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シーカーズ ~大器晩成魔法使いの異世界冒険譚~  作者: 霧島幸治
第二章 キュレム王国編 後編
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第4話 空っぽの人生 クルツ目線

一話に収めるつもりが膨れ上がって二話分になってしまった……。こういうことやってるから、いつまで経っても話が進まないというのに。



ということで、次の話もクルツ目線&そこで決着です。修哉目線で書くとどうしても自慢話みたくなったんで、こっちの方が良いかなと。

 退屈ーー最近の生活を一言で表すとするなら、一番当てはまるのはそんな言葉だろう。


 私は生まれた時から誰かと競ったり戦ったりすることが好きだった。特に剣や拳を使った近接戦闘が大の好物で、精霊使いとして生まれ、魔法使いとしての活躍を期待されても尚肉体を主に鍛え続け、十を越える頃には大人子供問わず村で私に勝てる者はいなくなった。



 初めは良かった。幼い頃は鍛えても鍛えても常に大人という壁が立ちはだかっており、それを越えるための意欲で心が満たされていた。だが、そんな生活も終わりを告げる。


 育っていく内に気付いたが、同じ量の鍛錬でも私は他の人間に比べて明らかに成長速度が違う。周りとの間にあった差はあっという間に埋まり、やがては決して追い付けない程の差をつけてしまった。


 周囲に私に勝てる者はいなくなり、村の人達は私を口々に天才だと評価した。精霊魔法というトップクラスの属性を持って生まれた上に、近接戦闘の才能にも優れていたのだ、そう呼ばれるのも当然と言えるかもしれない。



 ……しかし、私にとってそう呼ばれる事は悲劇でしかなかった。あいつは天才だから、あいつには勝てなくて当然ーーそんな認識が広がり、誰も私に追い付こうとはしてくれなかった。


 私は決して誰かを突き放したかったのではない。誰かと共に成長し、日々強くなっていく事に喜びを覚え、勝つか負けるかも分からぬギリギリの戦いをすることを楽しんでいただけなのだ。



 ……だというのに、そんな私の考えを村の者達は理解してくれなかった。それは君のような才能を持って生まれた者のみが持てる思考だと、凡人の我々にはそんなことは思い付きもしないーーそういって、半ば非難めいた口調で言われたこともある。


 並び立つ者がいなくなり、共に研鑽する存在も消え……私は独りになった。




 ここにいては目的を果たす事が出来ないーーそう悟った私は、十五になり成人を迎えると同時に冒険者となり、各地を放浪する旅に出た。

 魔物を倒し依頼を達成し、そこで得た金でまた旅をする。そうやって私は、世界の強者を訪ねては勝負を挑んだ。年齢を問わず、性別を問わず、種族を問わず、例えどんな危険な地だろうと足を踏み入れた。



 真の強者というのは皆多かれ少なかれ同じ思考を持っており、勝負を挑む私を快く受け入れてくれた。時には負け、時には勝ち、常にギリギリの戦いに興じる。そんな夢のような生活を送っていた。


 ……だが、それはいつまでも続くことはなかった。人は戦いの中でこそ最も成長する。強者と戦い続け磨きあげられた私の戦闘技術は、いつしかどんな者が相手でも打ち倒してしまうようになってしまった。



 勿論そんな中でも負けそうになったことはある。だがあくまでそれは過程であり、結局最後に私は勝ってしまう。経験からか生まれつきからのものか、相手の攻撃がどんなものか直感で分かってしまうからだ。


 そして、一度勝った相手と再度同じレベルの戦いを行える事は無かった。私自身はあまり意識していなかったが、私はどうやら相手の技能を無意識に解析してしまうようで、一度戦えば相手の動きはおおよそ把握出来てしまう。




 三十を前にして世界トップレベルとなってしまった私には、もう旅を続ける意味は無くなってしまった。秘境と呼ばれる場所を巡れば更なる強者も見つかるだろうが……何故だろうか、例えそうしたとしても、結果は同じだろうとどこかで分かってしまっていた。


 私が真の喜びを覚えることはもう無いのだろう……そう思い生きる意味を見失った私は、流石に死ぬのは嫌だという理由でとりあえず魔物や魔族を狩り続けた。冒険者として依頼を受け、日銭を稼ぐためだ。


 勿論それで喜びが満たされる事は無い。確かに魔物相手に武器で戦う事も多いが、それはあくまで狩猟行為であり武器同士で戦えるわけではない。そりゃあ牙や爪は魔物達にとって強力な武器ではあるだろうが、私が求めている戦いとはそういうものではないのだ。


 魔族に関しても同様。魔族との戦闘において大半を占めるのは、残念なから血沸き肉踊る近接戦闘ではなく魔法の撃ち合いによる中遠距離戦。近距離で戦う事など、全体で見たら一割もあったら多い方だろう。

 実際私も幾度と無く魔族とは戦ったが、全員魔族としての特性を活かした空中戦や遠距離戦を行うばかり。結局は鍛えた精霊魔法で焼き払うのがオチとなっている。



 まあそれでも戦えるだけマシということで、私は比較的平和な南の地ではなく激戦区の一つである北のキュレム王国にて活動を行っていた。東に存在するグレイス平原の魔物による被害が多いこの地なら、まだ気も紛れるだろうと思ったからだ。


 日々依頼をこなしていく内にSランクとなり、昔のように周囲から持て(はや)されるようにはなったが……目的を失った私の心には、もう何も浮かぶことは無かった。




 そんな生活にも飽きてきた頃、ある日私は受付嬢に案内されギルド長がいる部屋へと招かれた。

 何も問題は起こしていないはずだが、気づかぬ内に何かしてしまったのだろうか……と不安にもなったが、直後ギルド長の口から出たのは「クルツくん、ギルド長になる気は無いかね?」という予想外の言葉だった。



 理由を聞いてみると、どうやら現在のキュレム支部のギルド長が冒険者ギルド本部へと異動することになったらしい。要は昇格と言うことであり、それで空いた席を誰に任せようかと議論した結果、私の名が挙がったのだとか。


 勿論最初はわけが分からず断った。必要最低限の教育は受けているとはいえ、どこかの官僚でもなく下積みもしていない自分が、ギルド長などという大役を勤められるとは思えなかったからだ。



 だが、それでもギルド長は食い下がった。冒険者の中で最高峰とも言える力を持つ自分が、支部とはいえギルドのトップに立つのならば、それだけで国民は安心する。サポートは全力でするから、どうにか形だけでもやってくれと。


 度重なる説得の末、とうとう私は折れ職務を負う事となった。元々世に飽き隠居しようとしていた身、どうせなら何か新しい事をやってみるのも悪くは無いと思ったからだ。金も一生働かずとも暮らせる位には余裕であったしな。



 新しくギルド長としての仕事を始めたのち、私の身にはいくつか制約がかかることとなった。国王からの命には従うだとか、身勝手な行動は出来ないだとか、人々の希望の柱の一つにもなっているから、魔大陸に行かせはしないとかそういった感じだ。


 とはいえ、私にとってそれらは正直制約とも呼べぬものだった。これ以上何か他の事に打ち込む気も無かったし、ハナから魔大陸になど興味は無かった。



 大海を挟んで北に存在する魔大陸には、昔から人類の敵である魔王が住まうと言われている。強力な力を持つ私なら、調査隊に投入される可能性もあるにはあったのだが……例え比較的自由な冒険者時代にそんな誘いを受けたとしても、私が行く事は無かっただろう。いくら私とはいえ、魔大陸なんかに行けば死ぬことは目に見えているからだ。


 それに、魔王と言っても結局は魔族の一人。仮に合間見えたとしても、心の底から楽しめる戦いを行えるはずが無い。そんな理由から、調査参加禁止の命を受けた時も正直「ふーん。で?」という感じだった。




 それから約十年。相も変わらず私はギルド長としての職務を続けながら、退屈な日々を続けている。日課として体を鍛え続けてはいるが、競う相手もいないのに鍛錬することに何の意味があろうか、という感情は私の心の奥底に常に巣くっていた。


 だがそんなある日、転機が訪れるーー。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 とある日の晩、私は町外れの酒場に赴いていた。中心地から離れたここは、ギルドとは違い落ち着いた雰囲気で酒が飲める良い場所であり、私の行きつけの場所でもあった。


 そしていつものように、ドアを開け店内へと入る。さて、今夜も空を見ながら酒に興じようか……と思っていたところで、マスターの他にもう一人いることに気付く。


(……ん?)

 そこでふと思った。この後ろ姿……見覚えがある。

 こやつがここにいるとは、これは珍しい事もあったものだ。



「隣、良いかな」

「……んぁ? ーーって、クルツさん!?」

「久しぶりだな、()()()()。相変わらず元気そうで何よりだ」


 そこにいたのは、国王直属の騎士団ーーその長であるカストロだった。私は騎士団の遠征には良く同行するから、カストロとは顔馴染みなのだ。


 今でこそ無いが、昔は何度か危ないところを助けたこともあったりした。

 その関係で、こやつは私に対しては常に慣れない敬語で接してきたりもする。変だから止めろと何度も言っているが、そうする気は無いらしい。



「え、ええ……クルツさんもお変わりなく」

「おう。それで……普段豪快なお前がこんな落ち着いた場所で一人過ごすとは、どういう吹き回しだ? 一週間前の()()()で、何か問題でもあったのか?」


 一週間前何があったのか、少なくともこの国で知らない者はいない。古来より伝わる召喚魔法により異世界から勇者たる者達を呼ぶことに成功し、一時期国はお祭り騒ぎになっていたからだ。


 召喚魔法は使用の度に王家の血筋の者を犠牲にする可能性があり、実際数年前に王女様が一人お亡くなりになられたという。そのこともあって、今回の成功に対し国民はより一層歓喜の声を上げたということだ。



 尚、事前にこの事について話していたわけではない。それどころか、ここ一年程はカストロとは会ってすらおらず、単に念のため言葉を伏せたに過ぎない。

 だが、カストロは私の意図と言葉の意味を読み取ってくれたらしく、しばらく悩んだ末少し落ち込んだ顔で話を続けた。


「問題……というものでもないんですがね。いや、問題といえば問題なのか」

「何だ? はっきりしないな。お前らしくもない」

「……まあ、ちょっと色々ありまして」

「中々ワケありのようだな……マスター、奥の個室を使っても良いか?」

「はい、構いませんよ」


 ここの酒場には秘密の談合用の個室が用意されており、外に声が漏れないような造りになっている。そうそう使う事は出来ないのだが、私は十年以上の常連であるためマスターとも仲が良い。それ故、今ではこんな簡単なやり取りで使用することが出来るようになっている。



「では、ごゆっくりお過ごし下さいませ」

 三人揃って個室へ行き、一言二言交わしマスターはカウンターへと戻っていく。こうして私はカストロと二人きりとなった。


「さてカストロよ。一体何があったんだ? 勿論、話せないようなことなら話さなくても構わんが」

「一応口止めはされてるんですが……絶対に他に漏らさないということを約束してくれるなら、全て話しましょう」

「了解した。こう見えて口は固い方だからな」

「信用してますよ。それで、召喚についてなんですがーー」



 それからカストロは、召喚後に起こったことを話し始めた。

 勇者を召喚する儀式において、無属性が召喚されるというあってはならない事が起きたこと。

 追放しようと提案したが却下されたこと。

 特訓と称しリンチをしかけようとしたが、揃って返り討ちにあったこと。


 そしてーー身体強化(ブースト)や魔剣が通用しなかったこと。




「……カストロ。それは本当なのか?」

 正直な話、いくらカストロの言葉とはいえ到底信じる事は出来なかった。私ほど強くは無いとはいえカストロの実力は知っているし、十七かそこらの若者に一方的に負けるような男じゃない。



 それに……副団長が振るったというなら、間違いなく最高ランクの暴嵐の魔剣のはずだ。私も使ったことはあるから威力がどの程度かは良く知ってるが、あれを正面からーーしかも何の魔法も無しに迎え撃つとは、とてもとても。


 唯一考えられる方法としては、入り乱れる風の隙間に剣を叩き込んで強引に勢いを壊すことだが……出来る出来ない以前に、一歩間違えれば即死だってありえる。私ですらやろうとは絶対に思わん。



「全て事実です。こっちの動きは封殺され、全員揃ってボッコボコにされましたよ。しかも……俺の感覚が間違ってなきゃ、あいつはまだまだ本気を出しちゃいない。全く、一体どんな生活を送ればあんな無茶苦茶なもんが出来上がるのか」

「……それは戦闘力のことか? それともさっき言ってた全身の傷のことか?」

「両方ですよ。強さもそうですが、あんな傷俺だったらとっくのとうに死んでますね。グレイス平原を身一つでさまよったらあんな風になるんじゃないんですか? まあなったらなったで、その時点で既にお陀仏ですけど」

「それは凄まじいな……」


 副団長のブロディが暴走した話の中に、その無属性が負っていた傷の話も聞くことが出来た。曰く、無数の打撲や骨折痕に加え、明らかに致命傷だろうという傷も無数に存在していたという。しかも、それは()()()の話だ。


 普通に考えれば、上半分はボロボロで下半分は無傷なんてことはそうそう無い。となれば、下半身にも同じレベルの傷は負っているはず。



 私も多かれ少なかれ大怪我はしているが、それは六十年近く生きた結果蓄積されたものだ。まだ若者であるその子が、私よりも酷い傷を無数に負っているというのは異常としか言いようが無い。流石の私でも何も言えなくなってしまったよ。



「ともかく、心底馬鹿にした奴に手抜かれた上に戦闘不能にまで追い込まれたってので、ちょいと打ちのめされてるとこです。そんな時、クルツさんが言ってたこの店のこと思い出して、たまには落ち着いたところで自分を見つめ直すのも良いかなと」

「それが良い。お前は昔から時折つけあがるところがあるしな」

「ははは……耳が痛いです」

「ふぅむ。それにしても……どんな人間なのか、一度会ってみたいものだな」

「奴にですか? そりゃまあ、戦闘狂のクルツさんとしては是非とも会いたいってのは分かりますが……中々難しいとは思いますよ。無属性である事を隠さなきゃいけない以上、わざわざ城の外に出るとは考えにくいです」

「いや、そうとも限らんぞ? 無属性だからこそ、積極的に魔物と戦って人一倍経験を積もうとするはずだ。私の勘がそう告げている」

「勘ですか……。昔からクルツさんの勘は良く当たりますからね。良くも悪くも」

「ああ、そうだな。災厄を降らせし者(エンズ)が来たときは流石にヤバかった」

「そんなこともありましたね……。その他にもーー」



 その後はとりとめの無い思い出話をし続け、夜も更けたのでお開きとなりお互い帰路についた。軽い気持ちでふらっと店を訪ねたつもりが、こんな重大な話を聞くことになるとは思ってもみなかった。



「フフ……フフフフ……フハハハハハハハ!!!!」


 遂に……遂に見つけた。

 私を倒しうる存在を。この空っぽの人生に潤いをもたらしてくれるかもしれない存在を。


 一生見付からないかと思っていたが、まさか探し求めていたものは異世界にあったとはな。そりゃどこを探しても無いわけだ。



 シュウヤ・サワタリーー君と会える日を、私は楽しみにしているよ。



執筆の励みになりますので、良ければ評価やブクマ等してもらえると嬉しいです。

また、誤字報告や表現がおかしいところへの意見などもお待ちしております。

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