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シーカーズ ~大器晩成魔法使いの異世界冒険譚~  作者: 霧島幸治
第二章 キュレム王国編 後編
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第6話 寄り道

(あー、やっと終わった……)


 クルツの敗北宣言を聞き、剣を鞘に納めひと息つく。そしてスイッチを切り、俺はまた()()へと戻った。

 騎士団相手だと使うまでも無かったが、流石にこいつ相手に温存するのは無理だったか。まさか身体強化(ブースト)がここまでヤバいもんだったとは思わなかったからな。



 並列思考(マルチタスク)ーーステータスにあった通り、主人格の他に擬似的な人格を情報収集及び整理用の端末として作り出し、同時稼動させ処理能力を向上させる技術である。当然これも爺ちゃん直伝のものであり、これを使用した時こそが俺の本気モードと言える。


 俺が扱う黒宮流戦闘術は、相手に合わせ自分の動きを根本から瞬時に切り替え翻弄し完封するもの。それには相手の動きを見切り完璧に予測することが必要不可欠となるのだが、残念ながら通常時の俺では情報処理能力が足りず不完全なものとなり、どうしても対応が遅くなってしまう。しばらくの間クルツに押されていたのはそのため。


 一方後半は並列思考(マルチタスク)使用により切り替えがスムーズになり、更に予測の度合いも向上し攻撃を出始めから全部潰すことが可能となったわけだ。剣というのは振り始めはそこまで威力を乗せられないため、いくら身体強化(ブースト)を使っていたとしても余裕で対処することが出来る。まともに剣同士をぶつけ合わしさえしなければ、苦労することなんて何も無いからな。



 発動直後は一度ぶつけ合ってしまったが、あれは正直鬼哭(きこく)の性質、もっと正確に言えば弱点に助けられた面が強い。ほんの僅かな間に脱力と力みを続けて行うあの技は、確かに成功すれば強大な破壊力を生む。しかし、僅かな時間に一気に力が変動するということは、少しでもタイミングがずれればその力は大きく変わってしまうということでもある。


 鬼哭を最大限生かすためには当然相手にぶつけるタイミングで破壊力を最大に調整する必要があり、そこから力を変動させるタイミングを逆算しなければならない。クルツは感覚的には技の使い方を理解していたがまだ理論的に考えられていたわけでは無かったので、その隙を突くということでほんの少しだけ早く撃ち込み、力が乗り切る前に剣同士をぶつけ相殺した。吹っ飛ばずに耐えれたのはその影響であり、技を模倣されたからこそかえって有利になったと言えるな。



 そして、優位になったからこそ今度は手加減をすることも出来た。本気とは言ったがそれはあくまで状態の話であり、本気で戦うというのとはちょっと違う。

 もしそれをやっていれば、今頃クルツは死んでいることだろう。一般人とは違い最強の暗殺者達に育てられた故、俺にとっての手加減抜きっていうのはイコール完全な殺し合いという認識になっている。始めたが最後、相手の息の音を止めるまで剣を納めることは無い。


 さっきの冒険者達と同じ理由というのも確かにあるが、こいつはこいつでついさっきした約束を守ってもらわなければならない。今ここで手加減抜きで戦ったところで俺にメリットは無いのである。……まあ抜きすぎたらそれはそれで反撃を食らいかねないから、そこら辺上手い具合に調整をしなきゃいけなかったけどな。



 そんなこんなで非常に便利な技術ではあるのだが、当然利点だらけというわけでは無い。複数の人格とはいえ並列思考(マルチタスク)を行っているのは結局は俺自身の脳であり、その間の負担は全て俺自身に返ってくる。

 処理速度を上げれば上げるだけ単位時間あたりの疲労は増すので、端末を増やせば良いというものでもない。慣れなければ中々使いどころの難しい技能であり、そのため普段は使わず閉じているというわけだ。手加減込みとはいえ、正直今の短時間でもちょっと疲れてる。



 ま、それはあくまで精神的なものだ。僅かに乱れていた息は既に落ち着いており、疲労も徐々に回復してきていることが分かる。色々イレギュラーな事が起こってしまったが……これなら今日の活動も問題無く行えそうだ。


 さてどうするかと悩んでいると、腹に撃ち込んだ衝撃が和らいできたのか、クルツが上体を起こし……。

「ふぅ……フフフフ。ハッハッハッハッハ!」

 相も変わらず不気味に笑いだした。あれだけボコボコにされといて尚も笑い出すのかよ。



「ああ……楽しかった! こんな気分は久しぶりだ! それにしても、あれだけ戦った後にもピンピンしてるとか……君は本当に凄い奴だな」

「耐久力だけはある方なんでな。それよりも、約束はきちんと果たしてもらうぜ?」

「勿論だ。だが……その話は一旦後にしたい。君に何度もぶん殴られたせいで、体のあちこちに痛みが走っているのだ。先に治療を受けてきても良いかね?」


 体を見ると、革製の胸当てや手甲で覆われている場所以外に、ところどころ赤く腫れている場所があることが分かる。折れてるわけじゃなさそうだが、少し痛々しいことになっている。



「別に構わんぞ。それをダメと言うほど鬼畜ではないつもりだ」

「ありがとう。君はどうする?」

「俺は良い。服はいくらか斬られたが、体自体に特に傷は無いしな。それで、俺はこのままここにいれば良いのか?」

「それも考えはしたのだが、付いてきてもらった方が良いだろう。話はギルド長室でするから、ここにいるよりも共に行動した方が早く済む」

「え、ギルド長室?」

「うむ。あそこなら落ち着いて話せるからな」

「あー……まあ、確かにな。了解した」


 新人冒険者がいきなりトップの部屋に踏み入るとか、目立って仕方が無いだろうーーと一瞬思ったのだが、良く考えたら既に手遅れだったわ。こんなに目撃者もいることだしな。


 観客達は戦いが終わった後もしばらく呆然としていたが、もうこれ以上何も無いことを悟り、各々建物内部へと戻っていく。俺達も行くとするか。




「着いたぞ。ここだ」

 医務室での作業を終え、俺はクルツに連れられギルド長室へと案内された。執務用の大きな机が奥に一つ、その前に細長い机が一つあり、それを挟むようにして椅子がいくつか配置されている。元の世界で言うところの社長室のような感じだろうか。

 いや、実際に社長室なんて入った事は無いから、あくまでイメージでしか無いのだが。



 着席を促され、細長い机を挟んでクルツと向かい合う。おっ、結構座り心地良いな。


「さて……まずは改めて例を言わせてもらおうか。実に楽しい思いをさせてもらったよ。まるで若返った気分だ。本当にありがとう」

「……まあ、礼は素直に受け取っておくとしよう。それで、いくつか気になることがあるんだが」

「何でも聞いてくれ。あ、この部屋は外に声が漏れない造りになってるから、どんなことを言っても大丈夫だぞ」

「そんじゃ遠慮無く。……新人冒険者に対し中堅の冒険者四人を試しにぶつけてみる、そんなん普通はあり得ないことだ。例え相手の実力を見て把握出来ていたとしてもな。どうしてあんなことをした?」



 あの時は理由を考えて一時的に自分を納得させたが、あれを完全にスルー出来るかどうかと言ったら当然ノーだ。名のある冒険者達の体験談を読んでもそんな例は一つも無かったし、仮に相応の実力があると察してはいても、ギルド長たるものもしもの場合を考えてあんなことはするべきじゃない。



 ……だが、実際にこの男はそれを実行した。勿論自分の相手に相応しいかどうか確かめたかったというのもあるだろうが、それだけじゃ説明は付かないだろう。


 こいつはギルドの頂点に立つ存在であり、自由奔放な一冒険者ではない。それ相応の責任を負う事は自覚しているはずだし、いくら自分の感情があろうと危険とも思えることを積極的にやらせるとは思えない。



 つまりーーこの男はまともな思考を持った上で、あれを危険と判断していなかった。ということは……。



「どうしても何も、君にはあれくらいが妥当……いや、あれですら全然足りないと分かっていたからな」

「全く知らない人間を前に、そんなことを思い付いたりはしないだろ」

「そうだな。だが、初対面ではあるが私は君の事を知っている。騎士団を打ち負かした事もな。だから、あれくらいは出来て当然と思ったまでのこと。こんな感じの答えで良いかな?」

「やはりな……良くはあるが悪くもある。どこからその情報を得た? というか、どこから漏れた? 答えろ」

「漏れた、という程ではないよ。絶対に漏らさないということを条件に負けた本人に聞いただけだ。私は度々騎士団の遠征に同行するから、騎士団長であるカストロとは顔馴染みでね」

「……………………」


 え、あいつ何してくれとんの? 幹部ともあろうものが速攻で情報漏洩するとか何考えてんだ……。バレたらどうするつもりなのやら。



「安心してくれ。わざわざ会ったのではなく、町外れの酒場で偶然会った時に様子が気になって、個室を借りて聞き出しただけ。だから私以外の者には知られていない……はずだ。他がどうなってるのかは流石に知らないから、言い切ることは出来ないが」

「それを聞いて尚更不安になったわ。……つーかそう言うってことは、無属性の勇者の存在が知られちゃいけないってことを分かってるってことだよな?」

「うむ」

「存在が知られないためには、出来る限り目立たないようにするのが一番だよな?」

「そうだな」

「……てめぇ、それを分かっていながらあんなことしやがったのか? おかげで目立って仕方が無ぇじゃねぇか! どうすんだこれ!」


 人の口に戸は立てられぬということわざがある。ましてや冒険者間での情報網だ、今日もしくは明日にはヤバい新人の噂が王都を駆け巡っていることだろう。

 俺の平穏な冒険者ライフは開始前に既に終わっているという、悲惨な状況になっていたということだ。何てこった。



「そう言われてもなぁ……やってしまったものはもうどうしようも無いじゃないか。許してくれ」

「こ、この野郎…………ハァ、もう良いや。何か疲れてきた」

「茶でも飲むか?」

「ああ、もらうとしよう……」


 部屋の隅にある魔道具らしきものを使い、紅茶を入れてくれた。その香りに俺の気分も段々と落ち着いてくる。鎮静作用でもあるのだろうか。



「それで、約束の件なのだが。あの様子からすると、内容はもう決まっているのか?」

「まあな」

「では聞かせてくれ。約束通り可能な限り答えてみせよう」

「その前に一つ聞いておきたい。あんた、武器は何が使える?」

「む? そうだな……剣は勿論、大剣に槍に槍斧(ハルバード)戦鎚(ウォーハンマー)……基本的に破壊力のある巨大な武器が得意だな。暗器等も使えないわけじゃないが、どうにも性にあわないから実際の戦闘で使うことは殆ど無い」


 ふむ……そこら辺はやはりステータス通りか、安心した。これなら全くもって問題は無い。



「決まりだ。心得程度で良いから、俺に大剣の扱い方を教えてくれ」

「……んん? 何だ、使えないのか? あんな膂力(りょりょく)を持っているなら、てっきり使いこなしているものだと思っていたんだが」

「生憎重量系は苦手分野だ。軽量系ならあらかた扱えるが、それ以外はからっきし。そもそもスピード重視の俺のスタイルと合わないしな」

「なら何故大剣を使おうとする? 自分に合わない武器を無理矢理使おうとしても、大した成果は得られないということは分かってるだろうに」

「まあそれはそうなんだがな……」



 魔物との戦闘に関しては、佐々木の協力を得た以上解決していると言っていい。仮に単独で倒せない魔物に遭遇してしまったなら全力で逃げれば良いだけだ。足りない身体能力は身体強化(ブースト)で補えるだろうしな。

 だから……俺が大剣を求めるのは別の理由。



「ただ強くなりたいーーそれが理由じゃ駄目か?」

 俺は確かに強い。これは自慢とかそういうのじゃなく、単に事実を述べただけ。……だが正直に言うと、既に頭打ち状態と言っても過言では無いのだ。


 まあ当然だろう。俺は元々戦闘面での才能が無く、そこから死ぬほど努力を積み重ね、尚且つ最強の男達からの教育を受けたからこそここまで来ることが出来た。

 しかし、物事には限界というものがある。凡人である俺は努力を積み重ねるしか強くなる方法は無かったが、既に単純な努力は限界値にまで達しており、これ以上続けてもそこに待つのは現状維持のみ。



 ……だからこそ、俺は魔法という新たな力を欲した。能力生成(スキルメーカー)という得体の知れない力にも身を任せてみようと思った。全く手のつけていないものなら伸び代はまだいくらでも残っており、俺はまだまだ強くなれるから。


 大剣に関しても同じことだ。

 確かに自分にはあまり合わないかもしれない。だが、今まで手をつけてこなかった要素である以上、そこには必ず伸び代は残されている。なら……手を伸ばさないわけにはいかないだろう。


 どんな手を使っても、どんなものを利用しても、俺は必ず強くなる。この異世界で生き残っていくために。

 そのためには、こういった事でも迷わずやっていかなければならないのだ。



「いいや、何も問題は無い。むしろそういう理由なら大歓迎だ。強さこそ全て、っていうのが私の基本方針だからな」

「……俺を無属性と知って尚蔑んだりしないのは、それが理由ってことか?」

「そうだな。どんな力を持っていようが、結局は戦って最後に立っている者こそが勝者であり強者であり、この世界を生き抜き導いていく者と私は考えている。そして属性とは、強さそのものではなくあくまでその一部でしかない。そんなもので人を差別するようなことをする気は無いさ」

「……そうか」


 一組織のトップの考えとしては些か極端だとは思うが、別に間違った事は言ってない。命が軽いこの世界を生きていくにあたって、強さというのはかなり重要な要素ではある。


 こんな考えの奴が大勢いてくれたら、俺ももう少し楽に生きられるんだけどなぁ……。まあ、多分本人が精霊属性ってせいで弱者を見下してるように聞こえて、上手く浸透してくれないんだろうけど。



「ともかく、強くなろうと言うのならそれを断る理由などどこにも無い。その依頼請け負った! だが……流石に一日では終わらん。早くとも一週間前後は見ておくべきだが、今の君にそんな時間はあるのか? 先を急ぐのだろう?」

「確かにそうだが、焦るばかりじゃなくてじっくり力を付けるのも大切だからな。それに、ランクを一つすっ飛ばせる関係で時間も浮いたからな。余裕が無いわけじゃない」

「なら良い。あと、時間を無駄にしないために、出来れば泊まり掛けが望ましいのだが……」

「泊まるってどこにだ? まさかここ(ギルド)じゃないだろうな」

「流石にそれは無い。そうだな……私の家なんかはどうだ? 無論食費等はこちらが負担しよう」


 おおぅ、マジか。まさか異世界に来て人ん家に上がることになるとは……。


「それは構わない……どころかこっちには得しか無い話なんだが、良いのか? 突然上がり込んだら家族に迷惑がかかるだろうに」

「それなら問題は無い。私は独身だからな」

「……すまない」

「構わん。誰かと関係を持つことよりも、私は戦うことの方が好きだったからな。女遊びなど欠片もしたことありゃせんわ。ハッハッハ」

「そ、そうか……それなら良いんだが」


 そうだ、こういう奴だった。とはいえ、今の俺の発言は失礼に取られる場合も必ずあるだろう。少し注意しなきゃいけないな。


「うむ。それじゃ時間も勿体無いことだし、早速始めるとするか!」

「ああ、よろしく頼む」



 こうして俺の冒険者生活ーーは一旦先送りになり、一週間の合宿生活が始まるのだった。サーシャにも一言言っておかなきゃならんな。

ちょいと寄り道いたします。本筋からズレてるようにも見えますが、後々かなり重要になってくる話なのでご容赦を。多分三話か四話で終わると思いますが。



執筆の励みになりますので、良ければ評価やブクマ等してもらえると嬉しいです。

また、誤字報告や表現がおかしいところへの意見などもお待ちしております。

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