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シーカーズ ~大器晩成魔法使いの異世界冒険譚~  作者: 霧島幸治
第一章 キュレム王国編 前編
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第15話 目的の場所

 街に出た俺がまず探したのは、この街の地図だった。と言っても別に買うわけではない。地図が載った掲示板のようなもの……そんな感じのを求めていた。


 掲示板とは人に見てもらうために作るものであり、そのため人が多く集まる場所に設置される。なので、あるとすれば広場ような所だろう。


 俺達がいた城は、土台自体が城下の街より少し高く作られていたので、建物から出た直後は街を見渡すことが出来た。その時に見えた開けた場所に俺は向かい、掲示板かそれに類する物を探した。

 ……しかし、生憎そういった物は見当たらなかった。王都っていうくらいだから当然あるものだと思っていたのだが、そういった文化そのものが無いのだろうか。



(うーむ……ま、無いなら無いで諦めるしかない。そこらの人間に聞くか……)

 サーシャに聞ければ一番だったのだが、残念ながら場所については良く分からないと言われた。まあ買い出しとかで街に出ることはあってもあそこに寄ることは無いだろうから、知らないのも無理は無いだろう。


 話を聞くために、広場にある出店の一つに向かう。こういった事は、通行人に聞くよりも買い物をして警戒心を下げつつ店の人間に聞くのが一番だ。


「……店主、串焼き一本くれないか?」

 俺はそう言いながら、銀貨を一枚出す。

「おう! 一本なら釣りは……大銅貨四枚に銅貨五枚だな。それと、串焼き一本。ほれ!」


 注文に応えブツを渡してくると同時に、店主は手元の袋をまさぐり、十円玉と似たような感じの硬貨五枚とそれを少し大きくしたような硬貨を四枚差し出してきた。店主の言葉通り銅貨と大銅貨である。



 元の世界と同じように、物を買うには金が必要となる。そこでサーシャに色々聞いたのだが、貨幣は全部で十一種類あり、低い方から鉄貨・大鉄貨・銅貨・大銅貨・銀貨・大銅貨・金貨・大金貨・白金貨・大白金貨・王金貨となるらしい。


 鉄貨・銅貨・銀貨は十円玉サイズであり、金貨・白金貨・王金貨は五百円玉サイズ。そして「大」が付くと揃って少しずつサイズがアップする。



 一般市民が日常の中で使うのは基本大銀貨までであり、それ以上は宝石や魔石、最上級の武具等の取引に使われ、王金貨ともなると名の通り王や大貴族が国家間のやり取りをする時などにのみ使用される。貨幣の計算は、一言で言えば十個集まれば「大」が付き、「大」がついたものが五個集まれば次の種類の貨幣になる。


 例を挙げれば、鉄貨十枚イコール大鉄貨一枚であり、大鉄貨五枚イコール銅貨一枚ということ。その後は単に十倍、五倍、十倍と繰り返していけば良い。実に分かりやすい計算の仕方である。



 ……とは言え、一枚辺りの価値がどれくらいなのか、というところまではいまいち分からなかった。いくつか例を挙げてくれてはいたが、宝石なんかの類いは元の世界じゃ馴染みが無かったし、この世界独自の物質らしいものをものさしにされてもどうしようもない。


 これからこの世界で生きていくにあたって、貨幣一枚あたりの価値を正確に把握しておくというのは、かなり重要なことだと俺は思っている。ここには日本のスーパーやコンビニといった風な便利なものは恐らく無い。ということは、相手との交渉が重要になってくるということだ。

 正しい価値を知らなければ、ぼったくられるようなことも多くなるだろう。簡単な買い物ならともかく、高額な取引をすることになった場合、そんなことでは話にならない。



 そこで良い指標となってくれるのが、たった今渡されたブツである。他の店の商品や値段、それと店主の雰囲気を見るに、必要以上に値段を引き上げている様子も無いしな。


 今俺は銀貨一枚を出し、大銅貨四枚と銅貨五枚を受け取った。串焼きはコンビニで売っているようなものより少し大きめであり、串焼き一本日本円で二百円として良いと思う。

 そして計算すると、二百円イコール銅貨五枚、つまり銅貨一枚あたり四十円となる。銅貨なのに十円ではないのは気にしたら負けだ。他のはあとでゆっくりと計算するとしよう。



「……しっかし、兄ちゃん何か見ねぇ格好だな。遠くから来たのかい?」

「ああ、昨日この王都に着いたばっかなんだ」

 勇者であることを伏せつつ事実を伝えた。勇者のことは既に広まってるみたいだし、ここで騒がれるとこの後の行動に支障が出る。


「おお、やっぱりそうだったか! そういや知ってるか? 昨日と言えば、丁度昨日城で異世界から勇者達が召喚されたらしいぜ?

これでこの国も安泰ってもんよぉ」

「……そういや噂で聞いたな。ただ、いきなり安泰だって思うのは早計じゃないのか? いくら過去に召喚された勇者が強かろうと、今回も同じくらい強いとは限らんだろう?」

「まあそれはそうなんだけどよ。それでも、国を救ってくれる存在が来てくれたってだけで心強いさ。儂らも落ち着いて商売が出来るってもんだ」

「ふむ、まあそんなものか」


 無条件で信頼してるのが何かアレだが、こいつは日々の生活がかかっているからこそ、勇者という存在にどうしても安心感を得てしまうのだろう。赤城(あのバカ)よりは余程マシだな。



「ところで店主、一つ聞きたいことがあるんだが」

「ん? 何だ?」

「この街に図書館ーー本が大量に置かれていて、誰でも自由に閲覧出来る施設はどこかに無いか? 俺の故郷にはあったんだが……。分からなければ本が売ってるところでも良い」

「シトロン大図書館のことかい? それならあれだ。ほら、あの白い屋根のでっかい建物。高い入場料取られっから、街の人間はそんなに行かねぇけどよ」


 店主が指し示した方向を見ると、遠くに店主が口にした通りの特徴の建物が見えた。何だか物々しい雰囲気を感じるが……気のせいか?


「それから、本屋に関しては……えー……どこだっけな。確か、こっから少し城に向かったところにあったはずだぜ」

「そうか、分かった。余計な時間を取らせてしまってすまなかったな」

「良いってことよ! また来てくれよな~」


 そうして会話は終わり、食べ終わった後の串を設置されたゴミ箱に捨てた俺は、教えてもらった方向に歩き出す。図書館ーーそれこそが、俺が今日絶対に行こうと考えていた、目的の場所だった。



 しばらく歩き、広場から少し離れた場所で立ち止まった。

「……いい加減出てこい。いつまでもつけられてると不愉快だ」


 俺のその言葉に反応し、四人が物陰から出てくる。

「あはは……ごめんね?」

 声を発したのは八雲。その他三人は佐々木・高坂・近衛だった。


「なるべく気付かれないようにしてたはずなんだけど……いつから分かってたんだい? 修哉君」

「最初からだ。単に放っておいただけで、城を出た直後から既に気付いていた。メンバーがお前らだっていうのもな」

「うげ……マジか。どんな感覚してんだよ」

「……逆に、あれで気付かれないと思っていたのか」


 マジかよ。気配でバレバレだったんだが。


「それで? 何故俺を追ってくる?」

 俺がそう聞くと、四人は顔を見合わせ、少し困ったような顔をしていた。

「えっと……さっき、食堂で「散策する気は無い」って言ってたじゃない?だったら、沢渡君は何をする気なのかなって気になっちゃって」

「俺達は八雲に誘われて、気になって一緒に尾行してただけだな」

 高坂の言葉に、佐々木・近衛も頷いていた。



「……図書館で調べものをする、それだけだ。じゃあな」

 それだけ言い、俺は再び歩き出す。

「えっ。ちょ、ちょっと待って」

 八雲は俺を追いかけ、並んで歩き出した。


「何の用だ。俺のやることは分かったんだろう? ならもう俺を追う必要は無いはずだ」

「だって、調べものなんて後で城の人に聞けば良いじゃない。何で今する必要があるの?」

「何でって、それはーー」

「情報の正確性を上げるため、だよね?」


 その言葉の主ーー佐々木に全員の視線が集まる。


「国王の言ったことが正しいかどうかなんていう保証は無い。少なくとも、僕達にそれを判断することは出来ない。だから他の場所からも情報を得て、少しでも正しい知識を得ようとしてる。ーーそうなんだよね?」

 ほぅ……やはり、他の奴らと違って色々考えてるな。今の時間でそこまで考え付くとは思えないから、こいつもこいつで同じことを考えていたのだろう。


「そうだ。一つの情報を鵜呑みにすることほど危険なことは無い。正しい知識を得るためには、いくつもの情報を得て、それを照らし合わせる必要がある。……そのためには、城以外でも情報を集めないといけない。同じ国の中だから、そこまで大きな違いは見つからんだろうが」

「そうだね。昨日会ったばかりの人をいきなり信用するってことは出来ないよ。あんまり考えたくはないけど、僕達を騙して駒みたいに扱う可能性も捨てきれないわけだし」

「「「………………………」」」

 他三人は俺達の会話に唖然としていた。考えもしなかったのだろうか。呑気過ぎるだろ。



「うーん……言いたいことは分かるけど、二人ともちょっと疑いすぎなんじゃないか? 仮にこの国のみを救うためってだけで呼び出されたんなら、そういう可能性もあるだろうけど……対象は世界だよ? だったら流石にーー」

「いや、圭吾君。そこまで考えたんなら、人間側そのものが実は悪だったっていう可能性も持とうよ……」

「……あっ」

 佐々木の言葉に対し、近衛が如何にも「しまった」とでも言いたげな声を上げていた。


 今佐々木が言ったことも、少々行きすぎではあるが、可能性は全くのゼロではない。魔族が元々平和に暮らしてたところに人間側が攻めこんで、反撃食らったから助けてくれという感じで呼び出した、という経緯が真実である可能性が。……俺の勘だと、そういった感じではないような気がするが。



「まあ仮にそこまでいってたら、ますます情報の正確性を高めようなんていう行為は無駄になるがな。調べたところで正しい情報など得られるはずが無いわけだし。……だから、それはあくまで理由の一つに過ぎん」

「「「「え?」」」」

 俺がそう言うと、他三人のみならず、佐々木までもが驚いた表情を浮かべる。


「えっと……じゃあ、他の理由って何なんだ?」

 高坂が恐る恐る俺に問う。俺のもう一つの目的、それはーー


「……昨日あんな態度を取っていた魔法師団長(ジキル)が、俺にまともに魔法なんて教えると思うか?」

「! ちょ、本気で言ってんのかそれ!? いくら無属性だからって、沢渡も勇者の一人じゃねぇか!」

「騎士団長だって言ってたじゃない、無属性でも使える魔法はあるって。えっと……ぶーすと……だっけ? それくらいは……」

「俺を弾除けとして認識してるんだぞ? 弾除けに魔法なんていう技術を覚えさせる必要があるか?」

「「……………………」」

 高坂と八雲は反論するも、俺の言葉に押し黙る。



 ジキルは精霊属性なんていう、魔法使いの中でも特別な力を持つ奴だ。だからこそ、無属性である俺を周りの人間以上に見下す。そんな奴が、俺に対しわざわざ労力を割くとはとてもじゃないが思えない。


 明日からの訓練だって、十中八九完全放置、良くて基本の基本だけ教えて後は放置。……流石に無いと思うが、悪ければ他の勇者達(こいつら)の魔法の実験台とかに回される。そのどれかだと思う。


 そしてジキルまではいかなくとも、城の他の連中も聞いたところでまともには教えちゃくれないだろう。測定の時に向けられたあの視線が教えてくれている。



 サーシャに聞くことも考えなかったわけではないが、結局は却下となった。あいつは教える教えない以前に、まず教えられないと思う。

 これは別にサーシャを馬鹿にしているわけではない。ただ、あいつはあくまで水属性だ。ゴミ扱いされている無属性魔法を新たに覚えるよりも、水属性魔法を活用することに力を注いでいるだろう。


 ならば、無属性魔法自体をある程度使うことは出来ても、詳しい修得方法等はとうに忘れている可能性が高い。それでは意味が無い。

 また、そもそもサーシャは俺に仕えているのではなく、城に仕えるメイドだ。付きっきりで教えてもらうというわけにもいかない。


 つまり、俺は誰の手も借りず、自力で調べ自力で魔法を修得しなければならない。それこそが俺が図書館に足を向けるもう一つの目的。



「……そういうわけだ。お前らと違って、俺は生き残るためには自分だけの力で魔法を覚えなくちゃならない。早く魔法を使えるようになるために……道草を食っている暇は無い」

 確かに鑑定眼に能力生成(スキルメーカー)という武器はある。だが、鑑定眼はあくまで相手のおおよその強さを測ることしか出来ないし、能力生成(スキルメーカー)休止期間(インターバル)含め色々制限があるせいで思うように使えない。


 早急に無属性魔法を覚え、少しでも強くならなければ、本気で命を落とすことになる。観光なんてしてる時間があったら、俺は一分一秒でも多く鍛練を積んでやる。



「話は以上だ。俺は行くぞ」

 そう言って踵を返し、立ち去ろうとする。


「待って」

 そう呼び止めたのは、八雲ではなく、今度は佐々木だった。

「その……一緒に行って良いかな? 僕も色々調べたくはあったし」

「……構わん。というか、断ったところでどうせ付いてくるだろ」

「まあ、それはそうなんだけどね」

 ハハハ、と佐々木は笑顔を浮かべる。


「お、俺も行かしてくれ!」

「私も行くよ! 早く強くなりたいのは同じだもん」

「えっと……じゃあ、俺も行こうかな?」

 と、他三人も口々に言い始めた。



「……勝手にしろ。早く行くぞ」

 こうして、結局五人で調べものをすることになったのだった。一人の方が何かと気楽なんだが、まあ良いか。

今回より1話辺りの分量を増やしていきます。



あと、第15話にてサーシャのステータスに無属性魔法を書き忘れていたので、追加しておきました。

無属性魔法は魔法を覚えるに当たって誰しもが一度は通る道なので、一応この世界の魔法使いは全員使うこと自体は出来ます。

なので、これから登場するステータスには、基本的に無属性魔法の記載があると思っておいてください。



それでは、今回は以上となります。

執筆の励みになりますので、良ければ評価やブクマ等してもらえると嬉しいです。

また、誤字報告や表現がおかしいところへの意見などもお待ちしております。

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