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シーカーズ ~大器晩成魔法使いの異世界冒険譚~  作者: 霧島幸治
第二章 キュレム王国編 後編
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第1話 テンプレ

遅れてしまって申し訳ないっす。ここ数日間多忙により、執筆に殆ど取りかかれなかったもので……。

 冒険者ギルド。

 商業ギルド、漁業ギルドなど、いくつかあるギルドの中でも一番有名かつ強大であり、比較的大きな町には必ずある施設。


 その中でも、ここキュレム王国のような大国に存在する冒険者ギルドは特に規模が大きく、日々多くの冒険者達で賑わっている。

 そして現在ーー俺はそのギルドの真ん前に立っている。


「ふむ……中々でかいな」

 石造りの三階建ての建物で、入口のすぐ上には剣と盾が交差されたデザインの看板が掲げられており、その中央に「冒険者ギルド キュレム支部」と書かれている。外から見たサイズ的には図書館に引けを取らない。


 扉を開けて中に入ると、正面には受付と書かれたカウンター、右側には沢山の用紙が貼られた掲示板、左側には待合スペースと食事処といった感じになっていた。まだ朝七時半だというのに、既に飲んでいる冒険者たちもいるようだ。



 この世界において、一般的な公共施設ーー図書館や他のギルドは大体が九時から営業を開始するが、冒険者ギルドは唯一例外。緊急性の依頼が入る場合も多く、そのため朝七時開業の夜十時終業という、この世界では珍しいブラック企業のようなことになっている。


 そのため朝から賑やかな場所にはなっているのだが……いくら空いてるとはいえ、朝から酒を出すのかよ。営業スタイルに口を出すつもりは無いが、正直こういった煩い環境はあまり好きでは無い。


 早くも酔い始めてる奴がいるっていうのもちと良くないな。酔い潰れてる奴は流石にいないが、酔いつつもまだ意識があるということは、絡まれる可能性があることも意味している。

 ……あまり長居はしない方が良いか。俺の場合、登録の最中にどうしても注目を集めることになるからな。長くいればいるほど面倒なことになる。



 おっさん達の視線を無視しながら進んでいく。前回とは違い学生服ではなく、支給された上下黒の服を着ているので物珍しさがあるわけではないが、見慣れぬ若者が入ってきたということでどうしても目線がこっちに向くのだろう。


 受付前は人でごった返していたが、しばらく待っていると端が空いたのでそこに並ぶ。受付嬢は俺を見て、営業スマイルを浮かべながら応対してきた。


「おはようございます。冒険者ギルド、キュレム支部へようこそ。本日はどういったご用件でしょうか?」

「ギルドへの登録をしたいんだが……」

「はい。ではまずは、こちらの用紙に必要事項を記入してください」


 用紙を受け取り、名前や年齢などの簡単な個人情報を記入していく。日本語ではなく、()()()()()()()()



 冒険者活動の許可を貰ってから今日で四日。その間何をしていたのかというと、魔法修練・情報収集と共に言語の勉強を行っていた。

 当然全て覚えられるわけは無いから、必要な単語だけだけどな。ちなみにこれはサーシャに付きっきりで指導してもらった。


 ギルドでの登録は勿論、外では手続きのために書類を扱うことが増えてくる。そしてその際、記入を日本語で行ってしまうと異世界人であることが確実にバレる。この世界に言語は一種類しか無いからな。


 他の奴らならともかく、俺は勇者として召喚された者であることを隠さなければならない。いくら意味が通じるとはいっても、人前で日本語を書くことは避けなければいけないのだ。

 面倒だとは思うが、まあ仕方無い。これも安定した活動のためだ。



 記入し終えた用紙を返すと、受付嬢は一瞬怪訝な顔をしたのちすぐに営業スマイルに戻った。

 恐らくは、「何でこいつ無属性なのに冒険者なんてやるんだ?」とかいった感じだろう。確かに、魔法を満足に使えない無属性が危険な戦いに身を投じるなど普通はしないだろうし、その気持ちも分かる。俺はあくまで例外だろうしな。


 そんなことを考えていると、受付嬢は机の下から見覚えのある水晶を取り出した。確かダイナグライトとかいう鉱物を使った魔道具だっけか。

「次に適性属性を直接調べます。あなた様の場合必要は無いと思いますが、稀に自分の適性属性を知らない人がいまして、登録時には一度判定するという規則になっているので」

「……ああ、問題無い」

 水晶に手を触れ意識を集中させる。すると、二週間前と同じく水晶は色を変えずに輝きだした。


 それを見た周囲の人間達が、俺に嫌な視線を向けてくるのが感じられた。だが、その時俺の意識は視線でもなければ水晶でもなく、その下ーー水晶を置く布に描かれた魔法陣に向いていた。



 ダイナグライトは対象者の適性属性によって色を変化させる。その性質を利用して属性判定を行うわけだが……実際はダイナグライトのみだと正確な測定は行えない。

 というのも、一属性者(シングル)なら全くもって問題は無いのだが……複数の属性を持つ場合、つまり二属性者(ダブル)三属性者(トリプル)だと色が混ざりあってしまい、何の属性を持つかが分からなくなってしまう。


 そこで活躍するのがこの魔法陣。書庫の文献及び鑑定結果によると、ダイナグライトの性質を制御し複数属性の場合色を分割させる効果があるらしい。

 確か王城で測定したとき、クッションにも同じものが描かれていたっけか。そこら辺ジキルは何も言ってなかったから、あれは単なる紋様だって考えてたが。



 ……とまあそんなわけで、実質これが俺が初めて目にした魔法陣魔法ということだ。そりゃあ目も惹かれるというもの。

 今見てるやつはともかく、他の魔法陣魔法にはこれから先世話になることも多くなるだろうし、遠出するときにでも練習しておくか。火とか水とか、室内じゃ使えないものもあるしな。


「これで良いか?」

「は、はい。確認は済みましたので、もう離して結構です。……それにしても、本当に無属性なんですね」

「そうだが、どうかしたか? 無属性が冒険者になれないなんていう決まりは無いはずだし、何も問題は無いと思うが」

「確かにそうですが……いえ、分かりました。それでは次の工程に移らせていただきます」

「ああ。そうしてくれ」



 冒険者になるためには、二つほどクリアしなければいけないことがある。

 一つ目は登録者本人が十三歳以上であること。何故この数字なのかというと、この世界では十五歳で成人を迎えるということになっており、十三はその一歩前段階だから冒険者になって世界を知ろうとすることも許可しよう、ということらしい。



 二つ目はこの後に行う実技試験。各ギルドにはベテランの冒険者である教官が何名か専属でついており、その教官が出す課題をクリア出来れば登録完了ということになる。

 逆に言えば、教官を満足させることが出来なければ冒険者になることは出来ない。依頼のランク以外にも、こういった仕組みにより腕の無いものを予めふるい落とし、死亡率を下げているのだ。


 ちなみに課題の種類は様々で、最初用紙に記入した適性属性と得意武器によって内容は変わってくるのだとか。俺の場合は……恐らくは模擬戦闘になるだろう。



 そんなわけで、教官の準備が出来るまで少し時間がかかるので待っていてほしいとのこと。その言葉に従い、俺は待ち合いスペースの椅子に座って呼ばれるのをじっと待つ。

 ここで何も起こらなければ良かったのだが……まあそんな風になるわけが無いわな。



「おい、兄ちゃんよ」

 四人のおっさんが食事処の席から立ち、俺の近くへと歩いてきた。どうやら全員少し酔っているようで、吐く息からはアルコールが感じられる。

 ……やれやれ。やっぱりこうなるのか。


「……何か用か」

「今すぐお家へ帰りな。ここはお前みたいな奴が来るところじゃねぇ」

「そうそう。魔法も満足に使えない無能なんかが生きていける程甘い世界じゃねぇんだ。帰って部屋にこもっていじけるのがお似合いだぜ?」

「まあそれでも依頼をこなしたいっていうなら……うちのパーティの雑用係にでもなれよ。それなら魔物と戦える機会位はあると思うぜ? ま、お前の分の報酬は殆ど無ぇけどな」

「お前それ、こき使うってだけじゃねぇか。もう何人使い潰したと思ってんだよ」

「別に良いじゃねぇか。どいつもこいつも、結局強ぇ魔物と戦いたいっつー願いは果たせたんだから。取り引きは成立してるんだし、過程が何だろうと問題無いだろ?」


 違ぇねぇ、と男達は下卑た声で笑い始めた。その様子を見て、周囲の人間達は少しずつ遠ざかっていく。無闇に巻き込まれないためだろうが、何処となく手際の良さを感じる。


 ……成る程。この程度は日常茶飯時ということか。受付嬢達も「ああ、またか」みたいな目してるしな。



「断る」

 当然のことながら、どんな形であれこんな奴らと行動を共にする気は無いので、拒否の意思を示し引き続き呼ばれるのを待とうとする。だが、男達は俺の返答に対し憤りを露にしてきた。


「あぁ? てめぇ、何調子乗ってんだ?」

「Cランクパーティである俺達が直々に勧誘してやろうって言ってんだ。それを断る気か?」

「今ならまだ聞き間違いだったってことで許してやる。もう一度だけ言うぞ? 俺達のパーティの雑用係になれ」


 うわぁ……めんどくせぇ。こんなテンプレ展開俺は望んで無いんだが。

 内心全力でため息をつく俺に対し、周囲の人間は益々遠ざかっていく。多分今のCランクパーティという単語を聞いてのことだろう。



 冒険者には下から順番に数えて、G・F・E・D・C・B・A・Sといった感じで八つのランクが存在する。今こいつらが口にしたCランクというのは上から四つであり、強さで言うと中堅の戦士といったところだ。


 そしてパーティというのは冒険者のシステムの一つであり、達成が困難な依頼に対して顔見知り見ず知らず関係無く、目的が一致した者同士が組む協力関係のこと。冒険者として活動する者の多くは、基本的にはパーティを組んで依頼に望むという。



 ではCランクパーティとはどういう者達を指すのか。パーティの前に何らかのランク名が付くというのは、そのパーティの主力全員がそのランク相当またはそれ以上の強さということ。つまり、今目の前にいる四人全員が中々の腕を持っている、ということを意味している。


 その四人が揃って何かしらやれば、当然周囲にはそれなりの被害が出る。実際ステータスを見てもそこそこの腕はあるようだし、暴れたりでもすればここの設備はただでは済まないだろう。遠ざかるというのは決して臆病などではなく、むしろ賢明な判断と言えるのだ。



「……何度聞かれようが返答は変わらん。雑用係なんてもんにはならんし、そもそもお前らと組む気自体毛頭無い。勧誘なら他をあたってくれ」

 ため息をつきつつ変わらず拒否を示すと、男達の怒りは頂点に達したようで、ついに揃って武器を抜いた。


「てめぇ……いい加減にしろよ?」

「もう許さねぇ! 二度となめた口が聞けねぇように叩き潰してやる!」

「それだけじゃ足りねぇよ。歩けねぇような体にしてやらんと気が済まん!」

「ハァ……結局こうなるのか」

 騎士団連中の時も思ったが、この世界の奴ら沸点低すぎんか。いくら酒が入ってるとはいっても、勧誘を拒否されただけで全くの無関係だった人間を殺そうとしてくるって。鞘がぶつかっただけで殺し合い始める武士じゃないんだからさぁ……。


 ……つーかレミール。これは流石にノーカンだよな? こんなん回避しようがないだろ。



 対抗して俺も立ち上がり、支給された剣に手をかける。座ってる状態で囲まれて全方向から攻撃されるっていうのは避けたいからな。

 まあそれでも普通に勝つ事は出来るが……わざわざ危険な状態に自分を追い込むことはあるまい。根っからの戦闘狂ならともかく、俺にそんな趣味は無い。



「これは何の騒ぎだ!」

 そんな正に斬り合いが始まろうというタイミングで、どこからか怒号が響き、全員の視線がそちらへと向く。そこには、白髪混じりの黒髪を持つ一人の男性がいた。


「「「「「く、クルツさん!!?」」」」

 誰? と思わず首をかしげてしまうが、静まり返った空気が一気に騒がしくなったところから、有名な人物であることは確かだろう。俺に絡んできた四人も、姿を見て顔を青ざめさせてるしな。


 てか、クルツってどっかで聞いた名前だな……どこだっけ。えーっと……。



 記憶を辿っている間にも近くの受付嬢から話を聞いている姿が目に入り、事情を把握し終えたのかこちらへ歩いてきた。そして、俺の目の前で立ち止まる。


 身長は俺より僅かに高い位。そして引き締まった体とそこにまとう雰囲気から、只者ではないことは容易に察することが出来る。

 だが、一番気になるのはそこではなく……何故か俺を見て少し微笑んでいること。俺に向ける視線から、どこか期待を寄せているような感情が伝わってくる。


「君が今回登録をしようという、無属性の子かね?」

「そうだが、あんたは?」

「おお、申し遅れてしまったな。私はクルツ・ステイン、この冒険者ギルド・キュレム支部のギルド長と教官長を兼任していてな。今回君の実技試験の担当をすることになった」

「……!」



 思い出した。確かサーシャに冒険者ギルドのことを聞いた時、その中にこの男の名があった。

 クルツ・ステイン。かつてキュレム王国を襲った魔物の群れを幾度と無く撃退した立役者の一人であり、化け物を意味するS()ランク冒険者の称号を持つ者でもある。


 八つのランクに分かれる冒険者システムではあるが、一番上のSランクとは一人で国一つ落とすレベルの強さを持つ者に授けられる称号であり、歴史を見てもその数は極僅か。基本的に人外扱いされており、冒険者達が目指す最高峰の地位であるとされている。


 そんな人間が現れたのだ。他人に一方的に暴力を振るおうとする奴らが怯え、それ以外の冒険者達が羨望の目を向けるのも当然のことだろう。実際この辺り一帯は、ギルド長のおかげで治安が良くなってるらしいしな。



「そうか……俺はシュウヤ。さっき言った通り、今回登録をしに来た者だ。それで、実技試験はどんなことやるんだ?」

「ああ、それなんだが……」

 クルツは横目でちらりとさっきの四人を見る。そして口角を上げ、予想外の言葉を放った。


「試しに、そこの四人と戦ってみてくれないか? 一人ずつじゃなく、一対四で」

「「「「「は?」」」」」

 いきなり何を言い出すんだこの男は。四人だけじゃなく、俺まですっとんきょうな声を上げてしまったじゃないか。


 周囲の奴らも揃って唖然としているところから、少なくとも頻繁にあることではなさそうだ。ということは、やっぱり無属性関連でリンチをーーいや、そんなことを考えてる目じゃない。

 さっきと変わらず、何かこう……良い意味で楽しみにしてるとか、心から期待してるとか、そういった感じだ。俺が一方的にやられるなんてことは微塵たりとも考えていない。


 ということは、俺を直に見ておおよその戦闘力を把握して、それにあった試験内容を思いついたということなのだろうか。ここに来たときの様子からして、事前に俺と四人の間で何があったのかを知っていたわけではないはずだし、その可能性が高いかもしれない。



「いやいやいやいや! 何考えてるんですか、ギルド長! 何でそんな無茶なことをーー」

 受付嬢達も流石に見過ごせなかったらしく、すぐさま止めに入る。冒険者達も口にこそ出さないが、視線から全員同じ感情を持っていることが分かる。

 だが、クルツはそれを目で制し、再び俺達に向き直った。どうしてもやらせるつもりのようだ。


「えっと、その……本当にやるんですか?」

 さっきまで殺気を迸らせていた男達も酔いが覚めて冷静になったのか、クルツに対し敬語で接していた。望んでいた状況とはいえ、まさかギルド長直々に許可が出るとは露程も思っていなかったのだろう、戸惑いを隠しきれていない。


「当たり前だろう。私が冗談を言うような男に見えるか?」

「いえ、それは……」

「それに、君達はこの子と戦いたかったのだろう? それをギルド長公認でやっても良いと言っているのだ。むしろ何故喜ばない?」

「……それもそうか。おしお前ら! 許可も出たことだし、この調子乗った野郎をぶっ潰すぞ!」

「何か良く分かんねぇけど、そういうことなら安心してボコボコに出来るな! ありがとうございます、ギルド長!」

「なに、気にすることはない。……それじゃ、()()()()()()()戦ってくれ」


 そんな感じで盛り上がっていく男達から目線を外し、クルツは俺に向けてサムズアップをしてきた。思う存分ボコってやれということだろうか。



 どうしてこうなった……。無駄な争いは避けろって言われてんのに、約束破りまくりやんけ。いやまあ試験内容として決まったことだから仕方無くはあるんだけどさ。


 まあいい、後で不満に文句を全てぶつけてやる。色々と気になることもあることだしな。

執筆の励みになりますので、良ければ評価やブクマ等してもらえると嬉しいです。

また、誤字報告や表現がおかしいところへの意見などもお待ちしております。

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