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シーカーズ ~大器晩成魔法使いの異世界冒険譚~  作者: 霧島幸治
第一章 キュレム王国編 前編
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第19話 情報共有 魔法編

 魔法ーー原初の理だとか万能たる存在とか、書物によって色々な言い方をされていたが、一言でまとめれば魔力を用いて起こす超常的な現象の総称である。


 魔法は大きく分けて、属性魔法と魔法陣魔法の二つに分かれる。例外として古代魔法も存在するが、一般に閲覧出来る範囲の書物には情報が載ってなかったので割愛。また、属性魔法は体内の魔力のみを用いて使い、魔法陣魔法は体内の魔力または魔石と呼ばれる特殊な物質内の魔力を用いて使うという特徴がある。



 まず魔力だが、目に見えないだけで基本どこにでも存在している。生物の中にも、今俺達が吸っているこの大気の中にも。そして、大気に含まれる魔力を無意識下で吸収しながら生物は日々暮らしている。


 魔法は使えば使うほど魔力が減っていき、それに応じて体には様々な症状が現れていく。俗に魔力欠乏症と呼ばれているが、軽度の疲労から始まり、やがては全身を襲う脱力感に変わる。そして最終的には気絶し、時には命を落とす場合もある。


 当然のことながら、体に蓄えられる魔力の最大量が多ければ多いほど、そういった症状は起きにくくなる。だが、その量は生まれた時点で差が大きく出る上、成長するにつれ増えていく以外で意図的に伸ばすことは難しいらしい。



 また、魔力は時間経過につき吸収により自然に回復していくが、その回復速度は非常に遅く、魔法を使い続ければ必ず限界は来てしまう。というのも、この魔力回復というのはただ魔力を取り込んでいるわけではない。


 研究者の間では、自身の体内の魔力は内部魔力、大気中に漂う魔力は外部魔力と呼ばれているが、この二つはそもそもの性質が異なる。外部魔力をそのまま体に蓄えることは出来ず、だからこそ体は無意識下で外部魔力を内部魔力に変換し、取り込んでいるのである。


 そして、実はこの変換自体にも魔力が必要。折角魔力を蓄えようとしても、大部分を変換の過程に持っていかれる。

 例えるなら、少し違うが所得税の感覚が近いだろう。稼いだ分の何割かが持っていかれるやつ。あれが六~七割持っていかれる様子を想像してもらいたい。


 一つ作業を挟まなきゃいけない上に、三歩進んで二歩下がる状態。そりゃ中々貯まらんわけだ。



 一応唯一の救いとして、外部魔力を感覚的に捉え、意識を集中させこの変換を無意識ではなく意識的に行うことで、自然回復量を高める位のことは出来る。が、高めれば高めただけその分変換に持っていかれる量も多くなるため、結局のところ回復速度が劇的に変わるということは無いらしい。救いになってなくないかそれ。


 また、この手段も誰もが取れるというわけではない。自身の内部魔力以外の魔力ーーつまり外部魔力や他者の内部魔力を感じ取る事自体がまず不可能に近く、才能溢れる者が長年修練を積んでやっと、直接肌で触れている他者や空間の魔力を何となく感じ取れる程度である。魔法発動時みたく魔力が凝縮してる場合なら話は別なのだが、普段の拡散した状態で感知する事は無理と言われている。


 そのため、回復速度を高める事はごく限られた者しか行うことは出来ない。……まあ、内部魔力に関してもそう簡単に感じ取れるようになるわけではないのだが。



 ちなみに、大気中に漂う魔力を直接扱って魔法を使うことは出来ないのかと思ったが、どうやらそれは不可能とのこと。今言った通り何となく感じ取ることすらこの上無く難しく、正確に感じ取ったり干渉したりする事など不可能だと断言されていた。



<属性魔法について>



 属性魔法を扱う際に必要なのは、自身の持つ魔力と適正。適正に関しては、ジキルの説明通り使用者本人には適正属性が存在し、それにそぐわない魔法は上手く扱えない。鍛練次第では非適正の属性の強力な魔法も扱えるが、効率が悪いためわざわざ適正属性以外を鍛えようという人は少ないらしい。



 適正属性がどうやって決まるのかは未だに議論が交わされているが、現在では遺伝に加え何らかの要素が絡み適正が決まると言われている。今日までの歴史を見ても、生まれた子供が親もしくは祖父母と同じ属性を引き継ぐという事例がほぼ百パーセントであり、このことから遺伝説が生まれた。このまま順当にいけば、適性は遺伝で決まるのだと結論が出ていただろう。


 だが、実際はそうはならなかった。理由は至極単純。遺伝説だけでは絶対に説明出来ないものがあったからである。

 そう、それこそがーー無属性。



 適正属性を持たずして生まれたため、六属性のどの魔法も上手く扱えず、どう頑張っても身に付けられるのは精々が初級魔法程度。一人では並の生活すら送ることは難しい。


 そんな無属性だが、歴史的にはかなり新しい部類に入る。三百年程前に初めて発見され、以降増加し世界各地でちらほら見かけられるようになった。



 ……が、この無属性。どんなに調べても、無属性持ち同士には全く関連性が見られないのである。年齢もバラバラ、住んでいる場所もバラバラ、種族もバラバラ。間違っても「実は祖先が同一人物でした」なんてことは言えやしない。


 五十年程前までは一部で研究されていたそうだが、どんな研究者も属性を持たずに生まれてしまう理由は見つからず、現在では完全に放置されている。



 大した魔法は使えず、何故そうなのかの原因も分からないので、改善することは出来ない。無能、世界の落ちこぼれーー世間ではそういった認識がされており、常に蔑まれる立場にある。




 魔法の話に戻ろう。


 属性魔法は基本属性と特殊属性にそれぞれ分かれる。

 まず、基本属性の魔法の発動には基本的に詠唱が必要。詠唱をする事によって内部魔力が集まり魔法が発動する。このことから、基本属性の魔法は一般的には詠唱魔法という通称で呼ばれることが多い。


 一方、特殊属性の魔法には詠唱は存在しない。一見便利に思えるがその反面基本属性と違い自身の内部魔力そのものを扱うため、まず修練により何となく内部魔力の感覚を掴めるようにならなければならない。そうしなければ、適性を持っていたとしても一生特殊属性の魔法は使えない。使えるまでに結構な時間がかかるということだ。



 そして、詠唱魔法には初級・中級・上級・特級があり、級が上がるにつれ必要な魔力や魔法を維持する集中力が増えていく。詠唱が格段に長くなったりしないのかとも思ったが、特別そういったことは無いらしい。放つ言葉の種類が変わった影響で、僅かに伸びることはあるが。


 尚、[これだ!]という決まった詠唱は無く、唱えた詠唱の中に特定のキーワードがあれば発動する。ならキーワードだけ言えば良いのかといえばそういうわけでもなく、ある程度は意味が通った文でなければ魔法は発動しない。そのため、研究者達は少しでも詠唱を短縮する為に日々研究を続けている。



 ちなみに、魔法世界お決まりの無詠唱も一応は存在する。

 魔法名だけで発動させられるのが無詠唱であり、詠唱魔法を極めた者が行き着く先と言われている。そこに至るまでには才能と長年の努力が必要であり、世界でも無詠唱を扱える者はそう多くないらしい。



 調べた書物の中には色々な魔法の名前や詠唱が書かれたものがあり、覚えるのは今回は一先ず無属性魔法と基本属性の初級魔法に絞らせてもらった。別にサボったわけではない。色々と事情があったのだ。


 さっき言った通り、特殊属性に関してはそもそも詠唱が存在しないのでスルー。そして、基本属性の特級にも詠唱は存在しない。何故なら他の級と違って、作られた時点で詠唱が無かったから。



 特級は一般の者ではなく魔法を極めた者ーーつまり無詠唱の会得者が独自に作り出した、オリジナルの魔法なのである。精霊魔法にすら肩を並べる程の性能を誇る反面、あくまで無詠唱を更に探究した末に生み出されたものなので、無詠唱が出来ることが前提になっている。


 開発者本人的にも無詠唱なりの感覚で作り出したものなので、詠唱を後から作り出すことはほぼ不可能らしい。実際、歴史上特級の魔法の詠唱が作られたことは皆無。


 基本属性の魔法には属しているものの、上級の詠唱魔法という枠組みには収まらない性能。議論が交わされた結果、上級までしか無かったところに新たに枠を設けることになり、詠唱魔法を極めた者にしか使えない特別な魔法ということで、特級と呼ばれるようになったわけだ。


 てことで、詠唱も無い上今の段階では到底使えるわけも無いのでスルー。



 それと、基本属性の中級上級に関しては単純に時間が足りなかった。


 何せ、初級に比べて中級上級の魔法の数が多過ぎる。火炎投槍(フレイムスピアー)火炎槍(フレイムランス)といった風に、「いや、どっちにしろ発射するんだから、どう考えても同じようなもんだろ」と思うものまで、わずかな違いによって種類分けされていたのだ。

 それが属性分……つまり更に四倍。しかも魔法についての基本知識を調べた後だったので、体感では一時間半あるかないかだった。


 そんなんで煩雑な言い回しを解読して、写本も無しに魔法の詳細も詠唱も全部頭に詰め込むなんて不可能に決まってるでしょうに。無茶を言わないでいただきたい。



 まあ文句はその辺にして……ともかく、そんなわけで中級すら覚えきる時間は無かった。ならばいっそのこと、初級で止めておいてそこまでの知識をより磐石なものにした方が良いと判断したのだ。その点については図書館で既に四人の了承も得ている。


 というか、全員一覧を見て頷かざるを得なくなった、といった方が正しいか。もう見るだけで嫌になったもの。



 ま、いきなり中級の知識を得ても仕方無いだろうし、そこら辺は申し訳ないが後々ジキルから聞き出してもらうとしよう。ジキルだって魔法のことに嘘はつかんだろ。



 さて、無属性魔法として存在するものは四つのみ。魔力撃(インパクト)魔力製糸(ストリング)身体強化(ブースト)光源生成(ライト)

 詠唱が必要なものもあるが、内部魔力そのものを流したり固めたりする魔法であり、過程が根本的に異なるため詠唱魔法とは別に分類されている。



 まず一つ目、魔力撃(インパクト)。一言で言えば、魔力を集めて固めて飛ばす魔法。インパクトなんて大層な名はついているが、実際の威力は残念ながら微妙どころの話ではない。


 魔力とは元々、空気のように殆ど質量のない物。それを無理矢理固めて質量を持たせているだけなので、当然威力も硬度もお察しなわけだ。四人が来る前に一度使ってみたのだが、正直石を投げた方が早いし強い。


 追い打ちをかけるように、ただ集めただけなので距離が伸びるごとに魔力は大気中に散っていき、最終的には消滅する。射程距離が非常に短いということ。



 二つ目の魔力製糸(ストリング)は、魔力を固めて糸を作り出す魔法。魔力糸を伸ばし、物に巻きつけて引き寄せるという芸当も出来なくはない。


 もしや、鋼糸術のようなものが出来るのでは……と期待はしたが、こちらも魔力撃(インパクト)と同じく無理矢理質量を持たせているので、強度がめちゃくちゃ弱い。書物にはせいぜい小枝を引っ張るのが限界と書かれていた。



 三つ目の身体強化(ブースト)は、魔力を体に流して身体能力を強化する魔法。魔力の流れる量が多ければ多いほどパワーやスピードは増していき、極めればちょっとした岩なら殴っただけで破壊できるようになる……と言われている。今の時代だと、そこまでの使い手はもう存在しないらしいが。


 内部魔力をより正確に扱えなければこの魔法を使用することは出来ないため、これに関しては努力よりもまず才能が無ければ使えないと言われている。



 四つ目の光源生成(ライト)は、指先に光を灯す魔法。こちらも使ってみたが、豆電球より少し明るいレベルでしか点かないので、実生活で使えるような場面は無いと考えて良いだろう。



 そんな感じで踏んだり蹴ったりな魔法達なのだが、それに加え他の魔法なら生み出された物質や現象の強度を魔法自体が補ってくれるところを、無属性魔法の場合はそれすらも内部魔力を使って作らなければならない。同じく内部魔力そのものを扱う特殊属性の魔法と比べても、魔力の消費量が圧倒的に多いのである。


 実際、初級の詠唱魔法を何十発も撃てる奴が魔力撃(インパクト)たった数発でダウンするらしい。そりゃ酷い扱いを受けていても、何の文句も言えないわな。魔法扱いされないことも多いみたいだし。


 ただ、性能がアレな分危険性が少ないので、魔力撃(インパクト)魔力製糸(ストリング)光源生成(ライト)の三つは魔法の入門用として使われることが多い。そこはまだ救いなのだろう。




<魔法陣魔法について>



 魔法陣を描き、魔力を流してそこに込められた内容を発動させるもの、それが魔法陣魔法。初級・中級・上級・特級の四つのランクが存在し、一つ上がる事に陣は複雑になり必要な魔力も増えていく。また、同じ魔法陣でも流れる魔力の量が多くなれば効果も増大していく。


 陣ごとに決まった最低量の魔力が流れさえすれば発動するので、詠唱魔法とは違い使用において適性は関係ない。まあそもそも内容からして六属性とは無関係のものであるため、適性に縛られないのも当たり前ではあるのだが。



 魔法陣魔法は基本的に魔道具という日常生活品に組み込まれ利用されている。魔道具とは魔法陣魔法と内部の機構を用いて様々な効能を発揮する便利製品であり、立ち位置的には現代で言うところの家電製品に近い。


 具体的な物としては、家庭用品だと元の世界で言うところの照明やガスコンロ等、武器で言うと魔剣等、それ以外だと隷属の首輪等があるらしい。そんな感じで色々種類があり、その便利さ故今や貴族市民問わず生活に無くてはならないレベルのものになっている。



 生活ではなく戦闘に活用出来ないのかと聞かれると、基本的には十分な効果を生み出すのは非常に難しいと言わざるを得ない。何故なら魔法陣魔法とは物体や現象を発生させるだけのものであり、作り出した物を撃ち出したり複雑に操ったりすることが出来ないからだ。つまり、動いているものに狙って当てるなどといった事は不可能。


 また、魔力が流れている間しか発動してくれないという特徴もあるので、トラップとして使用することも出来ない。この二つの理由により、戦闘において活用することは無理と言うわけだ。……ただし、これは何の補助も無しに使った場合の話。



 その補助となるのが、魔石という特殊な物体である。魔物の体内に生成される魔力が凝縮された物体で、理由は不明だが決まって心臓のすぐ上の位置に生成される。また外部魔力とは違い、発動時の魔法と同じく今言った通り魔力が凝縮されているため、触っただけで魔石かどうかはすぐに判断できるらしい。


 他の物質ではなく魔石に魔法陣を描いて発動した場合、使用者が魔力を流すのを止めてもあとは勝手に魔石内部の魔力が供給され続けるため、発動を継続させる事が出来る。また魔石の魔力が流れ始めるまでに少々タイムラグがあり、その間魔法が発動する事も無いため、狙った場所に置くなり投げるなりして自在に活用する事が出来るというわけだ。



 だが、残念ながら二つほど問題点がある。一つ目は、魔石にはランクが存在するということ。


 大元の魔物の種類や個体の違いにより、生成される魔石の大きさや質は大きく異なる。これを大まかにS~Dの五段階に分けたものが、所謂魔石のランクと呼ばれるもの。大まかにとは言っても、素人目ですら見ればすぐにランクの違いは判別出来る、というくらい別ランクの魔石とは差が出るので、間違える心配は殆ど無いだろう。



 まあここまでは別に良い。問題は、魔石自体の大きさによって描ける魔法陣と描けない魔法陣が出てくるということ。


 魔法陣自体はかなり緻密であり、少しでも間違えれば魔力を流したところで発動はしない。また、魔力を流した際陣としての形を保つために、一本一本の線の太さにも下限が存在するため、必要以上に小さくする事は出来ない。精巧にすれば良いというわけでは無いのだ。


 この事より、ランクによって発動出来る魔法は変わってくる。Cは初級、Bは初級及び中級、Aは上級まで。Dはそもそも使うことが出来ず、Sは特級含め全ての魔法陣魔法を発動させられるものの、その入手の困難さ故基本的に国宝に指定され利用されることは無い。



 二つ目は使いきりだということ。魔石に描いた魔法陣は、一度発動すると魔石内部の魔力を使い切るまで止まることは無く、終了と同時に消滅する。回収してまた使うということが出来ないのだ。


 魔石は魔物の体内からしか取ることが出来ず、人工的に生成する事が出来ないため、必然的に産出量は少なくなる。それをたったの一回で無にしてしまうのだ、燃費が悪いにも程がある。


 この二つの欠点により、魔石を用いる方法はとても一般的とは言えない感じになっている。高額で売れるからって店に持っていく人間が大半みたいだし。



 ちなみに魔石を使った場合、魔石内部の魔力が吸い上げられるように勢い良く流れるため、普通に発動した場合と大きく差が生じるというものがある。例を挙げれば、本来初級ではコンロレベルの火しか起こせないところを、魔石を使うと一人の人間を包んでしまう程の炎が発生したり。


 これを低ランクの魔石で高威力を出せるという利点と取るか、それとも上手くコントロールが利かない故欠点と取るか。そこら辺は人によって変わってくるのだろう。

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