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シーカーズ ~大器晩成魔法使いの異世界冒険譚~  作者: 霧島幸治
第一章 キュレム王国編 前編
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第2話 異世界召喚

 そんなこんなで今のこの状況。さてどうしたものかと考えていると、俺達を囲むフード連中、その更に外側の者達から徐々に歓声が上がり始めた。さっきは流し程度にしか見ていなかったが、良く見てみると色々な格好の者がいるのが分かる。


 執事服のような物に身を包んだ初老の男性、メイド服に身を包んだ女性達、スーツがはち切れそうな程に肥え太り頭の禿げ上がった豚のようーー失礼、中年と一目で分かるおっさんに、様々な色のドレスを着込んだオバさんという名の女性達……等々。この光景だけで既にただならぬ状況というのも容易に理解出来る。


 そして一方のクラス連中はと言うと、半数は既に考える事を止めて落ち着きを見せているものの、もう半数は未だ混乱中。目を白黒させたり戸惑いの声を上げたり、果ては放心したかのようにどこを見てるかも分からんような目で、ポケッとしながら何事かを呟いている奴までいる始末。

 子供か! ……いや、高校生はまだ子供か。



(……む)


 そんな中、とある男とふと目があった。パニックでもなく思考停止でもなく、俺を除き唯一辺りを見回しながら何かを考え続けている。周りに向けている視線の感じからして、俺と同じく情報収集をしていたと思われる。


 同じクラス故見覚えはある。決して派手ではないが存在感はある、そんな印象を受ける奴だった。誰だっけなこいつ、えーっと……。



「ーー静まれ」


 と、再び思考に入ろうとしたところで、何者かの声が聞こえ、意識が引き戻された。前方上方からしたどこか威厳を思わせるその声に、歓声がピタッと止む。周りの視線が声のした方に向けられるのを感じたのか、釣られるようにクラス連中もそちらを向いていく。


 ふむ、これは良い助け船が来たな。このままこいつらが大人しくするまで待たなきゃならんかと思っていた。



 さっき周囲を見回した時にチラッと視界に入っていたが、俺達の前方には階段があり、それを挟むように鎧を身に付けた兵士と思われる者達が配置されていた。そのまま階段を視線で登っていくと……数メートル上方、最上段に当たる位置には豪奢な椅子に座った男がいた。


 男の左右には女性が一人ずつ控え、その周りには階段を挟む兵士よりも重厚そうな鎧を着た者達が数名。階段の兵士達と違いフルフェイスの兜を被っており、鎧もそれに合わせた作りになっているように見える。


 そういった方面には詳しくないので良くは分からないが、まあ軽歩兵と重装兵の違いといったところか。つーかこんな時位顔見せろ、性別すら分からん。



 椅子に座る男の見た目は五十歳前後といったところか。焦げ茶色の髪に同じく焦げ茶色の見事な髭を携え、全身にはこれまた豪華な服をまとっていた。そして頭には冠を被っており、まあ見た通り恐らく王様なのだろう。


 とすればあの椅子は玉座……男の左右の女性は片方が見た目二十歳前後、もう片方は男と同じ位の歳に見えるが、年齢の差は見受けられるものの、どちらも格好から男と似たような雰囲気が感じられる。王妃と王女なのだろうか。あと、流石に距離があるため正確な表情までは分からなかったりする。



「まずは、いきなりこのような状況になっていることを謝罪しよう」

 全員の視線が向いたことを確認し、男は再び口を開き俺達に向かって頭を下げた。左右の女性もそれに倣い、恭しくお辞儀をする。



 何となくだが、今の状況に察しは付いている。

 俺は普段から趣味としてアニメやネット小説なんかを良く見ている。オタクというレベルではないが、勉学等で忙しい日々の中で、そういった娯楽系は数少ない癒しとなっていた。


 そしてその中で特に好きだったものが、主人公が異世界に召喚されたり転生したりして、魔法を使って日々を過ごす物語。数年前色々あって精神的に参っていた俺は、非現実的な世界観にあっさりと飲み込まれ、そこに逃げるかのように熱中した。仮に俺にもう少し子供心があれば、出来もしない魔法を想い描いて時折使おうとしたかもしれない、と言っても過言ではない。


 まあ実際そんなことは無かったが。所詮は作り物、あくまで空想の御伽噺だと思っていたから。……しかし、今こんな状況に置かれてしまうとそうも言ってられない。


 物語を楽しむ中で幾度となく目にし、また頭に思い浮かべた光景。普段過ごしている場所で突如何かが起こり、それがきっかけで全く見覚えの無い場所に飛ばされる。そして、目の前の如何にもお偉いさんといった人物に話しかけられる。これはきっとーー



「まずは自己紹介といこう。私はこのキュレム王国第十五代国王、チャールズ・フォン・キュレム。君達を異世界からーー勇者として召喚させてもらった」


(ハァ……やっぱりか……)

 俺はその言葉に、内心思わずため息をつくのだった。

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