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シーカーズ ~大器晩成魔法使いの異世界冒険譚~  作者: 霧島幸治
第二章 キュレム王国編 後編
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第13話 サクサクやっていきましょう

「はい、依頼達成を確認しました。これが報酬金になります。素材の換金に関しては、あちらのカウンターをご利用下さい」

「了解した」

 一晩野宿をしたのち、俺はギルドへと戻り手続きを行っていた。肉と毛皮の換金を終わらせ、食事処にて朝食も済ませると直ぐ様掲示板にて依頼を選んでいく。昨日は簡単に終わってしまったので、もう少し強くて厄介な動物を相手にしたいものだ。



「となれば……これかな」

 手にしたのはプレンティエイプの討伐依頼。常に集団で行動し、一度に多くの数を相手にしなければならないところから付けられた名前らしい。一対多数っていうのはあんまり経験が無いし、ちょうど良い練習になるだろう。あ、騎士団のは準備運動程度にしかならなかったからノーカンで。


「えっ。こ、これを受けるんですか? 他のメンバーは?」

「他も何も、俺一人でだが」

「それはちょっと……。ゴブリンを始め、徒党を組む者が相手の場合はパーティで挑むことが推奨されーーえ? この方は大丈夫? わ、分かりました……。すみません、それでは手続きを行わせていただきます」

「ああ、頼む」

 止められかけたものの、脇にいた他の受付嬢が口添えしてくれたおかげで無事受注することが出来た。良く見たら俺がここに登録した時に対応してた人だし、俺の実力を知ってる故の行為だろうな。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「キキィッ!!」

「ウキャーーー!!」

「ふむ、まあ肩慣らし位にはなるかな」


 またもや数時間後。まるで動物園の猿山が如く、俺の目の前には大量のプレンティエイプがいた。正確に数えるのはめんどくさかったからやってないが、大体七十匹位か?

 書物によると一つの群れの個体数は普通は三十匹か四十匹位らしいので、()()()大集団にあたったらしい。もしくは二つの群れが共に行動してるのか。


「キーーーー!!!」

「おっと」

 木の上にいた一匹から石が投げつけられ、バックステップでかわす。それを皮切りに、七十匹が一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 これがこいつらの戦法。安全な位置からの投擲を群れ全員で行い、遠距離からボコボコにするという中々めんどくさい相手である。


 ちなみに、商隊などを見かけるや否や襲いかかり結構な被害をもたらすということで、そっちの関係の人間からは相当嫌われている。今回のも商隊からの依頼で、王都に来る道中で襲われたから代わりに殺っちゃってくれっていうものだった。



「ふん、まだまだだ」

 瞬行を駆使して石つぶてをことごとく避けていく。途中当たりそうなものもあったが、そういうのはキャッチして逆に投げ返してやった。


「グギャッ!!」

「投擲はお前らの専売特許じゃないってことだ。覚えときなエテ公共」

 体勢を崩した個体に速攻で詰め寄り、斬撃を浴びせて絶命させる。プレンティエイプは体形的にはテナガザルに近いので、確かに遠距離からの攻撃にかなり向いているだろう。だが、こっちだって接近戦が危険な時用に投擲術を磨いてきたのだ、今更反撃程度苦にもならない。



 十数分後、無事戦闘は終了。滅多うちになるのを警戒して懐に飛び込みにくかったのと、相手のフィールドである不安定な木の上でも戦わなきゃいけなかったので時間がかかってしまった。体長一・四メートルくらいのプレンティエイプが跳び跳ねてたから、俺が乗っても大丈夫と判断したが……やっぱり地面みたく安定してた場所の方がやりやすいなぁ。


 周囲に他に気配が無いことを確認し、倒した奴ら全員に剥ぎ取りを行う。プレンティエイプ……というか猿系の討伐証明部位は全て尻尾なので、根本から切り取っていく。

 尻尾以外の部分は一ヶ所に集めてそのまま放置。書物曰く猿系は肉が筋張ってて不味いらしく、鑑定眼も同じ内容を表示していた。というか不味いってことは誰か食ったんか。



「さ、帰るか。一回一回戻らなくちゃいけないのがめんどくさいよな……」

 ギルドにて受けられる依頼の数は一回につき一つのみ。依頼の独占を防ぐための決まりなのだが、貴重な時間を移動に割くことになるのはむず痒いものがある。速くて便利な移動手段でもあれば良いんだけどなぁ……無理か。異世界だものね。




「い、依頼達成を確認しました……こちらが報酬金となります」

 ギルドへと戻り手続きを済ませる。七十匹をFランクソロかつ日帰りというのは予想外だったらしく、少々ひきつった笑顔を浮かべていた。別にそこまで難しい相手じゃなかったと思うけどな。


 ……ああ、そうか。俺が無属性だからか。

 魔法による遠距離戦を満足に行えない無属性が七十匹狩ってきたんだから、そりゃ少しは驚きもするよな。実際は避けて切っただけなんだが、普通の人間にあれをやるのは難しいだろうし。



(魔法……か)

 今日の戦い、詠唱魔法が使えればもっと早く倒せたはず。わざわざ木になんて登る必要も無く、地面から狙い撃つだけで良い。恐らく百匹相手にしても数分とかからないだろう。

 昨日も思ったが、魔法が満足に使えないってやっぱり不便だよなぁ。何で無属性なんてあるんだろうか。


 ……まあ愚痴ってたって仕方が無い。詠唱魔法が使えないなら、せめて魔法陣魔法だけでも一早く身に付けるべきだ。そしてそれを最大限活用するためには魔石が必要になり、魔石を手に入れるためには魔物を倒さなきゃいけない。



 てなわけで、次からは魔物に挑みますか。昨日今日で狩りの感覚は戻ってきたし、このまま未知の相手と戦っても問題は無いだろう。なら、少しでも早く魔物と戦うべきだ。


「……と言っても、最初はゴブリンだろうけどな。はは……」

 言わずと知れたファンタジー世界お決まりの魔物。醜悪な顔付きをした全身緑色の人型の魔物であり、身長は一メートルくらい。力は成人男性と同等といったところであり、動きはそれほど速くなく頭は悪い。


 しかし、代わりに常に集団で行動する習性があり、度々人間や家畜を襲うので一般市民には脅威と認識されている。一匹ならまだしも、集団で襲われちゃたまらないだろうしな。



 その他の習性としては、襲った人間は男はそのまま殺して女は犯して子供を生ませてから殺すとか、冒険者の武具を奪って身に付けるとかそんな感じ。武器は基本木の棒を使うらしい。


 そして俺にとって一番大事な要素である魔石だが、ゴブリンから取れる魔石はDランク、つまり魔法陣魔法は使えない。害しか無いやんけ。



「しかも報酬金も一体あたりたったの銅貨五枚だしな。群れ滅ぼす位やらんと割りに合わねぇ……」

 まあそれでも経験は経験、有り難くほふらせてもらうとしよう。基本を疎かにするわけにもいかないしな。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「……と、いう感じなんだが」

「相変わらず無茶苦ーーいえ、何でもありません」

「どうした? 言いたい事があるなら隠さんでも良いだろ」

「大丈夫です。これくらいの事に驚いていては、この先身が持たないと悟ったので」


 翌朝、挨拶と共にサーシャにここ数日のことを聞かれたので、細かく説明してみたらこの有り様である。まるで俺が何かいけないことをしているみたいじゃないか。


 プレンティエイプの集団投擲に対しては、盾を使ったり物陰に隠れて魔法でチマチマ攻めるか或いは強力な魔法でゴリ押しするのが一般的らしく、石の雨を至近距離で全部避けあろうことか投げ返すとか普通しないです、と困り顔で返された。これが一番手っ取り早いんだがなぁ……。



「それで、もう慣れたから次はゴブリン退治ということですか」

「そんなとこだな」

「……まあシュウヤ様なら大丈夫だとは思いますが、一応忠告しておきますね。ゴブリンには稀に頭の良い個体が生まれる、ということをご存知ですか?」

「ああ。確かそいつが集団を率いると一層えげつなくなるんだっけか?」

 俗にゴブリンリーダーとか呼ばれているが、知略を絡めてくる分対処が難しくなるらしい。曰く、長年ゴブリンの襲撃を防ぎ平和な暮らしを送っていた村が、リーダーの出現によって一夜で滅びたとか。


「はい、場合によっては毒なども使ってくると聞いた事があります。なので、そういった対策も万全にしてから挑んで下さいね」

「ああ、勿論だが……ふむ」

「どうしました?」

「いや、何でもない。そうだな、準備は大切だからな」

 うーむ、どうしよう。念のため解毒薬とか買っといた方が良いんだろうか。状態異常耐性(この間手に入れたヤツ)で事足りるんだけど。


 まあ良いか。もしもの時を考えて、サーシャの言う通りにしておいた方が良いだろう。幸い薬屋の開店を待たずとも、ギルド内で簡単なものは買えるっぽいしな。




 そんなこんなで休息も兼ねて二日間書庫の作業をし、再びギルドにて依頼を受け街を出た。目的地は北東に広がる森林、所要時間はギルドから見て走り続けて六時間強。距離にして百二十キロはあるだろうか。


 ワイルドボアとプレンティエイプを狩った北西の森林に比べ、グレイス平原に近い分そこに住む生物の凶悪さは上がるという。世界にはグレイス平原のように膨大な数の魔物が生息する区域がいくつも存在するというが、そこの近くの国も似たような感じなんだろうか。


「こないだみたく、ソロはダメと一度止められはしたが……さて、どんなものかな。瞬殺はつまらんから少しくらいもってほしいもんだが」

 そんな事を呟きながら森の中を歩いていく。すると、前方の藪の中から妙な塊が三つ飛び出してきた。水色かつ半透明で、ぽよぽよと動いている。



「お、スライムか。実際に目で見るのは初めてだが、本当にこんな形してるんだな」

 スライムーー魔物の中で最弱と扱われている半透明の生物である。知性は殆ど無いと言われ、本能のままにあらゆるものを溶かし食らっていく。雑食とかそんなレベルじゃないな。


 生態を聞くだけなら厄介極まりないように思えるが、実は人間にとってはかなり有益な存在でもある。あらゆるものを食らうということはつまりゴミや排泄物も食ってくるということであり、この世界のトイレの処理はスライムのおかげで成り立っているようなものだ。


 勿論野放しにし続けると危険ではあるのだが、一体一体のサイズはそこまで大きくない上に食うスピードも遅く、多少放っといたからといって建物まで食われる事は殆ど無い。あと一応だが好き嫌いもあるようで、壁なんかよりも排泄物の方がーー失礼、これ以上話すのはあまりよろしくないな。



 まあそんなわけで、魔物の中では珍しく殺すよりも飼った方が良いと呼ばれている存在である。勿論、あんまり長い間肌に触れさせてたり体内に手突っ込んだりすると徐々に溶かされていくので、危険なものという認識は変わっていないわけだが。


 ちなみに、スライムのように人間に飼われ有効活用されるような魔物や魔獣のことを従魔と呼んでいたりもする。正式な届け出を出して認可を受ければ、街の中で堂々と連れて歩くことも出来るとか。



「……うん。まあこいつはスルーで良いかな」

 ここがもし経験値制のゲームの中なら普通に殺ってるところだが、生憎この世界にそんなものは存在しない。おまけに魔物の中で唯一スライムは体内に魔石が存在しないので、倒したところで無意味なのである。むしろ良い感じに体に這わせて汚れを食ってもらう方が良いんじゃなかろうか。


 ……というか、こいつってそもそもどうやって倒すんだ? 適当に殴れば良いとか本に書いてあったが、こんなゼリー状の体のどこを殴れと。あれか? 適当に散らせば死ぬとかそんな感じなのか?



 内心首を傾げていると、左斜め前方から気配がして目を向ける。木々が乱立するその中に、一瞬緑色の動くものが見えた。

 直ぐ様気配を殺しながら後を追い、ギリギリのところで木の上に登り姿を観察した。緑色の体に小柄な体、ボロボロの腰布……間違いない、ゴブリンだ。

 数は十……いや、隠れてるのも含めると二十だな。ちと物足りないが、まあ良いか。


「グギャッ!」

「ガガァッ、ギギャギャッ!!」

 ……何だ?どこか焦ってるように感じるが、何者かから必死に逃げてる様子でも無い。道中で何かあったのだろうか。


「失礼するぞ」

「グギャアッ!?」

 だがまあ、何があろうと依頼をこなすことは変わらない。悪いが全員ここで死んでもらおう。


 木の上から飛び降りると同時に剣を抜き、三匹の喉を一太刀で切り裂いた。返す刃で腕を斬り飛ばし、まずは反撃を防ぐ。直ぐ様近くにいた奴らにも斬撃を浴びせ、十体いたゴブリンは僅か数秒で全滅した。


「……む」

 剣についた血を払おうとしたところで背後から何本か矢が飛んできたので、振り返りつつ叩き落とし、その勢いのまま踏み込んで隠れていた個体も次々と斬り伏せていく。逃げ出そうとする奴もいたが、戦闘開始から一分後無事気配は全て消失し、ホッと一息をついた。



 そして血を払い剣を納め、剥ぎ取りを開始した。ゴブリンの討伐証明部位は左耳、魔石はめんどくさいので取らない。切り取った二十個全てを袋に詰めたのを確認し立ち上がった。

 


「……行ってみるか」

 ゴブリン達が元いたであろう方向を見つめる。もしかしたら俺の思い違いかもしれないが……それでも奴らは戦闘中ですら何処か気が散っているように見えた。焦っていたように見えたことも含め、どうでもいいはずの事が俺はどうしても気になった。


 足跡や掻き分けられた草木といった痕跡を辿り、走る事およそ三十分。そこは深い森の中においては異質とも言える広く開けた場所であり、遠くの山をも望むことが出来た。



「何だ……こりゃあ……」

 いや、異質なのも当然か。何せここは、恐らく作られて間もない空間だ。

 辺りの木々は薙ぎ倒され、そのことごとくが焼け焦げ煙を上げている。地面だってあちこちが砕けてるし、どう考えても自然に出来るような場所ではない。



 だが、何より目が行ったのは地面に転がる数々の物体。百を越えるであろうゴブリンの惨殺死体が、辺り一面に広がっていたのだった。

執筆の励みになりますので、良ければ評価やブクマ等してもらえると嬉しいです。

また、誤字報告や表現がおかしいところへの意見などもお待ちしております。

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