。


 だが、今この場ではこれこそが最適解だった。俺の大剣術など、所詮は初心者に毛が生えた程度のものであり、身体能力と業滅刃に頼りきった紛い物でしかない。そんなものがAランクの化け物に通用するはずが無く、ならば効率など度外視でひたすらダメージを与えた方がずっと良い。


 ……いや、違うな。正確に言えば、効率など考えられる状態ではなかった。慣れていないというのもあるが、この能力は使えば使うほどまともな判断が出来なくなる。

 事実、この時既に俺の意識は飛びかけていた。それを止めてくれたのだから、やはりあいつには感謝せねばなるまい。



「ガルルォォオオオ!!」

 ヘルハウンドの焦りを込めた声が響き、それがきっかけとなったのか急速に意識が戻っていく。同時に能力を解除し、ロックワームから大きく距離を取り膝に両手を着いた。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

 これしか方法が無かったとはいえ、この能力はまだ調節が上手くいっておらず、その影響で今ので大分体力を使ってしまった。まあそのかいあって、状況は随分と良くなったようだが。

 ロックワームの体を見ると、俺の攻撃によりあちこちが破壊されみすぼらしい姿となっている。気配も最初に比べて随分と弱々しくなってるし、このままいけば倒せるかもしれない。……俺が万全の状態だったら、の話だけどな。



「ぐ……ぅ……」

 体を打ち付けた痛みがぶり返し、耐えきれず膝を着く。無理矢理体を動かした分、さっきよりも更に酷くなっているのが分かる。果たしてあとどれほど剣を振れるだろうか。


 まあ普通に考えたら、振れる振れない以前に動けてる事がおかしいんだけどな。爺ちゃん達に日常的にボコボコにされて痛みへの耐性が付いてなきゃ、俺も今頃地面へと倒れ込んでいるだろう。何せ、この俺が苦しむ位のダメージなんだからな。



「ガゥ…………」

「心配すんな、これに関しちゃ自業自得だ。それより、一つ頼んで良いか?」

「ガゥ?」

「俺はもう、そう長い事戦えない。俺だけであいつを倒すのは不可能だ。そしてお前だけでもあいつを倒しきれるかは分からない。だから……一発全力でぶちかましてもらっても良いか?」

「オン!」

「助かる。それじゃ、頼んだぞ」


 俺を心配して近寄ってきてくれたヘルハウンドと軽い打ち合わせを済ませ、俺はゆっくりと立ち上がりロックワームを見据える。一方のヘルハウンドは、少し離れた場所で目を閉じ棒立ちになっている。


「ヴロロロロ……」

「さて……いい加減終わらそうぜ」


 俺は大剣を手放すと、今度は腰にささった剣を引き抜いた。ダメージを与えるよりも、なるべく負担を軽くして長く武器を振るっていたかったのだ。

 何で限界が近いのに時間をかけるのかって? そりゃ勿論、これからするのは戦闘じゃなく単なる()()()()だからだ。体力も大分減ってるから、そんなに長くは持たないんだけどな。



 吠えるロックワームに肉薄し、甲殻が剥がれた部分へと斬撃を浴びせる。身体強化(ブースト)も使わず、痛みで力も弱々しくなっているから殆どダメージは入っていないだろう。


 だがこれで良い。意識を俺のみに向けさせるだけで十分だし、その点俺はさっき散々こいつを殴りまくったのだ、そんな俺に攻撃されれば嫌でもこっちを意識することになる。ずっと続けてればいつかは効果が無くなるだろうが、そこまで長引く事は無いので気にする必要は無い。



 三~四回剣を振るった頃、ロックワームが動き出しその長い体で俺を取り囲んできた。そして徐々に輪が狭まってくる。普通に攻撃をしてもかえって怯んで隙を晒すだけと見て、俺を締め上げるつもりのようだ。


 勿論これも予想通り。懐から二つ魔石を取り出し、投擲し炎を上げさせ動きを一瞬止める。

 正直なところ魔力を込めるという感覚は未だに良く分かっておらず、何となくやってみたら出来てしまったのでそのまま今に至る。いざという時に発動しなくなる事も考えて早いとこ感覚を掴みたいところだが、それはまあ追々やっていけば良いだろう。



 止まった隙を逃さず甲殻に足をかけ脱出し、また攻撃を浴びせる。そして一分後、とうとう限界間近となった俺の元に朗報が届く。どうやら間に合ったようだ。


「ガルルルルルルル…………」

 現れたのは例のヘルハウンド。しかし、先程とは違いその体は膨大な熱量に包まれていた。少し離れているはずなのに、顔が火傷しているんじゃないかと錯覚してしまうほどだ。


 いや、もしかしたら多少はなっているのかもしれない。実際、ヘルハウンドの口からは炎が漏れ出しており、それが散りながら大気中を漂っているのだから。


 その様子に気圧されたのか、ロックワームもしばらく動きを止めた。だが、どうやら真っ先に排除すべきは俺ではなくヘルハウンドだと判断したらしく、体をくねらせ尻尾を叩き付けようとした。その行動が、自分の死期を早めるものだということも知らずに。



「ガルルォォォォオオオオオオオオオオオンンン!!!!!」

 次の瞬間、ヘルハウンドが口を大きく開き爆炎を放出した。炎は一瞬でロックワームの下半身(?)を焼き焦がし、やがて燃え移り残りの部分も物凄い勢いで燃やしていく。


 煉獄の息吹ーーヘルハウンドのステータスの異能欄に載っていたものであり、簡単に言えば炎を超圧縮し放つ広範囲焼却攻撃である。元々ヘルハウンドは炎のブレスを放つ事が出来るのだが、本来弾にして撃ち出すところを強引に圧縮して撃ち出し暴発させることで、射程が短い代わりに超高温の炎が範囲内のものを焼き尽くすのだとか。



「ガル……ゥゥ……」

 攻撃を放ち終わった後、プシューと音を立てながら体から煙が上がり、ヘルハウンドは地面にへたり込んでしまった。威力は見ての通り強力の一言に尽きるのだが、その反面炎を圧縮する行程にかなりの集中力を要してしまうのだ。長所と短所は表裏一体とは正にこのこと。


 棒立ちになっていたのはそのためであり、圧縮の最中は殆ど動くことが出来ないらしい。しかも早くても一分かかり、圧縮しきるとあまり長い時間溜め込んでおけないので、相手からあまり離れずにじっくり時間をかけなければならない。

 ……要は、実戦ではあまり使えない技と言って良いものなのだ。もし使うなら、今回のように誰かがヘイトを稼ぎつつ時間を稼がなくてはならない。


 更に撃った後も問題であり、かなりの体力が持っていかれるのと一旦体を冷まさなければならないため、使用直後はあまり動くことが出来ない。他にも喉が焼け(ただ)れるためしばらくはブレスを撃ったり吠えたりすることが出来なくなるという。どこぞの竜○砲みたいだな。



 まあそれでも、生命活動に何の支障も無いのは凄いところ。ヘルハウンドの毛皮は耐火性に優れているらしく、煉獄の息吹を何発撃とうが深刻なダメージを負うことは無い。爛れた喉もしばらくすると元通りになるみたいだし。


 実際、素材を加工して作った防具はドラゴンの炎ですら食らったところはほぼノーダメらしいから、冒険者達にとっては喉から手が出る程欲しい一品なのだとか。勿論、Aランク最上位の生物の素材が出回る事など滅多に無いのだが。



「良くやってくれた。後は任せてくれ」

「ガゥウ…………」

 頭を撫でてやりたいところだが、未だに熱が残っており触ると大火傷するので労いの言葉のみをかける。そして大剣を拾い、再び正眼に構えた。


 目の前のロックワーム、実はまだしぶとく生きている。煉獄の息吹は確かに強力だったが、甲殻が防御壁となり本来の費用対効果ならぬ威力対効果が出なかったのだろう。そうでなければとっくに死んでいるはずである。


「ヴロロロロ…………」

 僅かに息があり、燃えながらもこちらを睨んでくる。このまま放っておいてもいつかは死ぬだろうが、その前にこいつは残った力を振り絞って俺達を殺しにかかるだろう。だから、その前に殺さなければならない。



 最後の足掻きとばかりに全力で突進をしてくる。だが俺を食おうとした時に比べて弱々しく、その速度故俺は安心して技を放つ事が出来る。


「撃ち砕けーー滅龍刃!」

 正面に立ち大剣を掲げ、残った魔力を振り絞って身体強化(ブースト)を発動し一気に降り下ろす。いつかのようにロックワーム()を両断し地面を砕き、轟音を響かせ地割れを引き起こした。これでやっと終わったのだ。


「対象の……絶命を確認……うっぷ」

 そしてそのまま俺は地面へと倒れ込んだ。言うまでもなく魔力切れであり、吐き気に悶えながら痛みで動けないというジレンマを味わう事になる。

 何とまぁ締まらない終わり方である。まぁ、ただえさえ体力も魔力も限界だったところに更に魔法を使ったのだから、なるべくしてなった事ではあるのだが。



 ほどなくして復活したヘルハウンドに周囲の警戒を任せ、俺は魔力切れからの回復に勤しむ。吐き気に慣れ気分が比較的落ち着いたところで、俺は一人で反省会をしていた。


 今回の一件は真面目に反省点だらけである。

 魔物と気付かずに岩に近付いたのがまず論外。今回戦ったのは、あくまで逃げたら確実に追ってきて被害が広がるから仕方無くやったことであり、事前に鑑定眼で正体が分かっていれば戦うか逃げるかの選択が出来た。それを潰して二人いっぺんに危険に晒したのは重罪としか言いようが無い。


 戦闘が始まってからも様子を見過ぎたのも減点ポイント。岩を飛ばす前段階で実力を見切り、早々に手札を切っていればここまでボロボロになることは無かった。

 確かになるべく使いたくない手ではあるが、だからと言って渋った挙げ句被害を増やすのは阿呆としか言いようが無い。最初から底を見せるのもどうかと思うけど、そこら辺を見切るのはまだまだ経験が足りないという事だろう。


 時間稼ぎの時の巻き付きだって、魔法陣魔法の怯みからの立ち直りが早かったら、少し危なかったかもしれないしなぁ……。他にも挙げればいくつもある。全くもって情けない。



「今回の戦いは……良い経験になったな」

「ガゥ?」

「ああ、気にするな。こっちの話だ。お前も良く頑張ってくれたな、ありがとう」

「オン!」

 手を伸ばし頭を撫でてやると、嬉しそうに尻尾を振っていた。まだ出会って一週間の野郎に心を許すのはどうかと思わなくもないが……まあ良いか。



(しっかし……こいつじゃなかったのか)

 さっきまでロックワームだった焼死体を見てふと思う。

 俺はヘルハウンド一家に会ってからずっと考えていた。一体誰が夫婦に傷を負わせたのだろうか、と。


 Aランクの魔獣、それも二頭が生半可な奴相手にボロボロになるとは思えない。また、人間と戦ってはいないことから高位ランクの冒険者の線も消える。


 そこで俺が出した結論は、この森に住むもう一種の化け物か、もしくはグレイス平原の魔物達に襲われて傷を負ったというもの。深い傷を負った状態で超距離を移動するとは考えにくいから必然的に近距離ってことになるし、この付近ーーというかこの大陸内で魔物が超密集してるエリアなんてグレイス平原しか無いし。



 そして今回、そのもう一体と見られるロックワームと激突したわけだが……ハッキリ言ってこいつに夫婦がボコボコにされるとは思えない。煉獄の息吹は俺がやったように甲殻を剥がしてからじゃないと、こいつに対してはそこまで大きな効果は出ないっぽいが、それを考慮してもちょっと。というかこいつらだったら普通に逃げられるだろ。


 てことは、やっぱりこいつじゃないんだと思う。夫婦がやられる程の奴、もしくは奴らレベルの相手が平原にはいるってことを考えると……気が滅入るなぁ。俺この先やっていけるんだろうか。



 そんな事を考え憂鬱な気分になりながら、回復を待った後俺はヘルハウンドの背中に乗ってその場を立ち去った。こうして本格的な調査は終了し、次の日一家に一旦別れを告げ、俺は街へと帰還したのだった。

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