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シーカーズ ~大器晩成魔法使いの異世界冒険譚~  作者: 霧島幸治
第一章 キュレム王国編 前編
28/80

第26話 プライドは何処へ

「や、やべぇ……全員離れろ!」

「いや、その前に団長を回収するぞ! 早く!」

「そうだな……団長! 早く起きてください!」

「……ああ、分かった」


 ブロディの様子を見て、兵士達が慌てながら一斉に退避していく。先程まで呆然していたカストロも腕を引かれ離脱し、俺達二人を中心に五十メートル四方程のスペースが出来上がった。


 一方ブロディは、そのままかかってくるかと思いきや途中で足を止めた。互いの距離は十メートル程。剣の戦いにしては離れすぎてる気がするが……助走でも付ける気なのか?



「カストロと一緒にかかってこなかったから、怖気付いたのか思ったが……そうじゃねぇみたいだな」

「……そんな訳がないでしょう。たかが無能如きに何故そんな真似をせねばならないのです。ただ単に、単独で戦った方が私の愛剣であるこいつを思う存分振るえるからです」

 ブロディはそう言いながら、手に持った灰色の大剣を構える。大剣なんてものを実際にこの目で見るのは初めてだが、正に叩き潰すって感じの武器なんだな。全体的に太く巨大に作られてて、剣というよりかは鈍器のようなイメージを受ける。


 大剣……それがこいつの得意武器というわけか。訓練用の武器を使わないってことは、本格的に殺しに来てると見て良いな。模擬戦という言葉の意味を今一度、団長共々調べ直していただきたい。


 まあ良い。そんなことよりも、兵士達の妙な反応が気にかかる。こいつはそんなに危険な戦い方でもするのか? カストロの時と同じく、ブロディのステータスも見ておいた方が良いな。



============================================



 〈名前〉:ブロディ・ジェンキンズ 〈年齢〉:48


 〈種族〉:人族 〈性別〉:男 〈属性〉:火


 〈状態〉:激昂


 HP:□□□□□□□□□■2000/2200

 MP:□□□□□□□□□□1700/1700

 LP:□□□□□□□□□□2400/2400


 〈基本技能〉:剣術(中)、大剣術(大)、槍術(大)、棍棒術(大)、盾術(大)、体術(大)、拳闘術(中)、威圧(中)、気配察知(大)、殺気感知(大)、統率(大)、騎乗(大)、解体(中)、異界言語理解


 〈魔法〉:火属性魔法(大)、無属性魔法(小)



============================================



 同じ騎士団だけあって、ステータスもカストロと似たりよったりなんだな。てことは、特に変なところは無いってわけだ。


 じゃあ戦法の問題? 大剣を滅茶苦茶に振り回すとかだったら、兵士達のあの反応も理解出来なくはないが……まあ多分違うだろうな。確かにカストロに負けず劣らずの体格だが、それでもそんな戦い方をするようには見えない。



 そもそも、いくらさっきの絶影が本気では無かったとはいえ、あの量の殺気を感じて尚無策で突っ込んでくる程馬鹿ではないはずだ。例え人をサンドバッグにしてニヤつくような(クズ)でも、国の騎士団の副団長ではあるのだから。


(うーむ。なら……あの剣に秘密があるのか? 何かさっきから妙な気配を感じるし、何か細工してそうなーー)



 そう思ったとき、ブロディは何故かその場で剣を掲げた。その様子を見て、流石に遠くて顔は見えないが兵士達の緊張が更に高まった気がした。


 いや、こいつ何やってんだ? 担いで走り出すなら分かるが、ただ高く上げるって、一体何をーー。



(……おい、ちょっと待て。まさかとは思うが……)


 急いで鑑定眼を起動し、ブロディの剣の詳細を調べる。俺の予想通りならあれはーーげっ! やっぱりかよ!?



 鑑定結果に驚愕すると同時に、ブロディの剣の刀身周りに突風が発生。そして収束し刃が形作られ、口元に笑みを浮かべながら真っ直ぐ振り下ろしてきた。大剣の軌道上に立っていることはどう考えてもマズいので、横っ跳びに回避する。


 ーーその直後巨大な風の刃が飛来し、俺がさっきまでいた位置の地面を抉った。俺は二回程転がったのち、地面を殴り付け反発力で強引に体を浮かせ、体勢を立て直す。


 だが、その時には既に新たな風の刃が生成され、俺に向かって飛んで来ていた。今度は振り下ろしでは無く斜めに振り上げる形式だったので、横っ飛びではなく跳び上がりつつ体を捻りアクロバティックにかわす。



「ほぉ……良く避けましたね。まさか、シュトロームの攻撃を初見で対処されるとは思いませんでしたよ」

 ブロディはそう言いながら、再び風の刃を生み出そうとする。


(あんの野郎……何で訓練なんざに()()なんか持ってくんだよ! 殺す気満々どころかむしろ殺す気しか無ぇじゃねぇか!)


========================================



 名前:シュトローム


 概要:正式名称「暴嵐の魔剣」。最上級の風の魔剣であり、強力な風の刃を自在に生み出す。内部には刃生成・刃射出の二種の魔法陣が存在し、魔力を流す位置により使い分ける事が可能。狙った場所に撃ち出すには、その方向に向けて本体を振る動作が必要となる。


 また、近接戦闘中に刃を作り出し突風を起こすことにより、相手を簡単に吹っ飛ばすことが出来る。シュトロームとは、キュレム王国騎士団副団長ブロディが持つ暴嵐の魔剣の愛称。



========================================



 魔剣とは何か。一言で言えば武具系魔道具の一つであり、魔法陣魔法を組み込んだ剣の総称である。通常の剣として使う他、刀身の周辺に魔法のエネルギーを発生させることで戦闘を有利に運ぶことが出来る。こいつの風の魔剣は説明の通り、風の刃を作って飛ばしたりその課程で刀身から突風を発生させて吹っ飛ばしたりすることが可能。


 図書館で八雲が調べた情報によると、魔剣は製作段階で魔法陣とそれを活かす機構を内部に組み込んであるらしい。柄に魔力を流すことで機構を通り魔法陣が発動し、効果を発揮するのだという。


 まあ当然だな。魔法陣魔法は魔法陣が無事な状態でなくてはならない。土台である魔法陣の一部が物理的に途切れてしまえば、いくら魔力を流そうともそこで流れは止まってしまう。

 それなのに、戦闘において積極的にぶつかり合う剣の外面に陣を描く、なんてことをすれば……結果は火を見るより明らかだ。実用化に至るにはどうしても内部に組み込まなければならない。



 ……とは言ったものの、それはあくまで理屈である。そんな作業を挟んで作ったものが、果たして剣としてまともに強度を持っているのか? という疑問は当然湧いてくる。

 実際現在の技術では製作する事は非常に困難らしい。もし作れたとしても、既存の物よりも強度としては大きく下回ってしまう。


 ならば、今存在している魔剣達は一体どこにあったものなのか? 答えはそう、遺跡である。

 今からどれ程昔なのかは分からないが、どうやらオリジナルの魔剣は古代文明の産物らしく、遺跡を探索した結果見つかった物が現在いくつかの国に伝わっているらしい。製造方法とかそういった物は一切伝わっておらず、破損した物を調べても何で強度が保ててるのかが分からないため完璧な再現は不可能とのこと。……というのが魔剣の概要である。



 愛称云々はどうでも良いが、とりあえずどう考えても模擬戦なんかに持ってきて良いような物で無いことは分かるわ。

 こんなん本気で振るったら、普通なら相手どころか周りの奴等も巻き込まれて死ぬだろ。兵士達の反応は過剰だとか思ったが、むしろああなって当然だったってわけだ。


 ……つーか、そんなもんを無能って(さげす)んでる奴相手に使うって。こいつらにそっち方面のプライドは無いのか? 馬鹿にされたり負けそうになったりした時には見せるのに。


 しかもこいつ、剣としてじゃなくいきなり魔法を撃つ道具として使ってきてやがるからな。団長がボコボコにされたの見て、自分の剣技じゃ敵いそうにないから、最初の不意打ちが失敗したらあとは魔法で遠距離から削るチキン戦法にしようってか? もう一回言うけど、無能って蔑んでる奴相手に。

 情けなさすぎていっそ清々しいなおい。この国に剣士はいないのか。



 まあ、そんな騎士団でも国を守れる程、魔剣が強力ってことでもあるんだろうがな。


 この世界の魔物がどんな程度の強さなのか、まだ会ってないから良く分からんが……それでもかなり強いことは確かなはずだ。そして、グレイス平原の魔物の大群を、こいつらは長年相手にしてきている事実がある。だが、こいつら自身の力だけでそんなことは出来ないだろう。


 いくら魔法師団と一緒に戦うとはいえ、魔法には詠唱が必要だ。その時間を稼ぐために、騎士達は武器と己の体をもって足止めしなきゃいけない。

 そして戦ってみた感じ、武器を扱う技能だけではそんなことは不可能だと判断出来る。何せ、騎士団長がまだ本気を出してない俺相手にボロ負けする位なんだから。


 その不足分を補うのが、ブロディが持つような魔剣と言うわけだ。一度現象を発生させそれを収束させて刃を作り出す方式故、刃が出来るまでの間も近付きにくくなるから、詠唱魔法に比べ攻撃前の隙が小さくなる。今見た通り威力が弱いわけでもなく、魔法陣魔法を元にしているため適性関係なく誰にでも使う事が出来る。


 副団長であるブロディの武器がこれなんだから、立場が更に上のカストロも同じく最上級の魔剣を持ってるはず。つまり、この国には少なくともあのレベルの魔剣が二本はあるということだ。そりゃまあ、こんなんが二本もあれば勝てずとも対抗するくらいの事は普通に出来るだろう。



「ちょっと! 何を考えてるか知りませんが、片手間に避け続けるの止めてくれませんか!?」

「……あ? 別にどう避けようが俺の勝手だろ。色々考えてんだから邪魔すんな」

「だから、その態度がムカつくって言ってんでしょうが!」


 そう声を荒げながらブロディは再び風の刃を放ってくるが、俺はそれを軽やかに避けていく。魔剣のことを考えてる間にも十発以上飛んできていたが、大袈裟に避けたのは最初の二~三発だけで、後は足運びや軽く跳ぶだけでかわせていた。


 まあ当然だな。確かに最初は予想外だったせいで少し慌てたが、落ち着きさえしていれば全くもって問題は無い。

 攻撃自体は時速数十キロ程度。こんなのに当たる程度の避け方しか出来ないのなら、俺は爺ちゃん達との訓練中に百回や二百回は軽く死んでる。



「ハァ……ハァ……。というか、そう余裕を見せながらも、避けてばっかりで全然近付いてこないじゃないですか……。あなたこそ怖気付いてるんじゃないですか……?」


 いや、そんな疲れた様子で挑発めいたことを言われても……。強がりならともかく、挑発ってのは相手に余裕を見せつつ言うからこそ効果を発揮するものだし、今の状態で聞かされてもなぁ。刃射出には剣を振らなきゃいけないから体力使うし、撃つ度に魔力だってかなり持っていかれるから、疲れるのは当然なんだけども。


 それに、風の魔剣には突風を起こして相手を吹っ飛ばす効能がある。それを利用して体勢を崩すことを狙ってるんだろうし、その情報を知って尚何も考えずにただ突っ込むほど俺は馬鹿ではない。だから、このまま刃を撃たせて魔力を消費させ、安全に攻め込めるタイミングを待とうかなと思っていた。



 だが……避けることしか出来ないと思われるのは何か(しゃく)だ。


 良いだろう、その挑発に乗ってやる。読まれた時点で、対処の仕方を思い付かれた時点で、お前の考えはただの愚策に成り下がっている。

 それに、やってみたいこともあるしな……。文字通り、()()()()突破してやるよ。



「遠距離から撃つしか能の無い奴に言われたか無いな。……だが、確かに避けてばっかってのもアレだ。お前の言う通り、接近戦で片をつけようか」

 そう言いながら、俺は歩きながらゆっくりと近付いていく。その様子を見て、困惑しつつもブロディは剣を振り上げた。


「……? 何を考えているのか分かりませんが、こいつを前にゆっくり動くなど、的にしてくれと言っているようなもーーえ?」

 放たれた斬撃を前に、俺はブロディと同じく足を止め剣を掲げ、両手で剣の柄を握っていた。



 さっきまで避けていたのは、別に他に全く方法が無かったからじゃない。勿論攻撃を食らわないようにするのもあるが、それ以上に風の魔剣の性質を確かめる目的もあった。


 昨日の八雲の情報やさっきの鑑定結果の通り、風の刃を飛ばせるというのは分かった。だが、放たれた後の刃がどうなるかまでは分からなかった。



 飛んでくるのは単なるエネルギーの塊ではなく、魔法という俺達にとっては未知の力なのだ。もしかしたら、飛ばした後も自在とはいかずとも、ある程度進行方向を操作出来るかもしれない……俺はそんな風に、最悪のパターンも考えていた。流石にそうなったら、慎重に攻めざるを得ないからな。


 だが、幸いそんなことは無かった。少し余裕を持ちながらかわし、風の動きを確かめていたが……風は放たれた後一直線に進むばかりで少しも変化しなかった。

 宙に舞っている以上、いくら身を(よじ)ったところで大きく進路を変えられたら当たってしまう。それが無く、ただ乱発してくるだけだったからこそ、放った後の操作は不可能だと判断出来た。



 ブロディが演技をしている可能性も一度は考えたが、それは無いと断定した。理由は鑑定眼。

 時折ステータスを覗き見ていたが、HP・MP共にかなりのペースで減少していた。これでまず、疲労しているのは演技ではないということが分かる。


 疲労して動きが鈍るということは隙が出来やすくなり、相手にとって有利となってしまう。操作出来るというのを隠し続け接近してきたところで当てるというのも有効ではあるのだが、疲労と引き換えとなるとプラマイゼロどころかむしろマイナスだろう。引き付けられたところで当てられるかどうかは確証無いわけだし。



 苦労に見合った成果は得られない。そして、ブロディ(こいつ)がそこまでする人間には見えない。演技の線は無いだろう。


 風の動きは読めた。後から動きが変化することも無い。ならーーこういうことをやっても、何の問題も無いわけだ。



(黒宮流・第十秘剣ーー業滅刃(ごうめつじん)!)

 一歩強く踏み出し、風の刃の中心線に正確かつ全力で剣を叩き付ける。その衝撃に風は乱れ暴風となり、俺を中心に左右に分かれて背後へ飛んでいった。



「「「「「えええぇぇぇぇぇえええええええええええええ!!!????」」」」」



 業滅刃ーー全身の力を瞬時に剣や刀に乗せ全力で振り下ろすことで、対象をいとも容易く両断する技。空気の流れを完璧に読むことで、今みたいにエネルギーの塊をも断つことが可能。斗真爺ちゃんが秀穂爺ちゃんと協力して編み出したものらしく、黒宮流戦闘術の中でも珍しい、技術よりも単純な力をより意識した技でもある。


 それもそのはず。元々黒宮流戦闘術とは対人用として作られたものだが、それに対し業滅刃とは、任務遂行の障害となる壁や爆風を破壊するために作られたもの。そもそもの目的が違っており、一応爺ちゃん本人が作ったものであるため黒宮流に分類されているだけ。


 一言で言うなら、「爆風が避けられない? 鋼鉄の壁が邪魔? だったら全部ぶった切れば良いじゃない」の精神を体現したもの。脳筋の秀穂爺ちゃんが思い付きそうな技だとはつくづく思う。


 威力に関しては……風の刃を破壊したのち、勢い余って石の床を少し砕いてしまったところから察してほしい。真っ直ぐに振り下ろしたから良かったものの、少しでも剣筋曲がってたら折れてたなこりゃ。



「ふー……やっぱし問題無いな」

「……な、何なんですかそれは! 風を断つなんて無茶苦茶過ぎるでしょう!」

「いや、魔法も満足に使えない奴相手に魔剣を持ち出すお前の精神も、負けず劣らず無茶苦茶だと思うぞ」

「くっ……なら、これならどうです!」


 大剣を下げたまま駆け出し接近、そして俺に向かって振り上げつつ刃を生成した。副産物の突風で体勢を崩そうとしたのだろうが、残念ながら鑑定眼によってその使い方は既に判明しているので、発生のタイミングに合わせて膝を抜きバックステップを繰り出し紙一重で回避する。事前に知らなくても気配を感知して対処は出来ただろうが、余裕をもってかわせたのは鑑定眼のおかげだな。


「なぁっ!?」

 目を見開きつつ刃を返し、振り下ろしながら射出してくるが、その行動だって予測済み。再び業滅刃を放ち無効化しながら、俺は思わず大きくため息をついた。


「やっとまともに戦うと思ったらまた搦め手かよ。全く、呆れたもんだな。……まあ、チキン野郎にそこまで期待はしてなかったけどさ」

「ぐぬぬ……!!」



 その後も何発も風の刃が放たれたが、俺はそれを全て切り伏せた。その様子に、ブロディは何かもう言葉では言い表せない顔をしていた。絶望しているのだろうか。


「何故です……何故あなたのような無能が、そんな常識外れな剣を振るえるんですか!」

「さてな。そんじゃ、これ以上続けても無駄だし……さっさと終わらせるとしようか」

 風の刃対策に、黒宮流の構えではなく正眼の構えを取る。



(とはいえ……終わらせると言ったは良いが、どうすっかな)

 書物によると、無属性魔法程では無いにしても魔剣も魔力の消費量が多いらしく、戦闘中にステータスを見比べたことでその立証は出来ている。風の刃一発辺りの消費魔力とブロディの現在のMPを見るに、魔力切れを考慮すれば刃を生成出来るのはあと一回か出来ても二回と言ったところだろう。ムダに魔力を使ってくれて実にありがたい。


 しかし、それはつまりあと一回か二回は普通に使えるということでもある。近付いてかわせばそれで済む事なのだが、予期せぬ事が起こりうるのが戦闘というもの。石橋を叩いて渡る程ではないが、切羽詰まってるわけでも無いし何か決定的な隙を作った方がやりやすくはある。



 となると……さてどうしよう。絶影を使えば速攻で終わるが、こいつら程度を相手に何度も使うのは何か嫌なんだよな。

 例え欠片だろうが秘技っていうのはそうそう人に見せるものじゃない。それに、わざわざ殺気を調節するのもめんどくさいし。


 さっきの絶影……あれは全く本気ではなく、この場の者達の耐久力を考えて大分抑えて撃ったものだった。仮に本気で撃ったら、絶対気絶する奴が出てくる。


 今回のはあくまで俺の戦闘力をイメージとして染み付かせ、無闇に近寄ってこないようにするために撃ったものだし、気絶させてしまったら意味が無い。だからこそ、気絶はしない、だけどイメージはしっかり根付くというギリギリを見極めて撃たなければならないのだ。さっきの反応を見るに、もう少し強くても大丈夫みたいだが……どっちにしろ抑えるのに面倒なのは変わらない。



 あーもう、こんなことなら山の獣相手にもう少し殺気調節の練習しておくんだった。食材としてしか見てなかったから、いっつも気絶させてから狩るか速攻で殺すかしかしてこなかったからな……失敗した。


 まあ良いや、今更嘆いたって仕方無い。じゃあ絶影は却下として……それならあれにするか。



「ふぅ…………」

 全身からさっきと同じく、だがさっきより強めの殺気を放出する。シャレじゃないのでツッコまないでいただきたい。


 そして、今度はそれをすぐに切り離すのではなく……手元の剣に集中させた。刃を潰して少し安全にしているとはいえ、元々は人の命を簡単に奪う凶器。副団長ともなれば、それは痛いほどに知っているだろう。



 だからーーそれを利用させてもらう。



 元々凶器であり、無意識に気にかけてしまう剣。それに更に濃密な殺気をまとわせたことで、ブロディは剣から目を離せなくなっている。

 準備は整った。あとは実行するだけ。


 俺は手を下げながらそっと剣を手放し、そしてーー直撃しないように、ブロディの中心線から少し右にずれた位置目掛けて蹴り飛ばす。


「なっ!?」



 転影(てんえい)ーー自らの殺気を手元の物に移し放ることでそちらに意識を向かわせ、その隙に肉薄し奇襲する技。殺気を直接体から切り離すわけではなく、また完全に気配を消さずとも少し薄まっていれば十分なので、絶影と違い訓練さえすれば誰でも身に付けられる……らしい。



 ただ、勿論デメリットもある。それも二つほど。


 まず、発動条件として殺気を移す物が相手にとって特に印象的な物でなければならない。仮に今俺が剣ではなくボールか何かを持っていて、それに殺気を移したところで全くもって意味は無い。自分という相手がいるのに、それでもつい目を向けてしまうーーそれほど強烈な物でなければ、効果は発揮されないわけだ。


 もう一つはかなり限定的になるが、戦闘を常に客観的に見る者相手には全くと言って良い程効果が無い。


 つい他の物に目が向く……その現象は、相手が主観的な目線でのみ戦闘を行っている場合にのみ起こりうる。戦闘というつい主観的な視線を頼りにしてしまう場面でも、常に客観的な視線を持ち周囲の状況を細かく把握する……。そんな奴相手には、例え殺気を移したところで本体の(わず)かな気配を感知され失敗に終わるというわけだ。


 実際爺ちゃん達はそうだった。いくら転影を仕掛けても、一回も成功した試しは無い。……まあ、完全な死角からの攻撃を完璧に防ぐようなことしてたし、転影くらい無効化出来て当然っちゃ当然なのだが。



 ともあれ、今回は見事に発動の条件を満たせていた。なので、絶影の代わりに使わせてもらったというわけだ。本来この技は至近距離で使うものなんだが……今回の場合は不用意に近付くと風で吹っ飛ばされるからな。乱暴な使い方をせざるを得なかった。



「ーーくっ!」


 ブロディはとっさに魔剣の腹で剣を弾き、すぐさま完全に逸れてしまった視線を俺に戻すーーが、俺は既にブロディの懐へと潜り込んでいた。その間一秒に届くか届かないかという位だったが、数メートル離れた人間に肉薄する程度なら何の問題も無い。


 それが秀穂爺ちゃん直伝の歩行術。名を瞬行。


 膝の抜きと重心移動を利用する、古流柔術の滑り足。足を左右ほぼ同時に動かし高速移動を行う、同じく古流柔術の二歩一撃。

 この二つに加え、行動の際に必ず生まれる反発力を鍛練とイメージで無くし、更に踏み出す際のロスを極限まで減らすことで、数メートルの距離を一瞬で移動する。それが瞬行。



 そして入り込むと同時に両足を大地にしっかりと着け固定し、移動により生まれた力を移動中に溜めた力に上乗せし、ブロディの腹へと放つ。

「がふ……ぁ…………」

 顔にやるとヤバそうだったので腹に打ち込んだが……それでも耐えきれなかったようで、ブロディはその場に崩れ落ちる。


「……言っておくが、文句は受け付けねぇぞ。魔剣なんか持ち出して、先に殺そうとしてきたのはお前だからな。剣を撃ち出されたからって、何も言えるはずないよなぁ?」

「き……さま…………」

 一瞬俺を睨み付けてきたが、どうやらそれが限界だったらしくそのまま力尽きる。息はあるから、放っておいても何の問題も無いだろう。



「ハァ……まさか、異世界に来て初めての戦闘相手が騎士団とはな。俺を国賊にでもする気かよ」

 まあ良いか。先に潰そうとしてきたのは騎士団側だ。


 潰しに来るってことは潰される覚悟も当然持ってるはずだし、それに予めそういう条件を出されてたわけだからな。何も文句は言えまい。殺さなかっただけまだマシと思っていただこう。



 そう考えつつ弾かれた剣を拾い、カストロの所へ向かう。隣にはローブ姿の男性がおり、手を(かざ)しているのが確認出来る。近付いてみると、なんと全身の傷が消えていた。


 ……成る程。ブロディと戦ってる間、治癒魔法で傷を癒していたわけか。まあ俺との戦いであちこち流血してたし、当然っちゃ当然か。



 側まで辿り着くと、カストロを始め兵士達からは何やら化け物を見るような目で見られた。そんなことは気にせず、俺は言葉を紡ぐ。

「さて……それで? 兵士達を倒した上で、一泡吹かせるどころかボコボコにさせてもらったわけだが……これで条件は満たしたってことで良いのか?」


 また何か言い訳をすると思ったので、少し殺気を込めながら言い放つ。だが、予想外にもカストロはーー

「……ああ、分かっている。約束通り、今後の武術訓練は免除だ。明日からは顔も出さなくて良いぞ」

 とあっさりと承諾した。


「何だ? 嫌に素直だな。もっと何か言ってくるのかと思ってたが」

「……身体強化(ブースト)どころか魔剣まで破られたんだ。引き留めたところで、今度は全員半殺しにされかねん」

「そこまでする気は無ぇよ。人を暴力の塊みたいな扱いするな。俺はただ単に、言葉には言葉で、暴力には暴力で返すだけだ。直接的な危害を加えられない限り、無闇に手は出さん」

「……信用出来んな」

「あっそ。別に信じようが信じまいがどうでもいい。ともかく、もう行かせてもらうぜ」



 兵士の一人に剣を返却。そのまま踵を返し、練兵場の出入口に向かう。さて、これでやっと魔法の練習がーー


「ちょ、ちょっと待て!」

 とこれからのことを考えようとしたところで、後ろから声がし振り返る。そこには、赤城を始め十数名程の生徒が怯えながらもどこか期待するような目で俺を見ていた。



 あー……これ絶対厄介事が始まるパターンだ。俺はまだ帰れんのか……。

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