第15話 調査開始
「「「「「いや、行くなよ(行かないでくださいよ)!!」」」」」
翌朝、クルツからの依頼の件をサーシャと佐々木と八雲、あと元々佐々木と話し合っていた高坂と近衛にも他言無用で話したところ、ハモりながらの総ツッコミを食らってしまった。予想通りではあるが、まさか寸分違わずタイミングが重なるとは思ってなかった。
「どう考えても危険過ぎるでしょ……。何で拒否じゃなく保留にしちゃったのさ」
「そりゃまあ、受けるつもりだからな」
「いや何でだよ! 確かに強いのは分かるけど、流石に個人の力でどうこうなるレベルじゃねぇだろ!」
「というかギルド長もギルド長でしょ……。国の騎士団がどうにもならなかったことを、何で沢渡君個人に頼んじゃうの?」
「今までは想定外の出来事ばかりでしたけど、今回は初めから危険度が分かりきってるじゃないですか。それなのにどうして……」
「沢渡。悪いことは言わない、絶対に行くな。自殺行為と理解してて行くのは馬鹿としか言いようがないぞ」
ため息をついたり、額を押さえたり、呆れの視線を真っ直ぐにぶつけてきたり。五人の反応は様々だった。
ちなみに何で高坂と近衛も話に入って来ているのかというと、実は二人も八雲とはまた別に俺を訪ねてきていたらしく、俺の動向を知りたがっていたそうだ。追い返すのも面倒だし、そうしたところで後から佐々木あたりに聞くのが目に見えていたので、こうしてまとめて説明している。
尚、二人は佐々木や八雲のように俺と冒険者をやる気は無いそうだ。精霊と契約を結びさえすれば一応すぐに戦力となる精霊属性とは違って、基本属性しか持たない以上日々修練を積み重ねなければならず、いつ頃まともに戦えるようになるのか確かではないので他の連中と頑張るとのこと。特に近衛は元々インドア派だから、武術面でも活躍出来るわけじゃないし。
その理論で行くと、いつ精霊と契約を結べるかが全く分からない佐々木と八雲が俺に付いてこようとするのもおかしな話だが……まあそこは今考えなくても良いだろう。他属性のことは良く分からんが、もうすぐ結べるかもしれないとかそういう感覚が精霊属性にはあるのかもしれないし。
「……お前らの言いたい事は分かった。だが、俺は今更辞退する気は全く無いぞ」
五人の意見を俺は真っ向から切り捨てる。何を言われたって俺は依頼を拒否する気は無い。
「勘違いしないでもらいたいが、俺は別に悩んでたわけじゃない。あくまで事後報告が嫌だったから一旦保留にしただけだ。それに……」
「それに?」
「今回は討伐じゃない、あくまで調査だ。何が起こってるのか、それさえ判明すればもう戦う必要すら無い。俺個人に依頼されたのも、大人数で行くよりも少人数で行く方が良く、尚且つ万が一戦闘になっても生き残る確率が高いが故のことだ。俺が最も適任、そして俺としても経験として役に立つ。なら行かない手は無いだろう?」
「そ、それはそうかもしれないけど……なら別に一人じゃなくても良いじゃん。他の強い人、例えば他の大陸に行っちゃってるSランクを呼んでくるとかーー」
「それまでの間に何も問題が起こらない保証は?」
「……………………」
俺の反論に対し八雲は押し黙る。行く行かないの話になってしまっているが、今一番注目すべきはそこでは無いのだ。
「何か大きなことが起こってるのは何となく知っていた。だけど少数の安全を考えて対処が遅れて、結果として問題を未然に防げずに大きな犠牲を出しちゃいました。……そんな風になるのだって十分有り得る。そしてそこで責められるのは誰なのか、言わなくても分かるよな?」
全く知らなくて対処出来なかったというのも問題だが、知っていて尚且つ放置していたというのはもう話にならん。一番把握していたはずのクルツに、ギルドを抱える国のトップーーつまり国王達、そしてまだ十分に強くなっていないとはいえ、仮にも勇者として召喚された俺達だって少なからず批判は受けるだろう。それは避けなければならない。
別に俺を卑下する奴らがいくら批判されようがどうでも良いが、事態を防げなかった原因に自分が含まれるというのは正直胸糞悪いのだ。そういった意味でも、今更拒否するつもりは無い。
「そういうわけだ。てなわけで、またしばらく城を空ける。今回はそれを言いに来ただけだ」
「……お帰りはいつ頃になられますか?」
「さあな。数日ごとには帰ってくるつもりではあるが……って、あれ? お前が一番俺を止めるかと思ったんだが、妙に諦めるのが早いな。サーシャ」
「止まる気は無いのでしょう? それとも、必死に言えば止まってくださるのですか?」
「んなわけはない」
「ええ、でしょうね。まだ会って一ヶ月ですけど、一度決めたことを簡単に曲げるような人では無いことは分かってます。誰が何を言っても止まることはないでしょう。なら、私はただ帰りを待つのみです。ですが……」
そこまで言うとサーシャは一旦言葉を切る。そして俺を真っ直ぐ見据え、再度口を開いた。
「今まで何回も言ってきましたけど、改めて言わせてください。絶対に、無事に帰ってきてくださいね」
「ああ、善所すーー」
「善所ではなく、絶対にです」
「……分かった、絶対に帰ってくる。約束する」
サーシャの頭にポンと手を置き、それに対しサーシャは顔を綻ばせた。この間城を長く空けた事を謝罪した時要求されたのだが、どうやらサーシャは頭を撫でられるのが好きらしく、依頼を受けるために外に行く度に要求されるようになった。
「「「「………………」」」」
「ん? どうしたお前ら」
そっと手を離すと同時に複数の強い視線に気付き、周りに顔を向けてみる。すると、佐々木達四人が揃って何とも言えない目を向けてきていた。
「いや、その……」
「もうそこまでの仲になってたのか、と」
「……そこまで?」
「だからその、親密な感じというか。恋人一歩手前位の雰囲気というか」
「は?」
高坂の意見に対し俺の頭の中にはクエスチョンマークが大量に浮かんでいく。他三人もうんうんと頷いており、俺は思わず頭を抱えてしまった。
「ハァ……何を言い出すかと思えば、そんな下らん事考えてたのか。呆れて何も言えん」
「く、下らない?」
「当たり前だろ。俺達は一刻も早く強くならなくちゃいけないんだぞ? そんな時に恋人とかなーに下らない事抜かしてんだ。そんなん考えてる暇あったら、少しでも魔法の練習でもした方がずっと良いだろ」
「え、いや、あの……それは男としての摂理というか」
「逆に聞くけど、そういった事に興味とか無いの?」
「あるわけねぇだろ。生まれてこの方一度も抱いた事無いわ。放っといても入ってくる知識程度なら知ってるけどな」
爺ちゃん達との生活でそんなもの不要どころか邪魔以外の何物でも無かったからな。高校入ってからも周りと関わる気なんてさらっさら無かったわけだし、そんな状況で余計な感情なんて抱くはずも無かろう。
……おい何だその目は。何で俺を憐れんだような目で見てくるんだ。てか本当にこの状況で良くそんなものに興味持てるなお前ら。
「あーもう、何か頭痛くなってきた。ともかく、そんな事に時間割くくらいならずっと魔法の練習してろ。特に高坂と近衛、お前らは真面目に努力しないといけないんだろ? なら、下らん事なんて考えず一刻も早く強くなれ」
「あ、ああ。分かっとる」
「……それで、話は戻るが。俺はしばらくいなくなるから、何かあったらサーシャに言っといてくれ。俺も忙しいし、一々会って話す時間があるとも限らんしな」
「了解。それじゃ修哉君、頑張ってね」
「言わずもがなだ。約束もしたわけだしな」
この日はそこでお開きとなり、四人は修練、サーシャは仕事、そして俺は魔法練習と書庫の作業に没頭した。呑気過ぎる四人にこの上無い呆れを感じたが、まあどうなろうが自業自得と言うものだし、俺が何か言う事もあるまい。めんどくさいし。
そして翌朝。俺はギルド長室にてクルツと例の件について話し合っていた。
「てなわけで、伝えるべき事はもう伝えたから何も問題は無い。改めて、依頼を受注させてもらうとしよう」
「あ、うん。それは良いが……」
「どうかしたか?」
「……いや、何でも無い。少しは躊躇する素振りをその子達にも見せるのかと思っていただけだ」
「するわけねぇだろんなもん。経験を得るにあたって、本番に勝る訓練なんて存在しない。実際の戦闘こそが人を最も成長させるものだし、こんなチャンスを逃すわけは無いさ。アンタなら分かるだろう?」
「勿論。私も実戦を繰り返して成長してきた身だしね。だから、私はこれ以上何も言わない。それじゃ、依頼について細かく話していくとしようか」
「それが良い」
クルツと共に、一つ一つ内容を確認していく。
今回調査するのは一昨日も行ったスラーンド森林帯。帯という言い方も分かる通り、いくつかの森林が連なった地域であるため全部回るのは結構な時間がかかる。魔物や動物と戦う事も考え、その上で一人でくまなく調査するとしたら一ヶ月以上かかるだろうか。深い森の中を夜動くのは危険だし、昼間しか動かないとするとそれくらいになる。
方針としては、何か起こったら出来る限り俺一人で対処し、どう考えても無理なものだったら即撤退して報告せよとのことだ。何も無かったら無かったで全域を見回って終わり。
定期連絡に関しては、長くとも二週間ごとには入れなければならない。それを過ぎれば何かあったと判断し、また別の策を検討するらしい。
唯一の注意点としては、東に向かって進む時は特に警戒を強めろとのこと。何故なら、スラーンド森林帯の最東端はグレイス平原と目と鼻の先だから。
それなら魔物侵入し放題じゃないかと思うかもしれないが、グレイス平原の魔物が道ではなく森の中を突っ切ってくるなどそうそう無い事なので、大規模襲撃である可能性はほぼ無いとのこと。というかそんなんだったらすぐに分かるし。
ただ、あくまでそうそう無いというだけで単体なら強い魔物と遭遇する可能性だって十分にあるので、そんな時は身体強化で全力で逃げてくれとのこと。逃げられなかったらそこまでだが、まあそこで死ぬくらいならハナからこの世界で生き残る事など出来はしないだろう。
尚、その間の食費や衣服、あと簡易テント等の道具はギルド側が用意してくれるらしい。一応城からある程度持ってきたのだが……支給してくれると言うなら有り難く受け取っておこう。
「では説明は以上だ。荷物はそれなりに多くなる故、行きは馬車を用意するからそれに乗ってくれ。帰りは自力でよろしく」
「出発時間はいつになる?」
「積み込みもあるから……そうだな、十時位にしようか。それまで適当に時間を潰していてくれ」
「了解だ。俺も少し行きたい所があるから、それを済ませたら戻ってくる。十時には戻ってこれるだろ」
「分かった、ではそういうことで。……頼むぞ、シュウヤ君」
「ああ。もし帰ってこなかったら……そん時はどうにかして城に伝えといてくれ」
「縁起の悪い事を言うでない。無事を祈ってるよ」
話は一段落し、準備を待つ間俺はとある店を訪ね買い物をした。何を買ったのかって? 勿論塩である。
味付けに使うのは勿論だが、塩分というのは人体にとってかなり重要なものであり、体内の水分と塩分のバランスが崩れれば様々な弊害を引き起こす。森を駆け回る故少なからず汗はかくわけだし、食事以外でもこまめに補給しておいた方が良いだろうという考えである。体調不良で本気が出せませんでした、とかみっともないにも程があるし。
ギルドに戻った頃には準備も終わっており、馬車の中を覗くと予め言われていたものに加えて予備の剣が二本置いてあった。今俺はいつもの装備に加えて大剣も持ってきてはいるが、まあ予備があるに越したことは無いだろう。あんまり多いとゴブリンに奪われてめんどくさいことになるけど。
そして馬車に乗り込み、王都の城門を潜り森林へと向かった。所要時間は十二時間程。正直自分で走った方がずっと速いのだが、それだと荷物を運べないというのと単純に睡眠時間が足りなくて少し疲れていたということで、荷台に乗りゆっくりしていたのだった。
……ちなみにだが、人生初の馬車の乗り心地はあんまり良くなかったです、はい。乗り物が苦手な人は吐いてたかもしんないな。
サスペンションとかがあったらまだ良かったんだが、どうやらこっちの世界にそういった物は無いらしい。ある程度知識はあるから、落ち着いたらそういうのを作ってみるのも良いかもしれないな。
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