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シーカーズ ~大器晩成魔法使いの異世界冒険譚~  作者: 霧島幸治
第二章 キュレム王国編 後編
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第10話 反省

昨日と同じパターンです。もう何も言うまい。

「べ、別に変な事してたわけじゃないよ? ただ単に、沢渡君を待ってただけで……」

「何で二人揃ってこんな時間まで待ってんのかが意味不明なんだが……。というか、お前らってそんなに仲良かったか? 二人で話してるところなんか一度たりとも見たこと無いんだが」

「まあ、そうだね。この子と仲良くなったのってここ数日の話だし」

「俺がいない間に何があった? まさか、何か問題が起きたんじゃないだろうな」

「違う違う。えっとねーー」



 八雲曰く、六日前の朝……つまり俺が着替えを取りに行った数時間後、訓練前に俺と話をするために八雲はこの部屋を訪れたらしい。そして中を覗いたところ、一枚の紙を持ってあわあわしてるサーシャがいたのだとか。

 勿論それは俺の書き置きなのだが、色々考えて「一週間空けるからよろしく 修哉より」と非常にシンプルに書いたのが裏目に出てしまった。


 冒険者として依頼を受ける以上、目的地によっては帰るまでに時間がかかる場合も勿論ある。だが、それはあくまで高ランクの場合のみ。

 俺が本来始めるはずだったGランクは基本的に街の依頼が中心となり、獲物を狩るために少し遠くまで行ったとしても、往復で一日かかるかかからないかという距離までしか依頼は存在しない。それなのに一週間とか言ったせいで、何か厄介事に巻き込まれて帰れなくなってしまったのかと深読みしていたらしい。



 いやー……だってねぇ?「クルツに剣で勝ったから、一週間泊まりがけで色々教えてもらうわ」とか書けるわけないでしょ。サーシャだけならともかく、もし他の人間に見られたら問題にしかならんわ。

 絶対「正体がバレたらマズいのに、家に一週間も泊まるとは何事だ!」とか言って怒られるっての。いやまあ、幹部の情報漏洩で既に一人にはバレてるんだけども。


 そんなわけで、俺の身の心配という共通点から幾度か会話を交わし、その内に僅かだが打ち解けたらしい。そして一週間後にあたる今日、二人で俺の帰りを待っていたということだ。サーシャは途中で限界が来て眠ってしまったのだとか。



「……依然として意味が分からんな」

「え、何で?」

「専属メイドであるサーシャならまだしも、何で関係の無いお前まで俺の心配をすんだよ。それに、騎士団の一件の後顔すら見せなかったのに、実は心配してましたって言われてもな。果たしてそれをーー」

「うっ。それは……ごめんなさい」

「え? ……あ」


 しゅんとした様子を見せる八雲に対し、しまったという感情が心に浮かぶ。何か良く分からんが、特に裏も無く好意で俺を心配してくれていたらしいのだ。それに対し、いくら疲れてイラついてるからって今の反応は無いだろう。



「……すまん、今のは俺が悪かった。忘れてくれ」

「ううん。来なかったのは本当だし、悪いのは私だよ。勝手に怖がってたわけだし……」

「怖いってのは、あの戦いの様子のことか? それとも俺の体の傷のこと?」

「両方、かな。沢渡君が無事で本当に良かったっていうのは勿論思ったんだけど、何で同い年の子があんな風に正面から人と斬り合えるんだろうっていうのも頭に浮かんで。その直後に傷だらけの体を見たから、その……てっきりいわゆる裏の人なのかなって」

「それで、近付いたら殺されるかもとか思ったのか?」

「そこまでではないけど……はい、そんな感じです。六日前ここに来たのは、そのことを謝りたくて」


 失礼な。……とも思いはしたけど、考えてみればそれが普通の反応か。一般の人間が過ごすような生活の中にいれば、こんな傷を負うなんて事はそうそう無い。自分達とは異なるものを遠ざけようとするのが人間ってものだし、こいつを特別責めることは出来んか。


 ……そう考えると、俺ホント酷い事言ったんだな。反省しておこう。



「ま、それは分かった。それについてはもう何も言わんが……だったらどうして俺にまた接触してきたんだ? 俺が絶対に安全っていう保証はどこにも無いわけだし、一旦離れたんならもう近付かないのが賢いやり方だろうに」

「……保証ならあるよ。こないだは衝撃が大きくて、つい頭から吹っ飛んじゃってたけど」

「ほぅ? 試しに言ってみろ」

「だって沢渡君、いつも素っ気ないけど……本当は凄く優しい人だもん。無闇に人に危害を加えたりするようなことはしないよ」

「…………え?」


 ここに来てまさかの精神論かよ。流石に空いた口が塞がらないんですが。



「それのどこが保証だよ……。確かに俺は基本正当防衛しかしないが、切羽詰まってる時は障害となると判断すれば誰だろうと容赦なく潰す。敵だろうが味方だろうが関係無い。そんな人間のどこが優しいんだ? 俺にはお前の思考が理解出来ん」

「それはあくまでそうするしかなくなった時の話でしょ? 程度の違いはあると思うけど、誰だってそうだと思うよ。それに……本当に冷酷な人だったら、こんな風に真っ直ぐ話してくれたりしない。この世界に来て悩んでた私に対して、あんな言葉をかけてくれたりしないもの」

「あれはただ単に、放っておく方が気分が悪かっただけだ。言っただろ。変に調子が狂うって」

「……そう感じてる時点で、酷い人のはずが無いんだけどなぁ」

「……………………」


 何だろう。この微笑みながらもちょっとニマニマしてるような顔見てると、何か無性に腹が立ってくる。アイアンクローでも食らわしてやろうか。



「……もう良い。平行線辿りそうだから、この話は終わりだ」

「ええぇぇぇ……そんな……」

「そんな、じゃない。時間を考えろ時間を。とっとと次の話にいかねぇと、お互いいつまで経っても寝れないだろうが。どうせまだ用はあるんだろ?」

「う、うん。えっとね。沢渡君って今冒険者として活動してるんでしょ?」

「ああ。そうだが」

 あ、この流れは……あれか。こいつもかよ……。


「その……」

「私も行きたいとか言うなよ?」

「私も行きたーーさ、先回りされた……。うん。今すぐじゃないけど、いずれもっと強くなったら私も付いていきたいの。佐々木君みたいに。駄目……かな?」


 遠慮がちに、だがそれでいて真っ直ぐに目を見据えてくる。そこには、佐々木に感じたようなしっかりとした覚悟が宿っていた。



「却下と言ったら?」

「頷くまでお願いする」

「それでも駄目だったら?」

「頑張って自力で付いていく」

「……………………」


 だろうなぁ……今のこいつの瞳、何があっても諦めないって感じだぞ。身体能力の差で足手まといになるっていうのを理由に断ろうと思ったんだが、どうやら無理そうだ。知らんうちに付いてきてどっか死なれてもアレだしなぁ……。



 こういう時ってどうすれば止めさせられるんだろうか。いくつか案を考えたが、そのどれもが有効とは決して言えない。

 精霊属性を持つ以上弱いということは有り得ない。治癒魔法により傷を治癒出来るから、佐々木で十分とは言い切れない。身体能力に関しても、魔法でゴリ押しするか少々俺達がカバーするかで何とかなっちまうしなぁ。


 他にもいくつかあるが、どこかしらで論破が出来る。佐々木っていう前例を相手が知ってる以上、誰とも組まないつもりっていうのはもう効かないわけだし。


 連れていく分危険は増えるが、佐々木みたくそれと同じ位メリットもあるから、簡単に切って捨てるってのが出来ないんだよなぁ……。きちんとした覚悟を持ってる人間を私情で追い返すっていうのはしたくないし。



 悩んだ末、佐々木にしたのと同じ質問をしてみた。何故孤立する危険を考えて尚俺と共にいようとするのか、何故他の奴らと組もうとしないのか。それを聞かなければ、共に行動することを許可するわけにはいかない。


「……もう今回みたいな思いはしたくない、っていうのが一番の理由かな」

 そしてその質問に対し、八雲は俯きながらそう回答した。



「今回?」

「この一週間のことだよ。しばらく帰ってこないってサーシャちゃんに聞いてから、ずっと心配だったの。無属性は良い扱いを受けないから、いくら強くても何かに巻き込まれるんじゃないかって。沢渡君なら大丈夫って思ってても、いつも心のどこかで反対のことを考えちゃって、気が気じゃなくて」

「……………………」

「だから、さっき無事に帰ってきた姿を見た時、本当に安心したの。ああ、やっと戻ってきてくれたんだなって。何も無かったんだなって。……でも、これは今回限りのことじゃない、これから先も何度だって味わうもの。そんなの辛すぎるし、だったら私は危険を承知でずっと沢渡君の側にいたいの。ずっと側にいれば、知らない所で何かが起こるんじゃないかって、心配することも無くなるから……」

「あー…………」

(それを言われるとキツい…………!)



 今回のこと、俺は心の底から反省している。ここまで心配されるとは思っていなかったとはいえ、実際のところ少し手間をかければ二人をそんな気持ちにさせることなど無かったのだ。


 具体的に言えば、初日と二日目の間に一日休みを設け、その間に城に残りサーシャに伝えれば良かった。そうしておけば、驚愕はされるだろうがそこまで心配をかけることは無かった。あのクルツが手をかけてるのに、わざわざ横槍を入れようなんていう馬鹿はいないだろうからな。



 しかし、俺はあくまで効率を優先しそうしなかった。一週間ぶっ続けで訓練をすれば、途中期間が空いて変に感覚が鈍ることも無いし、一日でも早く冒険者としての生活を再開出来ると考えて。


 そうして全部終わった後に事後報告すれば良いかと思ってた結果がこれである。俺はただ生き残るために強くなりたいのであって、人に無闇に心配をかけたいわけじゃない。その点で言うと、今回の俺の行動は明らかに失敗だろう。



 それを痛い程実感しているため、今そこを突かれると何も言えなくなってしまう。これは完全に自業自得だからだ。


「ハァ……もう分かったよ。今回は全面的に俺が悪いし、特別に許可してやる」

「ホントに!? 良いの?」

「ああ……ただし、せめて精霊魔法を完全に使いこなせてからにしろ。お前は身体能力面で弱い分、魔法で補わなきゃいけないからな。それが出来て、国王の許可を貰えてからの話だ」

「勿論! やったー!」


 満面の笑顔を俺に向けてくる。段々俺の周りに物好きが増えてきたが、中でもこいつは特に謎なんだよな。

 佐々木は俺の強さを求めて交渉をしに来たが、八雲はそういった事を一切考えていない。ただ俺といたいがために同行することを決めている。



 一体何故なのか、聞きたくはあるが……今は無理だな。もうそれどころじゃない。

「む……チッ。そろそろ限界か」

 目眩がして視界が少し歪む。元々訓練で疲れきってたわけだし、そっから五時間も走ったからな。そりゃこうもなる。


「あっ。ご、ごめんね? 疲れてるはずなのにこんなに引き延ばしちゃって。それじゃあ私は帰ーー」

「そうだな。悪いがーー」

 帰ろうとする八雲と、それを見送ろうとする俺。立ち上がろうとした時、二人同時に気付いてしまった。もう一人いたことに。



「「忘れてた…………」」

 ここに入ってきた時と全く変わらない体勢で寝続けるサーシャ。あまりに静かだから全然気にしてなかったわ。



「おーい、起きろー」

 肩を掴んで揺さぶったり、柔らかい両頬をむにーっと引っ張ったりしてみるが、一向に起きる気配は無い。おっ、何か凄い伸びるな。


「うーん……どうしよう?」

「どうするも何も、どうしようも無いだろ。こいつの部屋が分かるわけでも無いしな」

 こいつらメイドの寝室がある場所までいけば、もしかしたら分かるのかもしれないが……残念ながらそこまで運ぶ体力も気力ももう無い。このままここで寝かせるしか無いだろう。どうせ明日の朝また来るわけだし、そこまで大差はあるまい。


「まあ良い。後の事はこっちでやっとくから、お前は部屋に戻って休んどけ。早く寝ないと朝起きれんぞ」

「えっ! あ、うん……」

「? どうかしたか?」

「何でもないよ。普通こういう場合って女子が担当するものだけど、沢渡君なら大丈夫な気がするから良いやって思っただけ」

「そうか。それじゃあまた」

「うん。お休みなさい」


 八雲が部屋を出ていき、パタンとドアが閉じられる。さて、俺もさっさとやって早く寝るか。



「よっと。結構軽いな」

 靴を脱がせサーシャを抱き抱える。確かこれってお姫様だっこって言うんだっけ? 姫じゃなくてメイドだけど。


 現在の時刻は午前二時過ぎ。流石にこの時間で布団も何もかけず無防備に寝れば風邪をひく。それでは俺としても気分がよろしくないので、ベッドに寝かせてやることにした。



(……ん?)

 そしていざ寝かせようとした時、胸元に違和感を覚えた。見ると、サーシャが俺の服を手で掴んでいた。寝てることは間違いないので、無意識の行動なのだろう。


「ん……んぅ…………」

 寝返りを打とうとしているのか、俺の腕の中でもぞもぞと動いていく。それと同時に、何故か服を掴む力も増していく。



「シュウヤ…………様…………」

「!?」

 え、あれ!? 寝てるよね?

 てことは今のは寝言か。何で俺の名前をーー


「どうか……ご無事……で……」

 ……あー、これ絶対アカンやつだ。明日の朝起きたら本気で謝っとこう。


「すまなかったな。ゆっくり休んでくれ」

 改めてサーシャをベッドに寝かせ、布団を肩までかける。同じ布団で寝るわけにもいかないので、椅子をベッド脇まで移動し、俺はそこにどかっと座り込む。その直後に限界が来て、俺の意識は急速に落ちていった。

執筆の励みになりますので、良ければ評価やブクマ等してもらえると嬉しいです。

また、誤字報告や表現がおかしいところへの意見などもお待ちしております。

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