第8話 生まれゆく複数属性達
「まだ全部は理解しきれてませんが、とりあえず俺達勇者が特別だっていうのは分かりました。それで、その属性というのはどうやったら分かるんですか?」
そう赤城がジキルに問い掛けると、ジキルは
「あれです」
と言い、黒板と共に運ばれてきた水晶を指差した。
台座の上、そこにクッションを敷いた上に乗っており、周りはガラスのようにもプラスチックのようにも見える透明な板で囲われていた。水晶の色は透き通った白。大きさはバレーボールと同じ位だろうか。
「あれは属性判定用の魔道具というもので、魔力を流すと色が変化するダイナグライトという特殊な鉱物を加工したものです。流れた魔力の属性ごとに違う色に変化するので、属性の測定には最適なのですよ。それでは皆さん、一人ずつ測定していくので並んで下さい」
ジキルの誘導により、全員が続々と水晶の前に並んでいく。並ぶと言っても、全員水晶の様子を見るためにとぐろを巻くように列を成しているのだが。ちなみに俺は最後尾である。
「手で触れ魔力を流せば色が変わるのですが、魔力の流れなどはまだ分かりませんよね? なので、とりあえず意識を水晶に集中させてみてください。そうすれば、時間はかかるでしょうが少しずつ色も変わっていくでしょう。まずはお手本を見せますね」
ジキルはそう言い、水晶に触れ目を閉じる。すると、白色だった水晶が紫色に輝いた。クラス連中から「おおっ」と声が上がる。
「ーーこんな感じです。大元の色は見ての通り白ですが、火は赤、水は青、風は緑、土は茶、治癒は黄、精霊は紫といった感じに色が変わります。二属性者や三属性者の場合は色が分かれるのですぐに分かりますよ」
そう言って水晶から手を離した。成る程、こんな風に分かるのか。簡単だな。
ジキルの説明が終わり、先頭の者が水晶に手を触れ目を閉じる。少し経つと、白だった水晶が青色と緑色に分かれ輝いた。
「ほぅ……いきなり水と風の二属性者ですか。これは幸先が良い」
ジキルは驚きつつも笑みを浮かべ、クラス連中も期待に満ちた顔をしていた。
測定済みの奴らが十人を過ぎた頃、突然中心部から「ええぇっ!?」と声が上がった。水晶に触れているのは高坂。色は赤・青・茶、火と水と土の三属性者ということだ。
これにはジキルも含め、クラス連中全員が目を丸くしていた。説明を受けながらも、本当に三属性者がこの中にいるとは思ってなかったのだろう。
そして、状況を理解した者達から徐々に歓声が上がっていく。ジキルの説明で三属性者イコール凄い、というイメージが染み付いてるのだから、こうなるのは必然だろうな。
ただ、当の高坂は半端なく微妙な顔をしていた。まあ「死ねって言ってるようなもんじゃねーか!」とか声高に戦いに反対してた自分が、世界に現在六人しかいなかった如何にも強そうな者達の中に今加わってしまったのだから、本人としては居心地が悪いのかもしれない。もしくは、「お前は三属性者だから」と言われ、戦いに度々駆り出される未来を想像したのだろうか。
そして列は進み、俺まで残り十人となった。その時、とある女子が測定をしていたのだが。
「…………え?」
と、その測定結果を見たジキルの顔が凍りついていた。一体何がと思って列の後ろから覗いてみると、水晶の色は黄色と紫に分かれていた。
「バカな……治癒と精霊の二属性者だと……?」
「あ、あの……私、何かいけないことしちゃったんですか?」
やっとのことで絞り出された声に対し、女子生徒は怯えた声で聞く。……ん?あいつは……。
その声にジキルはハッと我に返り、そして猛烈な勢いで首を横に振った。
「とんでもない……むしろ逆だ。さっき説明した通り、特殊属性は共に生まれる確率が低い。それに、そもそも精霊属性持ちが二属性者であること自体が稀なんだ。それを、二属性者な上に特殊属性を両方とも宿すなんて……」
驚愕と興奮が入り交じったような、少々危ない顔で女子生徒に詰め寄っていく。気持ちは分からんでもないが、日本じゃ確実に捕まってるなこれ。
「え……えっと…………」
女子生徒はその様子に困惑し、お辞儀をするとそそくさと列から離れていく。一方ジキルは「あっ……」とこぼしながら、その様子を残念そうな目で見つめていた。もう何も言うまい。
だが、ジキルの様子が本当の意味で豹変するのはこの後だった。女子生徒の後、水と土の二属性者だった男子を挟み、佐々木が測定を行った。
結果は赤と緑と紫。つまり、火と風と精霊の三属性者だった。
ジキルの様子を見ると……うん、完全にフリーズしてやがる。いや、フリーズとは違うか。茫然?放心?
佐々木が目の前に手を上下させるが、全く反応が無い。あれだ、まるで屍のようだってやつか。
一分程経ったのち、ようやっとジキルは我に返った。佐々木が「大丈夫ですか?」と問い掛けると、次の瞬間ジキルが佐々木の両肩をむんずと掴み、あろうことか激しく揺さぶり始めた。
「どういうことなんだこれは! 精霊属性持ちが二属性者であること自体稀だと言っただろう! それが三属性者だと!? 君は……いや、君だけじゃない! さっきの娘だってそうだし、他の子達だって二属性者だらけ! 君達は一体何者なんだ! あぁ……この時代に生きてて良かった……!」
と、早口でまくし立てながら、何かもう言葉では表してはいけないような表情をしている。これには流石のクラス連中もドン引きである。
ちなみに、当の佐々木は揺さぶられ過ぎて真面目な意味で意識を失いかけている。これ大丈夫か?
「ジ、ジキルよ……。気持ちは分かるが、その辺で止めてあげろ。その子が可哀相だ」
その様子を見かねた国王が静止の声をかけ、またもジキルはハッとし慌てて手を離す。
「す、すまない。魔法の道を歩む者として、どうしても興奮してしまって……許してくれ」
「は、はい……大丈夫です……うっぷ」
吐きそうになってるところを見ると大丈夫そうには見えないが、まあ立ってられるなら問題無いか。
……ていうか今気付いたけど、ジキルの奴さっきまで付いてた敬語外れてないか?こっちが素の性格ってことか。
ジキルが落ち着きを取り戻したのち測定は再開され、二属性者ではないものの精霊属性がまた出たりして、クラス連中は盛り上がったりしていた。判定した本人達はこれまた微妙な顔をしていたが、こっちは高坂と違い、先に規格外の奴らが出てしまったせいで喜ぶに喜べないのだろう。
ーーそして遂に、俺の番になった。水晶の前に立ち手を触れる。
正直俺はどの属性でも良かった。二属性者や三属性者なんて興味も無い、国を救うつもりもない。俺はただ、魔法というものを一度使ってみたいだけ。
意識を集中させ、光ったのを感じ目を開けて色を判断する。結果はーーんん?
(あれ……? 光ってるのに色が変わってない……?)
集中度合いが足りなかったか? と一瞬思ったが、周囲から向けられている刺すような視線に違和感を覚える。視線の主を辿ると、ジキルに国王にガランに……要はクラス連中以外のほぼ全員か。つまり、この世界の住人達が俺に敵意とも侮蔑とも取れる視線を向けていた。
何が起こってるかは良く分からんが、これだけは分かる。非常にマズい流れになってやがる、ということだけは。
誤字報告や表現がおかしいところなど、もしありましたら指摘して下さると有難いです。




