第12話 初討伐
遅くなって申し訳ありません!
先にお伝えしていた通り、二ヶ月程投稿頻度が落ちます。五日に一話とかも頻出すると思うので、そこら辺よろしくお願いいたしますm(_ _)m
「…………ん」
頭を何かに優しく撫でられるような感触に目を覚ます。これまた懐かしい感覚だな……。
「あっ、気が付かれたのですか?」
「……サーシャ? この状況は一体……」
目を開けると、まさに目の前にサーシャの顔があった。しかし顔の向きがどうもおかしい。
加えて、後頭部に感じるのは布団の柔らかさでもなければ床の固さでもなく、その中間のようなものを感じる。これは……。
「えっと、その……流石に私の力でベッドの上まで引き上げる事は出来ないんですが、かと言って床にそのままにしておくのもどうかと思いまして。それでこうして腿の上に頭を」
「ああ、そういうことか」
あれか。いわゆる膝枕ってやつか。
「もしかして、不快でしたでしょうか?」
「いや別に。むしろ助かった、床に寝ると体が凝るからな。……ところで、俺はどのくらい意識を失ってたんだ?」
体を起こしながら問いかける。それにサーシャが答えようとした時、ふと遠くから鐘の音が聞こえた。窓の外を見ると、太陽が既に真上に昇っているのが分かる。
「おい、まさか」
「昼課の鐘ですね……。今の鐘から分かるかと思いますが、四時間近く意識を失っておりました」
「マジか……というか、そんなに長いやってくれてたのか。済まなかった」
四時間も正座してるわけはないから、ちょくちょく休憩は入れてたんだろうが……それでもさせるというのは余計な苦労をかけてしまった。人の頭部って結構重いからな。疲れもしただろうに。
「いえ、お気になさらなくて大丈夫ですよ。その間ずっと寝顔を拝見させていただきましたので、特に退屈もしませんでしたし」
「寝顔って。俺のなんか見ても別に面白くないだろ」
「うーん……そういうのとは少し違いますけど、見ていて飽きないとかいうのはありますね。普段常にどこか強張った感じが伝わってくるので、安らかな表情を見れるというのは少し得した気分にもなりますし」
「ふぅん、そんなもんかね」
まあ確かに、寝る場所が違う以上見ることなんてそうそう出来ないからな。人間は貴重とか期間限定とかいう言葉に弱いし、そういった意味では俺の寝顔も楽しめるようなものに該当するのだろうか。
「……あ、昼ってことはもう飯の時間か。今まで寝てた俺が言うのも何だが、そろそろ行こう」
「そうですね。では食堂へご案内いたします」
そうして共に部屋を出て、廊下を歩いていく。ちなみにだが、メイドにはメイドのスケジュールが存在し、また主人とメイドは同じ机で食事をするべきでは無いとかいう風習もあるので、サーシャが今食堂で俺と共に食事を取る事は無い。全員時間一律にしてやった方が色々スムーズに行きそうなものだが……何ともめんどくさい決まりもあったものだ。
「ところでシュウヤ様、さっき倒れてしまった原因についてですが……」
「ああ。何となく分かってるだろうが、一旦制御が上手くいった後また元に戻っちまったみたいだ。それで魔力を完全に使い果たして気絶と」
まあ、正確には使い果たすどころかマイナスまでいってたみたいだが。四時間寝てたみたいだが、それにしては魔力の回復量が少ない。恐らく勢いが止まらなくて生命力も少し使ってしまったんだろう。
「やはりそうなんですか。まだ魔力切れにすらなっていなかったのに、あの一瞬で零にまでなってしまうとは……確かにあれでは使いものにはなりませんね」
「そうだな。だが、もう感覚は掴めた。そこはお前のおかげだ。ありがとな、サーシャ」
「いえ、私は何もしてませんよ。確かに後押し位は出来たかと思いますけど、実際にやったのはシュウヤ様じゃないですか」
「その後押しが助かったんだけどな。実際にやってみなきゃもっと遠回りになってただろうし、もしかしたら出来なかったかもしれん」
「そんな大袈裟な。シュウヤ様なら一人でもいつかは出来てましたよ。メイド長も言ってましたが、時折謙遜が過ぎますよ?」
「別にそんなつもりは無いんだがな……。とりあえず、後は俺一人でやってみるよ。次は問題無く出来る気がする」
「はい。一回出来たんですから、次からはきっと大丈夫です。頑張って下さい!」
握り拳を作って応援してくれているサーシャに対し、俺は頷いて返す。身体強化がああなった理由についてまだ疑問は残っているが、それは後でゆっくり考えることとしよう。
それからいくらか言葉を交わし、一段落ついて両者無言となる。特に話題も見つからなかったので、俺から話しかける気は無かったが……途中でサーシャはハッとした様子を見せ、慌てて俺に問いかけてきた。
「そ、そういえば……シュウヤ様」
「どうした?」
「今夜はどうなさるのですか? 城にいるのか、それとも出掛けてしまうのか」
「そうか、言ってなかったな。せっかくギルドに登録したのに訓練に情報収集と大分時間を使っちまったから、いい加減冒険者として本格的に動き始めるつもりだ。だからまあ、まず今夜はいなくなるな」
「そうですか……」
俺の返答に対し落ち込んだ様子を見せる。こないだの事があるから、いくらか思うところがあるんだろう。
「安心しろ、今度はちゃんとすぐに帰ってくるって。一昨日言った通り、もう何も言わずに長期間いなくなったりはせん」
「本当ですね? 絶っっっ対やらないと約束してください」
「お、おぅ。約束する」
今朝のように、だが今朝とは違い圧力を感じたじろぐ。一昨日謝罪した時同じようなやり取りをした覚えがあるんだが……繰り返されるってことはそれだけ心配してくれている証拠だ。
「なら良いです。どうか、無事に戻ってきてくださいね」
「当然だ。こんな序盤でつまづくわけにはいかないからな。だから、安心して待っててくれ」
「……はいっ!」
元気良く返事をしながら笑顔を向けられた。あんまり空けるのもアレだし、初回は二日か三日したら帰ってくるとしようか。
そして次の日の朝、俺は冒険者ギルドの前にいた。中へ入り、依頼が貼り出されている掲示板へと向かう。
途中俺の姿を確認した奴らがひそひそ話をしていたが、特に興味も無いのでスルー。この間も繰り広げられてた光景だし、今更気にする事もあるまい。
「さて……どれにすっかな」
Fランク以下対応の掲示板を見て考える。採取依頼を受ける気は無い……というか鑑定眼がある以上、今わざわざ経験を積まなくとも植物の種類は分かるので、討伐依頼を受ける事は確定している。経験は後々積めば良かろう。
というわけで、今悩んでいるのは動物を狩るか魔物を狩るかの二択である。動物の習性はもう大体知ってるから、早く魔物との戦闘経験を積みたいところではある。だが、高校に入ると同時に都会に移り住んだため、二年近く何も狩っていないのも事実。腕は少なからず落ちているだろう。
……まあ、動物と言っても書物を見る限りでは殆どのものは地球の奴らよりも遥かに強いので、最早別物として考えた方が良いのだが。魔獣とか特にそうだし。
「ふむ。じゃあこれにするか」
考えた末、まずは勘を取り戻すために動物を狩る事に決定し、紙を一枚剥がして受付に持っていく。無事受注が完了し、軽く食事を済ませて足早に王都の外へと向かった。
ーー数時間後。
「……思ったより遠い」
俺はやっと目的地である北の森内部へと辿り着いていた。幼い頃は準備運動がてら足場の悪い山道を何時間も走らされていたので、平地で数時間走り続けるなど朝飯前だが……それでもちょいとキツいものがある。
ちなみに、現在の装備は剣二本に短剣一本に投げナイフが十二本、それと申し訳程度の革鎧にいくつかの道具。久しぶりの狩りは慣れた武器でやりたかったので、大剣は城に置いてきた。無駄に重い物持ってても疲れるだけだしな。
「そんじゃ、とっとと片付けるか」
木の影に隠れ、安全を確保してから周囲の気配を探る。目を閉じ意識を集中させるが、特に何も感じる事は出来なかった。
ここの付近には対象はいない、そう判断し俺は奥地へと進んでいく。そうすることおよそ一時間、目当ての奴が現れた。
ワイルドボアーー簡単に言えば、巨大な牙を持ち体高が男性の背丈程もある猪と言えば良いだろうか。モン○ンのドス○ァンゴをイメージしてもらいたい。
生憎やったことは無いが、ネットで画像を見たことはあるからな。今目の前にいるのはそれにピッタリだ。
気配を消しつつ様子を伺っていると、ふいに食事を止め鼻を鳴らしながら辺りを見回し始めた。猪は嗅覚が鋭いからな、気配は無くとも匂いで誰かいることは分かってるんだろう。早目に終わらせた方が良いかもしれない。
キョロキョロと動く視線が完全にそっぽを向いた時、俺は一気に駆け出し後ろ足を切り裂いた。間髪入れずに脇から腹に斬撃を浴びせ、一旦距離を取る。だが……。
「ブォォオオオオオ!!!」
「やはり浅い、か」
致命傷には至っているものの、分厚い肉に阻まれて絶命とまではいかなかった。眉間にぶちこめれば一発なんだが、いかんせん位置が高いんだよなぁ。
最後のあがきとばかりの突進をステップでかわし、すれ違い様にもう一方から腹と足を切り裂く。それを最後にワイルドボアは地面へと倒れ、しばらくして完全に動かなくなった。今度こそ倒したみたいだな。
「討伐完了。さ、食事にするか!」
いい加減腹減った。軽食程度なら一応持ってきてはいるが、正直あんまり美味しくなかったのでこいつらの肉を昼飯にしようと考えていたのだ。
依頼達成には討伐証明部位、すなわちこいつの場合は尻尾を切り取ってギルドに提出すれば良い。肉は美味いからそこそこの値段で売れるというが、どうせこんな量持ち帰れないし。
そんなわけで、血抜きと解体をささっと済ませ場所を移動する。少し離れたところに川があったので、そこの近くまで肉を運んでいった。木々が生い茂る中で火なんか使ったら結果は目に見えているからな。
落ち着ける場所は見つかったので、次は材料集め。木同士を擦って火を着ける原始的なやり方だが、幸いこの国は日本よりも空気が乾燥してるみたいなので、そこまで時間はかからないだろう。
……とはいえ、それでもただ擦るだけでは面倒なのは変わらない。そこで木材だけでなくツタも集め、それを組み合わせて簡単な装置を作る。こうすることで、ツタを引っ張れば設置した木材が高速回転して簡単に火が着くようになるのだ。サバイバル術の一環として、爺ちゃん達から教わった知恵の一つである。
そして、着けた火を長持ちさせるために薪代わりに小枝を集める。さっきの木材もそうだが、生木では水分が含まれている分火が着くまで何倍も時間がかかるため、枯れ木や小枝を使うのが一番良いのだ。
最後に何回かトライして火を起こし、枝に肉を刺して焼いていく。勿論枝は川で洗浄済み。鑑定眼で綺麗な水っていうのは分かったから、特に問題は無いだろう。
「んー……旨いは旨いけど、調味料が無いから多少味気ない感じはするな。早く金貯めて買うとするか」
待つこと数分後、無事食事にありつくことが出来た。これで午後も問題無く動けそうだ。
(それにしても……)
肉を頬張りながら、どうしても考えてしまう。この一連の作業をすっ飛ばせる科学技術はやっぱり便利なもので、それが無いこちらの世界は結構不便なものなのだと。
勿論それの代わりみたくなってるのが魔法なわけだが、詠唱魔法が使えない俺にはいまいち便利さが伝わってこない。今回のことだって、元の世界で手慣れてたからこうしてちゃんと出来てるのであって、それが無かったら草とか食う羽目になってたかもしれない。
この先もこんな事は山ほどあるだろう。もしかしたら今まで習ってきたことや知り得てきたものが通用しない事態も出てくるかもしれない。その時のためにも、少しでも魔法を上達させておかなきゃいけないな、と改めて思った。
「……そろそろ寝床の準備でもするか」
暗くなってきた空を見て呟く。昼食を終えた後、せっかくだしと身体強化の練習も兼ねトレーニングをしていたらこんな時間になってしまった。久しぶりに思いっきり駆け回ったし、少しテンションも上がっていたかもしれない。
ワイルドボアに関しては、討伐証明部位と毛皮と牙、あと少しの肉を持ち帰り用にして残りは全部処理した。流石に全部は食いきれないし、内臓とかは何食ってるか分からないからな。無論ポイ捨てではなく森の中にいた狼にあげてきたので、そこら辺は許してほしい。
そんなこんなで、異世界初の依頼はあっさりと終わった。元々やってた事だし、達成感も何も無いけどな。てか食事の方が何倍も時間かかってたし。
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