表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シーカーズ ~大器晩成魔法使いの異世界冒険譚~  作者: 霧島幸治
第一章 キュレム王国編 前編
35/80

第33話 書庫解禁

「ーー魔力撃(インパクト)!」

 いつものように詠唱を唱え、手の平から魔力の塊を発射する。それはすぐに布団にぶつかり、ボフッという音を立てて消滅した。これに関しては一週間前、初めて魔力撃(インパクト)を使った時から変わらない。


 しかし、別の部分では明らかな変化が起こっていた。



「……まただ。何だこれ……」


 魔力撃(インパクト)は魔力の塊を球体状に固め飛ばすもの。書物にもそう書いてあったし、実際昨日までは球体が生み出され、放たれたのちどんどん小さくなっていくだけに見えていた。

 だが、昨日の夜にふと気が付いてからというもの、放たれた球体はあたりに何かを撒き散らしながら進むように見えるようになったのだ。そして、それにつれ小さくなっていくのが見て取れた。


 光源生成(ライト)に関しても同じで、生み出した光球からは大量の何かが漏れ出ている様子が見えるようになった。恐らくは、これこそが以前から感じていた違和感の正体。球だけど球じゃないとか、ぼやけて見えるとかいうのは、つまりはこういうことだったのだ。



 見間違いかと思いさっきから何度も目を擦ってはいるが、結果は同じ。今までとは違い、何かが見えるのは変わらない。


 まあ見えるとは言っても、はっきりではなくぼんやりレベルではあるのだが……何だろう、俺の目は本格的におかしくなってしまったのだろうか。或いはーー



 コンコン。

「シュウヤ様、もう起きていらっしゃいますか?」

「ああ。待ってくれ、今開ける」

 まあ、考えるのは後にするか。迎えも来たわけだしな。


 ノックに応じドアを開ける。そこにはいつも通り、サーシャが笑顔を浮かべて立っていた。

「おはようございます、シュウヤ様。お食事の準備が出来ましたのでご案内いたします」

「了解した。が、度々思うんだが……食堂の場所はもう完全に分かってるんだし、同行する必要は無くないか?」

「それはそうなのですが……専属メイドとはそういうものなのです。務めを果たさなければお叱りを受けてしまいますし」

「ふぅん、面倒な決まりもあるもんだな」

「それに、これは私が個人的にしたいことでもありますし……もしかして、ご迷惑でしたか?」

 そう言いつつ、サーシャはしゅんとした様子を見せる。うーむ……サーシャのことを考えてのものだったんだが、確かに今の俺の発言はそういうニュアンスに取れるな。もう少し言葉を選ぶべきだった。


「そういうわけじゃない。迷惑になんて思ってねぇから、元気出してくれ」

「それなら良いのですが……」

「ほら、ぐずぐずしてっと置いてくぞ。務めは果たすんだろ?」

「あっ。ま、待ってください!」


 先を行こうとする俺を慌てて追いかけ隣に並ぶ。そして、共に歩き出した。




 この世界に来てから十日目。正直言って現状は芳しくない。


 無属性魔法を何とか使いこなそうと日々練習してはいるものの、今のところ出来たことと言えば詠唱を口にするのに慣れて唱える速度が上がった位である。まああんまり早く唱えても発動しないみたいだから、そこら辺の調整は必要なわけだけど。

 効果が上がったわけでもなければ消費魔力が少なくなったわけでもなく、ましてや詠唱の短縮が出来たわけでもない。つまり特にこれといった成果は無いということだ。



 ただ、その中で分かったこともある。まあ俺にとっては悲報でしかないのだが……ある意味この時点で気付けたのは朗報とも言えるかもしれない。それすなわちーー魔法というものが如何に戦闘において使いにくいものなのか、ということ。


「お前何言ってんの? 魔法師団なんてものがあるじゃん」と言われるかもしれないが、ここで言う戦闘とはあくまで俺が今までやってきたような近接戦闘の話であって、遠距離から魔法を撃ち合う戦闘のことではない。確かにただ魔法を撃つだけなら何の問題も無いのだが、近接戦闘に組み込むとなると話は変わってくる。



 魔法というのは、魔力だけでなく集中力も大量に消費するもの。図書館に行った日の夜、俺は光源生成(ライト)を使った際他四人に比べて特別疲れるということは無かったが、あれは別に集中していないというわけではなく、ただ単に俺がずば抜けて集中力が高かっただけだということが分かった。まあ爺ちゃん達との修練で、そこら辺めちゃくちゃ鍛えられたからな。

 消費した分の集中力は他と同じ、でも元の量が多い分余裕があった……ただそれだけのこと。


 その証拠に、戦闘中に魔法を使うことを想定して体を動かしながら魔法を使おうとしたことがあったのだが……もう上手く出来ないどころの話では無かった。拳は鈍いわ剣筋は乱れるわ瞬行は途中ですっ転ぶわ……爺ちゃん達に見られたら間違いなく殺されると思う。ぶっ殺すの方じゃなくてキルの意味で。



 残念ながら今の俺では、魔法を戦闘に用いるどころか使いながら会話するのがやっとらしい。一応並列同時思考(マルチタスク)を使えば戦闘も普通に出来るようだが……それにおんぶにだっこでいるわけにもいくまい。

 これに関しては、日々修練を積み重ねるしか方法は無いだろう。剣と同じで近道など無い。


 ……てか、そう考えると光源生成(ライト)が一瞬で消えてた高坂って、他三人に比べてどんだけ集中力無ーーいや、これ以上考えるのは止めておこう。



「そうだ、聞いてください!」

「ん、どうした?」

 サーシャの声により、意識が現実へと引き戻される。思えば俺も随分とこいつに慣れたものだ。まあ毎日接してればそうなるか。


「今朝メイド長から通達があったんですが、例の書庫の件、ようやっと許可が取れたそうですよ!」

「本当か!?」

「はい!……あ、でも使用においていくつか条件があるそうで……」

「条件? 中で見た知識は言いふらすなとかか?」

「そんな感じですね。ええと……」

 サーシャは懐から一枚の紙を取り出し、俺に渡してきた。どうやら国王直筆の書状のようだ。角のところに判子が押してある。


「えーっと、何々……って、何か随分と難解な言い回しだな。もっと分かりやすく書けよ……」

 文法的にはさながら日本の古典のようで、正直読みにくいことこの上無い。というか読めねぇ。

 図書館の書物の学者達が書いた文もやけに難しかったが、それすら簡単に思える程だ。人に読ませる気無いだろこれ……。



「貴族階級以上の方々の書状は難解なものが多いですからね……。お渡ししてから言うのも何なんですが、よろしければお読みいたしましょうか?」

「ああ、頼む……すまんな」

 結局サーシャに読んでもらうことにした。情けないとは思うが、こればっかりは仕方無い。



 内容は要約するとこんな感じ。


 書庫の使用を許可する。専属メイドの付き添いも可。ただし、以下の七つの決まりに従うこと。

 一つ、書物を持ち出すな。

 一つ、書物を傷つけるな。

 一つ、何も書き込んだりするな。

 一つ、写本するな。

 一つ、入退室の時は衛兵によるボディチェックを受けること。

 一つ、書庫に入れるのは朝九時から夜九時まで。

 一つ、中の書物で得た知識をみだりに他の者に話すな。


 決まりを破ったら、何らかの形で罰を与えた上で以降書庫へは絶対に近寄らせない。以上。



 図書館の一件でもそうだったが、これを聞くだけでもこの世界で書物が如何に貴重な物なのかが良く分かるな。罰ってのがどんなものかは分からないが、一国の王の言葉ともあれば相当なものだろうし、絶対に食らうわけにはいかないから決まりを破る気は無い。まあ、これ以上立場を悪くしても面倒事しか起こらないから、そう言った意味でもする気は無いけどな。



 しかし、写本禁止か……ちとキツいな。一体何冊あるのか知らんが、それだと多分俺一人では覚え切れなどしないだろう。一応サーシャも連れていけるみたいだが、そこまで大きな違いが生まれるわけではない。

 だが、かと言って他の奴を呼ぶわけにはいかない。あいつらだって自分の訓練があるからな。手助けはしない、だけど自分はしてほしい……そんな屑な発言をする気は無い。


 仕方無い。あんまする気は無かったんだが、いずれそういう系統の能力作るか。あれさえあれば、写本も持ち出しもする事なく知識を蓄えられるからな。



「ふむ、了解した。ありがとな」

「いえいえ、これもメイドの務めですので。……それともう一つ」

 そう言うと、サーシャは再び懐から一枚の紙……ではなく、今度は便箋を取り出した。口は蝋で閉じられており、外側を破らないと中は見れないようになっている。


「これは? これも国王から?」

「いえ、メイド長からのものです。シュウヤ様に渡せとのことで……。中身は私も把握していません」

「……………………」

 わざわざ他の奴に見られないようにするってことは、それだけ重要なものってことか? でも国王からのものは剥き出しだったよな……。

 書庫の許可よりも重要なこと? ダメだ、考えたところで何も思い付かん。



 封を切り中を見る。そこには一枚だけ紙が入っており、そこには「夕食と風呂を終えたら侍女長室に来てほしい」とだけ書かれていた。侍女ってのはメイドのことだから、要はレミールの部屋に行けってことか。


 日にちが書いてないのが気になるが……これは受け取ったその日に来いということ? それとも好きな時に来いということだろうか。


「なあサーシャ、これってどういうーー」

 と聞こうとしたのだが、当のサーシャは手紙の文を見るなり絶句していて、とても聞けるような状態には見えなかった。

「……おーい。帰ってこい」

「ーーはっ! す、すみません。余りの衝撃につい……」

「え、これってそんなにマズいことなの?」

「分かりません……メイド以外の人間が直々に呼ばれることがあるなんて聞いたことも無いので」

「前例が無いってことか。ちなみにメイドが呼ばれる場合はどんな時?」

「副メイド長の場合は業務連絡。そしてそれ以下、私達のような一介のメイドが呼ばれる場合は……直々にお叱りを受ける程何かマズいことをしでかしてしまった時ですね」

「……そうか。まあ俺は別に怒られるようなことした覚えは無いし、その線は無いとしてだ。時間はともかく日にちについて何も書かれてないんだが、これはつまり」

「勿論、本日の夜ということですね」

「それが分かれば十分だ。ありがとな」


 どんな用なのかは気になるが、まあ会って直接聞けば済むことか。考えたところで、どうせ答えなんて出ないわけだしな。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「……ここか」

 朝食・魔法の自主訓練・昼食と済ませ、今俺はサーシャに案内され書庫の扉の前に立っていた。今日は夕食までここに引きこもって作業するつもりだ。勿論トイレだったり休憩がてら魔法訓練したりの時は一旦出るけども。


 脇にいた二人の衛兵に詰め寄られたが、国王の書状を見せボディチェックを受けると案外簡単に入ることが出来た。終始睨まれっぱなしだったのが少々気にかかるが、視線の感じからして無属性だから良い印象を抱かないってだけで他意は無いだろう。クナイはちゃんと部屋に置いてきたわけだしな。



「うぉ……こりゃすげぇな」

「はい……。私もここに入るのは初めてですけど、かなり圧倒されますね」

 中に入ると多くの本棚が設置されており、その一つ一つに本がギッシリと詰まっていた。これを個人の力で全て覚えるなんて到底出来るものではないだろう。

 仮にするとしても、冗談抜きに年単位の期間が必要である。そして、当然ながらそんな時間が残されているわけがない。


 人の頭では不可能。ならば、記憶する作業は能力に任せっきりにするしかない。



 じゃあ今じゃなくて能力を作ってから書庫に来れば良いじゃないか、と言われるかもしれないが……残念ながらそういうわけにもいかない。何せ今考えている能力、作れはしても非常に融通の効かないものであり、考え無しに使いまくれば後々厄介なことになりかねないのだ。そのため十分な下準備が必要であり、少なくとも一ヶ月はそっちに専念するつもりである。


 何故一ヶ月なのかと言うと、理由は簡単。何があろうと一ヶ月後まで目当ての能力は作れないから。

 と言うのも、鑑定眼の次なる能力は二つ目も三つ目も既に決まっており、どちらも今の俺にとって超重要な能力であるため外すことが出来ない。能力生成(スキルメーカー)自体は五日後に解禁されるわけだが、先に二つ別の能力を作る分クールタイムが増え、一ヶ月は他の作業をするしか無いのである。



「そんじゃサーシャ、さっき言った通りに頼むぞ」

「は、はい。……あの、何故このような作業を? 普通に端から覚えていった方が良いのでは……。いえ、別に意見するというわけではないのですが」

 確かに、普通に考えればこれは奇妙な光景に見えるかもしれない。下準備の内容としては、既に得ている知識との擦り合わせと情報の取捨選択。こんだけ数があればその分いらない情報だって大量にあるだろうし、別の言葉を使ってても内容自体は一緒っていうことだって山ほどあるはずだ。それを全てカットし量を出来る限り減らし、その結果残ったもののみを覚える、それがこの作業。


「あー……まあ色々あるんだ。深くは聞かないでくれ」

「了解しました」

 だが、それをサーシャに説明するわけにはいかない。能力生成(スキルメーカー)関連の事は誰にも言えないからな、少々申し訳なさはあるがひたすらに働いてもらうとしよう。サーシャもサーシャで書庫の重要文献を見れるわけだし、それで良しと考えてもらうしかない。



(さて……果たしてどれくらいで終わらせられるかね?)

 少なくとも一ヶ月で終わらせるのは絶対に不可能。ずっとこもっていれば可能かもしれないが、それをやると多分気が狂う。魔法の自主訓練や冒険者ギルドの件もあるし、平行して行うとなれば三ヶ月は見るべきだろう。


 幸い棚は図書館のようにジャンルごとに分けられており、能力を作った後も使用と下準備を交互に行って作業を行うということが可能になっている。これがもしバラバラだったらまずジャンル分けから始めなければいけないことなり、少々絶望していたところだろう。それがカット出来たのは大きなことだ。



 先は長い……が、悪い気はしない。本を扱う作業に熱中するなんて、まるで昔に戻ったような気分だ。そんなことを考えつつ俺は一つの棚に近付き、端の本に手をかけ読み始めたのだった。

執筆の励みになりますので、良ければ評価やブクマ等してもらえると嬉しいです。

また、誤字報告や表現がおかしいところへの意見などもお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ