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シーカーズ ~大器晩成魔法使いの異世界冒険譚~  作者: 霧島幸治
第二章 キュレム王国編 後編
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第3話 Sランクの実力

投稿時間を少し変更することにしました。詳細は活動報告にて。

 Sランクであるギルド長と新人冒険者である俺が対決するーーその驚きの知らせに、訓練場には動揺が走っていた。中には騒ぎを聞きここに駆け付けた者達もおり、さっきの一対四の時に比べ観客数は二倍程になっていた。見世物じゃ無いんだが……。


 ちなみに、さっきまで向けられていた俺がボコボコにされるのを楽しみにするような視線は既に無く、純粋にどちらが勝つのかを楽しみにする視線一色になっていた。


 いくら目の前でCランク四人が瞬殺されたのを見てたとは言っても、少し位は嫌な視線も残ると思っていたんだが……。書物に書かれてた、冒険者は実に単純っていう一文に関係してるんだろうか。流石にそこまでいくと偏見だろうが、ひたすら強さを求め、強者に興味を抱くという意味ではあながち間違いでは無いかもしれない。



 そんな中で俺達がまず行ったのは、倒れた四人を担架でギルド内にある医務室に運び込む事だった。邪魔というのもあるが、無防備な状態で巻き込まれたらまず命は無いだろうという配慮の方が大きいかもしれない。


 冒険者ギルドには数人程治癒魔法使いが専属で働いているらしく、訓練中の事故や受付での争いなどで怪我をした場合、医務室に運び込まれて治療を受けることになるらしい。


 ちなみに後者は有料である。そりゃま、自分達の都合で勝手に争ったくせに、無料で治してもらおうなんて甘いわな。



「さて、これで心置きなく戦えるというわけだが……念のため確認しておこうか。ルールは先程とほぼ同じ。先に気絶するか降参した方が負けで、攻撃方法は直接攻撃系の魔法以外は何でもオーケー。武器は互いに真剣を使用。そしてーー」

「さっきと違って審判は取らない、だろ? 取らないっていうか、取れないの間違いだろうが」

「そうだ。お互い気付いてるだろうが、私達レベルの戦いなんかに下手に審判役を用意すれば確実に巻き込まれる。もう一人Sランク冒険者がここにいれば話は別だが、そうもいかないからな」

「ここのギルドにはいないのか?」

「いや、もう二人いることにはいる。だが……あいつらは今別の大陸に長期出張中でな。いくら私と言えどそう簡単に呼び出すことは出来んし、仮に出来たとしても何週間かかるか分からん。だから、どうやっても今来させることは出来んのだ」

「……そうか」


 助かった。もしそいつらもここにいて、尚且つ戦闘狂チックなところがあったら、確実にめんどいことになってた。

 曰く、クルツはSランク冒険者の中でも最高峰の位置にいるらしいから、そいつらはクルツに比べればまだ少し楽かもしれないが……それでも戦う気にはなれない。



 何せ……属性はともかく、基本技能に関しちゃ()()がSランクの基準って考えても良いんだからなぁ。全く、これからこれを相手にしなきゃならんとは、本当に気が滅入るよ。



============================================



 〈名前〉:クルツ・ステイン 〈年齢〉:58


 〈種族〉:人族 〈性別〉:男 〈属性〉:精霊(火・土)


 HP:□□□□□□□□□□3300/3300

 MP:□□□□□□□□□□4500/4500

 LP:□□□□□□□□□□3600/3600


 〈基本技能〉:剣術(超)、大剣術(超)、槍術(超)、槍斧術(大)、戦鎚術(大)、暗器術(中)、体術(大)、拳闘術(大)、蹴脚術(中)、心眼(中)、威圧(超)、気配察知(超)、殺気感知(超)、直感(大)、統率(大)、模倣術(大)、騎乗(超)、交渉術(大)、対話術(大)、読心術(大)、解体(大)、目利き(大)、釣り(小)、異界言語理解


 〈魔法〉:精霊魔法(超)、無属性魔法(中)



============================================



 この世界に来て初めて出会った、俺と同じ剣術(超)持ち。他にも大剣術や槍術のみならず、気配察知や殺気感知も(超)だったりと、今まで会ってきた奴等とは一線を画している。


 そして一番厄介なのが直感(大)。文字通りの意味であり、要はクルツは戦闘を直感で行う天才タイプだということだ。こういった輩は戦闘中に予想外の動きをする事が多いし、努力を重ねて強くなってきた俺のような人間とは相性が悪い。


 他の技能は俺よりは低いが……そんなもの、安心出来る要素には欠片も成り得ない。相手は歴戦のSランク冒険者、一瞬の隙で一気に戦局はひっくり返る。それに、俺の予想では……こいつは……。



 あと、今回の戦いには関係無いが……属性の欄の精霊属性の横に表示されてるやつ、あれは契約してる精霊の属性を表してるらしい。つまり、クルツは火と土の精霊を使役出来るということだ。この基本技能に精霊属性とくれば、そりゃSランク位には簡単になれるわな。


 他の奴で言うとジキルの野郎は水、国王は土、佐々木と八雲ともう二人、在原と神崎という奴は未だ表示無しーーつまり誰とも契約していなかった。協力関係を結んでいるわけだし、佐々木には早いとこ精霊と契約してほしいものだ。


 ……つーか、精霊属性多くね?数が少ないっていう話どこ行った?まあ、魔物との戦いの最前線であるキュレム王国(ここ)だからこそ、っていうのもあるかもしれないけど。



「それじゃ……無駄話はそろそろ終わりにしようか。いい加減、(うず)きが抑えられそうにないのでね」

「俺はそんな高揚したアンタを相手にしなきゃならんことに、本気で気が滅入ってるよ」

「ハハハ。この感覚が分からないとは人生を損しているな。一旦ハマれば癖になるものだぞ?」

「言ってろ、戦闘狂が」

 俺達はそんな風に軽く言葉を交わしていたが、一方観客達はと言うと皆一様に顔を歪めていた。別に何か変な事が起こっているわけではなく、ただ単に俺とクルツから溢れ出す殺気に押し潰されているだけ。


 話は終わりにしようーーとクルツは言ったが、実際は既に戦いは始まっている。殺気の応酬に始まり、お互い相手の動きに一瞬でも早く対応しようとイメージを高め合っている。


 確かに誰も始まりの合図はかけちゃいないが、これはあくまで戦いなのだ。模擬戦闘や実技試験のようによーいドンから始まるわけではなく、場に立った瞬間から既に戦いは始まる。



 俺は爺ちゃん達からいくつか信条なるものを教わってきたが、その中に「合図がかからないと戦えない奴は三流以下、お前はそんな奴にはなってくれるな」という言葉があった。初めて聞いた時はいまいち理解出来なかったが、いくらか歳を食ってからはそれが経験に裏付けされた深い言葉なのだということを知ることとなった。


 爺ちゃん達は幾度となく戦場を渡り歩いた最強のエージェント、如何に速く相手を殺すかが重要となる戦場ではよーいドンなど存在せず、仮にあったとしても待っている間に殺される。作戦上の重要な合図は別として、現代武術のように合図からのみ戦いを始める者など決して生き残れはしない。


 戦場がイメージしにくいなら、野生動物を思い浮かべてみれば良い。弱肉強食の野生の動物達には合図など無く、向き合った時には既に相手をどう殺して食らうかを考え始めている。そもそも、不意討ち上等なあの世界に合図を求めるっていうのが土台無理な話だろう。


 そんなわけで、爺ちゃん達のスパルタ教育を受け、野生動物を狩って暮らしていた俺にとっては、むしろ合図を待たなければいけない模擬戦闘等は正直もどかしくて仕方がない。そういう意味では、実際の命のやり取りたる戦いの方が心地良いというクルツの気持ちも分からんでは無いな。



「………………………………」

「………………………………」

 互いに剣に手をかけたまま、一言も口を開かず微動だにしない。観客達が固唾を飲む中、ただ時間だけが過ぎていく。


 だが、戦闘狂と先を急ごうとする者が立ち会っているのだ。いつまでも二人ともじっとしているわけがない。永遠に続くかと思われたその時間は、突如として終わりを告げる。



「ーーせやぁぁぁああああああ!!!」

 先に動いたのはクルツだった。僅かに重心がブレるや否や直ぐ様腰を落とし真っ直ぐに突っ込んで来る。

 俺も即座に反応し同じように迎え撃つ。だが、一瞬遅れていても瞬行を修得している分結果的に俺の方が僅かに早いため、後手に回るような事は無い。


 そして駆けながらほぼ同時に抜刀し、そのまま鍔迫(つばぜ)り合いーーかと思いきや、ぶつかり合った直後俺の攻撃を受けクルツは僅かに後退する。俺が放ったのはただの斬撃ではなく、瞬間的な脱力の幅を利用し強力な一撃を放つ鬼哭(きこく)。カストロの時とは違い、予め足腰にダメージを与えてはいなかったためあまり吹っ飛びはしなかったが、それでも効果は十分だ。



 ……とはいえ、これだけで優勢になれる程甘くは無かった。最初勢いに乗って押してはいたものの、斬り合いながら徐々に体勢を立て直され、やがて両者一歩も引かぬ膠着(こうちゃく)状態となる。時に力まかせに、時に技巧を絡めて隙をつき合い、宙には絶え間なく火花が散っていく。


 黒宮流で動きが予測しにくくなってる分、僅かに俺の方がやや優勢といったところだが……全く安心は出来ないな。圧倒的でない優勢劣勢など、様々な要素が入り乱れる戦いにおいては単なる誤差でしかない。少しでも意識を逸らしたのなら、次の瞬間には地面に仰向けで倒れていることだろう。



 そんな一瞬も気が抜けない中でーークルツは尚も笑っていた。どういう神経してんだこいつ。

「ははははは! まさか私とここまで斬り合える者がいるとは! しかも私の方がやや劣勢などと、流石に予想しとらんかったわ!」

「そっから全く戦況を動かせないけどな……。出来れば早く倒れてくれるとありがたいんだが?」

「何を勿体無いことを。こんな楽しい戦い、そう簡単に終わらせるわけないだろうが! さぁ、まだまだこれからだ!」


 何がこれからだよ……。まだまだ体力に余裕はあるが、これ以上このレベルのやり取りが続くのは精神的に疲れてくる。早いとこ決着をつけたいところだ。



 そう願ってから数十回程斬り結んだところで、戦局に一つ変化が起きた。今までずっとこっちの動きに対応し続けていたクルツが、バックステップで距離を取ったのだ。


「どうした? 流石に疲れたのか?」

「いや、それはまだまだ先のこと。なに、ここまでやりあえる程の体力と技量を持っているならーー()()をぶつけたとしても、しばらくは持ってくれるんじゃないかと思ってな」


 ……やはり来るか。まだまだ続けたいとかそういう意味ではなく、ただ単純にここからが本番という意味ならば、さっきのクルツの言葉も間違いでは無いだろう。



 意識を集中させつつもこちらに剣先を向け、発動までに出来る隙を潰してくる。今ここで焦って突っ込めば反撃を食らうのは目に見えているから、歯痒い思いをしながらも待つしか方法は無い。


身体強化(ブースト)!!」

 その言葉が響いた直後、クルツの体から溢れていた膨大な気配が更に膨れ上がる。感覚からして、身体能力を超強化したのは確かだろう。



 戦いが始まる前からこの展開は予想していた。Sランク最高峰とも呼ばれ、接近戦にも非常に優れ、尚且つ天才故魔法のセンスも高いであろうこいつが身体強化(ブースト)を使えないというのは考えにくかったのだ。


 この戦いやさっきの実技試験の時に提示されたルールにも、俺はずっと違和感を感じていた。魔法禁止といえば良いものを、クルツはずっと()()()()()()()()()禁止と言っていた。


 身体強化(ブースト)はあくまで強化系魔法、直接攻撃系の中には含まれない。流石に実技試験担当の四人に身体強化(ブースト)を使わせるつもりだったとは思えんから、恐らく初めから俺と戦い身体強化(ブースト)を使うことを視野に入れてたんじゃなかろうか。初めから使わなかったのは、本人の言う通り念のため俺の力を確かめていたんだろう。



「すまない、待たせてしまったな。……さあ、もっと私を楽しませてくれ!」

 そう言いながら、口元に笑みを浮かべつつクルツは突っ込んでくる。対抗して俺も鬼哭で斬りかかりーー衝突した瞬間、俺の体は後方へと吹っ飛ばされた。


「…………は?」

 いや待て。何で俺が飛ばされる?確かに身体強化(ブースト)で強くなったのはあるだろうが、それでも後退させるのが精々なはずだ。

 それに、今の技……まさか。



「ほぅ、こりゃ凄いな。一番始めに君が打ってきたやり方でやってみたが……中々良い技だ。私も似たような技は使うが、ここまで緩急が激しいものは見たことが無い」

「……模倣しやがったのか」

「実際に食らってみて感覚が分かったからこそ、こんなに早く覚えられたのだがな。……しかしこの技、負担が大きいようだ。老体ではそこまで連発は出来ん」


 やはり鬼哭か。確かにクルツの言う通り、この技は強力だが脱力と力みを一瞬で行うため、その分のダメージが肉体に返ってくる。一発二発なら何も問題は無いが、連発すると俺でもキツくなってくる。


 それにしても……これを短時間で模倣するかよ。調節が難しいから、そう簡単に使えるようになる技じゃないんだが。


 そういえば当真爺ちゃんも、最上流(もがみりゅう)の当主に初めて食らった時、直後にそっくりそのまま返したって言ってたっけ。これが天才と凡才の違いということか……。



「さあ、まだまだ行くぞ!」

「ッ!!」

 振り下ろされる刃を何とか受け流し続ける。攻撃の合間にこちらも仕掛けていくが、剣筋は全て読まれており打ち込む度にカウンターを受ける。


 戦況は劣勢の一途を辿り、十回に一回程度の割合で俺の体はクルツの一撃により後方に吹っ飛ぶ。その隙を付かれ攻撃を打ち込まれ、それを何とか受け流し対応するという繰り返し。


 おまけにカストロとは違い、クルツは魔力量が多いから身体強化(ブースト)の効果時間も長く、切れた隙をつけそうにはない。城で精霊使い達全員のステータスを見たが、やはり特殊属性持ちは魔力の最大値が大きくなる傾向にあるらしい。



 俺は今まで一つ勘違いをしていた。カストロが使った時の感覚により、身体強化(ブースト)は本人の力に強化分の力を上乗せするものだとばかり考えていた。


 だが、今まさに使用中であるクルツを前にすればはっきりと分かる。具体的な倍率は分からないが、恐らく強化は乗算方式なのだ。使用する魔力量が同じでも、素体のスペックが違えば強化分も変わってくる。

 ステータスを見ても雰囲気を見ても、クルツは明らかにカストロより強い。となれば、その分使用中は大幅に強くなるはず。その結果がこれだ。


 ……上乗せではなく乗算ということは、強化というよりかは活性化に近いのではなかろうか。晴れて身に付ける事が出来たら、じっくりと調べていくのも良いかもしれないな。



「フゥ…………フゥ……」

 ふと気付けば、俺は僅かに息が上がっていた。足場の悪い山の中を走り続けてもそうそうなることはないはずなんだが……それだけこの戦いが厳しいということか。


「ここまで耐えきって、その程度しか息は乱れんか。つくづく君は私を驚かせてくれるな。……だが、だからこそ非常に残念だ」

「残念? 何がだ?」

「君がまだ身体強化(ブースト)を使えないことだよ。理由は良く分かっていないが、無属性は六属性の魔法を上手く使えない代わりに、身体強化(ブースト)を扱える割合が高い傾向にあるのだ。君もいつか使うことが出来るようになるかもしれないな」


 ……やはりそうか。そんな気はしていた。

 今クルツは「いつか」と言ったが、そんなにはかからんさ。確証は無いし、ただの勘だが……俺はすぐにでも使えるようになると思う。



「しかし、それは今じゃない。もし使えるならとっくに使っているはずだからな。……だから残念でならん。さっきの感じなら、身体強化(ブースト)さえ使う事が出来るようになれば、君は私を負かす事が出来るようになるだろう」

「……おい。まさか……誰かに負けたい、なんて思ってるんじゃないだろうな」

「そのまさかだが?」

「……………………」


 こいつ本当に何言ってんだ?今までのも十分おかしいとは思ってたが、今の発言は本当に理解不能なんだが。


 全力で引いている俺の視線に気付いたのか、クルツは苦笑しながら告げた。

「そんな目をするでない。そりゃあ、確かに普通は理解されない感情だろうがな」

「普通どころか誰も理解せんわ。あんた頭おかしいんじゃないのか?」

「おぅ、そこまではっきり言うか……。一応弁明しておくと、流石に大事な戦いにまでその感情を持ち込むつもりは無い。魔族に対しての防衛戦や決闘なんかにはな。……だが、それ以外では別だ。確かに勝つのは気分が良いことだが、戦う事が好きな私にとって、勝ち続けるというのはそれはそれでつまらないことなのだよ」


 つまらない、ねぇ。負け続けてきた俺には到底理解出来ない感情だな。



「あんたアレか? 生まれてから一度も負けたこと無いとか、そういうタイプか?」

「そこまででは無いだろうが、似たようなものだろうな。何せ、ここ三十年はタイマンでは誰にも負けていない。それ以前も負けたのは魔族相手だけだ。他種族でギリギリだったことは何度かあったが、それでも人間相手に負けた事は一度も無いな」

「……だからこそ、一度人間に負けてみたいってことか」

「そうだな。そしてその願いを果たしうるのが、これから先の君なのだと私は思っている。その時が来るのを楽しみにしているよ」


 クルツは警戒を続けながらも、俺に対し微笑みかけてきている。どうやら皮肉とかじゃなく、本当に自分が負けるのを楽しみにしているみたいだな。



 ……ん?あれ?

「待て。何でもう一回あんたと戦うことになってんだ?」

「……駄目なのか?」

「絶対に嫌だわ。ランクの件はこうして戦った事で約束は既に果たしてるわけだし、再度やるメリットが俺には無ぇ。ランクもEから始められるようになるわけじゃないしな。……まさか、今更約束を違えるわけはないよな?」

「それはせんよ。口にしたからにはきちんと守る。だが……そうだな。もし私に勝てたら、追加で報酬を用意するというのはどうだ?」

 その言葉に、再び俺の眉がピクリと動く。俺ってこんなもので釣られる奴だったっけ?



「内容は? いくらギルド長と言えど、出来ることと出来ない事があるはずだ」

「冒険者関係についてはこれ以上の融通は出来ん。だから、それ以外の事で可能な限り一つだけ望みを叶える、ということにしようか。それでどうだ?」

「……ああ、悪くない」

 そういうことなら、一つでかい頼み事がある。とは言ってもクルツにとっては些細な事だろうし、まず断られることは無いだろう。


 この要素を引き出せたのは中々でかい。全く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「さて……名残惜しいが、そろそろ終わりにしようか。このままハッキリと勝敗も付けず終わるのはいけないが、かと言ってすぐに降参というのもつまらない。力尽きるその瞬間まで、どうか私を楽しませーー」

「おい」


 クルツが言葉を言い切るか否かというところで、俺は特大の殺気を放ち強制的に黙らせた。観客側にも被害が出ているようだが、誰か気絶した様子は無いので大丈夫だろう。


 流石は日々魔物と戦っている冒険者だ。こんなもの一般人が受けたら間違いなく卒倒する。



「勘違いしてんじゃねえぞオッサン。誰が力尽きるって?」

「……ふふ。どうやらまだまだ元気が有り余っているようだな。成る程、今勝敗の話をするのは失礼だったか」

「それも勘違いだ。さっきから自分が勝つのを前提に話しやがって……相手の()()も見てないくせに、何勝った気でいやがるんだ?」

「……ほぅ? 今までのが全力でないと?」

「ああ、出来れば使わずに倒したかったんでな。だが、それも無理そうだ」

 全力を出さなきゃ相手を倒せないんじゃ、俺はまだまだ未熟ということ。そんなんじゃ俺はいつまでたっても爺ちゃん達に追い付けない。


 だから出来れば、成長の証として素の状態で倒したかったんだが……仕方無いな。本気で戦うとしよう。


 確かに俺はまだ身体強化(ブースト)は使えない。でも……目の前のこいつを倒すのに、そんなものはいらない。それじゃあ、久しぶりに使うとしますか。



「あんたの本気はそこまでか? なら俺には勝てねぇよ。三十年ぶりの敗北ーーそんなに欲しけりゃくれてやる」


 そして俺は……スイッチを切り替えた。

執筆の励みになりますので、良ければ評価やブクマ等してもらえると嬉しいです。

また、誤字報告や表現がおかしいところへの意見などもお待ちしております。

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