第20話 無属性の歴史
「う~ん……魔力の感覚~、魔力の感覚~……ダメかぁ」
「さっぱり分からないね……。まあ、僕達は今までそんなものとは無縁の生活送ってきたんだから、すぐに分からないのも当然ではあるけども」
「そうは言っても、二人に関しちゃまずそれをやらなきゃ話にならないんだろ? 特に八雲は特殊属性しか持ってないわけだし」
「うん……そうなんだよね。だから、こうやってさっきから光源生成も使ってみてはいるんだけど……」
俺の説明が終わった後、お試しということで無属性魔法、そしてその中でも手軽そうな光源生成を全員で使ってみることになった。なったのだが……。
「一応出来てるのは見れば分かるんだけど、感覚とかはさっぱり分からないんだよね……。消えかけてるのを何とか維持するってだけで精一杯。しかも本気で集中しなきゃそれすら出来ないから、発動中は話すことも出来ないし」
「「同じく」」
「いや、維持出来てるだけでもすげぇよ。俺なんか詠唱してもすぐ消えちまう。つーか何で俺だけ出来ねぇんだ……」
初めてということもあるのか、四人とも全力で集中せねば使えない状態であり、発動するや否や指先に灯る光を無言で見つめ続けるというお通夜のような状態になる。高坂に関しては維持すら出来ていない。「誰でも使える」とは言っても、「簡単に使える」というわけでは無いということなのだろうか。
ともかく、詠唱を唱えればそれだけで良いわけではない、という魔法の厳しさを改めて知ることになった。確かにこれなら、魔法の入門用として使われるのも分かるかもしれない。
「それにしても……僕達とは違って、修哉君は安定してたよね。発動中も普通に会話出来てるし。何か羨ましいよ」
「沢渡君、申し訳ないんだけど……もう一度、お手本見せてもらっても良いかな?」
「……分かった」
もう何度目の頼みかも分からないが、特に断る理由も無いので了承する。そして、意識を集中させーー光源生成の詠唱を紡ぐ。
「……我が身に満ちる大いなる魔よ、脈動せし大いなる力よ、今この手に集いて一つとなり、闇を照らし払う一筋の光となれーー光源生成」
詠唱が終わると同時に、ピンと立てた人差し指の先に半径二センチ程の光の球が現れる。四人が生み出すものとは違い、輪郭が安定していて消えるような様子は無い。
「おおー、やっぱすげぇな。綺麗な球だわ……すげぇ安定してる」
「これで、そこまで集中してるわけじゃないんでしょ?」
「……ああ、そうだな。疲れることには疲れるが」
何故か知らないが、四人とは違い俺は光源生成の発動に関してそこまで集中力を必要としていなかった。四人が来るまでに予め使っていたとは言っても、たったの三回試運転しただけだ。それが優位に働いてるとは思えない。
……まあそんなことはどうでも良い。今俺が気になっているのは別のことだ。
「………………」
「……? どうしたの、沢渡君?」
「……ああ。光源生成に何か違和感がしていてな」
「違和感? 何がだよ、こんな綺麗な形してるじゃねぇか」
「形のことを言ってるわけじゃない。何というか、こう……ダメだ、何かが変としか言えない。球だけど球じゃないというか」
「「「「………………」」」」
うん、黙るのも分かる。おかしなことを言っているように聞こえるのも当然のことだろう。
だが、そうとしか言えないのだ。上手く言葉に言い表せない。
「もしかして、それが魔力の感覚ってやつなんじゃないかな?」
「えっ……そうなのか? 沢渡」
「俺に聞かれても困る」
仮にそうだとしたら、今は違和感を覚えることは出来ても感覚を掴むまでは言ってない、という感じなのだろうか。あれだ、クイズの分かりそうで分からない感じに似てる。すっごい微妙な気分というか、何となく気味が悪いというか。
「もしそうだったらすげぇな。外部魔力は勿論だが、内部魔力だって感じ取るのはかなりの時間がかかるはずだろ? それをやり初めてたったの数時間て。多分才能あるんだろうな」
「うん、本当に凄いと思う。思うけど……」
声のトーンが段々と下がっていき、ついには四人とも黙ってしまう。口には出さずとも、様子からしてずっと意識してはいたのだろう。ーーいくら魔法の才能があろうが、あくまで俺は無能の無属性なのだということを。
「……何か勿体無いよな。傲るわけじゃねぇけど、もし俺達みたいに属性を持ってたら、凄い魔法使いになれたかもしれないのに」
「そうだね……。それに、素直に可哀相だと思うよ。属性なんて選べるわけでもないのに、それが原因で無能って言われるわけでしょ?」
「運命は残酷って良く言うけど……実際に目の前で起こるとなると、何も言えなくなるね……」
四人は目を伏せる俺に対し、何とも言えない視線を向けてくる。目を見たわけではないので正確には分からないが、感じからして憐れみや同情だろう。
(可哀相、か……)
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結局あの後、重苦しい空気のままで話を続けるわけにもいかないだろうということで、解散することになった。情報共有は済んでいたし、タイミングとしては悪くなかったのかもしれない。詠唱魔法に関してもいくらか詠唱は教えておいたから、後は勝手にやってくれるだろう。
「………………………」
四人が去った後、俺はベッドに体を投げ出した。そして仰向けになったまま目を閉じると、今日得たある知識が頭の中を駆け回っているのが感じられた。
四人から得た知識では無い。それを深く理解するのは後日にしようと考えたので、メモをした紙達はベッド脇の机の上に置いたまま放置している。
本来ならば一刻も早く読み込むべきなのだろう。だが、今の俺の頭にそれを行う余裕は無かった。
実は、今日図書館で得た知識の中で一つだけ、四人には伝えなかったことがある。得た情報は伝えるべき……頭ではそう分かっている。だが、どうしてもそうする気にはなれなかった。どうせ教えずともいつか知ることではあるのだろうが、少なくとも今わざわざ教えて、混乱を招くようなことにも事態を悪化させるようなことにもしたくなかった。
「蔑まれている状況が可哀相か……何言ってやがる。無能と蔑まれる程度で済んでいたら、どれだけ良かったか」
俺が四人に言わなかったこと。それは、無属性の迫害の歴史。
無属性が増加し始めたのは三百年前……。お気付きだろうか。それは魔族が海を越え、人々を襲い始めた時期と一致しているのだ。
そのため、無属性は魔族の血を引いたが故生まれた存在、という見方が一部ではされており、実は無能・落ちこぼれの他に魔人なんていう蔑称も存在する。属性を持たずに生まれる理由が分からないからこそ、そういった説も有力になってしまった。
可哀相という感想を抱く位ならまだ良い。しかし、魔族により家族をーー或いは町を壊滅させられた者達は、抗えない魔族ではなく魔族に関係があるかもしれない無属性に憎悪の感情を向け、ある時は追放を、ある時は拷問を、そして……ある時は殺していたのだ。今でこそ迫害は大分薄らいでいるが、魔族による被害が大きい場所ではその限りでは無い。
「クソが……殺されてたまるかよ……」
こっちの人間の都合で呼び出されたのに、既にこっちの人間の都合で無能と呼ばれ蔑まれているのだ。その上迫害やその果てに殺されるだと? ふざけるなよ。
俺はれっきとした人間だ。その事はステータスが証明しているし、そもそもこの世界の生まれではない俺が魔族と関係があるわけがない。たかが決めつけで殺されるなど冗談じゃない、何があろうと生き抜いてやる。
(……強くなりてぇな)
どんな奴が来ても倒せるように。どんな障害が現れても乗り越えられるように。もっともっと強くなりたい。
そのためには、今のままじゃダメだ。体は鍛えちゃいるが、それじゃ足りない。能力生成に頼ったところでたかが知れている。
魔法を使いこなす者こそが強者と見なされるこの世界を生きるには、何がなんでも魔法を鍛えなくちゃならない。無属性なら、ましてや詠唱魔法が一切使えない系統外である俺ならば、無属性魔法を使いこなせるようにならなきゃいけない。
……休んでいる暇は、もう無いな。
むくりと体を起こす。そしてーー
「ーー万象に眠る深淵なる理よ、我が身に満ちる大いなる魔よ、この手に集いて力となり、撃ち放たれし衝撃となれーー魔力撃!」
ボンッという音と共に、野球ボールほどの大きさの何か-魔力の塊だろうが-が発射され、布団にぶつかり消滅する。
まずはこの魔法から始めよう。例え弱かろうと、使い道は絶対にあるはずなんだ。だから、まずは基本中の基本であるこの攻撃魔法を鍛えてやる。
敵だらけのこの世界で、何があっても生き残る。そのために底辺から這い上がって、何としても強くなってやろう。
その夜、日課のトレーニングのことも忘れて、俺は魔力が切れるまでずっと魔法の練習をしていた。規則正しい生活を送る俺が、普段なら寝るような時間をとっくに過ぎていることに気付かない程に、焦りを感じながら……。
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